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名作をパク――参考にすれば、名作になるに決まってるじゃない!  作者: 二歩田 回収


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第68話 エンシェントドラゴンが同行しているので、魔王に説明を求めます

名作をパク――参考にすれば、名作になるに決まってるじゃない!


第68話 エンシェントドラゴンが同行しているので、魔王に説明を求めます



エンシェントドラゴンが同行することになった。


普通なら、とんでもない戦力増強である。


古竜。


伝説級。


山のような巨体。


人型になっても、勇者の剣を指二本で止める強度。


強い。


かなり強い。


強すぎる。


だから、戦闘参加は禁止にした。


今のアンの役割は、観光客、古代知識、キュルル係である。


「本当にそれでいいのか」


アレンが言った。


「いい」


俺は答えた。


「古竜だぞ」


「だから戦わせない」


「普通は逆では?」


「普通では扱えない」


アレンは少し考えた。


そして、アンを見た。


アンは街道脇の花を見ていた。


白髪。


金色の目。


小さな角。


古い時代の衣。


見た目だけなら、少し変わった旅人に見える。


せいぜい、角のある少女。


竜人族か、魔族か、そういうものに見えるかもしれない。


だが、中身はエンシェントドラゴンである。


見た目では分からない。


そこが一番困る。


リナが小声で言った。


「ぱっと見では、分かりませんね」


「分からないな」


「角があるくらいです」


「ああ」


「でも、強いんですよね」


「強い」


「すごく?」


「人型でアレンの剣を止めた」


アレンが少し黙った。


「それは、あまり何度も言わなくていい」


「大事な記録だ」


「記録に残すのか」


「もう残した」


アレンは額を押さえた。


アンがこちらを見た。


「勇者の剣を指で止めてはいけないのだったな」


「はい」


俺は言った。


「同行条件十二番です」


「なぜ十二番まである」


「ドラゴン様が大きいからです」


「今は小さい」


「性能が大きいんです」


アンは少し考えた。


「性能」


「はい」


「それも大きいのか」


「かなり」


アンは不満そうにした。


「人間は細かい」


「何度でも言いますが、ドラゴン様が大きいんです」


「今はアンだ」


「では、アンが大きいんです」


「今は小さい」


「性能が」


「むう」


キュルルは俺の背中の後ろを歩いていた。


アンとの距離を保っている。


かなり保っている。


「キュルル」


俺は呼んだ。


「何?」


「アンは人型だ。小型竜ではない」


「分かってる」


「鳴き声も出していない」


「分かってる」


「なら、もう少し前を歩いてもいいのでは」


キュルルはアンを見た。


アンもキュルルを見た。


キュルルは俺の背中に戻った。


「まだ距離を置く」


「そうか」


「ルル問題が解決していない」


「アンで統一しただろう」


「油断すると誰かがルルって言う」


「言わせない」


「本当に?」


「たぶん」


「たぶん?」


キュルルは警戒していた。


無理もない。


白い小動物として、説明マスコットの地位をようやく確保したところに、白い小型竜が現れ、鳴き声がキュルルで、略称候補がルルだったのだ。


事故物件である。


アン本人に悪意はない。


だから余計に面倒だった。


「まず魔王に戻る」


俺は言った。


「説明を求める」


ミリアが笑った。


「紹介責任?」


「少なくとも、発生原因の確認だ」


セイルが静かに頷いた。


「魔王様がアン様に私たちの話をされたのでしたね」


「そうだ」


「それで、アン様が会いに来られた」


「そして街道を塞いだ」


ガルドが短く言った。


「原因者に確認は必要だ」


「そういうことだ」


アンが首をかしげた。


「魔王は悪くないであろう」


「悪いとは言っていません」


「ならば、なぜ戻る」


「何を話したのか確認します」


「面白き一行がいる、と聞いた」


「それだけで来たんですか」


「来た」


「そこで止まらないのが古竜の怖いところですね」


「む」


アンは少し不満そうにした。


だが、否定はしなかった。


魔王城へ向かう道は、以前よりも少し静かだった。


停戦後、街道を通る人は増えている。


だが、魔王城へ向かう道は、まだ誰でも使う道ではない。


馬車は少ない。


旅人も少ない。


こちらとしては助かる。


アンの正体を毎回説明しなくて済む。


ただし、途中の関所で止められた。


当然である。


「勇者一行ですね」


関所の兵が言った。


「はい」


アレンが答える。


「同行者が増えていますが」


兵はアンを見た。


白髪。


金色の目。


小さな角。


アンは静かに立っている。


見た目だけなら、危険そうには見えない。


だが、危険ではある。


かなり。


「同行者です」


俺は言った。


「お名前は?」


アンが言った。


「アングラルル・ヴォル・エンシェント・レギア」


兵が止まった。


完全に止まった。


「……もう一度、お願いできますか」


「アングラルル・ヴォル・エンシェント・レギア」


兵は俺を見た。


「確認してまいります」


「お願いします」


兵は走った。


かなり速かった。


キュルルが小声で言った。


「名前で通るタイプなんだね」


「見た目では分からないからな」


「名前が重い」


「かなり重い」


「略称はアンだけどね」


「そうだ」


「ルルじゃない」


「そうだ」


キュルルは少し安心した。


少しだけ。


関所の奥から、別の兵が来た。


顔色が悪い。


「魔王城へ連絡を入れます。少々お待ちください」


「分かりました」


俺は答えた。


アンは道端の石を見ていた。


「人間は、名に驚くのだな」


「名前に情報が載りすぎています」


「古き名ゆえな」


「短くしましょう」


「アンか」


「はい」


キュルルがすぐに言った。


「アンで」


「む」


アンはやはり少し不満そうだった。


だが、受け入れている。


偉い。


かなり偉い。


魔王城へ着いたのは、夕方前だった。


黒い城壁。


高い尖塔。


古い石畳。


以前はもっと緊張した場所だった。


今も緊張はする。


ただ、少し違う。


討伐に来たわけではない。


停戦の続き。


補償協議の続き。


そして今回は、古竜同行の説明責任である。


魔王城の門番は、俺たちを見た。


「勇者一行ですね」


「はい」


アレンが答える。


「報告は受けています」


門番の視線がアンへ向いた。


「そちらの方が」


アンは静かに言った。


「アングラルル・ヴォル・エンシェント・レギア」


門番は背筋を伸ばした。


「確認済みです。ただちにお通しするようにと」


「名前で通ったな」


キュルルが言った。


「通ったな」


「ルルって言われなかった」


「まだな」


「まだ?」


「油断するな」


キュルルは俺の背中に隠れた。


魔王城の廊下を歩く。


魔族たちがこちらを見る。


アレンを見る者。


俺を見る者。


アンを見る者。


キュルルを見る者。


キュルルは俺の背中に隠れたり出たりしている。


アンは何も気にしていない。


むしろ壁や柱を見ている。


「この城は新しいな」


アンが言った。


「新しいんですか?」


リナが聞いた。


「我から見れば」


「基準が古竜ですね」


「そうだ」


「古代知識枠っぽい」


キュルルが言った。


「言い方」


「僕は説明マスコットだから、役割分担は大事」


「それはそうだ」


魔王の間へ通された。


広い部屋。


高い天井。


黒い玉座。


だが、以前よりも空気は硬くない。


魔王は玉座ではなく、机の前にいた。


書類が積まれている。


魔王城会計官もいた。


顔色は悪い。


いつも悪い。


「戻ったか」


魔王が言った。


「戻りました」


アレンが答えた。


魔王の視線が、俺へ向く。


それから、アンへ向いた。


「報告は受けた。アングラルル・ヴォル・エンシェント・レギア殿も一緒だそうだな」


「はい」


俺は答えた。


魔王は少し黙った。


「本当に行ったのか」


俺は魔王を見た。


「来られました」


「……そうだな」


「街道を塞がれました」


「……すまん」


魔王が謝った。


早かった。


かなり早かった。


「話はした」


魔王は言った。


「何をですか」


「荷物の神の信徒と、勇者と、魔王軍の補償協議を妙な角度から処理する一行がいる、と」


「その結果、来られました」


「本当に行くとは思わなかった」


「来られました」


「そうだったな」


「一歩右へ移動してもらいました」


魔王は黙った。


会計官も黙った。


アレンは少し目をそらした。


ミリアは笑いをこらえている。


キュルルは俺の背中から顔を出している。


魔王が言った。


「エンシェントドラゴンに、一歩右へと?」


「はい」


「動いたのか」


「動いてくれました」


アンが静かに頷いた。


「街道を塞いでおったのでな」


魔王は額を押さえた。


「なぜ、そこで普通に会話が成立している」


「街道が塞がっていましたから」


キュルルが言った。


「あと、ユートの心臓がおかしいから」


「おかしくない」


「おかしいよ」


魔王は少しだけ笑った。


だが、すぐに真面目な顔へ戻った。


「事情は分かった」


「本当に分かりましたか」


「分かった範囲で分かった」


「正直ですね」


魔王はアンを見た。


「それで、アングラルル・ヴォル・エンシェント・レギア殿」


「長い」


アンが言った。


「アンでよい」


キュルルがすばやく顔を出した。


「アンで!」


魔王がキュルルを見た。


「そうか。では、ルル殿――」


「だめ!」


キュルルが叫んだ。


魔王が止まった。


会計官も止まった。


部屋の空気も止まった。


「何がだ」


魔王が聞いた。


「ルルはだめ!」


「なぜだ」


「僕がキュルルだから!」


魔王はキュルルを見た。


アンを見た。


少し考えた。


「……近いな」


「近いんです!」


俺は頷いた。


「こちらでは、アン呼びで統一しています」


「混乱防止です」


キュルルが俺の背中から言った。


「僕の精神衛生です」


魔王は真面目に頷いた。


「分かった。アン殿」


キュルルは俺の背中の後ろで深く息を吐いた。


「助かった……」


アンは少し不満そうにした。


「む」


会計官が小さく咳払いした。


「陛下」


「何だ」


「古竜様が同行される場合、滞在費、警備費、対応費、城内設備への負荷確認が必要になります」


俺は会計官を見た。


「観光客です」


会計官は俺を見た。


「観光客」


「はい。戦力ではありません」


アンが言った。


「我は戦えぬのか」


「戦闘参加禁止です」


「まだか」


「まだではなく、原則禁止です」


会計官が紙を出した。


「観光客であっても、宿泊費は発生します」


「野で眠れる」


アンが言った。


俺はすぐに言った。


「野で巨大化しないでください」


アンは少し黙った。


「では、人型で眠る」


「お願いします」


会計官が顔色の悪いまま言った。


「人型であれば、通常宿泊費で処理できる可能性があります」


「可能性」


「ただし、正体が古竜である以上、保険上の扱いが」


「保険」


俺は額を押さえた。


やはり出た。


ドラゴンは倒しても面倒だが、同行しても面倒である。


会計官は続けた。


「城内で本来の姿に戻られた場合、建物が保ちません」


「戻りません」


俺は言った。


「同行条件に書いてあります」


キュルルが口を開いた。


一枚。


「古竜同行条件確認書」


会計官が受け取った。


読んだ。


顔色が少しだけ戻った。


「非常に助かります」


「でしょう」


キュルルが胸を張った。


俺の背中の後ろで。


会計官は読み上げた。


「人型を基本形態。本来の姿への巨大化は禁止。小型竜形態は原則禁止。戦闘参加禁止。自衛可。キュルル殿の緊急退避担当。古代知識の提供可。ただし情報が古すぎる場合は注記。ルル呼び禁止」


魔王が少し笑った。


キュルルが言った。


「そこ大事です」


「分かっている」


魔王は言った。


「アン殿」


アンは腕を組んだ。


「我はそこまで危ういか」


俺は答えた。


「街道を塞ぎました」


「む」


「馬が怯えました」


「むう」


「勇者の剣を指で止めました」


アレンが小さく言った。


「それも記録されているのか」


「されています」


「そうか」


アンは少し考えた。


「確かに、運用は必要か」


「必要です」


魔王が言った。


「アン殿。彼らの言う通りにしておいた方がいい」


「魔王もそう思うか」


「思う」


「なぜだ」


魔王は俺たちを見た。


それから、積まれた書類を見た。


「彼らは、面倒事を面倒事として扱う」


「褒めていますか」


俺は聞いた。


「褒めている」


「本当ですか」


「たぶん」


「たぶん」


魔王は少し笑った。


「少なくとも、我々はそれで助かった」


会計官が強く頷いた。


かなり強く頷いた。


「補償協議も、記録と分類がなければ崩壊していました」


「それはよかったです」


「ただし、予算はありません」


「急に現実ですね」


「現実です」


アンが会計官を見た。


「魔王城は貧しいのか」


会計官の顔色がさらに悪くなった。


「率直ですね」


俺は言った。


アンは首をかしげた。


「違うのか」


魔王が咳払いした。


「貧しいというより、支出が多い」


会計官が小声で言った。


「収入も少ないです」


「会計官」


「事実です」


魔王は黙った。


俺も黙った。


アンは少し考えた。


「古き竜の宝なら、山にある」


会計官が顔を上げた。


俺も上げた。


魔王も上げた。


キュルルも顔を出した。


その瞬間、木札が熱くなった。


俺は黙った。


「神様?」


頭の中に声が響く。


『触るな』


「早いですね」


『古竜の宝は、荷ではない。荷の山だ』


「ですよね」


『所有権、由来、呪い、税、封印、盗掘、奉納、相続、全部つく』


「全部ですか」


『全部だ』


俺は手を上げた。


「待ってください」


会計官が止まった。


魔王も止まった。


アンも止まった。


「その宝は、今すぐ触らない方がいいです」


会計官が聞いた。


「なぜですか」


「神様が、触るなと」


キュルルが小さく言った。


「神様判断なら、かなり重いね」


「かなり重い」


アンは首をかしげた。


「宝を取りに行かぬのか」


「行きません」


「なぜだ」


「荷の山だからです」


「荷なら運べばよい」


「荷の種類が悪いんです」


キュルルが口を開いた。


一枚。


「古代財産所有権確認票」


「出すな」


「これは必要だよ!」


会計官が手を伸ばしかけた。


俺は止めた。


「今はまだ触らない方がいい」


「しかし、財源が」


「気持ちは分かります」


「分かりますか」


「かなり」


会計官の顔色は悪い。


だが、目だけは財源を見ていた。


とても危ない。


「古竜の宝です。所有権、由来、呪い、封印、相続、奉納、略奪、税、全部出ます」


会計官の顔色が再び悪くなった。


「税」


「出ます」


「呪いも?」


「たぶん」


アンが言った。


「呪いは少ない」


「少ないだけであるんですね」


「少しだ」


「少しで済まない可能性があります」


魔王は深く息を吐いた。


「宝の話は、後日だな」


「はい」


会計官は少し残念そうだった。


だが、すぐに書類を抱え直した。


「後日、調査手順を作ります」


「作りましょう」


キュルルが小さく言った。


「また書類が増える」


「お前が出すんだぞ」


「そうだった」


アンは部屋を見回した。


「人間も魔族も、紙が多いな」


「紙がないと、後で揉めます」


「石に刻めばよい」


キュルルが即座に言った。


「重い!」


魔王が少し笑った。


「アン殿。今の時代は紙だ」


「む」


「石板は保管場所に困る」


「そうか」


アンは素直に頷いた。


本当に素直である。


ただし、基準が古い。


魔王が俺を見た。


「それで、ユート」


「はい」


「アン殿をどうするつもりだ」


「同行条件に従って、観光客として扱います」


「戦力ではなく?」


「戦力ではありません」


「古竜を?」


「戦わせると話が壊れます」


魔王は少し考えた。


「それは分かる」


分かるのか。


魔王はアンを見た。


「アン殿。そなたが戦えば、ほとんどの問題は解決する」


「であろう」


「だが、その後に別の問題が生まれる」


「なぜだ」


俺は言った。


「強すぎるからです」


アンは俺を見た。


「またそれか」


「何度でも言います」


魔王は頷いた。


「強すぎる力は、使いどころが限られる」


アレンが少しだけ魔王を見た。


魔王もアレンを見た。


二人は何も言わなかった。


だが、通じたようだった。


セイルが静かに言った。


「では、アン様の同行は、このまま一行の管理下ということでよろしいでしょうか」


会計官がすぐに言った。


「管理下、という表現は責任が重すぎます」


「では、同行条件下」


俺は言った。


「それなら」


会計官は頷いた。


「同行条件下の観光客」


キュルルが言った。


「兼キュルル係」


「そこも入れるのか」


俺が聞くと、キュルルは真剣に頷いた。


「入れる」


会計官は紙に書いた。


「同行条件下の観光客、兼キュルル緊急退避担当」


キュルルは満足そうだった。


背中の後ろで。


アンは少し不思議そうに言った。


「我の役職は長いな」


「真名よりは短いです」


「む」


魔王が咳払いした。


「では、正式には、アン殿は一行の同行者として扱う。魔王城側は、古竜としての正体を必要以上に広めない」


「助かります」


俺は言った。


「見た目で分からないので」


「そうだな」


魔王はアンを見た。


「角のある少女にしか見えぬ」


アンは少し不満そうだった。


「我は古竜である」


「知っている」


「ならよい」


「ただし、城内で巨大化はするな」


「しない」


「小型竜にもなるな」


キュルルが即座に言った。


「そこ大事!」


魔王は真面目に頷いた。


「大事らしい」


アンは少しだけ肩を落とした。


「むう」


話はまとまった。


たぶん。


少なくとも、その場ではまとまった。


会計官が記録を取り、キュルルが補助書類を一枚だけ出し、俺が同行条件の写しを渡した。


アンは椅子に座った。


椅子は普通に耐えた。


人型だからだ。


よかった。


本当に。


その後、魔王は改めて俺たちを見た。


「すまなかった」


「何がですか」


「話した結果、アン殿がそちらへ行った」


「来られました」


「そうだったな」


「そこは大事です」


「分かった」


魔王は少し頭を下げた。


「来られたことについては、我にも一因がある」


アンが言った。


「我が勝手に行っただけだ」


「来られました」


俺は訂正した。


アンは首をかしげた。


「来た」


「こちらから見ると、来られました」


「視点の問題か」


「はい」


「人間は細かい」


「ドラゴン様が大きいんです」


「今はアンだ」


「アンが大きいんです」


「今は小さい」


「影響が大きいんです」


「むう」


魔王は肩を震わせていた。


たぶん笑っている。


会計官も少し笑っていた。


顔色は悪いままだが。


キュルルが俺の背中から言った。


「魔王様」


「何だ」


「ルル呼び、禁止でお願いします」


「分かった。アン殿だ」


「ありがとうございます」


キュルルは礼を言った。


かなり真剣だった。


魔王も真剣に頷いた。


そこは真剣にする場面だった。


アンは不満そうだったが、何も言わなかった。


偉い。


魔王城を出る前、木札がまた温かくなった。


頭の中に声が響く。


『噂も荷である』


「神様」


『誰かに話せば、その話を聞いた者が動くこともある』


「今回は、動いたのが古竜でした」


『重かったな』


「かなり」


『面白い者の話は、面白い者を呼ぶ』


「今回の教義ですか」


『採用』


俺は魔王を見た。


「魔王様」


「何だ」


「神様いわく、噂も荷だそうです」


魔王は少し黙った。


「……重いな」


「古竜が来るくらいには」


魔王は目をそらした。


物語は、きれいに一区切りを迎えた。


そう。


ここで終わっても、何の問題もない。


魔王は謝った。


アンの扱いも決まった。


キュルルの精神衛生も守られた。


古竜の宝という、嫌な荷札が増えた。


かなり嫌な荷札である。


俺は記録帳に、小さく書いた。


未回収荷札。


古竜の宝。


所有権、由来、呪い、税、要確認。


俺は記録帳を閉じた。


「魔王様」


「何だ」


「面白い一行がいる、という話は、今後あまり広めないでください」


魔王は少し考えた。


「努力する」


「そこは断言してください」


「面白いのでな」


「やめてください」


アンが言った。


「我は聞いてよかった」


「聞かれて困りました」


キュルルが俺の背中から言った。


「僕はルル被害を受けた」


「被害届を出すなよ」


「まだ出してない」


「まだ?」


キュルルは黙った。


出す気がある顔だった。


俺はため息をついた。


俺たちの魔王城説明責任追及は終わった。


だが、古竜同行は始まったばかりである。


「噂話も、相手によっては街道を塞ぐんだよ」


第二部・完

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