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第十一話 友達だから


 開かれた光のベールから現れた少女に、怜使は目を丸くする。

 巫女のような和装に身を包み紙垂(しで)の垂れ下がる杖を持った少女は、つい先程まで制服を着ていたはずの伊奈であった。


「伊奈ちゃんも、魔法少女……?」


「__?『も』…?っていうか、あんまり驚いてない……?」


 怜使の呟きに振り向いた伊奈が不思議そうな表情を浮かべる。いやいや、十分驚いております。

 瑠華と彩に続き、怜使が出会った魔法少女は彼女で3人目だ。瑠華と彩は2人セットだったとはいえ、ここまで立て続けに魔法少女と出くわすことになるとは、もはや運命的である。


「__ァ、ゥァ、ァァァ」


 小さく呻くような声を上げ、魔獣が三たび腕を振り上げる。それを見て、伊奈の背後にへたり込む親子の顔がふたたび恐怖で歪む。


 魔獣の瓦礫にまみれた剛腕、凶器以外の何者でもないそれを見据え、伊奈が紙垂の揺れる杖を手に構えた。



「__ねえ、キミ?それから、れーちゃんも」



 瞬間、杖の先端が煌々と光り出した。虹色に輝くその周囲を、無数の星々が舞い踊る。少しずつ、光が大きく膨れ上がっていく。



「このことは___クラスのみんなには、ナイショだよっ!」



 ドウッ、と音を立てて、杖から光が放たれる。勢いよく飛び出したその光は、瞬く間に魔獣を飲み込んだ。

 目を開けていることすら困難なほど眩いそれが数秒続いた後、魔獣の姿は跡形もなく消え去っていた。


「す、すごい……」


 ものすごい威力だ。あれだけの巨躯をものの一撃で、瓦礫の破片ひとつ、雫一滴も残さずに消し飛ばすとは。素人の怜使から見ても、瑠華や彩にもできるかどうか怪しいと思う。

 しかし、今の怜使の心は、その威力とは全く別の部分に惹かれていた。



「すっごい、魔法少女っぽい……!」


 キラキラ光って、不思議なビームで攻撃。なんて魔法少女っぽいのだ。

 瑠華は剣だし、彩は弓だし、今まで見てきた戦闘はなんというか物理攻撃ばっかりで、『魔法使ってる感』が全然なかった。別にそれが悪いと言っているわけじゃないし、それはそれでめちゃくちゃかっこいいと思うのだが、いざ魔法らしい魔法を目にするとテンションが上がるものである。


「__ふぅっ、なんとかなってよかった!ケガはない?」


 構えを解き、振り向いた伊奈が屈んで少女に問いかける。少女は未だ不安そうな表情を浮かべながら、しかしゆっくりと首を縦に振った。


「だいじょーぶ!悪いやつはおねーさんがやっつけちゃったから!もう安心していいからねーっ」


 元気な、しかし柔らかな声色で語りかけ、伊奈は不安の拭えない少女の頭にそっと手を伸ばし、優しく撫でた。ひと撫でごとに、少女の顔が笑みの形に変わっていく。


「あの、ありがとうございました!この御恩は一生忘れません!」


 そう言って少女の母親が立ち上がり、何度も何度も頭を下げる。伊奈はその言葉に一瞬目を丸くし、すぐに元の笑顔に戻った。


「いえいえ!全然大丈夫です!とーぜんのことをしたまでなので!」



 そんなやりとりを見て心温まりながら、未だ興奮冷めやらぬ怜使は感慨に耽る。


 __どっかで、聞いたことあるセリフだったな。


 そんなことを思いながら、ゆっくりと浮ついた心を引き戻していくのだった。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「れーちゃん、あんまりびっくりしてなかったね?」


「え?」


 手を振りながら立ち去る少女とその母親を見送りながら、同じように手を振り返す伊奈が怜使に話しかける。


「あたしが魔法少女に変身した時だよ。もうちょっとびっくりするかなーって、ちょっぴり期待したのに」


 そう言って、伊奈は怜使の方に顔を向け、笑いかける。

 表情にも言葉にも、困惑している様子は見られない。魔法少女はいっぱいいると聞いたし、なんとなく察しがついたのだろうか。さすがというか、適応が早い。


「えっと、魔法少女の、と、とと、友達が、いる、ので……」


「え!ほんとに!?それってもしかして、同じ学校の人?」


「う、うん……」


 ずいっと伊奈が顔を近づけてくる。昼も思ったけど、やはり陽キャは距離が近い。それに顔がかわいすぎる。直視できないぞ。睫毛なっが。



「へえーっ、すごいぐーぜん!よかったら、今度その人のこと紹介してよ!」


「あ、え、っと……」


「__?どうかしたの?」



 その瞬間、胸がきゅっと微かに痛んだ。

 何故だろう。彩はともかく、瑠華は友達のはずだ。伊奈も半ば強引にではあったが、怜使と友達になってくれて。友達に友達を紹介するなんて、訳ないことのはずなのに。

 今まで友達のいなかった怜使には慣れないことだからだろうか。いや、違う。__その答えに、怜使はとっくに気づいていた。



「__そっか。れーちゃんは、それで悩んでるんだ」


「___」



 自分は、ふたりと一緒にいていいのだろうか。

 傍目とか、噂とか、そういう話じゃない。ふたりは魔法少女で、自分は力を持たない一般人だ。魔獣と出くわしたら、怜使はうずくまることしかできない。__ふたりに、守ってもらうしかない。

 瑠華は、怜使を守ると誓ってくれた。それはとても嬉しいし、安心するし、ありがたいことだが、同時にその誓いは、瑠華の重荷に、足枷になっているのではないのか。



 もしも、ふたりが怜使を守りきれなかったら。


 もしも、怜使を守ってふたりが命を落としたら。



 きっと、瑠華は後悔する。きっと、怜使は後悔する。それが、怜使はひどく恐ろしい。

 だったらはじめから、ふたりについていかない方がいいのではないか。ふたりとこれ以上、関わるべきではないのではないか。

 何を今更、という話だが、それでも怜使の中では、そんな考えが延々と巡り続けている。愚かな自分は、最初の選択を間違えたのではないか。__今ならまだ、無かったことにできるのではないか。



「__あたしは、れーちゃんと友達でいたい」


「……え?」



 ふいに、伊奈が口を開いた。

 それは、少女に語りかけた時よりもずっと柔らかく、優しい声だった。



「あたしはれーちゃんといっしょにいたい。昨日出会ったばっかりだけど、これからいっしょにいろんなことしたい。さっき話したカフェにも行きたいし、れーちゃんのおうちにも行ってみたい。あとレストランとか、プリクラとか、遊園地とか旅行とかっ!」


「___」


「ぜんぶぜんぶ、れーちゃんといっしょにやってみたい!__だから、あたしがれーちゃんを守ってみせる。そういう覚悟で、変身したんだよ」


「___」


「その人もきっとそう。__だって魔法少女は、誰かを守るために戦うんだよ」



 瞬間、怜使の目から涙が溢れ出した。


 一度決壊したら、もう止まらない。熱い雫が、ぼろぼろと流れ落ちていく。目を擦り、鼻をすすり、嗚咽を漏らしながら、溢れ出るそれを必死に抑えようとした。


 そんな怜使の頭に、そっと手が添えられた。


「__よしよーし、だいじょーぶだいじょーぶ」


 優しく、柔らかく包み込むようなその声に、怜使はしばらく、ただ身を委ねていた。


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