第一話の四:あめころ笑止千万
前作より柚田がちょっとだけ大人だ!
少しプロットから脇道それた展開になってきてます、流れを修正しないと。
「フフ。よく集まった。天上世界に来て間もない貴様達にも、この僕の凄さがよぉく分かるように改めて自己紹介しておくべきか。良いか聞いて驚くな。僕は今回貴様らの生還試験を全監督することになった、柚田大洋と言う!」
どこが凄いのだろうか。
「僕のグランパは、天上世界の我が国における商業流通の覇を成し遂げた総合商社グループの会長なのだ!」
この柚田大洋という男、どうやらマナーを知らないらしい。よほど自己アピールをしたいのか、革張りのソファーにぎゅうぎゅうと音を立てながら登った。
俺たちを見下したかのような態勢になって、ババンと両腕を広く掲げてくる。やたらアクションが多い。自信満々らしく事の狭間にはフフフと笑っている。
しかし残念ながら、そんな彼の話を羨望のまなざしを持って聞いている人間は、今現在の俺達の中に一人も居なかった。
「この家で共に生活していく以上僕の凄さは身を持って知っていくであろうことになるだろうが、今のうちに説明してあげよう。学校では成績優秀運動神経抜群による文武両道、知勇兼備。更には言うまでもなく眉目秀麗、純真可憐、頭脳明晰、おまけに父は某企業の会社員だ!!」
最後結構普通じゃないか。
ちなみに彼が先ほど屋根の上で『助けてくれぇ』と鼻水だらだらに泣き叫んでいた柚田大洋くんである。屋根の上から名乗りを挙げるというダイナミックな初対面で俺たちを迎えるつもりであったらしいが、頑張って上ってみたはいいものの降りられなくなって、寒空の中、干物になりかけていたそうだ。本人曰く『もうあんな怖い目には二度と会いたくない』そうである。だが『一生懸命やったので悔いはない』そうである。悔やんでください。
「き、貴様ら、僕の話を聞いてくれ!」
少し可哀想な柚田である。
俺としても、彼が生還試験の監督であるなら試験の詳細なルールなどについて話をしっかり聞いておきたいところなんだ……。だが。
一列に並んで座っている俺たち。俺は真ん中に座っているわけだが、両端の女性陣からの視線が、とても痛い。
片方からは刀の鞘鳴りに合わせて殺気のこもった年が沸々と伝わってくる。もう片方からはキラキラと、それでいて火照った生ぬるい視線が押し寄せてくる。
どちらに振り向いても殺されそうな気がする。俺の精神力は脂汗とともにダラダラと絞られていく。
「……まあいい。受け取れ」
柚田から俺達三人に、それぞれ一つずつ小さな物体がふわりと投げ渡された。
どうやら型遅れの携帯電話のようだ。やたら重たいし、デザインも簡素で、何やら工場の作業服みたいな色をしてる。
「その携帯こそが生還試験におけるもっとも基本的な配給品だ。試験が点数制で行われることは知っているだろう。その時点での点数は、この端末を使うことでいつでも確認できるようになる。また、電話機能のみではあるが普通の携帯電話としても使うことが出来――」
「飛城文仲! もう我慢ならん、もう一度勝負だ! 負けた恥を払拭せぬままには居られない!」
「僕の話を聞いてくれ!」
各々の個性がにじみ出た座り方をしている俺たち。唯一正座していた彼女が俺に突っかかってくる。先ほど自滅したことがよほど悔しいらしく、何だかターゲットも俺一本に絞ってきたようだった。このままではこの先の俺の日常が危ぶまれる。そういえば彼女、名前はなんだろう。
「提案」
俺は右手をちょこんと挙げた。
「せっかく説明会らしい公の場なんだ。俺達これから一緒に一ヶ月暮らしてくわけだろ……? その……互いに自己紹介しようぜ」
*
「私の名前は木中貫鳴雪」
言いづらい名前だな。
彼女はあくまで俺を睨みながら、正座したまま名を名乗った。何故か刀を持っている。
「下界では木中貫清体流剣道道場の跡取りだった。この看板を汚すことのないよう、日々強くなるために訓練は欠かしていない。そこの男を殺すことが、当面私の求める生きがいだ」
俺か。
「病気の父を置いて道場経営を可能なのは私一人であった。このままでは道場が妙な地上げ屋さんに潰されてしまう。……だから、私は生き返りたい。以上だ」
*
「私の名前は暇島小鳥です」
緊張した様子でへこり、と頭を下げる。
「生還試験を受けるのはこれで四十七回目になります。す、好きな色は黒で、好きな食べ物は飛城です」
今なんて言った。
「生き返りたい理由は鳴雪さんくらい立派なものはないけど、家族に会えたりできたらなあって思います。それだけです」
*
「もう一度説明してあげよう。僕の名前は柚田大洋だ!」
*
いよいよ俺の順番が回ってきた。高鳴る鼓動を心の手で抑えながら、口を開く。
「ええと……飛城文仲だ。よろしくな」
目の前で木中貫が必死にメモしていやがる。敵の情報をチェックして弱点を探ろうという腹だろうか。アホか。
自己紹介なんて案を自分で提示してみたはいいが、何を言ってしまえばいいのやら。そうだ。ここにきた経緯を話そう。
「俺の死因は」
思いついた弾みでパッと口にしてみたが、それ以上続かなかった。
みんなが見ている。だけど、何を言えばいいのか分からない。口をパクリと開けた状態のまま、俺は止まってしまった。
「……まだ説明していなかったな」
柚田が割り込んできて、何か語ってくれるらしい。
「貴様らは覚えていないだろうが、生還試験は受験の際に特定の記憶を一時消去しなければならない規則がある。貴様らも例外ではない」
まさかとは思うが。
「貴様らは、自分の死んだ原因を思い出すことは出来ない」




