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ミラージュオブフェイト  作者: 黄原凛斗
第一部 7章:影の国
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救出!脱走!誰かの思惑





「さて、救出作戦なのですが……」

 ミラ一行はモニカに案内された宿で潜むように顔を付き合わせる。

 カリマは未だ帰ってきておらず、ミラとモリア、そしてユリア、ルカ、サラ、シルヴィアがモニカに視線を集中させていた。

「ケイト、のほうはオークション当日まで動けないと思ってください。アニムスの件もありますが、ミラ様も難しいでしょう?」

 ミラはこの国では指名手配犯だ。下手に動いて揉めたりすれば協会側にも飛び火し、ただでさえ国交が断絶しかけているウンブラと協会本部が存在するアマデウスの関係が更に悪化しかねない。

 どうせこじれるなら全てをやりつくしてから、ということだ。

「本部に連絡を取ったところ、ミラ様でもできればオークション当日まで動かないようとのことです」

「やけに釘刺すわね」

「本部もどうやら人身売買組織に関する対応……取り調べを望んでいるのですがこの国では合法ですからね。どうにかしてそれ以外の部分で黒い部分見つけ出してしょっぴきたいそうです」

 ルカとサラ、そしてシルヴィアの顔色がそれぞれ変わる。ルカとサラはどこか嫌悪感を示していて、シルヴィアは悲しげだ。ユリアはそんなことどうでもいいのか聞き流している。

「カルラ……さん、とアベルに関しては明日、動いても大丈夫そうです。ケイトと同時に、とも思ったのですが……カルラさんのこともあるのでできるだけ早めの行動が必要なのです」

「カルラを助ければ戦力もいい感じに補えるしいいんじゃない~?」

 モリアが相槌をうつとモニカは申し訳なさそうに言う。

「私たちの上司……セイヤさんはケイト救出時におそらく敵対してくると思われますのでその時に正気に戻してみせます。申し訳ありませんが……」

「協力、でしょ。わかってるわよ」

 ミラが肩をすくめると安心したようにモニカは表情を和らげた。

「ところで、もう一人の諜報員のあいつは何をしてるの?」

「今、カルラさんたちがいるところの偵察ですね。私はお恥ずかしながら顔割れてしまったので……変身魔法使ってもう一度と思ったのですがおそらく向こうも警戒して変身魔法解除の結界を張っているみたいです」

「というか、あんたたちの大ポカの被害被ってるわけよね、こっちは」

「……大変申し訳ありません。うぅ……文句ならぼ……私たちに仕事任せたアルレさんに言ってくださいよ」

 先ほどから度々何か言いかけてやめているような口調だ。素の口調が漏れかけているのかもしれない。

「カルラさんたちの救出は明日、というか明け方に行動します。ミラ様とモリア様、そして私で行きましょう」

「私たちは……?」

 シルヴィアがおずおずと手をあげるとモニカは真剣な表情で返す。

「人数が多くても困る場所に侵入ですし……とりあえず留守番ですね」

「私も行く!」

 しかしシルヴィアは食い下がらず自己主張を続けた。

「いや、あの……そういうの困り……」

「いいわよ。ルカとサラ、あとユリアも留守番ね。シルヴィアは私から離れないようにね」

 渋るモニカとは対照的にミラはあっさりと了承してしまった。モニカは微妙に困ったような、嫌そうな表情で俯く。

「はぁ~……どーせ僕なんて下っ端だからそりゃミラ様の意見に逆らえるわけないじゃないか……ああもう、あの馬鹿連絡遅い……」

 ブツブツと一人で何やらつぶやき始めたモニカ。サラはかわいそうなものを見るような視線を彼女の背中に送る。疲れきった背中は哀愁が漂っていた。










 作戦決行の早朝。ユリアたち待機組を置いてミラ、モリア、シルヴィア、そしてモニカが、アベルたちがいるとされている館の付近に姿を現す。

 モニカ曰く、カリマはケイトがいる方の建物を探っているようで現在は別行動だ。

「とりあえず、潜入するのですが……」

「武力行使?」

 シルヴィアが目をキラキラさせているのをミラは「こら」とたしなめる。

 モニカはため息を吐いて続ける。

「裏口から入れる経路を確認済なので、そこから入ります。もしかしたら、アニムス幹部もいるかもしれませんが……。カルラさんたちは地下なのでまずはそこに繋がる場所に向かいましょう」

 裏口に鍵がかかっていないことを確認し、四人は中に入り込む。早朝だからか人の気配はほとんどない。

「急ぎましょう。見つからないなら好都合です」







 早朝。まだ誰もが眠っているような時間に、ルーストは幸せそうに眠っているジェシカの枕元に立って、その呑気な寝顔をしばらくの間観察していた。

「う~ん……ルーヴィ、ごはんまだ~……」

「……バカ面」

 起きる気配がないのを確認すると、枕元にあった目覚ましが鳴らないようにスイッチを切り、音を立てないように出ていった。






 牢屋の中で、アベルは苦しそうに何度も咳き込んでいた。あまりにもうるさかったのか、見張りが鉄格子の向こうにいるアベルの様子を見る。

「おい、うるさいぞ」

 しかし、そこで異変に気づく。同じ牢屋にいたはずのカルラが中にいない。見張りは慌てて鍵を開けて中に入ると、苦しそうにしているアベルの胸ぐらを掴み上げて問い詰めた。

「おい、もう一人はどこだ!!」

 アベルが、ゆっくりと目を開け、にやりと笑う。

 その瞬間、天井からカルラが見張りに蹴りを食らわせ、気絶させる。アベルは見張りの様子を確認すると、不機嫌さを隠そうともせずに言った。

「俺に囮をやらそうなんて……」

「悪い悪い。でもお前、拘束具ついた状態で天井に張り付きながらチャンスを伺うの、できないだろ?」

「大半の人間ができねーよ」

 いくら手錠型の拘束具とはいえ、石造りの牢屋の天井に張り付くなどと人間離れした行為をあっさりとやってのけるカルラにアベルは呆れた視線を向ける。

 見張りの持っていた鍵を手当たり次第試すと、拘束具の外れる鍵を見つけ、二人揃って自由になる。ほかの見張りがいないことを確認して二人は牢屋から抜け出すために進む。誘拐された子供たちや若い女が牢屋の中に囚われているのを見つけたが、カルラは「ごめんな」とだけ呟いて、助けることはしなかった。

 今ここで解放したとしても、戦う力がない彼らはすぐに、捕まってしまうだろう。その意味をわかっているからこそ、今は手出しができなかった。

「たすけて……」

 アベルは、か細い声に一瞬だけ足を止める。鉄格子の間から手を伸ばす幼い子供がアベルに救いを求めるように目を潤ませていた。

「……………………悪い」

 子供を振り払うようにアベルは進む。するとカルラがアベルに言った。

「情に流されないだけ大人だな」

「今ここで助けても無駄だってわかってるからな」

 アベルの言葉はどこか悲しげで、自分のことのようだ。

 すると、カルラがアベルを手で制し、動きを止める。

 少し先の階段から、コツコツと降りてくる気配。

「……へぇ……さすが狂鳥カルラ。自力で抜け出すとはね」

 気だるげな声。姿を現したのはルーストだった。

「お前、アニムスのやつだな……やる気か?」

 カルラが武器こそ構えないが、戦闘態勢に入っているのは確実だ。アベルも警戒している。

「……逃げたければ逃げれば?」

「は……?」

 あっさりと、道を譲るルーストにカルラとアベルは呆気にとられる。なんでもない顔でルーストは続ける。

「ここでやり合うつもりはないし、凶鳥に勝てると思えるほどうぬぼれてないから」

「お前……本当にアニムスか?」

「さあ?」

 あまりに投げやりな様子に、疑うことすら憚られるようで、カルラは首をかしげながらも階段を上っていく。アベルもそれに続いて、ルーストとすれ違うと、聞こえるか聞こえないかの小さな声でルーストは言った。


「ミラによろしく」


 聞き取れなかったのか、アベルは振り返って聞き返そうとするが、ルーストは牢屋のほうへと行ってしまい、聞き返せなかった。



 階段を上った先には普通の廊下。どうやら地下だったらしく、窓の外には庭のようなものが見える。

「窓の外に出て――」

「カルラ!」

 廊下の奥から響く声にカルラは振り返る。そこには……


「アベル! 無事!?」

「カルラ先輩!? よく自力で脱出しましたね!?」

「……」


 モリア、ミラ、モニカ、シルヴィアが二人に駆け寄ってくる。カルラは安心したように息を吐いて笑ってみせた。

「モリアさんすいません。迷惑かけたみたいで」

「いいわよ。たいした怪我もしてないようだし」

「アベルは大丈夫?」

 心配そうに顔を覗き込んでくるミラに、アベルは戸惑いながらも返す。

「大丈夫……ってなんで馬鹿女まで一緒に。あとそれ誰ですか」

 シルヴィアとモニカを交互に見てアベルはミラに問う。すると、なぜかカルラがモニカを引き寄せて肩を組んだ。

「こいつは俺の後輩のようなもんだから! なっ、モニカ」

「あ、はぁ……まあ……そうですね」

 なにやら複雑そうな表情のモニカにミラとモリアが首をかしげる。すると、アベルとシルヴィアが向かい合ってなにやらにらみ合い始めた。


「……なんだよブス。心配でもしてたのか」

「ばっかじゃないの! あんたの心配とかしてないから! 自意識過剰男!」

「はぁ!? なんだよお前!」

「……まあ、たいした怪我がなくてよかったわね」

 ミラとモリアは内心「微笑ましいなぁ」と密かに思い、モニカとカルラはよくわからないといった様子で顔を見合わせていた。


「侵入者だ!!」

 突如、廊下に粗暴を絵に書いたような男が現れ、仲間を呼んでいる。ミラは武器を出し、アベルとシルヴィアに言った。

「とりあえず、逃げ切ること優先。私とモリアがいるから」

 二人、それにカルラもいるのだから容易に逃げ切れるだろう。

「カルラ。動けるわね?」

「とーぜんですよ」

 モリアもカルラに確認を取る。カルラは飄々とした様子で武器を出した。ダガーの二刀流で、カルラはそれを逆手に持つ。

 アベルも槍を出すが、アベルはカルラと違ってややふらついている。シルヴィアはそれを見て、手でアベルを制し、自分の槍を出した。

「ろくに動けないんだったら下がってなさいよ」

「……余計なお節介すんな」

「はいそこ、いちゃつかないで集中」

 モニカが呆れた目で二人に口を挟むと二人は揃って叫ぶ。

『いちゃついてなんかない!!』

「はいはい、ほんっと、集中しなさい」

 ミラが苦笑しながら二人に注意する。人数はさほど多くない。これなら――


「さあ、突っ切るわよ!」















「ほら、起きなよ」

「う……ん……? 何よ……まだ目覚まし鳴ってないわよ……」

「狂鳥に逃げられた」

「……………………はぁああああああああああああああああああああああああああ!?」

 飛び起きると同時に時計を確認して、ジェシカは狂ったように騒ぎ立てる。

「何、なんなのよ!! 目覚まし鳴ってないじゃない!! なのにこんな時間!? しかも狂鳥逃げた!? どういうことよ!! もうなんなのよ!!」

「君うるさい。狂鳥の様子見に行ったら、見張りがやられていなくなってた。あと侵入者がどうだで館が大荒れ」

 ルーストは淡々と事実を告げると、まだパジャマで薄着のジェシカに言った。

「とりあえず……君の肌とか見たくないから服着てくれない? ババアのくせに」

「ババアっていうな!! きいいいいいいいいいいいいいい!!」

「……まあ君をババアって言ったら彼女たちやあの人もジジババってことか」

 その呟きはジェシカには聞こえなかったのか、騒いでるせいでかき消されたのか、ジェシカはしばらくの間狂ったように叫んでいた。






久しぶりの更新です!切りどころが難しかった……。

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