平和が崩れた図書館で
とにかく美しくて、綺麗な教会だった。
自分が足を踏み入れていいものか、悩むくらいには場違いだと思う。
それでも足を進めて、大きな像の目の前に立つ。
長い髪は今にも動き出しそうなほど繊細で、瞑られた瞳が気になるくらい美しい顔立ち。
全てが完成された女性。
彼女が、初代送り人なのだろうか。
「ようこそいらっしゃいました、今日はどういった要件で?」
優しそうな髭の生えたおじいさん。
周りのシスターとはまた違った格好だ、偉い人なのだろう。
子供に優しそうな人でよかった。
「今日は彼女の属性と祝福を調べに来たんです」
「なるほど、ではこちらに。……と言いたいとこですが、何分今は忙しくて」
どこが? ……なんて言っちゃいけないよね。
申し訳なさそうにもしているし、何かがあったのかもしれない。
今は出直した方がいいのかも。
「分かりました、ではまた後日伺います。いつ頃でした都合良いでしょうか?」
「申し訳ございません……。明日の昼頃でしたら忙しくないはずです」
「わかりました、ではその時に伺います」
仕方ないよね、とアイコンタクトをとって三人で帰路に着く。
おじいさんはそれを眺めてからため息をついた。
「……作戦会議に儂がいても、本国の力を借りれるわけないだろうに」
憂鬱そうな顔で元々居た場所に戻って行った。
「じゃあ先に、送り人様が遺しているものを見ようか、大図書館がこっちにあるんだ」
大通りを通って、右手側に大きな建造物。
ここが大図書館らしい。と言っても、維持費として軽く入館料は取られるけど。
外から見ていてもわかったが、中にはたくさんの本が集められている。
心做しかフジが楽しそうだった。
「送り人様のやつは、地下にあったはずだ」
足取りの軽いフジについて行って、石の階段を降りていく。
仰々しい扉。カンナがそれを開ける。
中に入り見渡すように歩いていくと、奥の奥に、大事そうに保管された本があった。
「ここら辺が歴代送り人様のものだよ」
フジは詳しい。読んだこと、というか開いたことはあるのかな。
歩乃華はとりあえず一番新しそうな本を手に取った。
次の送り人へ。
とりあえず伝えなくちゃいけないことをまとめました。日本語と英語の2通り作ってあります。
最初にそう見知った文字で書かれていた。その後に英語版がある。
何年前か分からないけど、少なくとも読めそうで助かった。
次のページを開くと、ありがたいものが出てくる。
こっちの世界の言語と五十音表だ。
「あの、これは書いておきたいですんですが」
「じゃあ私が代わりに書いておくよ、歩乃華もフジも本読みたいだろうし」
ありがたくカンナにお願いする。
私はその間に読み進めよう。
次のページに書かれていたのは祝福や魔法についてだった。
魔法と祝福は精霊を変化させて使うものである。
しかし送歌ノ祝福は違う。あの力は、無から有を作り出すことが出来るのだ。
それを科学的観点から見ると──。
そういえばフジくんも純粋な創造の力、と言っていたと思う。
ちゃんと読みたいけれど、ごめんなさい、余裕ができたら読みます。
軽く読み飛ばしながら、何となく把握していく。
そして、付き人というページを見つけた。
彼らは、彼らだけは裏切ることは無い。
古来の盟約がある限り、絶対に。
古来の盟約が何なのか、それは記せない。けれど狂った盟約だ。
私はもっと、付き人を大切にすればよかったと後悔している。
周りから見てみれば、付き人は消耗品でしかないらしい。クソったれ。
感情の込められた文だ。一体何があったのか……書いてはいないや。
古来の盟約は、……早いうちに、知らないとかな。
そして、裏切ることは無い……か。
それだけは信じることが出来なかった。
次のページを読もう。
共通の敵シュティレ。こいつを封印するために全ての国を巡る。
ただその最中に必ず会うだろう。
シュティレを倒そうとする人々。
間違ってもシュティレは倒しちゃいけない。
さっさと封印する。それで、もういい。
どうか次の送り人に幸あれ。
この本はもうこれで終わっている。
歩乃華はとりあえず、カンナに話しかけた。
「ありがとうございます。軽く読めました」
「ほんと? 良かった。あと、一応書けたよ」
本当だ、カンナは綺麗にまとめてくれている。
さらに感謝を重ねて、紙をポケットにしまった。
しかしどこかから、歩乃華は視線を感じる。周りを見渡すが、それらしい人はいなかった。
でも、背筋が冷たくなる、
……気のせい、なのかな?
腑に落ちなさを感じつつ、歩乃華は思う。
私が居なくなってから早三日。
向こうの状況を知る術はない。ないけど、気になってしまう。
みんな心配してくれているのかな。忘れるにはまだ早いよね。
怖いなぁ、本当は嫌われててそれでみんなから喜ばれてしまっていたら。
嫌だな。
「ねね歩乃華、この絵すごくない??」
ネガティブになっていた歩乃華の前に、カンナが画集を持ってきた。
それは、なんとも素敵な絵だった。
たくさんの花が季節問わずバランスよく配置されている。
ありえない風景。真逆の季節の花、咲く条件も全く違う花々。なのに美しい。
「桜と椛が同時に存在なんて、面白いですね。ここにはひまわりもあるし、椿もあるじゃないですか」
「これね、昔の送り人様が描いたやつなんだ。やっぱり、歩乃華の故郷の花なんだね」
「ええ、そうなんです。私花が好きで、本物も絵でも、とにかく好きなんです。花言葉も面白いものや悲しいものも色々あって……」
楽しそうに話す歩乃華を見て、カンナは笑顔が隠せなかった。
「……絶対、帰らせてあげるからね」
カンナの小さな呟きに、同調するようにフジが笑った。
「貴様が送り人か?」
──いつからそこにいたの?
一瞬にして図書館の空気が張り詰めたものとなった。
「大統領がお呼びだ、着いてこい」
その言葉に一切の拒否権がないことは、誰にだって分かる。三人は大人しく、その騎士について行くことにした。
……平和って、いとも簡単に崩れるんだね。
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