第47話 巨大ロボは強いですが、格納庫の扉が狭すぎます
名作をパク――参考にすれば、名作になるに決まってるじゃない!
第47話 巨大ロボは強いですが、格納庫の扉が狭すぎます
「古代機動鎧を起動していただきたい」
王都技術庁の役人は、そう言った。
俺は黙った。
リナも黙った。
アレンも黙った。
ミリアは少し目を輝かせた。
セイルは祈るべきか迷っている顔をした。
ガルドは、目の前の巨大な扉を見上げていた。
場所は、王都西部の地下格納庫。
巨大な石造りの施設だった。
天井は高い。
壁は厚い。
床には金属のレール。
魔力灯がずらりと並び、奥には巨大な影が立っている。
二本足。
二本腕。
胸部装甲。
肩部装甲。
顔のような頭部。
背中には翼のような大型部品。
どう見ても巨大ロボだった。
かなり巨大ロボだった。
リナが小声で言った。
「見たことあります」
「言うな」
「古代文明の巨大ロボです」
「言うな」
「勇者様が乗って、巨大な敵と戦うやつです」
「言うな」
「でも、出入り口が狭そうですね」
「そこだ」
俺は格納庫の扉を見た。
大きい。
確かに大きい。
普通の倉庫なら、十分すぎるほど大きい。
馬車なら三台並んで通れる。
荷車なら余裕だ。
だが、奥に立っている古代機動鎧とやらは、さらに大きい。
肩が広い。
背中の翼が邪魔。
頭の角も高い。
そして扉は、見た目より低かった。
「これ、出られるんですか?」
俺は聞いた。
役人は、目をそらした。
「設計上は」
「出られるんですか?」
「古代の記録では」
「今の扉で?」
役人は沈黙した。
嫌な沈黙だった。
アレンが古代機動鎧を見上げた。
「しかし、これが動けば戦力になるな」
ミリアもうなずく。
「ドラゴン級の魔物にも対応できるかもしれないわ」
セイルは静かに言った。
「強力な力ほど、扱いには慎重であるべきです」
ガルドが扉を指さした。
「まず外に出せるかだな」
「そうだ」
俺は言った。
「強いかどうかの前に、格納庫から出せるか」
役人は慌てて説明を始めた。
「この古代機動鎧、通称グランタリオンは、旧王国時代に建造された決戦兵器です。魔力炉を内蔵し、操縦者の意思に反応して動き、巨獣や魔物の群れと戦うことを目的としていました」
「それがなぜ今?」
「先日のドラゴン討伐を受け、大型魔物への備えが必要だという話になりまして」
「それで倉庫から出すと」
「はい」
「最後に動かしたのは?」
役人は資料を見た。
「約二百年前です」
「整備記録は?」
「一部欠落しています」
「試運転は?」
「これからです」
「操縦者は?」
役人はアレンを見た。
アレンは俺を見た。
俺は役人を見た。
「なぜアレンを見るんですか」
「勇者様ですので」
アレンは胸を張りかけた。
俺はその前に止めた。
「乗るな」
「まだ何も言っていない」
「顔で分かる」
「巨大な決戦兵器だぞ」
「だから乗るな」
「勇者として、少しは」
「二百年未整備の巨大兵器だぞ」
アレンは黙った。
少しだけ冷静になったらしい。
ミリアが機体を見上げた。
「でも、動くところは見てみたいわね」
「見るのはいい」
俺は言った。
「動かす前に確認する」
「また確認?」
「今回は確認しないと死ぬ」
巨大ロボである。
倒れるだけで死ぬ。
踏まれても死ぬ。
腕を振っても死ぬ。
扉に引っかかっても死ぬ。
背中の翼が天井を削っても死ぬかもしれない。
つまり、確認が必要だ。
かなり必要だ。
俺は木札に触れた。
「神よ」
頭の中に声が響いた。
『聞いている』
「巨大ロボです」
『大きい』
「見れば分かります」
『重い』
「でしょうね」
『通れるか確認せよ』
「ですよね」
『大きな荷ほど、出口で詰まる』
「今回の教義ですか」
『まだ早い』
「検討ですか」
『扉を見てからだ』
神も慎重だった。
扉は大事だ。
役人は俺たちを機動鎧の足元へ案内した。
近づくと、さらに大きい。
足だけで俺の背丈を超えている。
足首には古代文字。
膝には装甲板。
腰には分厚い関節。
胸の中央に魔力炉らしき丸い装置。
頭部には赤い水晶。
そして、腹部に操縦席の入口らしき小さな扉がある。
小さな扉。
いや、機体に比べて小さいだけで、人間用としては普通の扉だ。
「乗り込み口はここです」
役人が言った。
アレンが見上げる。
「高いな」
「梯子は?」
俺が聞くと、役人は後ろを見た。
技術庁の職員が古い金属梯子を持ってきた。
錆びていた。
かなり錆びていた。
俺は役人を見た。
「これで?」
「予備の梯子が」
「予備?」
もう一本出てきた。
それも錆びていた。
「乗るな」
俺は言った。
アレンが言う。
「まだ乗っていない」
「乗る前に死ぬ」
「梯子でか?」
「梯子でだ」
セイルが梯子を見て頷いた。
「これは危険ですね」
ガルドが手で軽く揺らす。
ぎし、と音がした。
「駄目だな」
ミリアが呆れたように言った。
「巨大兵器を動かす前に、梯子が駄目なの?」
「大きな計画は、小さな足場で止まる」
俺は言った。
リナが感心した顔をした。
「それ、いいですね」
「神の受け売り風だ」
神の声が響く。
『まだ言っていない』
「今作りました」
『悪くない』
採用候補らしい。
まず、乗り込み用の足場を作ることになった。
動かす以前の問題である。
技術庁の職員たちは、少し不満そうだった。
「起動実験を早く」
「足場が先です」
「操縦席の確認だけでも」
「落ちます」
「魔力炉の反応を見たいのですが」
「落ちます」
「古代機動鎧が」
「梯子が先です」
アレンが横で頷いた。
「俺も、梯子で死ぬ勇者にはなりたくない」
「それはそう」
ドラゴンを倒した勇者が、巨大ロボに乗ろうとして梯子で落ちたら、伝説が変な方向に曲がる。
絶対に避けたい。
足場が組まれるまでの間に、俺たちは格納庫を確認した。
出入口。
天井高。
床の強度。
レールの幅。
排水口。
換気。
非常口。
消火用の砂。
魔力炉緊急停止装置。
全部見る。
リナが図面を広げて言った。
「格納庫の図面、あります」
「古いな」
「二百年前の写しだそうです」
「現物と合ってるか確認」
「はい」
図面では、格納庫の扉はもっと大きかった。
だが、今の扉は少し狭い。
おそらく、後の時代に補修された時、外側の防壁が追加されている。
そのせいで、有効開口部が狭くなっている。
「やっぱり出られない可能性が高い」
俺は言った。
役人が青ざめる。
「そんなはずは」
「現物を測ります」
測った。
高さ。
幅。
肩幅。
背部翼の幅。
角の高さ。
足の開き。
膝の可動域。
扉の段差。
結論。
そのままでは出られない。
リナが計算板を見ながら言った。
「肩を斜めにすれば、幅は通りそうです」
「背中の翼は?」
「引っかかります」
ミリアが機体の背中を見る。
「あの翼、外せないの?」
役人が資料を見る。
「姿勢制御板です。古代飛翔機能に関わる可能性が」
「飛ぶんですか?」
アレンが目を輝かせた。
俺は言った。
「飛ばすな」
「まだ何も」
「顔で分かる」
「巨大ロボで空を」
「飛ばすな」
「少しだけ」
「絶対に駄目だ」
二百年未整備の巨大ロボを空に飛ばす。
考えただけで頭が痛い。
ミリアも言った。
「飛行機能は封印でいいわ。地上で動くかも分からないのに」
役人は不満そうだが、頷いた。
「では、姿勢制御板は固定状態のまま」
「外せるんですか」
「構造上は」
「外せるか確認」
「外すんですか?」
「出られないなら」
役人は資料をめくった。
「外すには、上部整備台が必要です」
「ありますか?」
役人は格納庫の隅を見た。
そこには、巨大な移動式整備台があった。
車輪つき。
金属製。
古い。
かなり古い。
「動きますか?」
役人は黙った。
ガルドが押した。
動かなかった。
錆びている。
「整備台が動かない」
ミリアが言った。
「巨大ロボ以前に、周辺設備が死んでるわね」
「二百年だ」
俺は言った。
「兵器より先に設備が老いる」
セイルが静かに頷いた。
「聖堂でも、祭具より屋根が先に傷むことがあります」
「どの分野でも同じだな」
役人は汗を拭いた。
「では、まず整備台の復旧を」
「そうです」
「起動は?」
「その後です」
「本日の起動実験は」
「無理です」
役人が崩れそうな顔をした。
広報部の女性が、いつの間にか来ていた。
なぜいる。
横には編集者もいる。
またいる。
「巨大ロボ起動と聞いて来ました!」
広報部の女性が言った。
「起動しません」
「えっ」
「今日は整備台の復旧です」
「絵面が」
「地味です」
編集者が眼鏡を押し上げた。
「いいですね」
「よくないです」
「ドラゴン解体の次に巨大ロボ整備。流れとしては自然です」
「自然ですか?」
「大きなものを扱う話が続いています」
「嫌な流れだ」
広報部の女性は水晶を構えた。
「今日の見どころは?」
俺は言った。
「錆びた整備台の車輪交換」
広報部の女性は固まった。
「巨大ロボは?」
「まだ動かない」
「必殺武装は?」
「まだ見ない」
「操縦席は?」
「足場ができてから」
「タイトル詐欺では?」
「巨大ロボはあります」
「動かないじゃないですか」
「巨大ロボは強いですが、格納庫の扉が狭すぎます」
「本当にタイトル通りですね」
そうだ。
本当にタイトル通りである。
昼前まで、俺たちは巨大ロボを一歩も動かさなかった。
やったことは、以下。
錆びた梯子の使用禁止。
仮設足場の設置。
格納庫扉の計測。
機体寸法の確認。
整備台の車輪確認。
古いレールの清掃。
床のひび確認。
非常口の開閉確認。
魔力炉周辺の封印確認。
かなり地味だ。
アレンは不満そうだったが、文句は言わなかった。
ドラゴン後処理を経て、かなり耐性がついている。
「ユート」
「何だ」
「巨大ロボは、いつ動く」
「分からん」
「今日は動かないのか」
「動かないほうがいい」
「なぜだ」
「動いた瞬間に倒れたら終わる」
アレンは機体を見上げた。
「倒れたら、大変だな」
「大変どころではない」
「格納庫が壊れる」
「人も死ぬ」
「起動前点検は大事だな」
「そうだ」
「分かってきた」
かなり分かってきた。
昼過ぎ、ようやく仮設足場が完成した。
操縦席まで登れる。
アレンが再び乗りたそうな顔をした。
俺は止めた。
「まず無人確認」
「無人?」
「操縦席内に毒ガス、魔力漏れ、虫、腐食、落下物がないか確認」
「虫?」
「二百年だぞ」
「虫か」
「虫だ」
リナが少し嫌そうな顔をした。
「巨大ロボの操縦席に虫がいたら嫌ですね」
「だから確認する」
操縦席の扉を開けた。
ぎぎ、と嫌な音がした。
中は暗い。
ミリアが光を入れる。
埃。
古い座席。
操作桿。
足元の魔力板。
天井の古代文字。
そして、隅に何かがいた。
小さな黒い塊が動いた。
リナが固まった。
「虫です」
「やっぱり」
「大きめです」
「二百年だからな」
アレンが一歩下がった。
「俺はドラゴンとは戦えるが、密室の虫は少し嫌だ」
「分かる」
虫を追い出す。
換気する。
埃を払う。
座席を確認する。
操作桿を動かす。
ぎし、と音がする。
油が必要。
足元の魔力板は一部ひび割れ。
交換が必要。
天井の古代文字は読めない。
セイルが見て言った。
「祈祷文ではありませんね」
ミリアが読もうとする。
「たぶん起動文。かなり古い形式ね」
「読めるか?」
「読めるけど、意味が少し曖昧」
「曖昧な起動文で巨大ロボを動かすな」
「分かってるわよ」
操縦席の確認が終わった時点で、すでに夕方に近かった。
巨大ロボは、まだ一歩も動いていない。
広報部の女性は、記録水晶を抱えて遠い目をしている。
「今日は本当に、何も動きませんね」
「整備台の車輪は動きました」
俺は言った。
「そこですか」
「そこです」
編集者は満足そうだった。
「巨大ロボが動く前に、周辺設備を動かす回。よいです」
「読者は巨大ロボを見たいのでは?」
「見ています。動いていないだけです」
「詭弁では?」
「構成です」
編集者は強い。
夕方、技術庁の役人が言った。
「では、せめて魔力炉の微弱起動だけでも」
俺は考えた。
完全起動ではない。
魔力炉の反応確認。
機体は固定。
足元に楔。
腕も固定。
姿勢制御板も固定。
周囲退避。
消火砂。
水桶。
緊急停止担当。
そこまでやるなら、微弱起動だけは可能かもしれない。
「条件付きです」
俺は言った。
役人の顔が明るくなった。
「条件とは」
「一、機体は動かさない」
「はい」
「二、魔力炉出力は最低」
「はい」
「三、操縦者は乗らない。外部起動」
「えっ」
アレンも反応した。
「俺は乗らないのか」
「乗らない」
「微弱起動だけでも」
「乗らない」
「勇者として」
「乗らない」
「……分かった」
かなり渋々だった。
だが乗らなかった。
成長である。
四、緊急停止係を配置。
五、火花が出たら即停止。
六、床振動を記録。
七、扉は閉めない。
八、見物人は入れない。
九、広報水晶は距離を取る。
広報部の女性が言った。
「距離を取るんですね」
「壊れます」
「はい」
準備が整う。
古代機動鎧グランタリオンは、固定されたまま沈黙している。
胸の魔力炉に、技術庁の職員が外部魔力線を接続する。
ミリアが魔力の流れを見る。
セイルが念のため防護祈祷。
ガルドは緊急時に線を切る係。
リナは記録係。
アレンは、周囲の退避確認。
俺は停止手順表を持つ。
役人が声を張った。
「微弱起動、開始!」
魔力炉が、低く唸った。
ぶうん、と空気が震える。
胸の丸い装置に、青い光が灯る。
古代文字が一つずつ浮かび上がる。
巨大な影が、わずかに存在感を増した。
アレンが息を呑む。
ミリアの目が輝く。
リナも思わず見上げている。
俺も、少しだけ見入った。
確かに、これはすごい。
二百年前の古代文明が作った巨大な機械鎧。
今、その心臓だけが、ほんの少し動いている。
強い力だ。
大きな力だ。
だが、その瞬間。
床が、みし、と鳴った。
俺は手を上げた。
「停止」
役人が慌てる。
「まだ反応が」
「停止」
「ですが」
「床が鳴った」
ガルドが外部線に手をかける。
ミリアも言った。
「止めたほうがいい。炉の反応より、床の振動が気になる」
役人は唇を噛んだ。
そして言った。
「停止!」
魔力炉の光が消えた。
格納庫は静かになった。
全員が、床を見た。
足元の石床に、小さなひびが入っていた。
本当に小さい。
だが、あった。
役人の顔が青ざめた。
「床が」
「二百年だ」
俺は言った。
「機体より、床が持たないかもしれない」
アレンが巨大ロボを見上げた。
「強すぎて、床が負けるのか」
「重すぎて、床が負ける」
「同じでは?」
「少し違う」
ミリアが言った。
「これ、外へ出す前に床補強ね」
「そうなる」
役人は頭を抱えた。
「床補強、扉拡張、整備台修理、操縦席清掃、魔力炉点検……」
「やることが見えてよかったですね」
俺は言った。
役人は泣きそうな顔でこちらを見た。
「よかったのでしょうか」
「動かして倒れる前に分かった」
「よかったです」
「はい」
広報部の女性が記録水晶を止めた。
「今日の見どころ、最後に床でしたね」
「床は大事です」
編集者が頷く。
「巨大ロボ回なのに、最終的に床」
「やめてください」
「いいです」
「よくないです」
アレンは、まだグランタリオンを見上げていた。
「いつか、これを動かせるのだろうか」
「動かせるかもしれない」
俺は言った。
「ただし、扉を広げて、床を補強して、整備台を直して、操縦席を掃除して、起動文を翻訳して、緊急停止を確認してからだ」
「長いな」
「巨大ロボだからな」
アレンは深く頷いた。
「ドラゴンと同じか」
「大きいものは長い」
「覚えた」
セイルが穏やかに言った。
「大きな力は、支える場所も大きく整えねばならないのですね」
ガルドが言った。
「剣なら鞘。魔石なら箱。巨大ロボなら格納庫か」
「そうだ」
俺は言った。
「力だけ持っても、置く場所、出す場所、動かす床がなければ使えない」
リナが笑った。
「ユートさん、巨大ロボも荷物ですか?」
俺はグランタリオンを見上げた。
巨大だ。
重い。
動かしたい。
でも出せない。
保管場所が必要。
整備が必要。
運用手順が必要。
「荷物だな」
ミリアが笑った。
「ついに巨大ロボまで荷物になったわ」
「動かすなら荷物だ」
神の声が響いた。
『採用』
「何をですか」
『大きな力には、大きな置き場がいる』
「今回の教義ですか」
『採用』
「大きな荷ほど、出口で詰まる、も?」
『採用』
「やはり」
『あと、梯子を信用するな』
「かなり具体的ですね」
『落ちるからな』
その日の終わりに、技術庁の役人は、新しい作業計画書を書いた。
古代機動鎧グランタリオン再起動準備計画
一、仮設足場の常設化。
二、操縦席清掃および操作系点検。
三、魔力炉微弱起動記録の分析。
四、床補強。
五、整備台車輪交換。
六、背部姿勢制御板の取り外し可否確認。
七、格納庫扉の拡張。
八、緊急停止手順の明文化。
九、操縦者選定は最後。
アレンが九を見て言った。
「最後か」
「最後だ」
「俺の名前は?」
「まだ書かない」
「勇者なのに」
「梯子と床が先だ」
「分かった」
本当に分かっている顔だった。
少し残念そうだが、分かっている。
それでいい。
夜。
王都の宿へ戻ると、アレンはまだ巨大ロボのことを考えていた。
「ユート」
「何だ」
「巨大ロボに乗れたら、ドラゴンより大きい敵とも戦えるな」
「かもしれない」
「だが、乗る前に足場、床、扉、整備台か」
「そうだ」
「勇者の仕事は、思ったより入口が多いな」
「いい表現だ」
「そうか?」
「かなり」
アレンは少し嬉しそうだった。
「では、次に乗る時は、ちゃんと入口から入る」
「当たり前だ」
「梯子で死なない」
「それも当たり前だ」
ミリアが笑った。
「でも、今日少し動いた時、正直わくわくしたわ」
リナもうなずいた。
「私もです」
セイルも言った。
「危険ですが、正しく使えれば人を守る力になりそうです」
ガルドが言った。
「まず床だな」
全員が頷いた。
まず床。
巨大ロボ回の結論として、それはどうなのか。
だが、正しい。
俺は木札に触れた。
「神よ。今回はどうでしたか」
『よい停止だった』
「停止ですか」
『止めたから壊れなかった』
「はい」
『動かす力より、止める手順を先に持て』
「今回の教義ですか」
『採用』
「巨大ロボなのに、止める話ですね」
『動かす前だからな』
「はい」
『あと、虫は追い出せ』
「そこもですか」
『操縦席に虫は困る』
「分かります」
こうして俺たちは知った。
巨大ロボは、巨大ロボだけでできているわけではなかった。
格納庫がいる。
扉がいる。
床がいる。
足場がいる。
梯子がいる。
整備台がいる。
操縦席の掃除がいる。
起動文の翻訳がいる。
魔力炉の点検がいる。
緊急停止手順がいる。
そして、乗る前に乗らない判断がいる。
大きな力は、それだけで使えるわけではない。
立っている床が耐えなければならない。
出ていく扉が通らなければならない。
整備する台が動かなければならない。
操縦者が入る足場が安全でなければならない。
どれか一つが欠ければ、決戦兵器は決戦前に詰まる。
巨大ロボは強いかもしれない。
だが、強さを外へ出すには、扉が要る。
古代機動鎧グランタリオンは、微弱起動に成功した。
床に小さなひびが入った。
整備台の車輪は交換予定になった。
格納庫の扉は拡張検討になった。
アレンはまだ乗れなかった。
操縦席の虫は追い出された。
翌朝。
王都技術庁から、正式な受領書が届いた。
古代機動鎧グランタリオン再起動準備計画。
床補強、扉拡張、整備台修理、操縦席清掃、起動文翻訳、緊急停止手順。
そのすべてに、俺の確認印が押されていた。
つまり、こちらの仕事はいったん終わった。
巨大ロボは、動かなかった。
だが、動かさなかったから壊れなかった。
「次に出てくる時は、ちゃんと扉を通れるといいですね」
リナが言った。
「そうだな」
「アレンさん、乗りたそうでしたけど」
「床が先だ」
アレンは黙って頷いた。
かなり成長した。
物語は、きれいに一区切りを迎えた。
そう。
ここで終わっても、何の問題もない。
俺たちの床補強は、これからだ。
「乗る前に扉を測れよ」
第二部・完




