謁見
すこし長くなってしまいました。
◇
テミス王女との約束の刻限まで、あと半日。
アヴァロン商会へ王宮からの使いが訪れていた。
使者は詳しい内容まで知らされておらず、とにかく急いで来てくれとの事だった。
ブレオベリスことランスロットは使者に了承を伝え、登城の準備を整える。
わざわざ衣服まで着替え、派手になり過ぎない程度の装飾品を身に着けると言う、面倒な事この上ない慣習があるのだ。
本来の姿であれば、様々な装飾品を身に着け最上級とも言えるローブを纏っているのだが、その全てが魔法の品だ。
いくら王家御用達の商会、その代表者と言えどさすがにそれは目立ちすぎる。
それに、今のブレオベリスは不意に触れられたり、城に設置された感知の魔道具に対する用心の為、幻術で体を覆っているのではなく、魔法により実体を持っている。
そう簡単に見破られるような魔法を使うつもりは無いが、どんな世界にも勘の鋭い者は存在する。
微かな違和感に気付く者、そしてその直感を何の根拠も無く信じる者。
そう言った輩は、一定数存在する。その為の用心だった。
いつもの様に華美になり過ぎず、だが決して侮られる事の無いように、ノーム達の作った装飾品を身に着けている。
彼等からしてみれば、酒造りの片手間に制作した物だが、裕福な人族の者達からすれば喉から手が出る程欲しい物だ。
これが、貴族同士になると装飾品の価値としてだけではなく、それらを集めるだけの財力や情報収集力を誇示する為のアイテムとなる。
そしてブレオベリス自身も、それを十分に理解しており、こう言った装飾品なども武器に使い今の立場を手に入れた。
だが、馬鹿な貴族はそれらを理解もできず、王家側の鶴の一声によってアヴァロン商会に決まったと勘違いしている者が多い。
そして、それは貴族同士での情報戦に敗れた者や以前の反乱の影響で閑職に追いやられた者が多い。いや、むしろそう仕向けていると言っても良い。
それが原因で今回の様な事態を引き起こしたとも言えるのだが……。
登城すると、待たされる事も無く謁見の間へと通される。
広間にはギース将軍を含め、数名の貴族と文官たちが居た。ギースが意味ありげな目で見ていたが、敢えて無視していると広間に入ってすぐに、兵からテミス王女の入室を告げられる。
兵は全員が膝を突き、頭を下げた状態になった事を確認すると、玉座傍にある扉を開いた。
現れたのは齢十六にして、このリヴィアス王国の実質トップとなったテミスだ。
その細い肩に、このリヴィアスと言う国の全てが乗っていると言っても過言ではない。
その重責に容易く押し潰されるかに見える。
だが、ブレオベリスは知っている。
この少女は、力を隠す事をしていない自分の前で意識を失わないどころか、震えながらも意見すら口にしたのだ。この世界に同じ事を出来る者がどれだけ居るか。
「皆様、頭をお上げ下さい。本日は御報告と御相談があって、この場を設けさせて頂きました。」
ブレオベリスは顔を上げると、さりげなく周囲を観察する。
表情から察するに、相談を受けていたのはギースだけなのだろう。他の者は何を言われるのか分かっていないようだ。
「人払いをお願い致します。」
テミスがそう言うと、ギースが守備兵に向かって指示を出す。
「ですが……。」
「良い。私が居る。」
「しょ、承知致しました……。」
ギースが何かの魔道具を発動させてから、元の立ち位置へ戻ってくる。
恐らくは、盗聴防止のフィールドを展開した様だ。
全員の視線が自分に集まったことを確認してテミスは口を開く。
「先日、とある問題が発生致しました。細かい部分は伏せさせて頂きますが、この国の恩人とも言える方を襲撃すると言う暴挙に出ました。幸いな事に大事には至りませんでしたが、それを聞かされた私は生きた心地が致しませんでした……。その方が居なければ、我々はおろか、この国その物が無くなっていたのですから……。」
一旦言葉を切ると改めて周囲を見回し、言を続ける。
「察しの良い者はもうお判りでしょう。そう、クシミアン家の者です。よりによって当主自らが卑劣な手段を用い、その方を害しようとしました。それも、怨恨や仇討ちなどと言う理由ではありません。ただ単に金銭を奪おうと言う、恥ずべき理由です。私は情けない……!」
誰も何も言わない。それどころか身動き一つすらしない。
「私は、この責任を取らねばなりません。それがこの国を救って頂いたリヴィアス王家の者としての役目です。私の命を差し出して許されるものであれば喜んで差し出しましょう。ですが、それではリヴィアス王家の血が絶えてしまいます……。それだけはどうにか回避せねばなりません……。」
「テミス様……。謝罪は……、受け入れてもらえなかったのですか?」
「謝罪は受け入れてくれるでしょう。ですが、それとは別の問題なのです。」
文官の一人とそういったやり取りを終えた所で、ブレオベリスが口を開く。
「よろしいでしょうか?」
「どうぞ。」
「テミス王女は既に御存じの事なのですが、先程のお話に捕捉させて頂きます。先程、テミス王女が仰った恩人と言う方は、私をこの国へ派遣した方でもあります。表向きの理由は当たり障りのない事にしておりますが、実際はその方に命じられて、リヴィアス王国へ参りました。」
「…………。」
「つまり、分かり易く申し上げますと、テミス王女とその方との誓約により私はこの国・この場に居るのです。つまり、その理由が無くなるのであれば私はこの国に居る理由を失います。そうなった場合、私は全てを引き揚げ以前の場所へ戻る事になるでしょう。脅すつもりなどは御座いませんが、その際には貸付金の全額一括返済やドワーフ達の退去など様々な事態が起こるとお考え下さい。」
言葉を聞いた文官たちの変化が目まぐるしい。
最初は、商人風情がなぜこの場に居るのか、などの怒りの感情を表に出していたが、貸付金の話の辺りになると顔色を真っ青にし、狼狽え始めた。
「お話し中、失礼致しました。」
「いえ、ありがとうございます。ようやく彼等にも、このお話が一体どう言う意味合いの話なのか理解出来た事でしょう。皆、ランスロット様の話が理解できましたね?…………、それでは、如何にして責任を取る事になるのか、考えて参りましょう。」
その日の深夜、リヴィアス王国内のごく一部の者の前だけではあるが、テミスが女王即位に向けて行動をする事、そしてこの場にいた者は女王即位へ向けて協力するといった事が決定した。
十六歳の少女の肩に更に重い物が圧し掛かった瞬間でもあった。
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