奴隷
◇
「それでは、順番に見せて頂けますか?」
「承知致しました。それでは少々お待ちください。」
カタリナの話しかけた奴隷商の男は、脂ぎったような厭らしい笑顔を貼り付けたまま、後ろに控える大男へと合図を送る。
暫くすると、先程の大男に先導されて五名の男女が連れて来られた。
「それでは……左側から順に説明させて頂きます。この者は……。」
「いえ、説明は不要です。五名とも下げてください。」
「え……?」
「聞こえませんでしたか?五名とも不要だと申し上げました。」
「し、しかし、この者達は当店にて扱っている者の中で特にお薦めの出来る者達で御座いまして……。」
「これらの者以外が居ないようでしたら、もはや用はありません。では……。」
席を立とうとするカタリナを、奴隷商の男が慌てて引き留める。
「お、お待ちください。直ちに他の者を連れて参ります。おい!急げ!」
後半は大男に向けての言葉だ。
五名が居なくなってから、改めて席に座り直したカタリナに向けて奴隷商が尋ねる。
「今後の為にお聞きしても宜しいでしょうか?」
「何でしょう?」
「今の者達に何か不備が御座いましたでしょうか?」
「単純な話です。紐付きは要りません。」
それまで慌ててはいた物の、常に笑みを浮かべていた奴隷商の男は、いよいよ血の気を失い貼り付けていた笑顔と言う仮面も剥がれ落ちた。
双方ともに無言の重苦しい空気の中で、カタリナは平然としている。
対して男の方は、内心頭を抱えて転げ回りたかっただろう。
大男が新たな奴隷を連れて来て、ようやく話を聞いてもらえるようになった。
口では目の前の奴隷たちの特徴を説明しながらも、この様な話を受けるのではなかったと後悔していた。やはりただの冒険者などでは無かったのだ。
先程の五名は、自分の店の商品ではない。
いや、むしろ奴隷ですらない。
彼等は、とある高貴なお方からの依頼で潜り込ませた者達だ。依頼者は分からない。
いや、知りたいとも思わない。
そこらの馬鹿貴族であれば、このような迂遠な方法は取らない。
もっと直接的に彼等の弱みを掴もうとするだろうし、時には罪をでっちあげたりする事だってやってのける。
それに、奴隷契約自体は普通に結んで良いと言う話だった。
つまりは、その契約自体を無効化・解除できるか、手に入れた情報だけ抜き取る事が可能だと言う事だ。
後者については聞いた事も無いが、前者であれば誰でも知っている。
国の司法機関だ。
犯罪者が奴隷を所持していた場合には、強制的に解除しなければならない場合があるからだ。
その為の魔道具は厳重に国によって管理され、一般の者は知識として知ってはいる物の、具体的にどのような形の物なのか、など知る事は無い。
それらを鑑み、導かれる答えは王女しか居なかったのだ。
恩を売る良い機会だと飛びついたが後悔していた。
どこからか情報が流れたのか、送り込まれた者達は全て見抜かれていた。
このまま帰したのでは、奴隷商としての信用など吹き飛んでしまう。
どこの誰が、密偵を扱う奴隷商から奴隷を購入したいと思うだろうか……。
ようやく、王都での知名度も上がり同業者の中では、ようやく頭一つ抜きん出て来たところだと言うのに……。
「……それでは、今言った六名をお願いします。」
「承知致しました。それでは、奴隷契約の内容を詰めて参りましょう。今は管理する立場上私が主として登録して御座いますので、カタリナ様を主として登録し直さなければなりません。」
「いえ、それはこちらでやりますので結構です。」
「し、しかし……。」
「こちらの方で信頼できる者に任せます。理由は言わずともお判りですね?」
「は、はい……、しょ、承知致しました……。」
「余りにみすぼらしい者を連れ歩くのは少々困りますので、見た目を整えて頂けますか?もちろんその分の費用は追加でお支払いいたします。」
「承知致しました……。」
「この者達か?」
「はい。本日購入してきました。後ほど契約で縛って頂けますか?」
「ん?そう言うのは奴隷商でやるもんじゃないのか?そう聞いていたが?」
「まぁ、色々とありましてそれは断ってきました。その分かなりお安くして頂けましたよ。それに、これから情報も入ってくると思います。色々と楽しくなればいいですね。」
「ほぅ……。まぁ詳しい話は後で聞こうか。先に奴隷契約を済ませてしまおう。」
褒美として下賜された屋敷には、同じく褒美として渡された奴隷達六名と冒険者として登録しているデーモンロード五名が暮らしている。
「お帰りなさいませ。カタリナ様。」
「ええ。ただいま戻りました。後ほど紹介しますが、新たに奴隷を六名購入して来ました。彼等の面倒を見てあげて下さい。まずはお腹一杯食べさせてあげて下さいね。」」
「承知致しました。」
「はい。よろしくお願いしますね。」
レオノーラ王女は今回の報告を受けた後、自室に引き籠っていた。
「くっ……。どいつもこいつも役立たずばかり……。何とかしなければいけませんわね……。」
彼女は優秀であるが故に、失敗と言う物を経験してこなかった。
それが原因であろうか?
自分でも気付かぬうちに意地になってしまっていたのだろう。
それがまた新たな火種を生み出す事を、彼女はまだ知らない。
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