予想外の告白(正真バトル編第八話)
俺たち高援部は先鋒戦を勝利し、次は次鋒戦。我が部の鹿苑の出番である。
「頑張れよ、鹿苑」
「ありがとうございます!新田さん!」
そして堂々と壇上に上がっていく鹿苑。背丈が小さい鹿苑の男装は、秋元に比べて見劣りするかと思ったが、少年チックな感じがあれはあれで一部の層には刺さりそうだ。
『さて、続く次鋒戦。高援部からは鹿苑茜選手!』
鹿苑は笑顔で手を振りながら入場する。緊張など一切していないのか、余裕の表情だ。あいつの肝の座り具合には恐れ入る。
『そして、ホストクラ部からは槙島亮太選手の登場です!』
例の如く、ホストクラ部側の登場では学園の女子たちが湧き立っていた。
『両選手には簡単に自己紹介と意気込みを聞いていきたいと思います。まずは鹿苑選手お願いします』
「どうも、一年C組の鹿苑茜です。恋愛とかはあんまり手慣れてなくて、拙い部分も多々あると思いますので、どうかお手柔らかに」
鹿苑の恋愛観って一体どんなものなんだろう。正直、普段のあいつの様子を見ていると他とズレている部分が多かったりして、少し不安だ。
「あーちゃん、勝てるかしら」
横の柏木がポツリと声を漏らす。
「まぁ、なるようになるだろ」
「答えになってない、それ」
「正直予想がつかないってことだ」
「最初からそう言いなさいよね、めんどくさい」
『鹿苑選手ありがとうございました!それではホストクラ部次鋒、槙島彰さんお願いします』
槙島とやらにマイクが渡る。
「どうもどうも。皆んな楽しんでるー!?」
槙島の声に観客の女子たちが大きな歓声を上げて答える。
「すごい人気だな」
俺は後ろにいた坂野に呟いた。
「あぁ、槙島はホストクラ部でも最上位の人気ホストだ。次鋒戦は確実に取るためにやつを起用したんだろう。一年の頃からずっと所属している古株らしい」
なるほど。
「えーと、自己紹介だっけ。俺は三年B組、槙島彰だ。呼び方はリョウタでよろしくぅ!」
赤城とは少し違ったタイプのようで、チャラさが目立つ。それでもやはり、共通してコミュニケーション能力は高そうだ。
「そんで意気込みだよな。とりま勝つ!以上!」
『両選手、ありがとうございました!それでは早速、次鋒戦の内容を発表していきます。次はこれだ!』
[真夏の放課後、浜辺で熱い青春を!]
『次の舞台は放課後の浜辺です!今回の先攻は先ほど勝利した高援部!よろしくお願いします!』
今回は先攻。舞台は真夏の放課後の浜辺か。なんかいいな。これがエモいってやつなのか?
『おっと!その前に次鋒戦の審査員の発表です。一年D組の田上涼香さんです!』
先鋒の審査員はごく普通の一般生徒って感じだったが、今回は活発そうな女の子だ。審査員の好みに合わせる必要もあるだろうから、鹿苑は彼女を見てどんな策を打つのか見ものだ。
審査員の紹介が終わり、壇上にいた槙原はスタッフの指示に従って舞台袖へと帰っていく。舞台に残されたのは鹿苑と審査員の田上のみ。
『いよいよ次鋒戦の開幕です!チーム高援部、スタンバイの方はよろしいでしょうか!』
鹿苑はこくりと頷いた。
『それではそれでは次鋒戦のスタートです!』
先鋒戦同様、何故か観客の俺たちには真夏の浜辺が投影される。
鹿苑と田上の二人はビーチに設置されているベンチに二人で腰掛けていた。
「涼香さんは、ここに来るのは初めてですか?」
口調や様子はほとんどいつもの鹿苑だな。一人称が変わっているだけで。
「ううん、昔電車寝過ごしたらこの駅に着いててさ。その時に一回…。てへっ」
「ふふっ、涼香さんってそういうところ抜けてますよね」
「なんだとー、この〜」
…うん。雰囲気は悪くはないな。
『両者、意外にも相性がいいのかもしれません。少し奥手そうな鹿苑選手に、田上審査員の天心爛漫さがいい感じにマッチしているように見えます!』
「でも、こうして一緒に海に浮かぶ夕陽を見るのは今日が最後かもしれませんね…」
「え…?」
いい雰囲気から一転、何か不穏な空気を醸し出す鹿苑。
「柏木、鹿苑のやつどんな手を打つつもりだ?」
「あれじゃない?友達としては最後〜みたいな。意味深なこと言って相手を動揺させた後に一突きするやつよ、これ」
「うーん」
「何よ」
「いや、なんでも」
柏木の言う通り、そういう作戦かもしれない。しかし、鹿苑がそんな口説き文句を使うようなタイプには少し思えなかった。
『鹿苑選手、何やら含みのある発言…!一体どうやって告白まで持っていくのでしょうか!』
「茜はなんでそんなこと言うの?」
「だって僕、もう涼香さんには会いたくないから」
鹿苑は彼女の方を見ずにただただ夕陽を見ながらそう呟いた。
「…嘘」
「嘘じゃありません。僕はもう、君とは会いたくない。だって涼香さんに会う度に考えてしまうんです。もう少し生きられたらって」
鹿苑はそう言いながら微笑んだ。
「も、もう少し生きられたらって、どういうことよ!」
「…僕の余命はあと1ヶ月なんです」
『な、なんと!鹿苑選手に驚くべき新事実です!』
「鹿苑のやつ、考えたな」
「まさか余命モノで攻めてくるとは…。あーちゃんやるわね」
余命モノって…。確かに最近そういうの多いけど。
「私はああいうの嫌いだけどね。理由は泣くから」
秋元が涙を拭いながら話す。
なんで泣いてんのこいつ。泣くにしてもまだ早いだろ。
「あと1ヶ月って…。なんで今まで言ってくれなかったの!?」
「言えるわけないですよ。だって君が悲しむから」
「そ、そんなのってないよ…。だったらなんで今さら言ったの!?最後まで黙ってくれていたらいいのに!」
田上、審査員でありながら迫真の演技だな。いや、きっとあっちの世界に入り込んでいるんだろう。
「本当はそのつもりでした。でも、君にさよならを言わなきゃ、僕は死ねないんです!何も知らない君をそのままこの世界に置いてけぼりにしてしまうのは、嫌だったんだ!」
「さよならなんて要らない!さっき言ったよね?私といると生きたいと思うって!なら生きて生きて生き抜いてから死になさいよ!」
田上は鹿苑の肩を両手で揺らしながら声を荒げて訴える。
「いいんですか、そんなわがまま。君を悲しませるのに」
「いいよ…。いいに決まってるじゃない…」
二人の潤んだ瞳が夕陽に照らされて浜辺に光った。
「じゃ、じゃあもう少し我儘いいですか?」
「うん…」
「じゃあ、僕の我儘聞いてください」
鹿苑は深く息を吸って、それを吐いた。
「涼香さん、ずっと前から好きでした。僕と付き合ってくれますか…?」
『こ、ここで告白だー!鹿苑選手、まさかの一手で告白まで漕ぎ着けたー!』
「…もちろん。私もあなたが好きだった。だから、お願い。生きて…」
「涼香さん…」
鹿苑は隣の田上を体を抱き寄せ、そっとお互いの唇を重ねた。
『落ちたー!鹿苑選手、会場の誰もが予想もしていなかった展開でゴールを決めましたー!』
「僕、生きます。生きて生きて、死ぬまで生きます。君と一緒にいられるのなら」
「うん。ずっと一緒にいるよ…」
『す、すみません。司会が泣いていてはいけないですよね…。これにて高援部のパフォーマンスを終了とします。大きな感動を与えてくれた鹿苑選手と田上審査員に拍手を!』
会場を観客の拍手が包む。
「よかったぁ、よかったよぉ〜」
おろおろと泣き出す柏木。
「う、うん。私も感動した。おめでとう」
これ以上泣くのを我慢しているのか、口をへの字にしながら号泣する秋元。そして、その横では同じように泣く吉村の姿が。
「先生、なんであいつらあんなに泣いてるんですか」
「新田。私はラーメンを食べ終わった後、ニンニクを入れることを忘れていたことに気づくあの瞬間、こういう気持ちになるんだ。きっとそれと一緒だ」
「先生なんで鼻声なんですか。ていうか例えが全然訳わからないです」
そんな会話をしていると、メガネの中に水が溜まっていた坂野がこちらに声をかけてきた。
「おい、お前らの部員が戻ってくるぞ。出迎えてやれ」
舞台の方に目をやると鹿苑がこちらに戻ってきていた。
「どうでしたか。私の演技は」
「見ての通りだよ。いい演技だったぞ、鹿苑」
「ふふっ、それならよかったです」
鹿苑は俺とハイタッチを交わし、感無量の表情でみんなの下へと戻っていった。
◇
「な、なんでですかぁ…」
舞台袖で項垂れるのは鹿苑茜。
「そりゃあ、これはあくまで恋愛シミュレーションだからな」
少し遡って、次鋒戦の結果発表。
『それでは田上審査員、結果をどうぞ!』
「はい。より青春チックでキュンキュンしたのは後攻の槙原さんのデートでした!鹿苑さんのも良かったんですけど、別にキュンキュンはそこまでしなかったし、ちょっと重い的な?そんなこと急に言われてもって感じだったので!」
『ということで、次鋒戦はチームホストクラ部の勝利です!!』
ということがあった。
「そんなぁ…」
「ま、ああいう重いのはフィクションの中だけってことだ。あれに比べたら、無難にデートした方がウケがいいのは当然だな」
「私は好きだったわよ?あーちゃんのデート」
「芽依さんに言われてもあんまり嬉しくないです」
「ねぇ!それどういう意味よ!」
柏木は声を上げながら鹿苑に迫る。
「てかお前、着替えてきたのか」
「へへん、どうよ。私の男装」
「うーん、もっと乳潰した方がいいんじゃねぇか?男にしては出過ぎだろ。ほら、鹿苑を見習えよ。あ、でもこれはこれで男の胸板にしては薄すぎるような…」
「「死ね…!」」
怒りの鉄拳が俺の頭に二つ振りかざされた。
「ま、次は私に任せなさい。ホストクラ部なんかけちょんけちょんよ!」
柏木は拳を鳴らして自信満々に話す。
「ふっ、頼もしい限りだ」
これからやるのを格闘技か何かだと勘違いしていそうな柏木に俺は笑みをこぼし、適当な言葉をかけた。
正真バトル編 第九話へと続く。




