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名作をパク――参考にすれば、名作になるに決まってるじゃない!  作者: 二歩田 回収


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第61話 大魔法を撃ちたいですが、変身口上と詠唱が長すぎます

名作をパク――参考にすれば、名作になるに決まってるじゃない!

第61話 大魔法を撃ちたいですが、変身口上と詠唱が長すぎます



商人組合の密室事件が解決した翌日。


俺は黙った。


リナも黙った。


アレンも黙った。


セイルは、依頼書を静かに読んでいる。


ガルドは、窓の外を見ている。


聖剣はまだ寝ている。


そしてミリアは、少しだけ嬉しそうだった。


嫌な予感がした。


「今度は何だ」


アレンが言った。


俺は依頼書を広げた。


「王都南区の旧穀物倉庫で、火の魔物が発生」


「火の魔物?」


リナが首をかしげる。


「倉庫の中で赤い光が動いている。熱もある。だが、まだ大火事にはなっていない」


「まだ、が怖いな」


「しかも場所が旧穀物倉庫だ」


ミリアの笑顔が、そこで消えた。


「穀物倉庫?」


「そうだ」


「乾いてる?」


「依頼書には、乾いた穀粉が床や梁に残っている可能性あり、とある」


「最悪ね」


「そうだな」


アレンが眉をひそめた。


「火の魔物なら、ミリアの火魔法で倒せるんじゃないのか」


ミリアは即座に首を横に振った。


「無理」


「無理なのか」


「火の魔物に火を撃ってどうするのよ。餌をやるようなものよ」


「そうなのか」


「そうよ」


俺は頷いた。


「火に火を足すな、という話だな」


「雑だけど、その通り」


リナが言った。


「じゃあ、水ですか?」


「水も雑に撒けないわ」


ミリアが言った。


「穀粉が固まるし、蒸気で視界が悪くなる。床も滑る。火の魔物が天井や梁に逃げたら、余計に面倒」


「じゃあ、どうするんですか?」


「火が火でいられない条件にする」


ミリアの声は真面目だった。


「熱を逃がす。空気を絞る。燃える餌を切る。粉を舞わせない。火を消すというより、火が広がる理由を潰す」


「火の魔法使いなのに、火を消すんですね」


「火を知らないと、火は消せないのよ」


少し格好よかった。


ただし、ミリアはそこで杖をくるりと回した。


「つまり、今回は私の出番ね」


やっぱり嬉しそうだった。


「ただし」


俺は言った。


「ただし?」


「倉庫を燃やさないこと」


「分かってる」


「煙を出しすぎないこと」


「分かってる」


「梁を落とさないこと」


「分かってる」


「床の粉を舞わせないこと」


「分かってる」


「周辺住民の退避」


「分かってる」


「風向き」


「分かってる!」


ミリアが怒った。


「私だって魔法使いよ!」


「だから言っている」


「どういう意味よ」


「大魔法を撃てる人間ほど、撃った後のことまで見てほしい」


ミリアは少し黙った。


そして、ふんと鼻を鳴らした。


「見せてあげるわ」


嫌な予感が、少しだけ良い予感に変わった。


王都南区の旧穀物倉庫は、石壁と木造の梁でできた大きな建物だった。


外壁は古い。


扉は半分壊れている。


窓は小さい。


換気口もあるが、かなり詰まっている。


周囲には住宅がある。


隣には馬小屋。


裏には乾いた藁束。


配置が悪い。


かなり悪い。


倉庫の中から、赤い光がちらちら見えた。


熱気もある。


まだ燃えてはいない。


だが、いつ燃えてもおかしくない。


「これは嫌だな」


俺は言った。


「燃えたら広がる」


「燃やさないわよ」


ミリアが言った。


セイルが周囲を見た。


「住民の退避は必要ですね」


「はい」


俺は鉄棒で地面に線を引いた。


「ここから内側は作業範囲。馬小屋側に人を置かない。藁束はまず移動。水樽を四つ。砂袋を六つ。濡れ布を用意。子供は近づけない」


リナが走った。


「周囲を見てきます!」


ガルドは倉庫の扉の前に立つ。


「中から出たら止める」


アレンも剣に手をかけた。


「俺も前に出る」


「火の魔物相手だ。近づきすぎるなよ」


「分かっている」


「分かっている勇者ほど近づく」


「最近、俺への信用が低くないか?」


「高いから言ってる」


アレンは少し困った顔をした。


ミリアは杖を掲げた。


「では、行くわよ」


赤い宝石が光る。


ミリアは一歩前へ出た。


そして、妙に高らかに言った。


「月に代わって――」


「待て」


俺は止めた。


ミリアがものすごく嫌そうな顔でこっちを見た。


「何よ」


「月は関係ない」


「そこ?」


「責任主体が曖昧になる」


「そこ!?」


「今回の作業責任者はミリアだ。月ではない」


ミリアは杖を握りしめた。


「言わせてよ!」


「言いたいのは分かる」


「分かるんだ」


「だが、今は王都南区旧穀物倉庫火災予防対応中だ」


「言い方が最悪!」


リナが戻ってきて、小声で言った。


「ミリアさん、言いたかったんですね」


「言いたかったわよ!」


「でも、月は関係ないかもです」


「リナまで!」


セイルが静かに言った。


「祈りの対象と責任主体は分けた方がよいでしょう」


「僧侶まで真面目に乗らないで!」


ガルドが短く言った。


「月は遠い」


「距離の問題!?」


アレンは目をそらしていた。


たぶん笑いをこらえている。


ミリアは深く息を吐いた。


「分かったわよ。月には代わらない」


「助かる」


「でも、魔法使いとしての口上は必要なの」


「必要か?」


「必要」


「なぜ」


「気分が乗る」


「気分」


「魔力の乗りにも関わるの!」


たぶん半分くらい本当なのだろう。


魔法使いには魔法使いの事情がある。


俺は少し考えた。


「では、責任主体を明確にした口上で」


「何それ」


ミリアは杖を掲げ直した。


少し考える。


そして言った。


「王都南区旧穀物倉庫の安全管理のため、魔法使いミリアが火勢を制御します!」


俺は頷いた。


「よし」


「よしじゃないわよ! 格好悪い!」


「かなり実務的だ」


「魔法少女感が死んだ!」


「今回は火災予防だ」


「夢がない!」


「倉庫が燃えるよりはいい」


ミリアは悔しそうに歯を食いしばった。


だが、杖の光は安定していた。


気分は乗っていないが、制御はできているらしい。


俺たちは倉庫の前に配置についた。


リナが換気口を確認する。


「右奥の換気口、詰まってます」


「開けられるか」


「少しなら」


「粉が舞わないように慎重に」


「はい」


ガルドが扉を少し開ける。


中から熱気が漏れた。


赤い光が奥で揺れている。


火の魔物。


小さな炎の塊が、床を這うように動いている。


一匹ではない。


三匹。


いや、五匹。


「火鼠ね」


ミリアが言った。


「火鼠?」


「火を食べて大きくなる小型魔物。普通の火をぶつけると、むしろ元気になるわ」


「やはり火魔法では駄目か」


アレンが言った。


「火魔法で火を出すのは駄目」


ミリアは言った。


「でも、火を扱う魔法で火を閉じることはできる」


「違うのか」


「全然違う」


ミリアは杖を構えた。


「まず、空気を動かす」


「火魔法ではないのか」


「いきなり火を撃つわけないでしょ」


ミリアが杖を振る。


炎ではなく、細い風が倉庫内へ流れた。


床の粉を舞わせない程度の弱い風。


熱だけを上へ逃がす。


換気口から、赤い熱気が少しずつ抜けていく。


リナが叫ぶ。


「換気、通りました!」


「次、粉を寝かせる」


ミリアが小さな水の粒を空気に混ぜた。


雨ではない。


霧でもない。


見えないくらい細かな湿り気。


床を濡らさず、粉だけを落ち着かせる。


「そんなことできるのか」


アレンが驚いた。


ミリアは横目で見た。


「できるわよ。火力だけが魔法使いじゃないの」


かなり格好よかった。


ただし、本人は少し得意そうだった。


「次、隔離」


ミリアは杖の先で、倉庫内の火鼠たちを囲むように薄い光の線を描いた。


火の壁ではない。


熱と空気の流れを切り分ける円。


火鼠たちは、その円の中で動き回る。


逃げられない。


だが、倉庫には火が移らない。


「すごいですね」


リナが言った。


「派手じゃないけど」


「派手じゃない方がいいのよ、今日は」


ミリアはそう言って、少し笑った。


だが、火鼠の一匹が急に大きくなった。


倉庫の隅に残っていた古い油布を食ったらしい。


炎が膨らむ。


熱が増す。


梁の近くまで火が伸びる。


「ミリア!」


アレンが叫んだ。


「分かってる!」


ミリアの顔が変わった。


今度は本気だった。


杖の宝石が強く光る。


彼女は低く詠唱を始めた。


「闇よりもなお暗き――」


「待て」


俺は止めた。


ミリアの額に青筋が浮かんだ。


「今度は何!」


「長い」


「まだ一行目!」


「詠唱している間に梁が燃える」


「分かってるわよ!」


「なら短縮版で」


「大魔法には詠唱がいるの!」


「大魔法を撃つ状況か?」


ミリアは一瞬、倉庫を見た。


火鼠。


梁。


粉。


換気口。


住民。


水樽。


藁束。


馬小屋。


そして、深く息を吐いた。


「違うわね」


「そうだ」


「今必要なのは、大魔法じゃない」


「何だ」


「小さく、速く、正確な鎮火」


ミリアは詠唱を切った。


そして杖を短く振る。


「圧縮冷却。熱だけ落ちろ」


青白い線が走った。


炎ではない。


氷でもない。


火鼠の周囲の熱だけが、一気に引いた。


火鼠の膨らんだ炎が小さくなる。


そこへ、ミリアが次の魔法を重ねる。


「空気を絞る。火を寝かせる」


火鼠たちの動きが鈍る。


炎が弱る。


「最後」


ミリアは杖をまっすぐ向けた。


「燃える条件を外す」


赤い光ではなく、青白い薄膜が火鼠たちを包んだ。


炎が揺らぐ。


空気の流れが切られ、熱だけが上へ抜ける。


火鼠たちは、燃え広がる先を失った。


「火を消すんですか?」


リナが聞いた。


「少し違うわ」


ミリアは額に汗を浮かべながら言った。


「火が火でいられる条件を、少しずつ奪ってるの」


火鼠の体が小さくなる。


炎の輪郭が崩れる。


赤い光が、炭のように暗くなる。


「酸素、熱、燃える餌。三つを切る」


「火魔法なのに?」


「火を知らないと、火は消せないのよ」


ミリアが杖を床に軽く突いた。


「鎮火結界」


倉庫の床に、薄い円が広がった。


火鼠たちの炎が、一斉に内側へ縮む。


爆ぜることもなく、煙を上げることもなく、熱だけがゆっくり抜けていく。


一匹。


二匹。


三匹。


四匹。


五匹。


最後に残ったのは、小さな黒い灰だけだった。


倉庫は燃えなかった。


梁も落ちなかった。


粉も舞わなかった。


煙も少なかった。


俺はしばらく黙った。


アレンも黙った。


リナも。


セイルも。


ガルドも。


住民たちも。


ミリアは杖を下ろした。


少しだけ息を切らしている。


「終わり」


誰かが、小さく拍手した。


それが広がった。


住民たちが拍手する。


商人組合の倉庫番も頭を下げる。


アレンが言った。


「見事だった」


セイルも頷いた。


「被害が最小限です」


ガルドが短く言った。


「よい制御だった」


リナが目を輝かせた。


「すごかったです!」


ミリアは少し照れた。


「まあね」


俺は倉庫の中を見た。


床の粉。


梁。


棚。


壁。


換気口。


灰。


全部残っている。


火鼠だけが消えた。


それがすごい。


「ミリア」


「何?」


「火力ではなく制御だったな」


ミリアは少し得意げに笑った。


「魔法使いだからね」


「大魔法は?」


「撃ってない」


「変身口上は?」


「言えてない」


「詠唱は?」


「止められた」


「満足か?」


ミリアは少し考えた。


そして言った。


「ちょっと不満」


「正直だな」


「でも、倉庫が残ったからいいわ」


「大人だ」


「火魔法使いは、大人じゃないと危ないのよ」


それは、かなり良い言葉だった。


ただし本人が言うと少し危ない。


火魔法使いだから。


作業はまだ終わっていなかった。


ここからが大事である。


ミリアは魔法で灰を完全に冷やした。


セイルが煙を吸った倉庫番を診る。


リナが火鼠の侵入口を確認する。


ガルドが周辺を見回る。


アレンが住民に説明する。


俺は記録を取る。


旧穀物倉庫・火鼠処理記録。


一、火鼠五匹。


二、原因は古い油布と残留穀粉。


三、初期火災なし。


四、粉塵爆発の危険あり。


五、火魔法による攻撃は禁止。


六、火属性魔法による鎮火制御を実施。


七、換気口詰まりあり。


八、周辺藁束撤去。


九、住民退避。


十、粉の飛散防止。


十一、熱制御。


十二、酸素濃度調整。


十三、鎮火結界。


十四、火災なし。


十五、魔法少女口上は不採用。


十六、大魔法詠唱は短縮。


ミリアが記録を覗き込んだ。


「十五番と十六番、いる?」


「重要だ」


「絶対にいらない」


「十五番は責任主体の明確化。十六番は作業時間短縮」


「言い方を変えると急にまともになるの、ずるいわ」


アレンが笑った。


「月に代わらなくてよかったな」


「アレンまで言う?」


セイルが静かに言った。


「月に責任を負わせるのは、難しいかもしれません」


「セイルまで!」


ガルドが言った。


「月は遠い」


「それはさっき聞いたわ!」


リナが笑っている。


ミリアは悔しそうだったが、どこか楽しそうでもあった。


夕方。


旧穀物倉庫の前は、かなり落ち着いていた。


火鼠は処理された。


倉庫は燃えなかった。


周辺住民も戻った。


倉庫番は何度も頭を下げた。


「本当にありがとうございました。倉庫が燃えていたら、隣の馬小屋まで危なかった」


ミリアは軽く手を振った。


「次から、油布は残さないこと。換気口も掃除。粉は溜めない。火鼠は小さいうちに報告」


「はい!」


「火の魔物に火を撃てばいいと思わないこと」


「はい!」


「水をかければいいと思わないこと。粉が固まって別の事故になるから」


「はい!」


「魔法で処理する時に人を近づけないこと」


「はい!」


ミリアが完全に指導者になっていた。


格好いい。


ただし、言っていることはかなり地味だった。


ユート的には、かなり良い。


アレンが俺に言った。


「今日のミリアはすごかったな」


「ああ」


「大魔法ではなかったが」


「だからすごい」


「そうだな」


ガルドも頷いた。


「斬るより、止める方が難しい時がある」


「魔法も同じですね」


リナが言った。


「撃つより、燃やさない方が難しいんですね」


セイルも言う。


「力を抑えることも、力です」


ミリアは少し黙った。


そして、照れ隠しのように言った。


「まあ、私くらいになるとね」


「調子に乗るのが早い」


俺は言った。


「うるさい」


その夜。


宿で記録帳を開いた。


火鼠処理作業まとめ。


一、火魔法使いだからといって火を撃てばよいわけではない。


二、火の魔物に火を足さない。


三、場所が穀物倉庫なら、粉塵爆発を考える。


四、火を消す前に、風と粉と人の位置を見る。


五、大魔法より小さい制御が必要な時がある。


六、詠唱は状況に合わせて短縮する。


七、変身口上は責任主体を確認してから。


八、月は関係ない。


九、月は遠い。


十、魔法使いの強さは、撃った後の被害を増やさないことにもある。


ミリアが八番と九番を見て、俺を睨んだ。


「消しなさい」


「重要だ」


「重要じゃない」


「二回も話題に出た」


「出したのはあなたたちでしょ!」


リナが笑った。


「でも、ミリアさん、すごく格好よかったです」


ミリアは一瞬で機嫌を直した。


「そう?」


「はい。大きい魔法じゃないのに、全部止めていました」


「まあね」


「火の魔法使いなのに、燃やさないのがすごかったです」


ミリアは少しだけ目を丸くした。


そして、嬉しそうに笑った。


「ありがと」


アレンが言った。


「次に大魔法を撃つ時は、撃っていい場所で頼む」


「もちろんよ」


「撃ちたいのか」


「撃ちたいに決まってるでしょ」


「正直だな」


「大魔法使いなんだから」


「でも今日は撃たなかった」


「今日はね」


それでいいのだろう。


撃てる人間が、撃たない判断をした。


それは、撃てない人間が撃たないのとは違う。


こうして俺たちは知った。


魔法は、火力だけでできているわけではなかった。


詠唱がいる。


杖がいる。


魔力がいる。


対象がいる。


だが、それだけでは足りない。


場所がいる。


風向きがいる。


粉塵がいる。


煙がいる。


逃げ道がいる。


水樽がいる。


砂袋がいる。


濡れ布がいる。


周辺住民がいる。


撃った後の灰がいる。


そして、撃たない判断がいる。


大魔法は強い。


長い詠唱も格好いい。


変身口上も、言いたい気持ちは分かる。


だが、倉庫で必要なのは、月に代わることではなかった。


暗きものより暗い何かを呼ぶことでもなかった。


必要なのは、火を広げず、煙を抑え、梁を落とさず、火鼠から燃える条件を奪うことだった。


ミリアはそれをやった。


派手な大爆発ではなかった。


村中が見上げる光の柱でもなかった。


だが、倉庫は燃えなかった。


人も逃げられた。


馬小屋も無事だった。


火の魔物に火を足さなかった。


それは、かなり強い魔法だった。


物語は、きれいに一区切りを迎えた。


そう。


ここで終わっても、何の問題もない。


俺たちの大魔法短縮詠唱は、これからだ。


「大魔法は、撃つ前より撃った後の方が長いんだよ」


第二部・完

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