コルンの町との別れと馬車の中で
「うぅーん……ふぅ」
……眠れた気がしない。
一日に色んなことがありすぎたからかな。
少しだけ伸びをすると、小気味よい骨の音がした。
今日でこの町を出発して、次の村に向かう。そしたら中心まではほぼ近いらしいから、本来の目的を果たせるはずだ。
だから、今日は朝早くから馬車を走らせないと。
次の村までは距離あるって言っていたしね。
「だから起きてください! カンナちゃん!!」
「むぁ、んお」
「なんの言葉にもなってませんよ!」
困ったことに、カンナが布団を手放してくれない。このままでは出発が遅くなってしまう……。
ここは心を鬼にして……!
「えいっ!」
歩乃華は布団をはぎ取る。
さすがのカンナも抵抗ができなかった。だから寒くなって起きる、と思ったんだけど。
「どーしてシーツを布団にしようとするんですかぁ! もー!」
……はぁ、これは無理。
自分の支度を終わらせて、フジくんを呼ぼう。
きっと起こせるよね、カンナちゃんのこと。
カンナは昨日の服に着替える。
気持ち的には嫌だけど、フジくんが虫騒動の後魔法で綺麗にしてくれているから大丈夫なのだ。
ポーチから櫛を取り出し梳かす。ちょっとやっぱり不愉快だけど、仕方がない。
ヘアゴムで結び、少しでも誤魔化す。ポニーテールだからサボってる感はないでしょう、きっと。
歩乃華は自分でカンナを起こすことを諦めて、フジの部屋へと向かった。
寝ている、なんてことはないと信じて。
コンコンコン
「私です、歩乃華です。入っても大丈夫ですか?」
「えっ!? ぁ、だ、大丈夫だ! 入ってどうぞ!」
明らかに大丈夫じゃなそうな音はしていた。
少しだけ間を空けてから歩乃華は部屋の扉を開ける。でも起きていてよかった。
部屋には支度の終わったフジがいる。寝起きって訳じゃなさそうだし、一体何を慌ててたんだろう。
……あ。
歩乃華はそれ以上視線を向けなかった。
部屋に置かれているカバンの中から、木のオブジェが見える。彫刻刀も入っていたし、何かを作っていたのかもしれない。
触れないでおいてあげよう。
「おはよう歩乃華、どうしたんだ?」
「おはようフジくん。ちょっとカンナちゃんが起こせなくて……」
歩乃華の言葉にフジはあぁ、と呆れていた。
なんでもカンナは朝が弱いとか。
「ちょっと水かけて起こしてくるよ、歩乃華はその間に支度……は終わってるよな」
最初の言葉には触れない方がいいよね、よくないと思うけどまぁうん。
「私は待ってますよここで。あの、任せます」
「うん、任された」
フジが部屋を出ていくのを見送ってから、歩乃華はそっとため息をこぼす。
一人になれる貴重な時間だ、今のうちに情報をまとめよう。
歩乃華はベットの上に腰掛けた。椅子がないの不便だな、なんて。
……昨日の裏は、なんだったんだろう。
これを他の人に言う訳にはいかないから、情報を集めるのは大変かも。
裏社会、情報屋、この辺りがキーワードかな。あ、でも核とかも言っていたから、何か会うための条件とかがあるのかも。これも覚えておこう。
次に気になるのはセイリューさんかな。
自然派の方だったよね。四代家門の一つとか。でもセイリューさんは三代って言い張っていたけど。
そこはなにか事情がありそう。嫌われないためにも深く触れない方がいいよね。
結局自然派は武道の流派だって認識で良さそう。戦っている姿は見ていないけど、立ち振る舞いでそう思う。
そうだ、色んなことがありすぎて忘れていたけど、ブランベアは結局どうなったんだろう。
倒してないから生きているよね。
大人の人に伝えてどうにかしないと被害が出そう。なんでもここに出るのはおかしかったっぽいし。
そんなこんなで知識をまとめていると、扉が開いた。
「お待たせしました……」
扉の前にはやつれているけど支度の終わったカンナ、仁王立ちのフジがいた。
触れるのはよそう。
「全然大丈夫ですよ、早く行きましょうか」
三人は階段を降りて、受付に行く。そこにはリーミネさんが立っていた。
朝が早いのに完璧な見た目だ、寝癖も服のシワも何も無い。
「ん? おはよう三人とも。もう出るの? 早いわね」
快活に笑うリーミネ。でもどこか、寂しそうに見えた。
「若い子はあんまりここに来ないからさ、三人は貴重なのよ。でももう行くのね」
「そうなんです。早く中心に行かないといけなくて……えへへ」
カンナは申し訳なさそうなに眉を下げる。
かく言う私も申し訳ない。一日とはいえお世話になったし、感謝をしっかりしないとね。
リーミネはそうだ! と言って軽く厨房に行ってから、何かを持ってきた。美味しそうな香りがする。
「ほれ、朝ごはん。サンドイッチで良ければ持っていきな」
「わぁ! ありがとうございます!」
具だくさんで美味しそう! なんの食材かは分からないけど、匂いがピリ辛でそそられる……。
少しだけお腹の音がなってしまった、恥ずかしい。
「いいのよ、朝は。せっかくだし宿賃はセイリューに払わせるわ、道中気をつけるのよ」
「なーんで横通っただけでそうなるん? 別に払うつもりだったからいいけど!」
芸術的な頭をしているセイリューが顔をのぞかせた。明らかに寝起きだ。
目線がそちらに行かないように気をつけながら挨拶をする。……カンナとフジはガン見しているけれど。
「わー、ありがとうございます。セイリュー先生もいい所あるんですね」
「失礼やんねカンちゃん。せっかく旅の先輩として色々あれこれ教えようと思ってたんに」
「僕たち別に遊びじゃないですよ?」
「フーくんもだいぶ失礼やんね。ぼんの旅も遊びじゃなくて修行だからね?」
「修行って、ずっと山に籠ってたりするイメージでした」
「ナチュラルにほのちーもダメージ食らわせてくるんやね、ぼんの味方どこ?」
「居ないわ諦めな」
ちょっとした茶番を挟みつつも、支払いはセイリューさんがやってくれた。
お金に関することも後で聞かないと。
そんなことを思ってる歩乃華の前に、セイリューは視線を合わせた。
真面目な顔つきだ、おふざけの空気ではない。
「三人とも子供だって自覚してある?」
何を当たり前のことを、と思ったけど歩乃華は頷くだけで留めておいた。
私はまだ小学生、フジくんとカンナちゃんは中学生だから。
「困った時はまず初めに大人に頼るんよ。絶対に子供だけで大丈夫、なんて思わないで」
頼る、か。
歩乃華は嫌なことを思い出してしまいそうだから、愛想笑いの仮面を増やした。
未だトラウマに対する耐性はない。
「この世界には悪い大人はたっくさんいる。本当に信じられないくらいにんね」
……知ってる。なんなら大人だけじゃない、悪い人は性別と年齢も問わないものだから。
「そんな人達にとって、優しく純粋で、なのに祝福されてる君らは格好の獲物でしかない」
セイリューは凄く苦しそうな顔をした。
苦虫を噛み潰したよう、なんてものじゃ足りないくらいには、辛そうに。
「絶対に、悪人に食われないようにね」
セイリューは歩乃華の頭に手を乗っけた。震えているのがわかる。
どうして怯えているのか、そんなことは分からない。
だけど今は寄り添ってあげるべきだ。
「ありがとうございます、セイリューさん。旅、気をつけますね」
安心させるように、言葉使いも視線の動き方も、笑い方すら作ってみせた。
「不安、やんなぁ、心配。困った時はいつでもコルンの街へ来るんよ? ぼんもリーミネもいるからね」
「セイリュー先生ありがとう。困った時は容赦なく頼るから!」
「貴方の力が必要になる時もあるかもしれないですしね」
セイリューの左右からカンナとフジは寄りかかる。急な重さにセイリューはバランスを崩しかけた。
それでも仕方ないなって笑ってる。
優しくて暖かい空気が宿屋に溢れていた。
……本当に、優しい人達だったなぁ。
「もがもががもがもがもががー!!!」
「翻訳お願いします!」
「次の村目地してレッツゴー!!! だ」
美味しいサンドイッチを食べながら、離れていくコルンの街を見る。
本当は観光とかもしたかったけど、早く中心に行って他の帰る方法を探さないといけないから。
ただ、今は役目を終わらせてから帰るのもいいかもしれない、なんて思ってる。
馬車を操るフジとちょっかいをかけるカンナ。
微笑ましくって歩乃華は笑ってしまう。
なんだかんだ濃い時間を過ごしたから、ね。
……いや、だめだ。
私は早く帰らないと。お母様とお父様に怒られてしまうし、嫌われてしまうから。
それだけは、嫌だ。
歩乃華は強く腕を握った。優しいここにいたい、なんて思うことは許されないため。思ってはいけない。私は跡取りだから。
「歩乃華もおいで! こいつ今ならなんの抵抗もできないからなんでも出来るよ!」
フジの頭でツインテールを使ってるカンナ。フジは仏頂面だ。
「……でしたら可愛いヘアゴムも付けちゃいますか!」
「えっ! 歩乃華まで参加するのか!?」
「やろやろー!!」
でも、それでも今だけはもう少し、このままで。
本日、12時20分と18時30分に投稿予定です!
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