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名作をパク――参考にすれば、名作になるに決まってるじゃない!  作者: 二歩田 回収


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第74話 魔法使いに護身術を勧めましたが、本人以外が乗り気です

名作をパク――参考にすれば、名作になるに決まってるじゃない!


第74話 魔法使いに護身術を勧めましたが、本人以外が乗り気です


朝になった。


焚き火は消えていた。


鍋も片づけた。


寝具も畳んだ。


混入原稿保管票も、記録帳に挟んだ。


怖い話回は終わった。


終わったはずだった。


俺は野営地の片づけをしながら、昨日の戦闘記録を見直していた。


ダンジョンスタンピード。


共同戦線。


後方防衛。


アン前線不参加。


聖剣未使用。


キュルル緊急退避実施。


そして、魔法支援。


ミリアはよく働いた。


風の制御。


範囲火力。


煙の誘導。


後衛としてはかなり優秀だった。


問題は、後衛である。


後衛は狙われる。


狙われた時、前衛が必ず間に合うとは限らない。


昨日も、飛行型の魔獣が後方へ抜けた。


アンが止めたからよかった。


だが、毎回アンがいる前提にはできない。


古竜前提の運用は、世界が壊れる。


俺は記録帳を閉じた。


「ミリア」


「何?」


「詠唱中に接近された時の対処を増やそう」


「杖で殴る?」


「それもあります」


「あるんだ」


「ただ、もう少し確実な逃げ方が必要です」


「逃げ方?」


「はい」


俺は真面目に言った。


「関節を極める方向で」


ミリアが止まった。


リナも止まった。


アレンが少し顔を上げた。


キュルルは俺の背中から顔を出した。


アンは首をかしげた。


聖剣が、背中でかすかに震えた。


ミリアが言った。


「魔法使いに何を勧めてるの?」


「護身術です」


「今、関節って言ったわよね」


「言いました」


「魔法使いに?」


「はい」


ミリアは杖を抱えた。


「嫌よ」


即答だった。


「私は魔法使いよ。遠くから魔法を撃つ役なの」


「だから、近づかれた時の話です」


「近づかれないようにするのが仕事でしょ」


「近づかれたら?」


「逃げる」


「掴まれたら?」


「叫ぶ」


「口を塞がれたら?」


ミリアが止まった。


アレンが真面目に頷いた。


「そこだな」


「アレン?」


ミリアが振り向いた。


アレンはかなり真剣だった。


「悪くない。魔法使いは狙われやすい」


「勇者が真面目に賛成しないで」


「前衛としては、後衛が捕まると動きにくい」


「正論で殴らないで」


「殴ってはいない」


「今のは精神的に殴られたの」


リナが小さく手を上げた。


「見たことあります」


「言うな」


俺は言った。


「魔法少女が関節技で解決するやつです」


「言うな」


「有名です」


「余計に言うな」


ミリアがリナを見た。


「何それ」


「言いません」


「気になる言い方しないで」


「言うと、たぶん今回の方向性が固定されます」


「もうされかけてるわよ」


ガルドが短く言った。


「倒す必要はない」


ミリアが少し安心した顔をした。


「そうよね?」


ガルドは続けた。


「外せればいい」


「何を?」


「手首、肘、肩」


ミリアは一歩下がった。


「関節の話よね? 部品の話じゃないわよね?」


「同じだ」


「同じじゃない!」


セイルが静かに言った。


「折らない訓練なら、よいと思います」


「セイルまで?」


「怪我をしないための技術ですから」


「怪我をさせる技術に聞こえるんだけど」


「そこを管理します」


「管理すればいい問題なの?」


「管理しないと、もっと危ないです」


「管理前提で話が進んでる!」


キュルルが口を開けた。


一枚。


紙が出た。


「魔法使い近接護身訓練同意書」


「出さなくていい!」


ミリアが叫んだ。


キュルルは真面目だった。


「関節技は危ないから、同意書いるよ」


「急に現実的!」


「あと、訓練中に叫ぶ場合があります、という確認欄」


「叫ぶ前提なの!?」


「叫ばない方が危ない時もあるよ」


「正しそうなことを言わないで!」


さらにキュルルは二枚目を出した。


「訓練中止合図確認票」


「増えた!」


「痛い時にちゃんと言えるように」


セイルが頷いた。


「それは必要です」


「セイルまで同意しないで!」


アンが自分の指を曲げていた。


「関節とは、外すものか」


「違います」


俺は言った。


「折るものか」


「違います」


「極めるものか」


「言い方が怖いです」


「逃がさぬための拘束か」


「合ってますが、古竜が言うと怖いです」


アンは少し考えた。


「小さき者は、構造が多いのだな」


「古竜に比べれば、かなり」


「壊れやすい」


「そういう方向で理解しないでください」


背中の聖剣が震えた。


『抜かずに勝つ道か』


「急に高尚にしないでください」


『勇者道は奥深いな』


「今のは勇者道ではありません」


アレンは真面目に考えていた。


「だが、抜かずに止める技術は重要だ」


「アレンまで乗らないで!」


ミリアは全員を見た。


「待って」


誰も待たなかった。


アレンは真剣な顔で頷いている。


ガルドは訓練場所に使えそうな地面を見ている。


セイルは包帯を準備している。


キュルルは同意書を三枚に増やしている。


アンは関節の構造を学ぼうとしている。


聖剣はなぜか光っている。


リナは少し離れて見ている。


「何で私以外、全員乗り気なのよ!」


「生存率の話だからです」


俺は答えた。


「そういう言い方、ずるい!」


「ずるくはありません」


「ずるいわよ。嫌って言いにくいじゃない」


「嫌なら中止します」


「え」


俺がそう言うと、ミリアは少し止まった。


「中止するの?」


「本人が嫌なら、やりません」


キュルルが頷いた。


「同意書だからね」


「そこでまともになるの?」


「同意のない関節技はだめだよ」


「当たり前だけど、話の流れが変」


アレンも頷いた。


「無理にやらせるものではない」


「だったら最初からそう言ってよ!」


「だが、覚えた方がいいとは思う」


「戻った!」


ミリアは頭を抱えた。


「もう何なのよ」


俺は言った。


「一回だけ、掴まれた腕を抜く練習をしませんか」


「関節を極めない?」


「極めません」


「折らない?」


「折りません」


「外さない?」


「外しません」


アンが少し残念そうにした。


「む」


「アンさんは残念そうにしないでください」


ミリアは俺をじっと見た。


「一回だけよ」


「はい」


「本当に逃げる練習だけね」


「はい」


「関節技使いにしようとしないでね」


「はい」


リナが小声で言った。


「見たことあります」


「言うな」


「一回だけと言って始まる修行回です」


「言うな」


「だいたい才能があります」


「言うな」


ミリアが振り向いた。


「やめて」


「はい」


俺は地面に立った。


「では、掴まれた手首を抜く練習だけです」


「本当にそれだけね」


「本当にそれだけです」


「よし」


ミリアは少し構えた。


杖を置いている。


かなり不安そうだった。


俺は手を出した。


「俺が軽く掴みます」


「痛くしないでよ」


「しません」


俺はミリアの手首を軽く掴んだ。


「ここから、親指の隙間の方向へ手を抜きます」


「親指の隙間?」


「握りの一番弱いところです」


「へえ」


ミリアは少し手を動かした。


「こう?」


「はい。ただ、力で引くより――」


ミリアが手首を返した。


するりと抜けた。


「抜けた」


「はい。今のです」


ミリアは目を丸くした。


「え、簡単」


「相手の握り方にもよりますが、基本です」


「もう一回」


「はい」


俺はもう一度掴んだ。


ミリアが手首を返す。


抜ける。


「こう?」


「そうです」


「こうね」


ミリアが少し動きを変えた。


俺の手首が軽く引っかかった。


「あ、そこは――」


ミリアが反射的に俺の腕を押さえた。


俺の肘が変な方向に向いた。


「痛い痛い痛い痛い」


ミリアが慌てて手を離した。


「え!? ごめん!」


「合ってます合ってます合ってるから止めてください」


「合ってるの!?」


「逃げる方向としては合っています」


「今、関節いかなかった?」


「少しいきました」


「少しであの声出るの?」


「関節は少しで十分です」


キュルルが紙を見た。


「訓練中止合図、確認済み」


「書くな」


俺は腕をさすった。


セイルが近づいてくる。


「見せてください」


「大丈夫です」


「念のため」


「はい」


セイルが俺の肘を確認した。


「軽いです」


「よかった」


ミリアは自分の手を見ていた。


「……これ、魔法より早くない?」


俺は即答した。


「覚醒しないでください」


リナが小声で言った。


「本人が嫌がっていたのに、才能があるやつです」


「言うな」


「しかも魔法より早いと言い出すやつです」


「言うな」


ミリアは慌てて杖を拾った。


「違うからね」


「何がですか」


「私は魔法使いだからね」


「はい」


「関節技使いじゃないからね」


「はい」


「本当に非常時だけだからね」


「はい」


アレンが真面目に頷いた。


「非常時に使えるなら十分だ」


「勇者が締めないで」


ガルドが言った。


「次は掴まれた襟だな」


「次はない!」


「後ろから抱えられた場合も必要だ」


「必要性を積むな!」


セイルが言った。


「安全に段階を分けましょう」


「やる前提で段階を作らないで!」


キュルルが四枚目を出した。


「魔法使い近接護身訓練計画表」


「出さない!」


アンが言った。


「我が掴む役をしようか」


「絶対だめです」


俺とミリアの声が揃った。


アンは少し不満そうにした。


「軽く掴む」


「古竜の軽くは信用できません」


「我は加減できる」


「街道を塞いだ方の発言としては弱いです」


「む」


聖剣が震えた。


『我は見届けよう』


「見届けなくていいです」


『抜かれぬ剣として、抜かずに生きる技には興味がある』


「それっぽく言わないでください」


ミリアは杖を抱きしめた。


「絶対に変な二つ名つけないでよ」


「二つ名?」


リナが反応した。


「見たことあります」


「言うな」


「関節の魔女」


「言うな!」


「寝技の魔法使い」


「もっと言うな!」


「極める者ミリア」


「本当に言うな!」


キュルルが小さく言った。


「関節魔法」


「新ジャンルを作らないで!」


ミリアが赤くなって叫んだ。


「私は普通の魔法使いなの!」


俺は頷いた。


「はい。普通の魔法使いが、非常時に手首を抜けるようになっただけです」


「それならいい」


「ただし、反射で肘を極めました」


「言わないで!」


アレンが言った。


「才能はある」


「黙って!」


「悪い意味ではない」


「余計悪い!」


ガルドが短く言った。


「実戦向きだ」


「やめて!」


セイルが微笑んだ。


「怪我をさせずに止める方向なら、よいと思います」


「セイルまで!」


アンが言った。


「小さき魔法使いは、関節を支配するのか」


「支配しない!」


聖剣が震えた。


『関節の道か』


「道にするな!」


ミリアは杖を掲げた。


「もうこの話終わり!」


炎がぽっと出た。


小さな火球だった。


だが、全員が黙った。


ミリアは息を吐いた。


「私は魔法使い。魔法で戦う。以上」


「はい」


俺は頷いた。


「ただ、掴まれた時の最低限だけは、今後も少し練習しましょう」


「今、終わりって言ったのに」


「安全のためです」


「その言い方、ずるい」


「はい」


「認めた」


ミリアはため息をついた。


「月一回だけ」


「十分です」


「関節技って呼ばない」


「護身術と呼びます」


「変な二つ名禁止」


「禁止します」


リナが手を上げた。


「見たことあります」


「言うな」


「禁止された二つ名ほど広まるやつです」


「言うな!」


キュルルが紙を出した。


「二つ名禁止確認書」


「それは少し欲しい!」


ミリアが思わず言った。


全員がミリアを見た。


ミリアは咳払いした。


「……欲しくないわけじゃない」


俺は紙を受け取った。


二つ名禁止確認書。


対象者、ミリア。


禁止二つ名。


関節の魔女。


寝技の魔法使い。


極める者ミリア。


関節魔法使い。


その他、本人が不快と感じる二つ名。


「これ、かなり有効ですね」


「でしょ」


キュルルが胸を張った。


ミリアは内容を確認し、真剣に署名した。


「これで安心ね」


リナが小声で言った。


「見たことあります」


「言うな」


「禁止リストがそのまま紹介になるやつです」


ミリアが固まった。


俺も固まった。


キュルルも固まった。


アレンが言った。


「つまり、この紙を見た者は、その二つ名を知るのか」


「そうなります」


俺は答えた。


ミリアが震えた。


「燃やして」


「保管書類です」


「燃やして!」


キュルルが慌てた。


「でも、確認書だから」


「燃やして!」


「じゃあ封印扱いで」


「封印!」


アンが興味を示した。


「封印するのか」


「アンさんは乗らないでください」


聖剣が震えた。


『名を封じるか』


「聖剣も乗らないでください」


俺は紙を畳んだ。


「では、これは非公開保管にします」


ミリアが俺を見た。


「本当に?」


「本当に」


「誰にも見せない?」


「見せません」


「リナにも?」


「見せません」


リナが少し残念そうにした。


「見たかったです」


「見るな」


俺は言った。


ミリアはほっと息を吐いた。


「もう、本当に疲れた」


「訓練は一回だけでしたが」


「精神的に一日分よ」


「お疲れさまです」


「他人事みたいに言わないで」


俺は記録帳を開いた。


今日の記録。


魔法使い近接護身訓練。


本人同意あり。


実施内容、手首抜き。


副作用、肘極め未遂。


二つ名禁止確認書、非公開保管。


ミリアが覗き込んだ。


「最後の項目いらないでしょ」


「後で揉めないために必要です」


「揉める原因が書類になってない?」


「可能性はあります」


「怖い」


「実務は怖いです」


キュルルが頷いた。


「実務事故は怖いよ」


「お前の怖い話に戻すな」


俺は記録帳を閉じた。


ミリアは杖を抱えたまま、少しだけ手首を回していた。


たぶん、感覚を覚えている。


本人は嫌がっている。


だが、覚えは早い。


これは危ない。


褒めると伸びる。


伸びると、本人の望まない方向に才能が伸びる。


だから、俺は言った。


「ミリアさん」


「何?」


「魔法の方も、ちゃんと練習しましょう」


ミリアは少し安心した顔をした。


「もちろんよ」


「護身術は、逃げるための最低限です」


「そう。最低限」


「非常時だけです」


「非常時だけ」


「関節技使いではありません」


「そう!」


ミリアは強く頷いた。


リナが小声で言った。


「非常時だけと言っていた人が、一番うまく使うやつです」


「言うな!」


ミリアの叫び声が、朝の野営地に響いた。


共同封鎖管理所の方から、見張りの兵士がこちらを見た。


俺は軽く手を振った。


問題ありません。


ただの護身術です。


たぶん。


俺は記録帳を荷袋にしまった。


魔法使いに必要なのは、火力だけではない。


詠唱。


距離。


仲間との連携。


逃げ道。


そして、掴まれた時に腕を抜く最低限の現実。


俺はそう整理した。


背中の聖剣が、ぼそりと震えた。


『関節の魔女か』


「言うな」


第二部・完

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