プロローグ:あめころアストロノート
お久しぶりになります明治です! 初めましての方は初めまして!
本編に一切関係ない前置きが続くのはご容赦願います。
今回新連載となりますこの『あめころ!』は、ストーリー展開の少ないギャグコメディハーレム物となります。ちょっと設定は重いのですが、少しでも楽しんで、そして読んで頂ければ幸いと思います。
また、当作品は作者が以前に連載していた作品『柚田、死す!』の番外編という形を取らせていただきます。世界観は全く同じで、キャラクターも一人だけですが引継ぎがありますです。その点、柚田をご存じの方には楽しんでいただけるように、頑張りたいです。もちろん『柚田、死す!』を未読の方にも楽しんでいただけるようも、配慮の方に懸命の努力を注がせていただきます!
うーん今回、本来投稿予定はなかったのですが、我慢できずに投稿してしまったという感覚です。プロットが揺れまくりでいつ変更があるか分からないので、執筆の進行具合と投稿速度にはかなり差異が生まれるかと思います。なので、更新は不定期です。
また、完結後にはすぐ消してしまいます! もし読まれている方がいたら、その時は本当に申し訳ありません>< ここに一度注意として、その旨を伝えさせていただきます!
では、長くなりました。本編の開始とさせていただきます。
読まれている人を少しでも楽しませていけるように頑張ります! ご賞味を!
もしも笑ってもらうことがあれば、ジャンプするくらい嬉しいです。
「――くんか」
とりあえず二日ほど暮らしてみた。
未だ生活感を感じられない新築のこの家。目に優しい程度の照明は、優しすぎて刺激がなさすぎて、俺にこの世界を夢と錯覚させてくる。
これから先も、この見慣れない家が俺にとっての我が家であると思うと、少し胸の中にすきま風でも差し込んでくるような気がした。
決してホームシックじゃないさ。なんて自分に言い聞かせながら二階の廊下を歩む。少し自室で一人になりたかった。
「……くんかくんか」
ドアノブに掛けた指先から戦慄走る。俺は電気を受けたように手を止めて、耳を澄ました。
静謐的とも言える静かな廊下。ホコリが舞う音すら聞こえてきそうなこの場所だ。
ドアにピタリと耳を当てる。
「はぅぅ♪」
この上ないほど幸せそうなソプラノ音色が、部屋の中から俺の耳にまで届いてきた。
「くんかくんか」
なんだそれは。
「くんかくんか」
背筋に黒くひやりと悪寒が走る。くんかくんかじゃありません。
廊下には何かを引きずった跡がある。まさかアイツ……!
「おい!」
不穏な予感に体を任せ、ドアをぶち破る勢いで開け放った。ドアはぶち破れた。
巻き上がった木屑の煙を振り払う。俺は、冷や汗に促されるかのように俺は部屋を見回した。部屋の中に見えるのは、机に、あまり本が置かれていない本棚、のみ。
人が暮らすには気が狂ってしまいそうなほど物が置かれていない空虚の空間。他には唯一ベッドが置かれている。
「はぁあんぅっ……!!」
あとベッドの上でのたうち回っている女の子も居る。
一人で布団に顔をうずめながら、乱暴にベッドを揺らしている。身をよじり、たまらないと言ったような赤らめた笑顔で、言うのだ。
「飛城の匂いがするぅ……! フレーバーな香り高さがたまらないよぉ……!」
ちなみに俺の名前は香り高き飛城である。フルネームでは飛城文仲という。
彼女はベッド嗅ぎに夢中であるようで、今俺がドアを開けて部屋に視界を侵入させたことにさえ気づいていないらしい。
一人、ベッドの上で、じったんばったんと藻掻いている。そのままベッドの所だけ床が抜けて彼女ごと落ちてくれればいいのに。
「次はどうしようかな、どうしようかな。飛城の身の回りのお世話、全部私がやれないかなあ。私の唾液飲んでよ飛城ぉ……!」
ああ。この馬鹿に付ける薬ってどんなもんなのかな。青酸カリなのかな。
どうして、どうしてだよ。何故。二日前までは俺の目から見て正常な女の子にであったコイツは、こんな……!
「飛城愛してるよぉ♪」
こんな風になってるんだ!
「なあ、暇島小鳥」
恐らく今の俺は神々しく且つ禍々しい何やらが背中に降臨した風貌であろう。わなわな怒りに落ち着かない視線で彼女を睨む。三割くらいの確率でレーザーが出てもおかしくない。
破ったドアを踏みしめながら彼女に歩み寄った。見れば暇島は、よほど夢中なのか未だこちらに気づかない様子でハートを声音に浮かべている。
「ふにゅぅ♪」
「おい小鳥!!」
「ひぁぅっ!?」
彼女は肩をビクリと一度大きく震わせた。
「えっ……あの……? あれ? 馬鹿な」
腰を浮かせベッドに突っ伏したうつ伏せから、ぎこちない動きでこちらを見てくる。本当に今の今まで俺に気づいていなかったらしい。
後に流れるであろう涙を表情全体で表しているかのような様である。彼女はわなわなしている。
「なあ、小鳥」
「は、はい!」
俺の同居人である暇島小鳥は、俺を前にすると急に口数を減らす女の子だ。すぐに目をパッチリさせて逸らしたり、うつむいたりする。今回も例外ではなかった。
別に俺だって部屋で女の子がベッドの匂いを嗅いでいたぐらいで……それぐらいでというには甚だ特殊すぎる状況ではあるが、怒ってしまう程度の小さな器は持ち合わせちゃいない。広い心を持って震えながら受け止めてやろうじゃないか。笑顔で言えるさ。しかしこの状況は、どうだ。
俺の自室であるこの部屋に残っているのは、机と本棚とベッドのみ。これは俺が引っ越して間もないからとか、そう言う事情の元に生まれた空虚っぷりじゃない。
「お前、俺の部屋にあった物、全部まとめてどこにやったんだ」
彼女は振り乱した髪で半分に目を隠しながら、うるうると見上げてくる。
興奮冷めやらぬといった息遣いは恐怖によってか、小鹿の足のように震えていた。
「……ば、バレてた」
バレるよ。
「……だって、飛城の、欲しかったんだ」
買え。
「ここにあったものは全部、私の部屋に、運んであるんだけ「ごめんなさいはどうした」ごめんなさい」
「早く全部持ってこい」
「その前に、死んで詫びます」
丁寧で綺麗な土下座をされた。
「頭を上げろ。死ななくてもいいから早く持ってこい」
「タンスに入ってたトランクスの匂い嗅ぎました」
「死んで詫びろ」
土下座の姿勢からひくっと、彼女は涙をいっぱいにためた表情を上げてくる。
「で、でも何でだよぉ! 匂いしなかったよ! 何でタンスにしまう前に洗濯してあるのかな! ばかじゃないの!? ふざけないでよ!」
部屋中に響き渡る木の折れる痛々しい音。俺のチョップは俺のベッドと彼女の心を粉砕した。
「許して下さいぃっ!」
俺のため息が一つ部屋に広がり沁みる。あーあとぼんやり諦めて天井を見上げたら、彼女のごめんなさい連打が随分遠く聞こえてきた。
別に俺は、小鳥のことを憎くも怖くも思っていやしない。胸にじんわりと跡を残して消えない不安の中、彼女の存在は暖かくすらあった。
死んでる俺がすがりたい存在は、間違いなくこの家族なのである。
初めは、自分が死んだなんて信じられなかった。死後の世界って本当にあるんだと思い知らされた。中学生の頃に死後の世界についての推察は卒業していて、有るなら有ればいい、無ければ無くていいと割り切っていたものだ。けどそうやって思考を停止していただけに、実際この世界の存在を知ったときは……その…………びっくりした。
実際は、花畑も三途の川もありゃしない。ふわふわと体が浮いたりもしない。
俺は死んだがここにいる。そんな感覚がはっきりしすぎて怪しいくらいだ。
「小鳥」
「ごめんなさ――……?」
「俺、帰れるかな。下界に」
俺は死んだってのに、こんなところで、何をしているんだろう。
いや、死んだからこそ、こんなところで、こんなことをしているんだ。
こんな調子でこれから大丈夫だろうか。甚だ毎日が不安である。
彼女の涙目は俺を不思議そうに見つめ直すたび、くりりと輝いていた。




