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この国を救えと命じられて


 騎士に連れられて三人がやって来たのは、大通りの一番奥。

 教会よりも、大図書館よりも豪華な家だった。

 何でもここにタリスの大統領がいるらしい。


 しかし歩乃華的には行きたくない、というのが本音だった。

 胸の奥が、じわりと重くなる。


 失礼な騎士に高圧的な騎士。子供だからってそんなに舐め腐る理由はない。

 いや違うか。送り人だと思って楽しみにしていたら、私みたいな人だったからか。

 でも勝手に落胆しないで欲しかったな。


「歩乃華、もしというか、本当に嫌だったら断ってもいいんだ。歩乃華には、それぐらい価値ある」


 フジがそっと耳打ちする。

 態度にはださないが、かなり怒っているようだった。私も悲しいから、気持ちはわかる。

 何にも知らない人に嫌われるなんて、対処のしょうがないもの。あぁ、本当に胃が痛い。


 憂鬱な足取りで、案内された部屋に入る。


 豪華なシャンデリアもソファも何もかも、意心地が悪い。

 出された紅茶は良い香りだけど、飲む気にならない。理由は分からないけど、喉が拒否していた。

 それでも飲まないのは失礼だから、一口だけ飲んだ。

 フジは手に取って、カンナは飲まなかった。


「急に呼んでしまってすまない。来るまで大変だったろう? 紅茶でも飲んで休んでくれ」


 髭の生えたおじさん。年齢は四十後半から五十前半だろうか。ガタイのいい、というかふくよかな方だった。

 おじさんは値踏みをするように歩乃華のことを上から下まで、じっくりと見ていた。

 そして、少しだけ目を伏せる。


 私はその目の動き方の理由をよく知っていた。


──失望。


 ほんの一瞬だった。けれど見間違えることはない。

 何がお気に召さなかったのか、歩乃華には分からなかった。いや、改善のしょうがないことのため分かりたくなかったのだ。


「ありがとうございます」


 二口目を飲むのは少しだけ嫌だ。あぁでも飲まないと。

 そう思っていると、大統領は諦めたように顔を振った。


「ははっ、とりあえずはまぁ先に要件を済ませましょう」


 自己紹介もせずに……か。

 後ろを向いてメイドに指示している大統領を怪訝な目で眺める。

 そんな歩乃華を宥めるように、カンナがそっと手を重ねた。

 優しいカンナの気遣いに心を打たれながら、歩乃華は大丈夫の意を込めて笑ってみせる。

 嫌われるようなことはしない。出来れば、巻き込まれたくもないけれど。


「送り人様がいらっしゃった要件はわかっておりますよ。封印でしょう?」


「えぇそうですね」


 封印、と言うよりかは今はまだ結界の方が正しいと思う。

 国の方から静寂の地に向けて結界を貼ることで、最終的に六つの結界が重なって、封印になるらしい。

 だから結界を貼る必要があるらしい。

 ……とフジと本の内容的に認識したけれど……。


「すぐにでも結界を強くするために祭りを開きたいですが、今は忙しいのですよ」


 祭りを開く。それは結界を強くする前に代々引き継がれてきた伝統だとか。……どうして必要なのか分からないけど。


 にしても忙しい……か。私としては意地でも決行して結界を貼り直させると思ってたんだけどな。

 そこまで魔物がやばいのかな? 確かに大通りにも戦える人は多かったし、騎士だってたくさんいた。

 今思えば、ガトナ領の騎士も魔物に対抗するためにいたのかもしれない。

 まぁ知る術はないけれど。


「魔物が大量発生してしまいましてね、しかも何故だか軍のように統率が取れているのです」


 悲劇のヒロインのようにおじさんは頬に手を当てた。俯きがちな目からは、困っていることが分かる。

 演技かもしれないとわかっているのに、その目に私は弱い。


「その対処で今は何も出来ないのです。……なので」


 聞きたくない。でも言葉を遮るほどの度胸を歩乃華は持っていなかった。



「どうか送り人様」


 その後言われる言葉は予想がついた。でも、言わないで欲しい。言って、欲しくない。


この国(タリス)をお救い下さい」


 困っているから、助けよう。そうなれるほど歩乃華は善人でもないし、無責任でもない。

 戦争に参加したとて力になれるかもわからないし、死ぬかもしれないのだ。

 私だけじゃない、フジくんもカンナちゃんも。


 わかってる。このまま何もしなくてもきっと私は後悔する。だけど、首を縦に振ることはどうしても出来なかった。



「……少し、もう少しだけ、考えさせてください」



 判断の先送り。良くないことだってわかってる、逃げているだけだってわかってるけど……っ。

 自分の弱さが、足りない頭がもどかしい。


 大統領はその返答を予想していたのか、対して驚いていなかった。


「いえ、ごゆっくりとまでは言えませんが、考えてもらって構いません。返答は後日お越しくださいますか?」


「……ありがとうございます」


「いえいえこちらこそ貴重なお時間をとらせてしまい申し訳ありません。玄関までお送り致します」


 定型文のような発言と共に、大統領は立ち上がった。そしてそのまま流れるがままに身を任せ、気づけば豪華な玄関の前だった。


 していたはずの会話が思い出せない。ずっと、ただただひたすらにどうすれば丸く収まるか、そう考えてしまう。


「……次会う時を楽しみにしていますよハッハッハ」


「こちらも、楽しみにしております……」


 今後のことを話し合わないといけない。

 歩乃華は唇を強く噛んだ。

 横には心配そうなフジとカンナがいた。それでも一応三人で、できる限り愛想良く豪邸を後にした。




「……子供か」



………

……


 タリアの中枢を担う六人が、円卓を囲んでいた。


「魔物の大量発生か。一体何が原因なんだろうな」


 大統領に騎士団長、商人組合長、大司教、冒険者ギルド長、ガドナ領主と共和国『タリス』の有力者達である。


 議題は『魔物の大量発生による被害と対応』である。

 今はまだ大きな被害はなく、ただ群れでいるだけだ。しかしいずれ中心には来るかもしれない。

 国の要人も他国の使者も、国民だって多くいる。

 三十万もの魔物達。なんならもっと増える可能性だって高い。

 いち早くこの悪夢のような災害を止めなければ。


「騎士団長のお前でも知らないのか? 俺も知らんけど」


 ギルド長は騎士団長が何も知らないことに驚き、食べていたナッツを落としかけた。

 そしてため息を着く。自分が何も知らないことは棚に上げて。


「ギルド長も騎士団長も何も知らないのですね? 終わりじゃないですか! ボクの商人生活終わった! 組合長になったのに!」


 演技のように泣き崩れる、長い耳が特徴の小さい男の子。しかし彼はタリス商人組合、組合長を務めている。


「賑やかなのはいいですが、このままでは何も進みませんよ……はぁ」


 何も言わない大統領やガトナ領主の代わりに、癖の強い三人をたしなめる大司教。

 正直こいつら相手にするくらいだったら子供と話している方がいいわ、なんて愚痴を心の中で唱える。

 大人しくなったのを見て、大統領は話し始めた。


「原因は未だに分からない。しかし、今重要なのは現在の状況と被害、これからの推定被害規模、そして対応だ」


 大統領は真ん中に肥沃の地の地図を置いた。そして、いくつかコマを置く。

 現在確認できている、群れに参戦している魔物たちを。

 ゴブリンにオーク、オーガにブルーモンキー。イエローピッグやブランベアの駒もあった。


 B級魔物がいることに唇を噛む面々。

 大統領は騎士団長に目を合わせた。


「えーこほん。現在の状況は……と言っても何も動きがないんだよな」


 困ったように頭をかいて、地図に指をさしながら騎士団長は話し続ける。


「ガトナ山地の麓に魔物どもは集まっている。凡そ三十万。なのになんの行動もしていねぇんだ。普通近くに村があるから襲うと思うだろ? それが何もしてねぇんだよなぁ、気持ちわりぃ」


 人間をエサとしか考えてない魔物が、何もしていない。その事に違和感しか無かった。


 魔物は魔力を食べる。そのため微々たる量の動物や植物よりも人間か他種族の魔物を襲うのだ。

 だからこそ近くに村がある時点で襲わないのはおかしい。

 そして種族の違う魔物が集まっている、ということも有り得ないことだ。

 何故なら同種族であれば意思疎通を思念といった形で行えるが、他種族ではそうもいかない。どちらかがエサとなるのが普通だった。


「ギルドが掴んでいる情報と一緒だ。ただ数はもっと増えてる。俺が最後聞いたのだと四十万いるかもだって。知らんけど」


 あくまでも信憑性に自信が無いのか、確定はさせない。その事に若干大司教はウマが合わねぇと思った。


「ええ……あ! でも送り人が来たんでしょ? 送り人って言うくらいなんだから強いし優しいはず! 助けてもらおうよ!」


 組合長はこれしかない! と笑った。

 その組合長を見て、溜息をついたのは二人。


「送り人がどんなやつなのか、知ってんの?」


 騎士団長は問いかける。首を横に振ったのを見て、やっぱりかと嘲笑った。


「ガキだよ。歳もギリ二桁いってなさそうなちっちぇ少女。報告では……こ、小暮なんとかとか言ったかな」


「小暮歩乃華。返答を遅らせるという判断をした子供だ。今はまだ臆病なのか英断なのかは分からないがね」


 騎士団長の説明を足す大統領。

 大統領はあの時、会話と行動でその人の人となりを見た。

 だからこそ小暮歩乃華は子供だと、そう言い切れる。

 失望してしまうのも無理は無いだろう。


「大統領がそう言うの珍しいですね。基本優しいし子供に甘いのに」


 驚いた大司教は問いかける。

 大統領のことはタリスのことを一番に考える良い人だと、そう思っていたから。


「私的の感情なんかよりも、今はタリスの方が大事なのさ」


 大統領の一番はずっと前から変わらない。

 この国を守り発展させ、幸せにする為ならば、子供すらも戦場に立たせる。


 自分が愚かだと、わかっているよ。


 嗤う大統領を横目でガトナ領主は見る。期待はずれな大統領だ、なんて口には出さなかったけれど……。

18時30分と21時30分にも投稿予定です!


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