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天正未明  作者: いろ
第一章〜分岐する歴史〜
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第3話 信長の決意

天正10年5月29日。京。

「まもなく本能寺にございます。上様のご到着を先に知らせて参りまする。」

蘭丸はそう信長に伝えると、一足先に本能寺へ向かった。

「蘭丸はよく働くのう。お前らも蘭丸を見習え!」

小姓ながらも、側近として仕事をこなす蘭丸を信長は買っていたのだ。

「ははっ」

側近が返事をした。

「ところで弥助よ。お主の250人のおかげで今回は大所帯となったな。」

弥助は少し困った顔をして答えた。

「トノ、メイジタ」

「すまぬ。お主を見ると少しからかいたくなるのでな。」

弥助はますます、困った顔を見せた。

そんなたわいもない会話をしていると、しばらくして本能寺に到着した。

本能寺の門が開くと、中から先に着いていた蘭丸と1人の男が出てきた。

「信長様、ようこそお越しくださいました。」

「おお。これは日承殿。出迎えとはありがたい。しばらく世話になるぞ。」

出迎えたのは本能寺の貫首、日承上人であった。

「ごゆっくりお過ごしくださいませ。ところで今回はかなりの大人数ではありませぬか。」

いつもより多い人数の兵に日承は驚いた。

「蘭丸が少ないと言うでな。急遽増やしたのじゃ。な?蘭丸よ!」

蘭丸は少し申し訳なさそうに頷いた。

「そうでありましたか。その者たちも休める所をご用意いたしましょう。」

「すまぬな。日承殿よ。」

「いえ、お安い御用にございます。」

そんな挨拶を交わしていると、1人の人物が信長を訪ねてきた。

「上様がご上洛と聞き、急いで参上しました。」

「おお。村井よ!久しいのう。」

訪ねてきたのは村井貞勝。京の政務を任されている人物である。

「京の様子はどうじゃ?」

「上様のおかげで、“今日”も平穏にございます。」

信長はその言葉に気づき、くすりと笑った。

「ははっ、お世辞を言うでない。平穏なのはお主のおかげじゃろ。」

「ありがたきお言葉。」

貞勝は深く頭を下げ言った。

「貞勝、これからも頼むぞ。」

「ははっ。この貞勝。必ずや上様のご期待に応えまする。」

貞勝から近況報告を聞くと、信長は本能寺でしばらく休んだ。

その晩、公家との宴会が開かれていた。

「信長殿は天下を統一した暁には、どのように日の本を治められるおつもりか。」

公家の1人が聞いた。信長は今後の日本について語り始めた。

「そうじゃな。わしは誰しもが法に従う国を作りたいと考えておる。」

「法にございますか?」

「うむ。武士であろうが百姓であろうが、罪を犯せば法によって裁かれる。武力によって統治する世界をわしが無くす。」

信長はお酒を一口飲み、話を続けた。

「それから、日の本を40の州に分ける。それぞれの州から政を担う評定衆を選ぶ。」

「評定衆というのは?」

聞き慣れない言葉に公家は思わず尋ねた。

「古くにあった役職だ。国の大事はその40人の評定衆の多数決をもって決める。」

「なるほど、では信長殿はその40人に従うのですな。」

「そうじゃ。」

「色んな者が意見を出し合って政をする。それは良い世の中になりそうですな。」

「では、織田家の立場はどうなるのですかな。」

「織田家の役目は国の軍勢を統率して日本を守る。それと諸外国との交わりを取り仕切ることじゃ。」

公家衆は驚きを隠せなかった。まだ天下統一を成し遂げていないにもかかわらず、先のことまで見ている信長に…。

「しかし、異国との約束が国の政に関わることもありましょう。」

「無論じゃ。その時は評定衆の承認の上で決断を出す。」

公家衆は信長の話に興味が深まってさらに尋ねた。

「それでは異国とはどの様に繋がるのですか?」

信長はその質問を待っていたかの様に微笑んだ。

「銭じゃ。」

「銭ですか。」

「そうじゃ。わしは日の本を、世界中から人と銭が集まる国にしたいのじゃ。」

また、予想外の答えに公家衆はさらに驚いた。

「日の本は商いの要所になるということですな。」

「左様。異国と商いを重ねれば、日の本は豊かになる。互いに利益があれば、無闇に争う必要が無くなる国になると考えておる。」

公家衆も自然と笑顔になった。ただ公家である以上、尋ねなければならないことがあった。お酒を一口飲み信長に尋ねた。

「では帝はどうなるのでありますか。」

信長は少し間をおいて答えた。

「帝には評定衆の頂点に立ち、日の本を一つに結ぶ象徴となっていただきたい。」

「評定衆の頂点という事は、政は帝がお決めになるのですか。」

「いや、そうではない。政を決めるのは40人の評定衆じゃ。あくまでも帝は象徴である。」

「なるほど、しかしなぜ帝なのですかな。」

「考えてみよ。島津や毛利、他の諸大名が、わしに頭を下げたとて、本当に従うのか。」

公家衆は少し考えたのち、納得した顔を見せた。

「そういう事じゃ。大名たちに織田家へ従えと言うのではない。帝のもと、一つの日の本を築こうと言うのじゃ。」

(そう誰しも野望があり心の内はわからぬ…誰しもな…)と信長は心の中でつぶやいた。

「つまり、帝は国を一つに結び、評定衆が政を行い、織田家が国を守ると。」

「そういうことじゃ。」

公家衆が答えた。

「実に面白い!」

そう信長が語り終わると、宴会はますます盛り上がった。この宴会で信長は心の内を明かした事で公家から信用を得た。

実際のところ、信長が天下統一後、どのような日の本を築こうと思っていたのかは、今となってはわからない。

ただ一つ言えることは、信長は天下統一後、すでに先を見据えていたのだろう。

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