第2話・冗談ですよね?
「あの、えっと……魔王、様? ここはどこですか?」
部屋でゴロゴロしていて、目を覚ましたら得体の知れない場所にいるなんて。全くもって呆れるばかりだ。しかもこんな女の子が魔王だなんて……?変な夢でも見ているのかもしれない。
そんな俺の反応に、セフィアナは一瞬気の抜けたような表情を浮かべた。それからみるみるうちに不安げな目つきになり、揺れていた尻尾がピタッと止まった。
「ふ、ふん!白々しいぞ、人間よ! 何も知らないふりをして、この我を油断させようという魂胆であろう!」
「はあ?」
「ここは我の居城、魔王城である。貴様は我が召喚術により魔界へ召喚されたのだ! もう逃げられんぞ。」
少し震えているような高笑いが周囲に響き渡る。そして、コンコン、という音と共に、重厚で華やかな扉がゆっくりと開いた。
「失礼いたします、魔王様。そろそろおやつの時間でございますが……、人間さんの召喚術はうまくいきましたか?もしかして、今回もまた失敗されたのでは……」
「ベ、ベルナ!」
落ち着いた、どこか間延びしたような声と共に、クラシカルなメイド服に身を包んだ藍色の髪の少女が入ってきた。ベルナと呼ばれた彼女は俺たち二人を交互に見比べると、まるで面白いものを見つけたかのように、その金色の瞳を一瞬輝かせた。
「あらあら、これはこれは……、成功されたのですね。随分と可愛らしい人間さんを呼び出したものですねぇ。」
「ベ、ベルナ!な、何を言っておる!こやつはこの我の支配下に置かれる奴隷なのだぞ!」
「はいはい。存じております。それで、その『奴隷』さんにはどのようなご命令を下されるのですか?」
穏やかな川面のような静かな顔つきに、どこか意地の悪い光が宿っていた。その視線に見透かされたように、セフィアナは顔を真っ赤にして声を張り上げた。
「め、命令……?そ、そう、命令だ!人間よ、よく聞け!え、えっと……、貴様は今からこの我の奴隷として、その……」
セフィアナはどこか必死な様子で、俺の鼻先に指を突きつけてしどろもどろになり始めた。しかし、一向に言葉が続く気配はない。いや、これが魔王?本気で?こんなのが……?
「あ、あう……、その、まずは……、そ、そうだ。我の靴を舐めてみるがよい!」
「……靴…ですか? ……冗談ですよね?」
俺の呆れたような問いかけに、セフィアナは待ってましたとばかりに胸を張り、急に堂々と語り始めた。人間は最初こそ抵抗するが、結局は支配者の絶対的な命令に屈服し、奴隷へと転落する運命にあるとかなんとか。
「冗談なものか!これは魔王である我が直々に下す絶対的な命令である!さあ、早くするがよい!ぐずぐずするなら、無理やりにでもさせてやろう……!」
そう言ったセフィアナの体の周りには、どこか不穏な影が集まってきた。なぜだか、あれが『魔力』であるということを本能的に悟った。そしてその魔力たちが瞬間的に俺に襲いかかり、俺は……ん?
「何ともないけど?」
「はあ!?」
なんともなかった。




