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あめころ!  作者: コップ
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第一話の一:あめころフライング猫

非常に展開はゆっくりです。キャラは主にギャグか雑談しかしてないかも……。

また、自作「柚田、死す!」のセルフオマージュ的な外伝作品となっているため、当時のギャグや語りを引用して使うことが多くなります。

ではでは! 前置きもここまでとして、第一話! 前回プロローグとして掲載した部分の改稿です。

最終的には楽しんでいただけたと思えるような作品にしたいです!





 麗らかでない日差しの中を歩く。


 あけおめことよろ、という言葉がある。

 これは、『明けましておめでとうございます今年もよろしくお願い申し上げます』という新年の挨拶を簡略化したものだ。

 何も俺とて古式張った言葉遣いを求めるわけではないのだが、由緒正しきハッピーニューイヤーをたかが八文字で祝い終えてしまうのは少し寂しい物があるんじゃないだろうか。

 例えば新年の挨拶を由緒正しい形で全て言い切ると仮定して、所要する時間は恐らく四秒前後。この四秒の価値を労働の給与に換算するとすれば(時給千円として)およそ一円。たった三十銭で正式な新年祝いが出来るのだぞ。それでも略すというのか。お前の新年は一円以下かッ。


 まあ、あけおめことよろ、それはいいだろう。言語の発音は短く効率良いほうが便利なことには間違いなさそうだし、こうして新語は生まれ言葉は進化していくのだとも思える。となると『あけおめことよろ!』という略語すらもまた日本語に定着したいつの日か、更に略され『あめころ!』などと最早原型を留めずに駄菓子みたいな名前にまで変貌していくに違いない。最終的には『あめ』とか『め』になるのかも。


 ――というのも今日は、十二月三十一日。

 恐ろしいことであるが、また今年という短い期間も終わりを告げる事になるらしい。


「はぁ」


 白い吐息が空気に膨らむ。十二月三十一日の寒い空気からは、荒い紙ヤスリのような、肌を擦り削っていくような乱暴さを感じた。

 少しうつむいてみればビタミンカラーをした眼にやさしい色合いのレンガタイルが歩道に敷き詰められている。ここは車の横行も盛んな、二車線道路の脇である。

 車が、ぶぅんと横を通り過ぎる。また俺もため息である。

 せめて、新年を迎えて死にたかったな。

 大きすぎる喪失感というのは簡単に払拭できるものではない。この気持ちを『辛い』っていうのも癪ではあったけど、正直そんな感じだった。

 初めは、気絶した間に遠い場所へ放りこまれただけなのかと思った。だって頬をつねれば痛いし、手を握りしめた感覚だって、むしろ今までの世界より鮮明な感覚がある。鮮明すぎる。

 だけど否が応でもここで暮らしていかなきゃならない自分がいて、市役所で生還試験の受験手続きをした時だろうか、俺は自分の死をリアルと認めていた。

 認めたことに気づいた瞬間、下界に取り残した人たちとはもう会えない気がして、場所もわきまえず用紙に涙をこぼした。

 絶対、生き返ってやる――


「な、なんでだよぉ~!!」


 明らかに不自然なくらい轟く程度の声量が側頭部にぶつかってきて、俺は思わずとも意識を引かれた。

 煮え切らないような、幼い女の子の声だ。ていうか女の子だ。横断歩道のど真ん中で腰を折り、猫と大学ノートをいっしょくたに抱えながら必死にわめいている。猫が暴れているせいでその場から逃げることが出来ないらしい。

 次には大きな車がジリジリとアスファルトを滑り走るような音が女の子に近づいてきているのがわかった。何故か止まる様子がない。俺は何かを察した。このままでは女の子が轢かれてしまうのでは……ないか――


「ちっ!」


 俺は感づいた瞬間、肩に掛けていたカバンを投げ出して走り跳ぶ。一足でグン、と飛んだ。颯爽と冷や汗を散らした。 

 ダン、ダン、跳ぶたびの瞬間瞬間で彼女との距離は狭まる。あまりにも短い時間で、考量の余地など目の前の危機を救うこと以外には存在しない。

 前のめりに飛び込んだ。女の子が振り返ってきたが構わず肩を突き飛ばした。女の子の体が宙に舞う。あとは、猫だ!


「えっ……?」


 俺に突き飛ばされたが故、宙を舞った女の子。その戸惑いの声が、妙に周囲の物音から浮き立ってハッキリと聞こえてきた。妙にゆっくりと聞き遂げることが出来た。

 車は依然、クラクションを鳴らしながら突っ込んでくる。プップーじゃねえよ大破しろ!

 やべえ。このまったりした焦燥感、死ぬ寸前にも覚えがある。普段動いちゃいない脳が、事の寸前で今更動き出して、主観時間がおよそ通常の倍になる。

 未だ宙を飛んでいる彼女と目があった。彼女は呆然と驚きの中間のような表情をしていた。活発そうな顔立ちで、爽やかに可愛かった。

 俺は最後の一瞬を使って、足元の猫を無理やり抱き上げ彼女に軽く投げ渡した。これでもう、俺は間に合わねえ――

 くそ、くそぉ!


「たすけ――ッ!!」


 情けない断末魔を残し俺は轢かれた。車のブレーキ音だけが意識に残った。

 体が旋転する。痛い、どころじゃない。内蔵の配置が全部ずれちまったんじゃないかってくらいの重い衝撃を受けて、最終的にはアスファルトに擦れ落ちた。アスファルトは針の山にでもなったつもりなのか俺の服と皮膚を削り取っていった。痛い、熱い。

 だが。それでも。


「くっ……は!!」


 俺は生きてるらしい。




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