引換
ゆっくりと時間をかけてお茶を楽しんでから、もう一度先程の場所へと戻る。
まだ獣人の男達は、その場に居る事は分かっていたからだ。
ゆっくりと影から現れる俺とガウェインに対して、反応を返す者は誰も居なかった。
「ゆっくりと休憩は出来たかい?いや、さすがにこんなに血生臭い場所じゃ、そんなにゆっくりとは出来る訳ないか。」
放心したようにボーっとしている男たちに対し、声を掛けていく。
「ところで、この死体は必要かな?必要ないのであれば、有償で引き取っても構わないよ?」
「俺達は金なんて持ってねぇ。それにあんたらは金なんて必要ないんだろう?」
ようやく絞り出すように声をだした男は、やはり先程の狼だか犬の獣人だ。
「まぁそうだな。人類の社会で使用する貨幣なんかは興味ないかな?だが君達には差し出せるものがあるだろう?もちろん、それだけでは俺の方が貰い過ぎだからな。他にも色々と付けよう。」
何を迷う事があるんだろうか?さすがに武器一本だけで、ここまでの道程を戻れるとは考えていないだろう。
返事をしない彼らをよくよく見ていると、俺ではなくガウェインをチラチラと窺っているのが分かった。
………?なんだ?
確かに、目に見えるほどに濃厚な魔力を放出し、彼らの鎖を断ち切ったのは彼だが、それだけではない気がする。
考えても分からない事は聞いてしまうべきだな。
「ガウェインがどうかしたか?」
「あ、いえ、その……。」
「別に何を言われても危害を加えないと約束するよ。今後の為にも教えてくれ。」
「……はい。さ、先程の……人……?でしょ……うか?」
「??????」
意味が分からなかったので、ガウェインを振り返った俺は、彼らが何に戸惑い・困惑していたのかが理解できた。
「ガウェイン…………。」
「はっ!」
恭しく片膝を突き、王へ対するように臣下の礼を取る美貌の男。
七分丈程の、麻の上下に身を包み、疑似直射日光を避ける為か麦藁で編んだ帽子を頭に載せている。足元は草履の様な物だ。
「はぁ………。人前に出る時は服装を整えろ……。」
ため息を吐きつつそう告げると、驚いたように顔を上げる。
おもむろに立ち上がり、自分の姿を確認するように両手を広げキョロキョロとしている。
うっかり……、なのか?
その答えには次の言葉が答えとなった。
「似合いませんか?」
……。変な声が出そうになった。
確信犯か……。
似合ってるか、似合ってないかで言えば異常に似合っている。
だが、それだと威厳とか威圧感なんて物が恐ろしく欠如しているんだよ。
俺を間に挟んで、獣人側は血に塗れた殺伐とした空気。
一方のガウェイン側と言えば、空中に花が見える様な牧歌的な空気が漂っている。
「時と場合を考えてくれ……。」
「??」
理解できない、と言った顔だがここは譲る訳にはいかん。
「いつもの服装に変えておけ。」
「いつもの服装……ですか?これd」
「黒の!ほら!いつも着てるだろ!」
こいつとは一度ゆっくりと話をしなければいけないかもしれないな。
ようやく闇色と深紅のマントなんかのセットに、早着替えしたガウェインに背中を向け、獣人達に改めて声を掛ける。
「少し服装と人の反応についての考察をしていてね。そのままの流れでここへ来てしまっていたようだ。気にしないで居てくれるとありがたい。」
「は?いえ、はぁ。」
「さて、気を取り直して交渉を続けようか。」
「は、はい。」
「君の持ち物として価値のある物はそのブロードソードくらいだね。」
「だが、これは貴方達に……。」
「進呈した物は、既に君の物と言っても良い。そして、そこのゴミの持っている短杖も所有権は君にある。戦利品と言い換えても構わないかな?」
「……はい。」
「で、だ。我々がそれらを対価に、全員分のソコソコの装備に二週間分ほどの食糧と飲料水。それにそれを収納するマジックバッグも付けよう。まぁマジックバッグの方は、正直そこまで内容量が多い物ではないけどね。もちろんこのゴミの処理も任せてくれて構わない。」
「…………。」
「俺の方は、ゆっくりと考えてもらっても構わないんだが、この状況を他の者に見られた場合、君達はかなり困った状況になるのではないかな?」
「いえ、その条件を呑みます。是非、交換させてください。」
「良かった。これで交渉成立だな。少し待っていてくれ。すぐに配下の者に運ばせる様に手配する。君達が何処へ帰るのかは分からんが、旅の成功を祈っている。では、元気で。」
現れた時の様に、影に沈み移動する。
ガウェインに命じて、ダンジョン内で死んだ冒険者達が付けていた装備や携帯食料など、日持ちのする物などの他にも、ダンジョン内で獲れた食用になる魔物の肉などを適当に詰めさせたものを持って行かせる。
引き換えに、短杖とブロードソードの回収を任せた。
ガウェインが再度影の中へ沈んで行き、この場から消える。
影のある場所ならどこにでも移動できる、ガウェインの特殊能力だ。
影の多いダンジョンの内部だと、ほぼ全ての場所へ瞬時に移動する事が可能だ。
戦闘能力・機動力、共にトップクラスの性能を持った配下『ガウェイン』。
まさかあそこまで天然だとは思わなかった……。
超絶美形の天然さんとか……誰得だよ……。
読んで頂いてありがとうございます。
評価・感想など頂けると、とても励みになります。
誤字や脱字などありましたら教えて頂けるとありがたいです。




