第一話の五:あめころイエスタデイ
こ、小ネタ書くの忘れてた! ううorz
自己紹介も終わった。ルールの説明も終わった。
新鮮な一日も早いもので、既に夜である。家事の分担や買出しなどで明るい時間など過ぎ去っていく。
今は風呂の中。ぺったり肌に張り付いてくるような寒気がたまらなくて、最後にお湯に浸かった。
「はぁ」
ちゃぷりと浴槽に腕を掛けながら、ため息である。
どうして死んじまったんだ俺は。おかげでよく分かりもしない奴らと同居することになって……。
さっさと合格したいところだ。柚田もそれを望んでいるらしい。
どうもこの世界には巨大な学校が各市町村に存在し、それぞれに百万単位の生徒が通っているらしい。卒業までかなりの期間がかかるものの、卒業さえすれば転生(生還ではない)の免許が与えられ、また、転生しないのでも、学校卒業の経歴はこの世界で過ごしていく上でのステータスとなる。柚田はそこの生徒だということだそうだ。そして卒業間近。
柚田にとっては、この生還試験の監督こそが、学校の卒業試験なのである。
この生還試験に合格者を出すことが出来なければ、柚田も俺達と揃って卒業試験落第というわけである。
「こ、これは……!」
脱衣所の方にうごめく影と押し殺したような声が聞こえるけどきっと気のせいだ。
何にしろ、俺が当面やるべき事は、この家の中の誰よりも早く生還試験を合格し、この家から一抜けすることである。
でも、最初はゆっくりしてていいか。試験もこれが一度きりというわけじゃないし。
ちなみに試験の点数は、その個人が『死んだ原因』をクリアしていくことで上がっていくらしい。一ヶ月以内で七〇〇点以上を稼ぐことが出来れば合格だ。
死んだ原因をクリアするというも、例えば事故で死んだなら『相手の車を消す』とかそんなことじゃない。この場合は『車に轢かれても大丈夫な反応ができるようになる』又は『そもそも車に轢かれないような注意深さを手に入れる』など。他人を変えること無く、自分が精進することで死を回避するのである。
合格点数を獲得することが出来れば、見事下界の、自分が死ぬ直前の瞬間にまで戻ることが出来る。
試験に合格した人間ならば、再びその場面に出くわした時に、死を回避することができるはずだ。
ちなみに何故か俺はさっき家に置かれていたミカンを食べただけで一点上がったんだが、俺の人生は何百分の一かミカンに支えられていたのだろうか。なんという小さい命だろう。
俺の死んだ原因ってなんだろう。
そろそろ体もあったまった。浴槽からの逃亡を経て、風呂からあがろう。扉を開いた。
「……」
俺が脱ぎ捨てた衣類を漁っている女の子が居た。
黒くてぴっちりした薄手のセーターを着込んでいて、体のラインがよく出ている。艶めかしいといえばそうかもしれない。
女の子は、というか暇島は、びくぅっ!! と肩を反応させて、それでも俺の下着を手放していない。
「な、何やってるんだ、お前!」
「その、ぬくもってた」
「ぬくもるな凍え死ね」
「え、ええと! その! 私も初めてなんだよ!? こんなこと、するの。だから私は変態さんじゃないんだよ!」
「パンツ握り締めながら言うなよ!」
「ご、ごめにゃ、さい」
そのまま、トトトと逃げられた。パンツ返せ。
暇島小鳥の行動というものはよく掴めない。生還試験を何度も受けなおして落ち続けているところを見ると、変わり者なのかもしれない。
でも、こんなことをするのは俺が初めてだ、とか言ってたよな……。まあ何回もされてたら困るが。
何にしろ俺は、もう少し彼女のことを観察する必要がある。
これからの日々で、見極めねばならない。
一度くらいはそんなふうに新年を迎えてみるのも悪くないかもしれない。
脱衣所から耳を澄ましてみれば、早くもテレビから大音量で新年カウントがされているようであった。もうそんな時間か。
着替えてからバスタオルを首にかけて向かってみると、もうその時点で新年への猶予はいくらもない。
部屋には誰も居なかった。残念ながらこの家は新年のイベントどころじゃなく、みんな、いっぱいいっぱいなのだ。
鳴雪さんはもう寝ているらしい。
柚田は俺が風呂にはいる前、鳴雪さんに「安心しろ、峰打ちだ」と、絶命させられていた。まさか彼女に負ける奴がいるとは驚きである。そして峰打ちで死ぬなよ。最初は俺達も「ゆ、柚田あああ!」と泣きそうになりながらすがりついたワケだが、よく考えたらここは天上の世界、人は死んだところで後々復活する。その事実に気づいた瞬間、俺は風呂に急いだのだ。
あと、暇島は……。
部屋を見回してみると、キッチンの方から申し訳なさそうにこちらを覗いてくる彼女の姿があった。
「来いよ」
眉を下げたまま、暇島は腰を低くした体勢で歩いて来る。しんなりとリビングのソファに座り込んだ。俺も座った。
『十』
テレビがカウントダウンする。自然と胸が高鳴る。
『七』
暇島にパンツを返された。どうしろと。
『五』
革張りのソファがぎゅうぎゅう跳ね返ってくる。彼女が笑って顔を見合わせてきた。
『三』
新年から、俺の戦いもこの家でスタートしていくのだ。
『一』
もう少し。
『〇!』
新年明けましておめでとうござ――
一瞬、見えない何かが駆け抜けたように思えた。
上下さかさまになったような感覚が襲ってきて、でもすぐに戻る。
少しだけ気分が悪くなった。新年の瞬間だってのに何が起こったってんだ。
ふと意識を戻してテレビに視線を戻してみると、番組も変わっているようだった。
「――新年まで、あと一日となりました」
アナウンサーの言葉に耳を疑った。
*
翌朝、昼前にベッドで目が覚めて、一階に降りて歯を磨いて顔を洗って柚田と話した。
鳴雪さんに勝負を挑まれて軽くかわして「ああんっ」って言わせてた。
この家は新聞が届くそうだが、まだ誰も郵便受けからとってきていないのか。
あくび混じりにのそのそ歩いて、俺は玄関扉を開けた。
すぐ目の前には、昨日の猫が居た。
昨日、猫に壊されたはずの花瓶も置いてあった。
猫は花瓶を倒して、割った。その音に驚いたのか塀伝いに走って逃げていく。
「……同じだな」
今日は十二月三十一日、大晦日である。




