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名作をパク――参考にすれば、名作になるに決まってるじゃない!  作者: チンポジ博士


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第43話 ドラゴンの片づけに山場がありません

名作をパク――参考にすれば、名作になるに決まってるじゃない!

第43話 ドラゴンの片づけに山場がありません



昼過ぎ。


朝から続く解体作業の中で、ドラゴンはまだそこにあった。


ただし、昨日の夜よりは少しだけ小さくなっていた。


尾はない。


片翼もない。


村道は、かろうじて人が通れる程度には空いている。


だが、胴体はまだ残っている。


もう片方の翼も残っている。


脚も残っている。


頭も残っている。


牙も、角も、爪も、鱗も、内臓も、血も、魔石も、全部まだ残っている。


つまり、だいたい残っていた。


「……減ってますか?」


リナが言った。


「減ってはいる」


俺は答えた。


「でも、まだほとんどありますね」


「あるな」


「これ、朝からずっとやってるんですよね?」


「やっている」


「やっているのに、まだありますね」


「ドラゴンだからな」


リナは、しばらくドラゴンの胴体を見つめた。


そして小さく言った。


「強いですね、ドラゴン」


「死んでからも強い」


本当にそうだった。


生きているドラゴンは、炎を吐き、空を飛び、村を焼き、アレンと戦った。


死んだドラゴンは、道を塞ぎ、血を流し、臭いを出し、所有権を発生させ、解体場所と処理費と商人と税務を呼び込んだ。


方向性が違うだけで、死んでも厄介だった。


アレンは朝からずっとドラゴンのそばにいた。


昨日の夜は疲れ切っていたはずなのに、ちゃんと起きてきた。


顔に疲労はある。


腕にも傷が残っている。


マントの焦げ跡も残っている。


それでも逃げなかった。


「次は胴体か」


アレンが言った。


「胴体の前に、残った翼と脚だ」


俺は作業表を見た。


「胴体は最後。先に動かせる部分を減らす。血抜きも進める。魔石はまだ触らない」


「なぜだ?」


「魔石を抜くと、残った魔力の流れが変わる可能性がある」


ミリアがうなずいた。


「そこは私も同意。大型魔物の魔石は、下手に抜くと体内魔力が暴れることがあるわ」


アレンが少し顔をしかめた。


「死んでいるのにか」


「死んでいても魔力は残る」


ミリアは肩をすくめた。


「人間だって、死んだ後に荷物が残るでしょ」


「妙に分かりやすいな」


「ユートのせいね」


俺のせいではない。


たぶん。


採石場は、すでに臨時解体場になっていた。


朝のうちに運んだ尾と、昨日の片翼が、石の台の上に置かれている。


周囲には縄。


立入禁止の札。


血液用の桶。


石灰。


布。


大鋸。


楔。


滑車。


丸太。


素材台帳。


商人の仮見積もり箱。


そして、なぜか村の子供が近づかないように置かれた「ドラゴン見学はここまで」という板。


リナがその板を見て言った。


「見学前提なんですね」


「来るからな」


実際、もう何人か来ていた。


子供。


若者。


老人。


遠巻きに見る村人たち。


昨日の英雄譚の続きが見たいのだろう。


だが、今日は英雄譚ではない。


解体だ。


「近づくなよ!」


ガルドが声を張った。


「鱗も牙も触るな! 血の桶にも近づくな!」


ガルドが言うと、みんな素直に下がる。


剣士の低い声は、こういう時に効く。


セイルは作業前に簡単な祈りを捧げていた。


「命を奪ったものを、無駄にせず扱えますように」


薬師と猟師が頭を下げる。


鍛冶屋も静かに頷く。


ミリアは魔力の残り方を確認している。


リナは作業台帳を持って、項目を読み上げる係になっていた。


アレンは丸太を運んでいる。


勇者が丸太を運ぶ姿にも、村人たちはもうあまり驚かなくなっていた。


慣れというのは早い。


「ユートさん」


リナが台帳を見ながら言った。


「今日は、何か山場あります?」


「ないほうがいい」


「でも、話としては?」


「話としてもないほうがいい」


リナは少し首をかしげた。


「いいんですか?」


「作業に山場を作るな。事故になる」


その時、王都出版社の編集者が現れた。


なぜいる。


昨日のドラゴン討伐の噂を聞きつけたらしい。


横には学院広報部の女性もいる。


手には記録水晶。


「勇者アレン様のドラゴン討伐記録を取材に参りました!」


広報部の女性が言った。


俺は額を押さえた。


「昨日来てください」


「昨日は間に合いませんでした」


「今日は解体です」


「だから来ました!」


「なぜ」


編集者が眼鏡を押し上げた。


「英雄譚の後片付けは、読者にとって新鮮です」


「新鮮なのは今だけです。午後には臭いが強くなります」


「そこも含めて記録します」


「やめたほうがいい」


広報部の女性は水晶を構えた。


「本日の見どころは?」


俺は作業表を見せた。


「残翼分離、右後脚分割、血液処理、内臓取り出し準備、採石場側の排水誘導、魔石保護、鱗分類、仮見積もり前の素材台帳作成」


広報部の女性は固まった。


「……絵面が地味です」


「地味だから安全なんです」


編集者はむしろ目を輝かせた。


「いいですね」


「いいんですか」


「山場がない作業を、いかに読ませるか。編集者の腕が試されます」


「試さなくていいです」


ミリアが横から笑った。


「ユート、諦めなさい。もう記録されるわよ」


「困る」


「鍋の人から、ドラゴン解体の人になるかもね」


「もっと困る」


アレンが近づいてきた。


「俺は何をすればいい?」


広報部の女性が即座に水晶を向ける。


「勇者様、今日の意気込みを!」


アレンは一瞬だけ勇者の顔になった。


だが、俺を見た。


「ユート」


「そこの桶を運べ」


「分かった」


アレンは桶を持った。


広報部の女性が固まった。


「勇者様が、桶を……」


「昨日ドラゴンを倒したから、今日は桶だ」


アレンは少しだけ笑った。


「そういうことだ」


かなり良い顔で言った。


水晶がその顔を映していた。


これはこれで、格好いいかもしれない。


作業が再開された。


まずは残った翼。


翼膜は大きい。


破れてはいるが、まだ素材として使えるらしい。


防水布。


軽量帆。


魔力を通す幕。


高級雨具。


用途は多い。


つまり雑に切れない。


鍛冶屋と猟師が切断位置を決める。


ミリアが魔力の流れを見て、どこを切れば暴れないか確認する。


ガルドが大鋸を支える。


アレンと村の若者たちが滑車を準備する。


リナが記録する。


「残翼処理、開始」


「開始時刻、昼三つ目の鐘」


「作業者、鍛冶屋、猟師、ガルド、アレン、村人四名」


「補助、ミリア、セイル、ユート」


「見物人、柵外」


「商人、柵外」


商人が不満そうに手を上げた。


「私は見物人ではなく、買い取り希望者です」


「柵外」


「はい」


リナは淡々と記録した。


翼の切断は、派手ではなかった。


時間がかかった。


硬い筋。


厚い皮。


滑る血。


ときどき魔力がぱちりと弾ける。


そのたびミリアが押さえる。


セイルが腐敗遅延と浄化を重ねる。


ガルドが鋸を引く。


アレンが滑車の縄を引く。


村人が支える。


俺は血の流れを見て、桶の位置を指示する。


「そこ、桶を左に」


「布を追加」


「血が石の溝を越える。石灰」


「子供を下げて」


「商人も下がって」


「私は子供では」


「商人も下がって」


翼が外れた時、歓声は起きなかった。


全員が疲れていたからだ。


ただ、ほっとした空気が流れた。


「山場がないですね」


広報部の女性が小声で言った。


「安全に外れたからです」


「でも、記録水晶としては」


「血が噴き出して誰かが叫ぶほうがいいですか?」


「よくないです」


「なら成功です」


編集者が横でメモしていた。


「山場がないことが成功」


「書かないでください」


「書きます」


次は右後脚。


これは翼より重い。


骨が太い。


筋肉が厚い。


鱗も硬い。


しかも、切り離した後に運ぶのが大変だ。


丸太を噛ませ、滑車を組み直し、縄を二重にする。


アレンは、もう完全に作業員の一人になっていた。


「この縄でいいか?」


「駄目だ。擦り切れている」


「こっちは?」


「そっちはいい」


「結びは?」


「ガルドに確認させろ」


ガルドが縄を見て頷く。


「使える」


アレンはすぐに村人へ指示した。


「こちらを使う。二人は支えに回れ。無理に引くな。合図で合わせる」


村人たちが動く。


アレンの声は通る。


昨日の戦闘で、村人たちはアレンを信頼している。


今日の作業でも、その信頼は効いていた。


俺は、それを見ていた。


勇者の声は、戦場だけで役に立つわけではない。


人を動かす。


落ち着かせる。


危ない時に止める。


それも力だ。


「アレン、合図を任せる」


俺は言った。


アレンが少し驚いた顔をした。


「俺でいいのか」


「村人が一番聞く」


「分かった」


アレンは縄を持つ全員を見回した。


「俺の合図で引け! 急ぐな! 一度で動かそうとするな! 少しずつだ!」


村人たちが頷く。


「引け!」


縄が張る。


脚が少し動く。


丸太が軋む。


血がにじむ。


誰かが滑りかける。


「止め!」


アレンが叫ぶ。


全員が止まる。


いい判断だった。


そのまま引いていたら、一人転んでいた。


「足場を直せ!」


ガルドが石を動かす。


リナが砂を撒く。


セイルが滑った村人の足を確認する。


怪我はない。


また引く。


少しずつ。


本当に少しずつ。


ドラゴンの脚が、採石場の石台へ動いていく。


地味だ。


非常に地味だ。


だが、誰も怪我をしていない。


それが大事だった。


昼の休憩は、もう終わっていた。


だから、次に止めたのは水分補給と刃物の手入れのためだった。


疲労確認。


刃物の手入れ。


縄の確認。


血液処理。


石灰追加。


見物人の整理。


商人の位置確認。


「商人の位置確認って何ですか」


商人が聞いてきた。


「近づいていないかの確認です」


「信用がない」


「ありますか?」


「努力します」


「では柵外で」


商人は柵外に戻った。


休憩用に出されたのは、大鍋で作った麦粥だった。


ドラゴン肉ではない。


まだ食べていいか分からないからだ。


薬師が調べている。


魔力汚染。


寄生虫。


毒性。


火入れ。


保存方法。


全部確認してからでないと食べられない。


リナが粥を食べながら言った。


「ドラゴン肉って、倒したらすぐ食べるものだと思ってました」


「物語ならな」


「現実だと?」


「検査してから」


「夢がないですね」


「腹痛よりいい」


ミリアが言った。


「魔力の通った肉は、変な反応することがあるからね。火を通せば全部安全、とは限らないわ」


セイルも頷いた。


「薬になるものは、毒にもなります」


ガルドは黙々と食べている。


アレンは村人と同じ列に座って、同じ粥を食べていた。


村長が少し恐縮していたが、アレンは気にしていなかった。


「昨日の宴より、今日の粥のほうがうまいかもしれん」


アレンが言った。


村人たちが笑った。


疲れた後の飯はうまい。


それは勇者も同じらしい。


午後の後半。


作業はさらに地味になった。


内臓処理の準備。


これが一番絵面として厳しい。


臭い。


重い。


扱いが難しい。


薬材になるものもある。


捨てるものもある。


毒性があるかもしれないものもある。


村の薬師だけでは判断できない部分があるため、王都へ確認用の小片を送ることになった。


つまり、また梱包である。


「内臓サンプルを送るんですか」


リナが顔をしかめた。


「送る」


「どうやって?」


「漏れない容器に入れる。外側を油紙で包む。内容物名、採取位置、時刻、担当者、危険性不明の札をつける」


「完全に荷物ですね」


「荷物だ」


ミリアが小声で言った。


「ドラゴンの内臓まで荷物になるのね」


「運ぶなら荷物だ」


「この作品、何でも荷物になるわね」


「世界はだいたい荷物でできている」


神の声が響いた。


『それは言い過ぎだ』


「神様に否定されました」


「でしょうね」


内臓処理では、さすがに見物人を完全に下げた。


広報部の水晶も下げた。


編集者だけは見たがったが、薬師に止められた。


「見ないほうがいい」


薬師の一言は重かった。


編集者は下がった。


夕方に近づいても、何も起きなかった。


いや、作業はずっと起きていた。


鱗を剥がす。


牙を測る。


爪を布で包む。


血液を石灰処理する。


内臓の一部を封印容器へ入れる。


魔石周辺を触らないよう印をつける。


素材台帳に番号を振る。


商人の仮見積もりはまだ受け付けない。


王都への連絡便を出す。


採石場の外側に見張りを立てる。


全部やった。


ただ、物語的な山場はなかった。


誰も叫ばない。


魔物も来ない。


商人も乱入しない。


魔石も暴走しない。


アレンが再び必殺技を放つこともない。


ただ、決めた手順通りに進んだ。


夕方、広報部の女性が言った。


「本当に、何も起きませんでしたね」


「起こさなかった」


俺は言った。


「それが今日の成果です」


編集者が静かに頷いた。


「山場がない作業ほど、実務では成功している」


「書きましたね」


「書きました」


「まあ、今日はいいです」


本当にそうだった。


今日の作業に山場はいらない。


山場とは、だいたい予定外のことだ。


血が流れすぎる。


縄が切れる。


誰かが怪我をする。


魔石が暴れる。


素材が盗まれる。


腐敗が進む。


そういうものだ。


何も起きないなら、それでいい。


夕方。


ドラゴンの胴体は、ようやく大きく開かれた。


内臓の処理も一部終わった。


魔石はまだ体内に残っている。


だが、周囲の魔力はかなり落ち着いた。


採石場には、分類された素材が並んでいた。


尾。


翼。


爪。


牙。


鱗。


血液。


薬材候補。


廃棄物。


封印容器。


台帳番号。


札。


札。


札。


すべてに札がついている。


リナが言った。


「荷札だらけですね」


「札がないと、後で何が何だか分からなくなる」


「ドラゴンも、最後は荷札なんですね」


「最後ではない。まだ魔石が残っている」


「本当に長いですね」


「ドラゴンだからな」


アレンは、採石場の端に座り込んでいた。


泥。


血。


汗。


焦げたマント。


かなり疲れている。


だが、顔は晴れていた。


「ユート」


「何だ」


「今日は、昨日より地味だった」


「ああ」


「昨日より疲れた気がする」


「たぶん正しい」


「でも、村人は昨日より安心しているように見える」


俺は周囲を見た。


村人たちは疲れていた。


だが、昨日の夜の興奮とは違う、落ち着いた顔をしている。


道は少し戻った。


素材は整理された。


血は処理された。


危険区域は囲われた。


復興費の見通しも立ってきた。


ドラゴンは、ただの恐怖ではなく、扱えるものになりつつあった。


「安心は、片付けから来ることもある」


俺は言った。


アレンは頷いた。


「そうか」


「昨日、お前は村を救った」


「ああ」


「今日、お前は村を戻している」


アレンは少し黙った。


それから、小さく笑った。


「それも勇者の仕事か」


「たぶん」


「なら、悪くない」


「かなり地味だぞ」


「知っている」


いい顔だった。


昨日の英雄の顔とは違う。


今日の作業後の顔だった。


それも悪くなかった。


夜。


村の広場では、また大鍋が出た。


今日は宴ではない。


作業飯でもない。


どちらでもあるような飯だった。


麦粥と焼いた根菜。


少しだけ干し肉。


温かい湯。


村人、俺たち、作業を手伝った者、全員が同じものを食べた。


広報部の女性は、今日の記録を見返していた。


「記事タイトル、どうしましょう」


編集者が言った。


「勇者、ドラゴンを倒す。翌日、桶を運ぶ」


「それで売れますか?」


「売れます」


「本当ですか?」


「今の読者は、桶を運ぶ勇者を見たいのです」


アレンが粥を吹きかけた。


「見たいのか?」


俺は言った。


「見たいらしい」


「昨日の一撃ではなく?」


「それも見たい。だが、今日の桶も見たい」


アレンは真剣に悩んでいた。


勇者像が揺れているのかもしれない。


だが、悪い揺れではない。


俺は木札に触れた。


「神よ。今回はどうでしたか」


『よい無事故作業だった』


「本当に何も起きませんでした」


『起きないようにした』


「はい」


『山場とは、事故の別名であることもある』


「今回の教義ですか」


『採用』


「山場を作るな、もですか」


『採用』


「物語としては怒られそうです」


『生きて戻れば、物語は続く』


「それは強いですね」


『採用』


「自分で採用するんですね」


神は少し満足げだった。


翌朝。


ドラゴンは、まだ少しそこにあった。


だが、最初に見た山のような姿ではなかった。


尾はない。


翼もない。


脚も一部外されている。


内臓処理も進んでいる。


素材は採石場に並び、台帳に記録されている。


村道は通れるようになった。


血の跡には石灰が撒かれている。


柵には立入禁止札。


商人は見積書を作っている。


王都への連絡便は戻っていない。


魔石は、まだ最後の山場として残っている。


だが、それは次の作業の話だ。


この日の作業は、事故なく終わった。


今日は、何も起きなかった。


いや、たくさん起きた。


ただ、事故は起きなかった。


それで十分だった。


こうして俺たちは知った。


ドラゴンの片づけは、山場だけでできているわけではなかった。


鋸がある。


縄がある。


丸太がある。


桶がある。


石灰がある。


布がある。


台帳がある。


荷札がある。


立入禁止札がある。


休憩がある。


水分補給がある。


そして、何も起こさないための手順がある。


物語では、山場が求められる。


だが実務では、山場はたいてい事故である。


縄が切れる。


血が流れる。


誰かが滑る。


魔石が暴れる。


商人が勝手に触る。


子供が近づく。


そういうものを、起こさないために準備する。


だから、地味な一日は失敗ではない。


何も起きなかった一日は、誰かが何かを起こさないように動いた一日だった。


ドラゴンの残翼は処理された。


右後脚も動いた。


内臓の一部は封印容器に入った。


血液処理は進んだ。


素材には荷札がついた。


アレンは桶を運んだ。


広報部は山場のなさに困った。


編集者はなぜか喜んだ。


村道は少し戻った。


物語は、きれいに一区切りを迎えた。


そう。


ここで終わっても、何の問題もない。


俺たちの無事故作業は、これからだ。


「山場を作るなよ」


第二部・完

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