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名作をパク――参考にすれば、名作になるに決まってるじゃない!  作者: 二歩田 回収


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第6話 悪役令嬢が婚約破棄されました

名作をパク――参考にすれば、名作になるに決まってるじゃない!


第6話 悪役令嬢が婚約破棄されました


「ユートさん」


「何だ」


「前方に、いかにも事件が起きそうな屋敷があります」


リナが街道の先を指さした。


山を越え、聖剣に鞘を作り、勇者アレンの精神をやや削った俺たちは、王都へ向かう途中の地方都市に入っていた。


都市の名はルクレア。


石造りの城壁に囲まれた、そこそこ大きな街だ。


市場がある。


宿がある。


教会がある。


貴族の屋敷がある。


広場には噴水がある。


そして今、街で一番大きな屋敷の前に、人だかりができていた。


門には金の紋章。


庭には白い花。


バルコニーには赤い絨毯。


屋敷の前には、やたら整った顔の若い男が立っている。


銀髪。


白い礼服。


胸には王家っぽい紋章。


隣には、薄桃色のドレスを着た可憐な少女。


そして向かいには、黒いドレスの令嬢。


黒髪。


赤い瞳。


背筋が伸びている。


いかにも悪役令嬢。


あまりにも悪役令嬢。


リナが小声で言った。


「見たことあります」


「言うな」


「婚約破棄されそうです」


「言うな」


「断罪イベントです」


「言うな」


俺は背中の聖剣を直した。


聖剣は、ちゃんと鞘に収まっている。


ただし長い。


町に入る時に、危険物として申告した。


門番からは「また聖剣か」と言われた。


この辺り、聖剣が多いらしい。


勇者アレンは人だかりを見て、いかにも勇者らしい顔をした。


「民が困っているなら、見過ごすわけにはいかない」


魔法使いミリアが肩をすくめる。


「貴族の痴話げんかじゃないの?」


僧侶セイルが真面目に言う。


「人の名誉がかかっているなら、軽んじるべきではありません」


剣士ガルドが腕を組んだ。


「決闘になるかもしれん」


俺はため息をついた。


「俺は宿を取りたい」


リナが笑う。


「でも、行くんですよね」


「強運の加護は、だいたい面倒事の前に宿を見せない」


実際、近くの宿はすべて満室だった。


祭りでもないのに。


たぶん、これに巻き込まれろということだ。


俺は胸元の木札に触れた。


「神よ」


『聞いている』


「今回の件、どう見ますか」


『荷の気配がする』


「やっぱりですか」


『婚約は見えぬ荷である』


「それは分かります」


『破棄すれば、預けた荷を返さねばならぬ』


「かなり実務的ですね」


『愛は消えても、預かり証は残る』


「名言みたいに言わないでください」


俺たちは人だかりの後ろに立った。


ちょうど、銀髪の男が声を張り上げるところだった。


「エルヴィラ・フォン・グラナート!」


黒いドレスの令嬢が、静かに顔を上げる。


「はい、殿下」


殿下。


やはり王子か。


銀髪の王子は、隣の桃色ドレスの少女を庇うように立った。


「貴様の数々の悪行、もはや見過ごすことはできぬ!」


人だかりがざわめく。


ミリアが小声で言った。


「始まったわね」


リナが小声で返す。


「始まりましたね」


俺は何も言わない。


こういう場面では、だいたい言葉が多い。


王子は続けた。


「貴様は、心優しきマリベルを妬み、嫌がらせを繰り返した。茶会で無視し、廊下で睨み、舞踏会では席を遠ざけた!」


桃色ドレスの少女、マリベルが涙ぐむ。


「私、怖くて……」


人だかりの同情が、そちらへ傾く。


王子はさらに声を張った。


「よって、ここに宣言する。エルヴィラ、貴様との婚約を破棄する!」


来た。


婚約破棄。


悪役令嬢。


断罪イベント。


かなり見たことがある。


だが、ここでエルヴィラは泣かなかった。


笑いもしなかった。


怒りもしなかった。


ただ、王子を見て、静かに言った。


「承知いたしました」


人だかりが少しざわめく。


王子も拍子抜けしたようだった。


「……ずいぶん素直だな」


「婚約の破棄については、殿下のお申し出として受領いたします」


「ならば」


「ただし」


エルヴィラは、黒いドレスの袖から一冊の帳簿を取り出した。


厚い。


革表紙。


角に金具。


貴族令嬢が断罪の場で出すものではない。


俺は思わず前のめりになった。


「帳簿だ」


リナが俺を見る。


「反応するところ、そこですか?」


「重要だ」


エルヴィラは帳簿を開いた。


「婚約破棄の前に、預かり品の精算をお願いいたします」


王子の顔が止まった。


「預かり品?」


「はい」


エルヴィラは淡々と読み上げる。


「殿下が当家へお預けになった狩猟用外套三着、儀礼用短剣二振り、舞踏会用靴四足、遠乗り用鞍一式、書籍二十六冊、贈答用陶器七箱、冬用毛皮、予備マント、王家紋章入り旅行鞄、未使用の香油、銀食器、演奏会用譜面台、そして」


彼女は一拍置いた。


「マリベル様へ贈る予定だったと思われる、桃色のリボン箱十二箱」


人だかりがざわめいた。


マリベルが目を見開く。


王子が青ざめる。


「そ、それは」


「当家の倉庫にございます」


「なぜそんなものまで」


「殿下が『しばらく預かっておけ』とおっしゃったので」


「今ここで言うことではない!」


「婚約を破棄されるのであれば、当家に預かる理由がなくなります」


俺はうなずいた。


「正しい」


リナが小声で言う。


「正しいんですか?」


「正しい。関係が終わるなら、預かり荷物は精算する」


「ロマンがないですね」


「破棄とはそういうものだ」


王子は苛立ったように言った。


「後で取りに行かせる」


エルヴィラは帳簿から目を上げない。


「承知いたしました。では保管料を含め、こちらの金額になります」


彼女は紙を一枚差し出した。


王子はそれを見た。


顔がさらに青くなる。


「高すぎる!」


「三年間の保管料、湿気対策費、防虫香、倉庫人件費、帳簿管理費、破損防止用の箱代、警備費です」


「婚約者の荷物だぞ!」


「婚約を破棄されるのであれば、婚約者ではございません」


人だかりが「おお」と揺れた。


ミリアがにやりと笑う。


「強いわね、あの令嬢」


セイルが感心する。


「理が通っています」


ガルドがつぶやく。


「剣より鋭い帳簿だな」


俺は胸元の木札に触れた。


「神よ」


『あれは分かっている者だ』


「ですよね」


『預かるとは、他人の荷を背負うこと』


「はい」


『破棄するなら、荷を返せ』


「完全に教義です」


王子は周囲の視線に耐えかねたのか、声を荒げた。


「エルヴィラ! 貴様は最後まで金の話をするのか!」


「金の話ではございません」


エルヴィラは静かに言った。


「責任の話です」


場が静まった。


「殿下は婚約を破棄される。それは承知いたしました。では、婚約に伴って当家が負っていた管理責任も終了いたします。終了する以上、預かり品の返却、費用の精算、今後の連絡先、搬出日程を確定する必要があります」


王子は言葉を失った。


エルヴィラはさらに続ける。


「また、殿下が当家の倉庫を私的にお使いになっていた件について、王宮管理局へ報告する義務がございます」


「待て」


「待てません」


「それはまずい」


「存じております」


「ならばなぜ」


「まずいことをなさったのは殿下です」


人だかりがまた揺れた。


桃色ドレスのマリベルが王子の袖を引く。


「殿下……そのリボン箱って……」


王子は目をそらした。


「いや、あれは、その」


「十二箱?」


「まとめ買いで」


「私、まだ一つもいただいていません」


「渡す前だった」


「三年間?」


「時期を見ていた」


「三年間?」


人だかりの空気が変わる。


断罪イベントが、預かり荷物精算イベントに変わった。


王子は追及する側から、追及される側になっている。


これが帳簿の力だ。


その時、王子の従者らしき男が前に出た。


「殿下。ここは一度、屋敷内で話し合われたほうが」


エルヴィラは首を横に振った。


「屋敷内には入れられません」


「なぜです?」


「本日をもって婚約破棄を宣言された方を、当家の私的空間へ入れる理由がございません」


「しかし荷物が」


「搬出は裏門からお願いします。事前に台帳確認、搬出許可、破損確認、受領署名が必要です」


俺は思わず拍手しそうになった。


しない。


しないが、かなりいい。


リナが俺を見る。


「ユートさん、楽しそうですね」


「荷物管理がしっかりしている」


「そこなんですね」


「そこだ」


王子がついに俺たちに気づいた。


いや、俺の背中の聖剣に気づいたのかもしれない。


「そこの冒険者!」


「俺ですか?」


「そうだ。貴様、勇者パーティだな?」


アレンが前に出た。


「王国公認勇者アレンだ」


王子の顔が少し明るくなる。


「ならばちょうどいい。貴様ら、この場の証人になれ。悪女エルヴィラが、婚約破棄の場で金銭を要求し、王子である私を侮辱したと」


エルヴィラは静かにこちらを見た。


リナも俺を見る。


アレンも俺を見る。


なぜか全員が俺を見る。


俺はため息をついた。


「証人になるなら、まず事実確認をします」


王子が眉をひそめる。


「何?」


「預かり品の存在、預けた経緯、保管期間、保管料の妥当性、破棄宣言の時点、搬出条件。全部確認します」


王子が嫌そうな顔をした。


「面倒な」


「証人とは面倒なものです」


ミリアが笑った。


「ユート、また書類の顔になってる」


「荷物の話だからな」


エルヴィラがわずかに目を細めた。


「あなたは?」


「ユート。荷物持ちです」


「荷物持ち」


「はい」


「では、分かるのですね」


「預かり荷物の重さは、物の重さだけではない」


エルヴィラは初めて、少しだけ笑った。


「その通りです」


王子は苛立った。


「くだらん! 荷物など、アイテムボックスに入れれば済む話だ!」


その瞬間。


俺は目を閉じた。


リナも目を閉じた。


アレンも目を閉じた。


ミリアもセイルもガルドも目を閉じた。


近くの商人も、なぜか目を閉じた。


王子だけが怒っている。


「何だその反応は!」


俺は静かに言った。


「その言葉は、俺の前ではあまり言わないほうがいい」


「アイテムボックスか?」


からん。


屋敷の屋根から、小さなタライが落ちてきた。


王子の足元に。


軽い音を立てて転がる。


人だかりが静まり返った。


王子が青ざめる。


「な、何だこれは」


「警告です」


「誰の」


「荷物の神の」


「聞いたことがない!」


「超マイナーですから」


エルヴィラが真顔でタライを見つめる。


「……興味深い神ですね」


「信仰しますか?」


「倉庫管理には相性がよさそうです」


神の声が頭に響いた。


『見込みがある』


「神様、勧誘しないでください」


結局、俺たちはエルヴィラの帳簿確認に立ち会うことになった。


屋敷の裏門に回る。


巨大な倉庫が開かれた。


中には、王子の荷物がきれいに保管されていた。


箱ごとに番号。


棚ごとに札。


湿気取り。


防虫香。


布掛け。


目録。


受領記録。


完璧だった。


俺は感動した。


「すごい」


エルヴィラが言う。


「当然です」


「当然をできるのがすごい」


「分かってくださるのですね」


「はい」


リナが小声で言った。


「ユートさん、令嬢と通じ合ってますね」


「荷物の話だ」


「それが通じ合ってるんです」


王子は荷物の量を見て、完全に黙っていた。


鞍一式。


外套。


靴。


本。


食器。


箱。


マント。


そして桃色のリボン十二箱。


マリベルがリボン箱を一つ開けた。


「かわいい……」


王子が少し安堵する。


「だろう?」


マリベルは箱を閉じた。


「でも、三年間渡さなかったんですね」


王子はまた黙った。


エルヴィラは淡々と手続きを進める。


「こちらが預かり品目録です。こちらが保管料明細。こちらが搬出希望日記入欄。こちらが受領署名欄。破損確認はこちらでお願いします」


王子の従者たちは汗を流しながら荷物を数えた。


そして問題が発生した。


「殿下」


従者が震える声で言う。


「何だ」


「運べません」


「なぜだ」


「量が多すぎます」


王子は倉庫を見た。


俺も見た。


リナも見た。


多い。


とにかく多い。


そして王子側の馬車は一台しかない。


「アイテムボックスは?」


王子が従者に聞く。


従者は申し訳なさそうに言った。


「王家用のものは、容量規定により公務用品のみです。私物の大量搬出には使用許可が必要です」


「許可を取れ!」


「申請から承認まで三日かかります」


「今すぐだ!」


「規則です」


俺はうなずいた。


「よい従者だ」


エルヴィラも言った。


「規則を守る方ですね」


従者は少し救われた顔をした。


王子は頭を抱えた。


「ではどうする!」


俺は手を上げた。


「荷車を借りるしかないですね」


「荷車?」


「はい。あと人手。搬出順を決めて、壊れやすいものから別扱いにする。雨が降りそうなので、油紙も必要です」


王子は屈辱的な顔をした。


「殿下である私が、荷車を」


「荷物は身分を見ません」


エルヴィラが少し笑った。


「名言ですね」


「神の教えです」


神の声が響いた。


『言った覚えはないが、よい』


「許可が出ました」


リナが不思議そうに言う。


「何の許可ですか?」


「名言化の許可」


「そんなのあるんですか」


俺たちは、結局その日いっぱい、王子の荷物搬出を手伝うことになった。


勇者パーティなのに。


魔王討伐の途中なのに。


聖剣を背負っているのに。


やっていることは、貴族倉庫の退去作業である。


だが、これもまた旅だ。


荷車を三台手配する。


壊れ物を布で包む。


本を湿気から守る。


靴を箱に戻す。


毛皮を虫除け香と一緒に詰める。


リボン箱はマリベルが持ち帰ることになった。


王子は最後まで気まずそうだった。


日が傾くころ、すべての荷物が積み終わった。


エルヴィラは受領書を確認し、王子に署名させた。


「これにて、預かり品の返却は完了いたしました」


王子は疲れ切った声で言った。


「ああ」


「婚約破棄についても、正式に受領いたします」


「……ああ」


「今後、当家への私物持ち込みはご遠慮ください」


「分かった」


マリベルが小さく手を上げた。


「あの、エルヴィラ様」


「何でしょう」


「私、あなたに嫌がらせされたと思っていたんですけど」


「はい」


「茶会で無視されたのは?」


「殿下から、あなたを不用意に貴族派閥へ巻き込まないよう頼まれておりました」


王子がびくっとする。


「廊下で睨まれたのは?」


「廊下を走ると危ないので、止まるよう視線で促しました」


「舞踏会で席を遠ざけたのは?」


「あなたのドレスの裾が長く、給仕の導線とぶつかるため、広い席へ移しました」


マリベルは王子を見た。


「殿下」


王子は目をそらした。


「説明不足だったようだ」


「かなり」


人だかりから、ため息のようなものが漏れた。


断罪は崩れた。


悪役令嬢は悪役ではなかった。


王子は荷物を預けすぎだった。


マリベルは説明を受けていなかった。


そして俺たちは、なぜか引っ越しを手伝った。


エルヴィラは俺に向き直った。


「ユート様」


「様はいりません」


「では、ユートさん。今日はありがとうございました」


「いえ。荷物のことなので」


「あなたの神に、少し祈っても?」


俺は木札を差し出した。


「専用の教会はありません。何の教会でもいいので、教会っぽい建物に向かって祈ればだいたい届きます」


エルヴィラはわずかに眉を上げた。


「だいたい」


「だいたいです」


「面白い神ですね」


「マイナーなので」


エルヴィラは木札に手を合わせた。


「持てる分だけ持ち、持てぬものは置いていく。預かる荷は、いつか返す。よい教えです」


神の声が、珍しく少し弾んだ。


『信徒候補だ』


「神様、落ち着いてください」


『倉庫持ちの信徒は貴重だ』


「生々しいです」


エルヴィラは俺に小さな紙を渡した。


「これは当家の倉庫管理規程の写しです。旅の参考になれば」


俺は受け取った。


「ありがとうございます」


リナが笑う。


「よかったですね、ユートさん。恋文じゃなくて倉庫規程ですよ」


「最高だ」


「本当に最高なんですね」


その夜、ようやく宿が取れた。


なぜか一部屋だけ空いていた。


強運だ。


いや、貴族倉庫の荷物整理をした報酬として、エルヴィラが手配してくれた。


これも強運の一種だろう。


俺は宿の部屋で、倉庫管理規程を読んだ。


すばらしい。


湿気対策。


搬入記録。


所有者確認。


長期保管の費用計算。


破損時の責任範囲。


返却時の署名。


完璧だ。


リナが隣で眠そうに言った。


「ユートさん、それ面白いんですか?」


「面白い」


「聖剣の伝説より?」


「実用性では上だ」


背中の聖剣が部屋の隅で光った。


『我より倉庫規程を上に見るのか』


「お前は錆びないと言い張って手入れが必要だろ」


聖剣は黙った。


俺は木札に触れた。


「神よ。今回はどうでしたか」


『よい精算だった』


「はい」


『婚約は破棄できる。だが、預けた荷は消えぬ』


「はい」


『関係が終わる時ほど、荷の所在を明らかにせよ』


「今回の教義ですか」


『採用』


「ありがたいお言葉です」


『あと、倉庫持ちの信徒は大事にせよ』


「そこは本音ですね」


『本音もまた荷である』


「うまく言ったつもりですか」


神は返事をしなかった。


翌朝。


王子の荷車は城へ向かった。


マリベルはリボン箱を一つだけ持ち、残りは返品すると言っていた。


エルヴィラは屋敷の門から俺たちを見送った。


王子との婚約は破棄されたが、彼女の背筋はまっすぐだった。


悪役令嬢ではない。


倉庫管理の達人だった。


俺たちは街を出る。


アレンがぽつりと言った。


「俺も、宿に荷物を預ける時は気をつけよう」


「そうしろ」


ミリアが言った。


「恋愛って、もっときらきらしたものだと思ってたわ」


「恋愛はきらきらしていても、荷物は物理的だ」


セイルがうなずく。


「責任の所在は大事ですね」


ガルドが言う。


「剣も預ける時は受領書を取るか」


聖剣が光った。


『我を預けるな』


「じゃあ自分で歩け」


聖剣は黙った。


こうして俺たちは知った。


婚約破棄は、言葉だけでできているわけではなかった。


約束がある。


倉庫がある。


預かり品がある。


保管料がある。


搬出日程がある。


受領署名がある。


説明不足がある。


そして、関係が終わった後に返すべき荷がある。


愛は終わることがある。


約束も破られることがある。


けれど、預けた荷物は消えない。


関係を終わらせるなら、荷物を返す。


費用を払う。


受領書に署名する。


それは冷たい話ではない。


責任を最後まで持つという、最低限の礼儀だった。


婚約は破棄された。


悪役令嬢は断罪されなかった。


王子の荷物は返却された。


倉庫管理規程は俺の荷袋に入った。


マリベルはリボン箱を一つだけ持ち帰った。


物語は、きれいに一区切りを迎えた。


そう。


ここで終わっても、何の問題もない。


俺たちの精算は、これからだ。


「だから預かり証を取れよ」


第六部・完

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