恋はビリビリ⚡️ 第一話
陽炎がゆらめく炎天下の通学路を歩く。いよいよ夏休みも終盤にさしかかろうとしているが、夏の終わる気配は全くと言っていいほど感じられない。年々夏が間延びしているのだから、夏休みももっと長くしてもいいのではないだろうか。といっても、休み中も部活がある俺は登校を余儀なくされているので、この憂鬱な真夏の通学路をどちらにせよ歩くことになってしまっているのだが。
「はぁ、もう空になってやがる。仕方ない、コンビニでも寄るか」
乾いた喉を潤そうと水筒に手を伸ばすが、中身はすでに飲み干しており、なけなしの一滴二滴の水分では何の効果もなさない。
俺はオアシスを求めて駅から高校の間に位置するコンビニへと入店した。店内はエアコンがしっかり効いており、先ほどまでの気持ち悪さが嘘のように吹っ飛んだ。
そして俺はドリンクの売り場に直行し、塩分補給も兼ねてスポーツドリンクに手を伸ばす。
目的の水分を手に入れた俺はそのままレジへと向かう。レジ前の待機列には数人が並んでおり、俺もそこに加わった。待機列に俺が立っていると、後ろから見知った声で名前を呼ばれた。
「おっ、新田」
声の主は柏木芽依。
「よっ」
「よっ!ふふん」
俺は軽い挨拶をすると、柏木もそれを返した。俺の気のせいかもしれないが、少し上機嫌なように見えた。
「なんかいい事でもあったのか?」
「んー、登校中に新田と会うことってあんまないからレアだなーと思って」
「そうか?でもどっちにしろこの後部活で会うじゃん」
「ま、そうなんだけどね」
確かに俺と柏木が校外で会うのは、若干の非日常感があって新鮮さはあるかもしれない。
そんな柏木の手に目をやると、カップ型のアイスを手に取っていた。
「お前、朝からアイスかよ」
「べ、別にいいじゃん。外暑いし」
俺は先ほどまでの灼熱の通学路を思い出す。
「…やっぱ俺もアイス食べよ」
「ははーん、結局新田も食べたくなってんじゃないの。そうだ!一緒にパピコでも買って分けっこしようよ」
「いいな、それ。そうするか」
俺たちはアイス売り場に戻り、パピコを探した。
「あ、あった。でも何種類か味が違うのあるけど何にする?」
並んでいたのは定番のコーヒー味と、ホワイトサワー味とグレープ味だった。
「せーので指さして決めようぜ。違ったらじゃんけんで」
「ふふん、いいわよ。せーの!」
俺たちは各々が食べたいパピコを指さした。
「まさか新田と意見が一致する日がくるなんてねー」
「俺も驚いてる」
俺たち二人が指さしたのはホワイトサワー味だった。
コンビニから出た俺たちは、分けたパピコを一個ずつ手に取り食べる。
「てっきり新田はコーヒー味かと思った」
「そういうお前は変わり種のグレープに行くと思ったが」
「いやいや、やっぱパピコはホワイトサワー味よ。特に夏は」
「分かってるじゃんか。俺も同意見」
「てか、これ奢ってもらってよかったの?」
「いいんだよ。こういうのは男が奢るもんだ」
パピコの会計は俺がもった。アイス一つくらいなら特に差し支えはない。
「ありがと。カッコいいじゃん。でも私たちバイトしてないし、今後はこういうのもきっちり割り勘ね」
「分かった。ま、この金は家の風呂掃除をして稼いだ金だから気にするな」
俺は鼻を高くして言う。
「どこの小学生よ…」
そんな他愛もない話をしながら歩いていると、いつの間にか学校についた。
部室に行く前に、鍵を取りに職員室へよったが、鍵がすでに取られていたから鹿苑が先に着いているのだろう。俺と柏木は部室への階段を上がり、屋上の扉を開けた。
「あら、おはようございます」
やはり鹿苑が先に着いていたようだ。
「ん、おはよう」
俺は軽く挨拶を返す。
「おはよう、あーちゃん」
部室である屋上に着いた俺たちはいつもの自分の定位置に陣取る。柏木と鹿苑は屋上に設置されているパラソルの下のベンチ。俺はその向かいのパイプ椅子だ。
「今日はお二人ご一緒なんですね」
「あぁ、学校の近くのコンビニで偶然な」
「そうでしたか。私はってきり約束でもして一緒に来たのかと」
鹿苑は笑いながら俺たちを茶化す。
「俺と柏木をカップリングするのはやめろ」
「そうよ。誰がこんな精神年齢が小学生並みなやつと」
「あ?お前今なんつった」
俺が柏木に突っかかると鹿苑がすぐに割って入ってきた。
「はいはい、からかった私が悪かったですから。朝から喧嘩はやめてください」
「もう、あーちゃんったら。最近そういう類の意地悪が多いわよね」
全くだ。あの夏祭りの後から鹿苑はずっとこんな感じで、非常に面倒くさい。いい加減やめてほしいのだが。
「まぁでも、彼女がいたらそれはそれで楽しいんだろうなー」
俺はポツりとそんなことを呟く。
「「え」」
柏木と鹿苑はこちらを凝視して疑問の声を上げる。
「え?」
その様子が謎だった俺は同じく疑問の声を上げた。
「そ、それって芽依さんのこと口説いてるんですか?」
「は!?なんでそうなるんだよ!そんな意志は断じてないからな。それに柏木だってそんな風には」
「いや、でも結構効いてるみたいですよ?」
鹿苑の隣に目をやると、顔と耳が赤く火照った柏木がいた。
「は?おま、何照れてんだよ。気持ち悪いからやめろ」
「う、うるさいわね!新田が変なこと言うから悪いんでしょ!」
「言ってない。俺は変なことなんて言ってないからな」
「まぁまぁ。二人とも落ち着いてくださいよ。私としては、二人が幸せになってもらえたら嬉しい限りなんですけどねぇ」
こいつ、後でしばく。
「言っとくけどな、俺は柏木のこと恋愛対象として見てないからな。誰がこんなやつと」
「私も同じよ。誰がこんな天パと」
「は?なんだと?」
「こっちが"は?"なんですけど!」
俺と柏木がいがみ合っていると、鹿苑がパンと手を叩いて、俺たちの目をそちらへと向けさせた。
「ではこうしましょう。お二人でまたデートしてもらって、相手を強く意識してしまった方が負けということで」
いや、なんでそうなる。
「実際、お二人わぁ、お互いのことぉ、意識してないーとか言ってましたしぃ、どうですぅ?」
「そのうぜぇ話し方やめろや、絶壁女」
俺は鹿苑に釘をさす。すると。
「おいそこ、なんか言いましたか?」
鹿苑は握り拳をこちらに見せて威嚇してきた。
「いえ、鹿苑さん。何でもありません」
「ふふっ、分かりましたぁ。それじゃあ芽依さん、新田さんわぁオーケーみたいなんですけどぉ、どうですぅ?」
「べ、別に?私が負けるわけないからいいけど?」
柏木さーん?そこでツンデレはいりませんよー。てか、なんでこいつちょっと乗り気なんだ。
「はぁ、それで?意識した方が負けとか言ってたが、どうやって勝敗をジャッジするんだよ」
鹿苑はああ言っていたが、実際どっちがどれくらい意識した、してないなんていうのは測りかねるものだ。それを一体どうやって可能にするつもりなのか。
「よくぞ聞いてくれました。それはですね、これです!」
鹿苑は何やら自身のバックからブツを取り出し、俺たちの前で高く掲げた。
「てってれてってってー、電流脈拍測定器〜」
そんな漢字だらけのひみつ道具聞いたことねーよ。
「のび太くん、この道具はね、一定の脈拍以上になると電流が流れる仕組みになっているんだよ〜」
「おい、誰がのび太だ」
「なるほど!それでデート中に電流が流れた回数をカウントして、最終的にその数が多かった方が負けということね!」
なんで柏木はスラスラと鹿苑の言うことを飲み込んでんだ。やっぱ乗り気なんじゃないんですかこの人。
「はい、そういうことです。ということで、お二人は直近で空いてる日あります?二人にこれを取り付けてデートに行ってほしいんですけど」
「私は明日でもいいわよ!」
え、なんで本当にやる流れになってんのこれ。嫌だよ?俺。電流流れるのとか。
「一応俺も明日は空いているけど…」
「じゃあ決定ですね!デート場所は二人で決めてください!あ、その前に使用感確かめときます?」
電流脈拍測定器とやらは、手首にリストバンドのように取り付けられるようになっており、俺たち二人はこれを装着された。
「パッと見、ただのリストバンドだな。しかもちょっとデザインおしゃれだし」
「そうね。器具名は物騒だけど、これなら付けてて不自然じゃないし。デートも問題なく行けそうだわ」
「はい、そのように製作を依頼したので。ということで、是非使ってみましょうか。もう電源は入っているので、説明したように脈拍が上がれば電流が流れます」
鹿苑は何に小遣い使ってんだ…。
鹿苑の説明だと、もう電流が流れるらしいがどれほどのものなんだ?柏木にちょっかいかけて効果がどれくらいのものか確かめるか。
どうやって柏木の脈拍を上げさせようか。そうだ、ここはシンプルに好きとか言って、ドキドキさせよう。
「おい、柏木」
「何よ」
俺は柏木の顔を見つめる。
「あのな、す、す…」
「す?」
好きって言うだけだぞ、俺。あ、やばいなんか俺の方が緊張してきた…。ってこれ、俺の脈拍上がってないか?
「いった!!」
俺は電流の衝撃に椅子から転げ落ちる。
「ちょ、ちょっといきなり何やってんのよ!」
柏木が倒れた俺の方へ駆け寄ってくる。
「い、いや電流が流れた…」
「は?でも私たち何もしてないけど」
「さては新田さん、芽依さんに好きとか言って照れさせようとしてました?それで自分が勝手に照れてちゃ世話ないですけど」
「ちょっ、新田。す、好きって…」
柏木は顔を赤らめる。
「バカ、柏木!照れると脈拍上がって電流流れるぞ」
「え、マジで!?って痛ぁ!!」
俺が倒れている横で柏木もあまりの痛さに倒れて悶絶する。
「ふふっ、これは明日のデートが楽しみですね!」




