不穏な話と次の村で
「独り言って思ってもらっていいんだけどさ……」
馬車で旅を始めてから、何日経っただろうか?
今は次の村に向かっている。昨日も野宿で、交代で見張りをした。だが、睡眠はあまり取れなかったようだ。
カンナがぐっすりと眠っている。
だから静かだった。だけどフジさんが静かな声で話し始めた。
私も軽く相槌をうちながら聞く。
「セイリューさんはあれでも若き自然派の頭領だからさ、弟子がいたんだよ」
なんらおかしな話ではない。カンナも先生って言ってるくらいだから、セイリューとは師弟関係だろうし。
「一番弟子なんだけど、優しくて、強くて。僕たちにもよくしてくれた」
よく素手で獣を狩るような人だった。
一番弟子さんの武勇伝は取り留めのないほど出てくるみたいで、話しているフジも楽しそうだった。だから歩乃華もニコニコと聞けた。
「でもその人が誰よりも早く死んだんだ」
急に話の流れが変わる。歩乃華は凍りついた。
「理由は戦争。あの人は優しいから、困っている人を見捨てられなかったんだ。だから戦争に巻き込まれた」
何も口は挟まない。"戦争"というその言葉に、いい思い出なんてにもないから。その後の言葉も何もかも、想像できてしまう。
「気絶させることは出来ても、人を殺すことは出来なかったんだ。だから、戦場では無能扱いだよ。例えその場にいる誰よりも強くても」
……聞きたくないな。悲しいお話、というよりかは現実か。
歩乃華は相槌も上手くできなかった。
「あの人は仲間によって殺された。無駄飯喰らいだって言われてさ。……仲間によって殺されるって、どんなに辛いことか」
……。
「セイリューさんはそれをきっかけに弟子を取らなくなったし、悪人が大嫌いになったんだ。だから別れの時にあんなことを言っていたんだよ」
悪人に食われないように、か。
何かがあったことは察していたけど、そういう事情だったのか。
にしても急に……。
なんで今、この話を?
もしかしたら、なんて思ったけど。聞くのは少し怖い。杞憂であって欲しい。でも好奇心には勝てなかった。
それにフジくんも気づいて欲しかったのだと思う。
「その戦争の相手は、フルシベル家ですか?」
こんなに詳しいのは人伝に聞いたから。それだったら有難かった。勘違いしちゃいました、で済むから。
だけどフジは笑った。よく気づきましたね、という笑いを。
「フルシベル家と、タリスにある『ガトナ領』との戦いだった」
ガトナ領はコルン領と隣接している。といってもコルンの街からはだいぶ遠いが。そして次の村はガトナ領に属している。
フルシベル家とガトナ領の戦争。フルシベル家って一体どんな規模なの、何をしているのだろうか。
「当時僕もカンナも小さかった。だけど僕の祝福は使い勝手がいいからさ、戦争に使われた」
文言ノ祝福。言葉や文字から、本来伝えたいことを理解することができる力。
巡らせる魔力の量で相手の本心や無意識的なものまで感じ取れるようになる。
なんて強い力なんだろう。相手側の会話とかを聞いて、作戦を知る方法もあるだろうし。
「僕の力は聞くだけじゃない、応用すれば伝えることもできるんだ」
その言葉を聞いた瞬間、様々な活用方法が頭に浮かぶ。戦争だけじゃない、別のことにだって使える。
下手すると一人で情報戦を勝つことだってできるかもしれない。
「とんでもないですね……」
「……フルシベル家とガトナ領の戦争理由は簡単だ、ガトナ領がこじつけな理由で貿易費を拒んだから」
歩乃華の言葉には返事をせずに、会話を続けた。
今だけは静かな馬車内が嫌だ。空の色もどんどんと暗くなってくる。
「ガトナ領主とは関わる機会はないと思う。だけど気をつけて欲しい。あそこの領主は、たとえ代が変わっても欲深いから」
フジはきっと、ガトナ領主が嫌いなんだろう。言葉の節々から感じ取れる。
だけど片方の意見だけで批判はしない。……もちろん言わないけど。
「フジくんは私に何を知って欲しいんですか」
「……ただの世間話だよ」
嘘でしょうね。今の話がこれからに無関係だとは思えない。きっと次の村で何かがある、もしくはフルシベル家のところで何かが、ってとこかな。
そしてセイリューさんの一番弟子。
一番弟子を殺したのは、どっちなんだろう。
馬車はもう、村の中へと入っていった。
「ごめん! 宿一部屋しか取れなかった」
両手を合わせてカンナが謝る。
時間も遅かったし、仕方が無いと思う。
……にしても。
目の前にある建物は、明らかに手入れされてない。通気性はありそうだが、正直泊まりたくない。
というよりか、村全体が寂れてる。全体的にボロい感じがするし、良くないけど……。見ない方がいいものがいくつか落ちていた。
綺麗だったコルンの街が恋しい。
リーミネさんの宿は過ごしやすかったな。
「じゃあ僕は馬車の中で寝るよ。雨も降ってないし、そっちの方が安心だろ?」
「それはさすがに風邪ひきますよ……。三人で同じ部屋でも大丈夫だと思います」
「うーん、とりあえずご飯食べてから考えよっか」
三者三様ではあったが、お腹すいたのでご飯を先にとることにした。
ここの宿には食堂が付いていないため、外食である。
「まぁ酒場しかないんだけどね」
ここの村に慣れているのか、カンナに連れられて居酒屋に入る。中はやっぱりお酒臭い……。
それに屈強な男の人が多かった。あと露室高めの女性とか、ケモ耳生えている人もいる。
場に圧倒されつつも、三人は空いていた壁際の席をとった。
「とりあえず飲み物……私はオレンヅジュースにしようかな」
推定オレンジジュース。メニューも読めないし人に合わせた方がいい気もする。お酒ではないと思うしね。
「僕はアイスココマかな。歩乃華はどういう系のが飲みたい?」
どういう系……。普段こう言う居酒屋のような場所には来ない。だからこそ何を頼めばいいのか分からなかった。
大人しく同じのにした方がいいかな。でも今は甘すぎるのはちょっと……。
「あんまり甘くないものってありますか?」
「うーん、強いて言うならミルタか? ごめん、甘いものが多いかも」
ミルク……かな。飲みたいものもないし、それで行こう。
「それでお願いします」
「ねぇねぇ早く食べ物たのもーよ!」
いつの間にか注文していたカンナが、メニューをもって机を叩く。
私のまで届いているし……ちょっと早すぎて怖いかも?
カンナとフジは各々好きなものを、歩乃華は直感で選んだものを頼んだ。
結果、歩乃華の目の前にはオムライスもどきがやってきた。うん、美味しい!
和気あいあいと喋りつつ、食事を続ける。
ここは酒場だからこそ、色んな声で溢れていた。
だから、聞こえてしまう。不穏な話が。
「聞いたか? イエローピックが付近で現れたらしいぞ」
「最近B級が現れる事例多くないか?」
「聞いたとこによると魔物が軍を作ってるとか!」
「……ぶはっ、んなわけよ。魔物共はどうせ魔物、隊列なんかも作れるはずがねーよ」
「どーせあのガトナ領主がなにかしてんだろ? 最近中心から帰ってきたって言うしよ」
B級? 歩乃華の耳にそんな言葉が飛び込んできた。
カンナ達は確か、ブランベアをB級と言っていたから。そして、ガトナ領主……。
早くこの村から出た方がいいかもしれない。
薄情かもしれないけど、今は下手に巻き込まれたら困る。
嬉しいことに国の中心までは本当にあとちょっとみたいだから、うん。
「カンナちゃんフジくん、明日朝早く起きて……"観光"しませんか? せっかく時間もありますし」
朝一でここの村を出ましょう。嫌な予感がします。心の中で深く祈りながら、言葉を伝える。
フジの言っていたことを百パーセント信じたわけではない。でも今ガトナ領主の印象は悪めだ。
領主ならば、主ならば民のために尽くすもの。それが私の学んだことだから。
私の祈りが届いたのか、フジは確実に理解してくれた。カンナは少し分からない。
最悪担ごう。
「僕も賛成だ。ただ朝早いと起きれない人がいるから、お昼にしないか?」
……なるほど、ブラフか。
一瞬理解してくれていなかった? と思ったけど顔的に違う。
確かに出るとしても観光でも、時間がバレてしまったらダメだ。
助かる。危機感を持つことは大切だから。
「べっ、別に起きようと思えば起きれるよ? ただちょっと時間はかかるかもだけど」
気づいていないカンナの反応が助かる。
さっさとこの村から、いいやガトナ領から出よう。
決意を固めて、ご飯を食べ終わった三人は宿屋に戻る。そして初めて部屋に入った。
和洋折衷な部屋で、もちろん変なオブジェクトが置かれている。
机が一つと椅子が一つ、そしてベットが一つ置いてあった。
ベットが一つ。そして部屋も一つしか取れていないのだ。
荷物を落としたのは一体誰だったのだろうか。
誰も知るつもりは無い。それどころじゃないからだ。
「……歩乃華、ベットで眠ってくれ」
「……歩乃華がベット使って」
先に口を開いたのはフジとカンナだった。
歩乃華は二人のおかげでようやく正気に戻る。そして断った。
「お気持ちはありがたいですが、公平に決めた方がいいと思います!」
付き人とか送り人とか関係ない。ここは公平に、じゃんけんで……──
「ここで私が勝つの違くない? 私が一番今日何にもしてないよ?」
しかしゲームで決めようとするとことごとくカンナが勝つ。どうやっても決まらなかった。
「いっその事、3人で寝ませんか?」
ゲームが思いつかなくなった歩乃華はそう呟く。呟いてからしっくり来た。
川の字になって眠ればいいんだ! ベットは一つとはいえ大きいし。
「あぁ、それいいかも。私は賛成!」
「いや流石に送り人様と眠るのは不敬じゃ??」
肯定的なカンナと否定的なフジ。
歩乃華としては一緒に寝るくらい全然大丈夫だ。もちろん良くない方向へ行きそうだったら、今度ことギャグ展開に持っていくが。
「不敬じゃないですし、もう考えるのも大変なので眠りませんか?」
「そうだよ寝よーフジ」
「……僕が、おかしいのか?」
多勢には勝てないということで、なし崩し的に三人でベットに眠ることになった。
寝相のいいフジと歩乃華は左右に。悪すぎて寝ている間に回転するカンナは真ん中に。
川の字で横になってみた。やはり狭いが、人の温もりは暖かい。
「移動教室の時みたいですね」
五年生の頃が蘇る。友達が怪談で怖がってすごい引っ付いてきたっけ。
懐かしいな。
「移動教室? それってどういうのなの?」
「歩乃華のいたところの行事か? 楽しい思い出だったってことは伝わってきたよ」
「フジずるい! 歩乃華、教えてよ」
「もちろんです、移動教室っていうのは……」
寝るまでの間、三人で横になって話を続ける。誰かの寝息が聞こえるまで、楽しく……。
本日、18時30分にも投稿予定です!
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