番外編 2年目のクリスマス 最終話
「となると、次は鹿苑か」
「柏木先輩じゃないんですか?見つけるならあの人の方が簡単そうですけど。単純だし」
「単純という点においてはお前もどっこいどっこいだろうが」
確かに柏木は単純バカで間違いはないが、意外と頭が働いたりする。去年のクリスマスがそうだったように。
「ま、鹿苑の方が知恵が働く分、逆に思考が読みやすそいんだよ。かくれんぼだからと言って、単に人目につかないところに隠れるやつじゃないだろ、あいつは」
「というと鹿苑先輩はどこに?」
「人目につきやすい、もっと言えば人が大勢いるところに紛れてるだろうな」
「うーん、でもクリスマスの日の放課後に人がたくさんいるところなんてありますかね?いつもと比べて部活も休みのところが多いみたいですし。生徒が大勢いるところなんて…」
「いやあるだろ。俺も普段は行かないが、お前もテスト期間とかにはたまにいったりしたんじゃないか?」
「あ!図書室か。確かにあそこならそこそこ人がいます!」
今は12月の下旬。もうすぐで大学入試だ。うちは進学校だから入試を強く意識している生徒の方が多い。クリスマスといえど、利用している生徒は少なくないだろう。
「とりあえず行ってみるか」
「はい!!」
◇
俺は図書室の扉を開け、柊も俺に続いて入る。
「満席に近いですね…」
「来年は俺もここに缶詰かもな…」
想像していたよりも人が多く、ノートとペンの擦れる音だけが部屋に響いている。静かなはずの図書室には似合わない熱気がこもっていた。
生徒たちの邪魔をしないように俺たちは小声で喋る。
「本当にこの中に鹿苑先輩はいるんですかねー」
「おい、あれ」
俺は席に座る一人の女子生徒を指差す。
「あ、普通にいましたね」
「あぁ、しかもこの受験ムードの図書室で優雅に読書してんぞ。いや、図書室は本来そういう場所なんだけどさ」
◇
「見つかっちゃいました…」
チーズケーキを眺めながら、悔しそうな声色で呟く鹿苑。
あの後、俺たちは見つけた鹿苑を図書室の外へと連れ出し、部室へ戻ってきた。
「ま、お前ら二人は簡単に見つけられると思ってたよ」
「なんかイライラしますね。鹿苑先輩もそう思いませんか」
「はい。このスカした感じが本当にウザいです」
「実際、こうも自分の推理が上手くいくとスカしたくもなる。俺を鬼にしてしまったのが運の尽きだな」
「運の尽きって。運がないせいでじゃんけん負けて鬼になった人に言われても…」
柊はボソっと呟く。
「おい、なんか言ったか」
「いいえ、なんでも。それで最後は柏木先輩ですけど。またなんか見当はついてるんですか」
「心当たりのある場所が他にあるなら、わざわざ部室に戻ってきたりはしない」
「そうなんですか?新田さんなら芽依さんのこともお見通しだと思ってたんですけど」
「柏木は奇想天外だからな。単純そうに見えて思考を読むのが難しいんだよ。ま、意外とこの部屋に隠れてたりしてな」
ガコッ!
俺が冗談を言うと、部室の棚の収納から物音がする。
「え、なんだ今の音」
「き、気のせいじゃないしょうか」
「は、はい。俺もそう思います」
なんだこいつらの慌てようは。確かに俺はかくれんぼを始める時に物音がしなくなるまで目を閉じていたから、三人が部室を出ていくのは見ていない。それにしても、収納の開け閉めの音で誰かが隠れたことに気づきそうなものだが、忍者かなんかなのかこいつは。
いや、まだ本当にいると決まったわけじゃない。
「あ、開けてみるか…」
俺は恐る恐る棚の下部の収納スペースを開ける。
「おい、柏木。何やってんだ」
「柏木?一体誰のことでしょう。私はただここにずっといただけの柏田ですが…」
「そうか、じゃあずっとここにいろ。そういえばこの収納の鍵がどこかにあったな。柊、探して今すぐ寄越せ。この柏田とかいう不審人物を閉じ込める」
「ねぇ、ちょっと待ってよ!私よ私!柏木芽依です!新田の勝ちでいいから、閉じ込めないで!」
「うるさい。俺はお前みたいなやつ見たこともない。うちの部員に柏田なんてやついないし、不法侵入者はここで野垂れ死ね」
「うわぁ!もうバカバカバカ!早くその手を放しなさいよ!」
「バカはお前だろうが、バ柏木!俺の冗談に動揺して自分から居場所バラしてどうすんだよ!」
「しょうがないじゃない!絶対に勝ったと思って油断してたの!」
「はぁ、もういい。さっさと出ろよ」
俺は扉を閉めようとしていた手を退けると、柏木が収納スペースから出てきた。
「新田が変なこと言わなかったらチーズケーキ確定だったのに」
「さすがにこの部屋にいるとは思わなかったな。お前らは知ってた風だったが?」
「はい、私たちが隠れるために部屋を出る時に芽依さんだけついてこなかったのが不思議だったんです。部屋を出る間際に振り向いたら、棚の収納に頭を突っ込んでる芽依がいて…」
想像するにとんでもない絵面だな。
「ということで新田先輩の勝ちです。チーズケーキはもらってください」
「なんか釈然としないが、勝ちは勝ちだからな。ありがたくいただくとしよう」
俺はケーキが入った箱を開けてチーズケーキを取り出そうとする。
「あれ?」
「新田さん?どうしました?」
「いや、チーズケーキがない」
「本当だ。先輩の言う通りですよ」
「誰かが盗み食いしたようですね。包装紙のゴミだけは箱の中に置いてあります」
3人の視線が1人へと向かう。
「え?私?やめてったらさすがの私でもそんなこと…」
「柊、さっきの柏木が隠れてたところにケーキの食べカスが落ちてないか調べろ」
「ラジャー」
柊は俺に言われた通りにカスが落ちてないかを調べる。
「警部、これって…」
俺は柊が持ってきたブツを口に含む。
「ふむ、これはチーズケーキに違いない」
「鹿苑総監。犯人の目星がつきました。処刑の準備を」
「え、待って。いやだって、部室に誰もいなかったしお腹減っちゃったからさ。ついね!ついやっちゃったのよ!だから許して!お願いだから!!」
「芽依さん、メリークリスマス!」
「や、やめてー!!!!」
こうして高援部二年目のクリスマスは幕を閉じた。




