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名作をパク――参考にすれば、名作になるに決まってるじゃない!  作者: チンポジ博士


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第38話 時間停止魔法を使ったら、労働時間は?

名作をパク――参考にすれば、名作になるに決まってるじゃない!


第38話 時間停止魔法を使ったら、労働時間は?


「時間停止魔法の運用について、相談があります」


王都労務調整局の職員は、そう言った。


俺は黙った。


リナも黙った。


勇者アレンは少しだけ目を輝かせた。


ミリアは明らかに嫌な予感がする顔をした。


セイルは静かに祈った。


ガルドは相談室の時計を見ていた。


いつも通りだった。


王都労務調整局。


労働時間、休憩、報酬、危険手当、夜間作業、職人組合との調整を行う役所らしい。


最近、王都には知らない役所が増えている気がする。


いや、もともとあったのだろう。


こちらが巻き込まれるようになっただけだ。


リナが小声で言った。


「見たことあります」


「言うな」


「時間停止魔法です」


「言うな」


「時間を止めて、その間にすごい作業をするやつです」


「言うな」


「でもユートさんの場合、勤務時間を気にしそうですね」


「そこだ」


職員は、かなり疲れた顔をしていた。


机の上には書類が山積み。


時計が三つ。


砂時計が二つ。


魔力計が一つ。


そして、妙に分厚い勤務記録簿。


嫌な予感しかしない。


「何が起きましたか」


俺は聞いた。


職員は書類を開いた。


「王都魔導師団の支援魔法士が、緊急倉庫修復のために時間停止魔法を使用しました」


「倉庫修復」


「はい。北方補給物資の一部を保管する臨時倉庫で、棚が崩れかけまして」


「危ないですね」


「危険でした。そこで魔法士が周囲の時間を三分間停止し、その間に棚を支え、荷崩れを防ぎました」


「良い判断では?」


「現場判断としては良いです」


「では何が」


職員は深く息を吐いた。


「その三分間、本人の体感では二時間半作業していたそうです」


部屋が静まった。


アレンが言った。


「二時間半」


ミリアが眉をひそめる。


「時間停止中に本人だけ動いたのね」


セイルが言う。


「体力は消耗したのでしょうか」


職員は頷いた。


「かなり」


ガルドが言った。


「なら労働だ」


「そこです」


職員は机の書類を叩いた。


「外部時間では三分。本人の体感と消耗では二時間半。勤務表に何分と書くべきかで揉めています」


俺は額を押さえた。


かなり王都らしい問題になってきた。


「さらに、時間停止中に休憩を取ったのか、残業になるのか、危険手当がつくのか、時間停止中に壊した道具は誰の責任か、停止範囲内の荷物は動いた扱いになるのか、が未整理です」


「多いですね」


「多いです」


ミリアが言った。


「魔法って、便利なほど面倒になるわね」


「時間そのものをいじるからな」


俺は言った。


「これは面倒です」


職員はうなずいた。


「そこで、現場運用と記録の整理をお願いしたく」


「俺たちは労務調整員ではありません」


「しかし、荷物、補給、危険物、文体、瓶、素材、禁書、右手、魔眼の運用を整理してきたと聞いています」


「並べるとひどいな」


「実績です」


便利な言葉だ。


まず、当事者に話を聞くことになった。


魔導師団の支援魔法士。


名はレミア。


二十代後半の女性。


顔色が悪い。


目の下にくま。


手には温かい茶。


かなり疲れている。


「すみません。私が余計なことをしたせいで」


「余計ではありません」


俺は言った。


「倉庫は助かったんですよね」


職員が頷く。


「はい。補給物資の損失は防がれました」


「なら現場判断は評価すべきです」


レミアは少し安心した顔をした。


「でも、記録が」


「記録は必要です」


「はい」


「時間停止中、何をしましたか」


レミアは書類を見ながら答えた。


「崩れかけた棚に支柱を入れました。落ちかけた箱を戻しました。濡れそうだった布袋を移動しました。割れ物箱を床に下ろしました。最後に、崩落防止の魔法楔を打ちました」


「一人で?」


「はい。時間停止中に動けるのは術者だけでした」


「重い箱は?」


「浮遊補助で」


「魔力消耗は?」


「大きいです」


「身体疲労は?」


「かなり」


「怪我は?」


「腰と肩が」


腰。


また腰。


セイルがすぐに聞いた。


「診断は?」


「筋疲労と軽い魔力枯渇です」


「休むべきですね」


レミアは少し困った顔をした。


「でも、外から見れば三分なので」


アレンが言った。


「三分でも本人は二時間半働いたのだろう」


「はい」


「なら休め」


勇者らしい。


かなり良い。


俺は紙を出した。


「まず整理します」


時間停止作業の論点


一、外部時間。


二、術者体感時間。


三、身体消耗。


四、魔力消耗。


五、作業成果。


六、危険度。


七、休憩と回復。


八、責任範囲。


九、記録方法。


「この九つを分けます」


職員が急いで書く。


「外部時間だけで勤務を計算すると、術者の消耗を無視する」


「はい」


「体感時間だけで計算すると、他の職員との勤務表がずれる」


「はい」


「なら二種類記録する」


職員が顔を上げた。


「二種類?」


「外部経過時間と、術者作業時間」


ミリアが頷いた。


「魔法の中と外で、時間の物差しが違うのね」


「そうだ」


リナが言う。


「補給でいう、重量と容積が別、みたいな?」


「近い」


ガルドが言う。


「剣なら、実戦時間と疲労は別だ」


「それも近い」


セイルが言う。


「治療でも、短時間で大きく魔力を使えば休息が必要です」


「そうです」


俺は書いた。


外部経過時間:三分。

術者作業時間:二時間三十分相当。

身体・魔力消耗:二時間三十分相当以上。


職員はうなずいた。


「分けると分かりやすいです」


「勤務表には外部時間。労務負荷には術者作業時間。休憩判定には消耗値」


「消耗値」


「魔力計と診断で見る」


レミアが少し目を開いた。


「三分扱いではなくなるんですか」


「するべきではないです」


レミアは少しうつむいた。


「よかった」


本当に困っていたらしい。


次に、時間停止中の作業責任。


時間停止中、周囲は止まっている。


動けるのは術者だけ。


つまり、術者が何を動かしたか、他人は見ていない。


記録が必要だ。


「作業前の記録はありましたか」


俺は聞いた。


レミアは首を振った。


「緊急だったので」


「仕方ないです。ただ、次からは停止前に一言宣言と記録札を投げる」


「記録札?」


「停止開始時刻、目的、予定停止範囲。全部は無理でも、目的だけでも」


リナが言った。


「『棚崩落防止のため時間停止』みたいに?」


「そう」


ミリアが言う。


「停止後に、動かしたものの一覧も必要ね」


「はい」


時間停止後記録


一、停止理由。


二、停止範囲。


三、術者。


四、体感作業時間。


五、動かした物。


六、破損物。


七、魔力消耗。


八、休憩指示。


「荷物を動かすなら台帳に残す」


俺は言った。


「時間が止まっていても、荷物は動いている」


レミアが頷いた。


「確かに」


次に、時間停止中の休憩。


レミアは二時間半作業したが、休憩を取らなかった。


なぜか。


「時間停止中に休むと、外の時間がもったいなくて」


「止まってるのに?」


リナが首をかしげた。


「止まっているからこそ、早く終わらせなきゃと思って」


「心理的に分かる」


ミリアが言った。


「魔力維持もしてるから、長引くと焦るのよね」


「つまり休みにくい」


「そう」


これは危険だ。


時間停止は、休憩を消す魔法ではない。


むしろ、休憩を忘れやすくする魔法だ。


俺は書いた。


時間停止中も休憩は必要。

ただし、停止維持コストがあるため、長時間作業を前提にしない。


「時間停止は、長時間労働の道具ではなく、緊急短時間対応の道具にすべきです」


職員が強く頷いた。


「それです」


「通常業務の効率化に使い始めると危険です」


アレンが言った。


「三分で二時間働けるなら、便利だと思う者が出るのでは」


「出る」


ミリアが顔をしかめた。


「絶対出るわね」


セイルが静かに言った。


「それは、本人の時間を外から見えなくする働かせ方になります」


重い。


かなり重い。


その通りだ。


外から見れば三分。


本人は二時間。


これを濫用すれば、労働が見えなくなる。


「これは規程が必要です」


俺は言った。


職員はすでに書いている。


「はい」


時間停止魔法労務規程 草案


一、時間停止は緊急対応に限る。


二、通常業務の短縮目的で使用しない。


三、外部経過時間と術者作業時間を分けて記録する。


四、休憩判定は術者作業時間と消耗値で行う。


五、使用後は医務または魔力確認を受ける。


六、停止中に動かした物品を記録する。


七、時間停止中の作業を「三分労働」と扱わない。


八、術者本人の同意なく使用を命じない。


九、連続使用禁止。


十、使用後の回復時間を勤務計画に入れる。


「八が大事です」


セイルが言った。


「本人にしか負担が見えにくいからですね」


「はい」


レミアは小さく言った。


「これがあると助かります」


アレンが真剣な顔で言う。


「勇者命令で時間停止を使え、と言うのも駄目か」


「緊急時はありえます。ただし、負担を見積もる必要があります」


「分かった」


「便利だから頼む、は駄目」


「分かった」


次に、実地検証。


王都軍務局の倉庫で、小規模な時間停止訓練を行う。


目的は、作業ではなく記録。


停止する物は、机の上の木箱三つ。


レミアが術式を準備する。


俺たちは外で記録。


「開始前宣言を」


レミアは言った。


「棚上木箱三点の落下防止訓練のため、局所時間停止を行います。停止範囲、机周辺。予定外部時間、十秒。予定体感作業時間、五分以内」


よし。


かなりよい。


砂時計を置く。


魔力計を置く。


レミアが術式を起動する。


空気が少し歪む。


一瞬、音が遠くなる。


十秒。


解除。


机の上の木箱は、きれいに並び直されていた。


レミアは少し息を吐いている。


「体感四分ほどです」


「消耗は?」


「軽いです」


「動かした物は?」


「木箱三点。位置変更。破損なし」


リナが記録。


ミリアが魔力計を見る。


「消耗軽度。休憩五分でよさそう」


セイルが確認。


「顔色は問題ありません」


ガルドが言う。


「外からは一瞬だな」


アレンが言う。


「本当に、見えない労働だ」


「そうだ」


俺は言った。


「だから記録しないと危ない」


次に、わざと休憩を挟む訓練。


時間停止中、レミアは作業後に一分休む。


外部では十五秒。


戻ってきたレミアは言った。


「休むのに罪悪感があります」


「止まっていても休む」


「はい」


「術式維持がきついなら、中断する」


「はい」


時間停止中に無理に休む必要はない。


短く止めて、外で休むほうが良い場合もある。


ここも整理する。


長時間止め続けるより、短時間停止を複数回に分け、外部休憩を挟む。


ただし連続使用は危険。


結局、時間停止は万能ではない。


便利だが、疲れる。


かなり疲れる。


その日の午後、軍務局で会議が開かれた。


労務調整局。


魔導師団。


軍務局。


補給局。


医務局。


封印局。


なぜ封印局も。


「時間停止中に禁書を読まれる可能性があるため」


局長が言った。


なるほど。


嫌な応用だ。


「時間停止中に、閲覧禁止資料を見ることは?」


「禁止です」


局長は即答した。


「停止中でも許可は必要」


当然だ。


文体担当官も来ていた。


「時間停止中に作成された文書の日時表記も問題になります」


また文書。


「外部日付と術者体感日付がずれる場合があります」


「長時間停止なら」


「はい」


「長時間停止を禁止寄りにすれば減ります」


「そうですね」


結局、時間停止魔法は、王都のあらゆる規程に刺さる。


労働。


荷物。


記録。


許可。


危険物。


文書。


医務。


便利すぎる魔法は、全ての運用に穴を開ける。


ミリアが小声で言った。


「時間停止って、夢の魔法のはずなのに」


「現場に入ると地獄だな」


「本当に」


規程の最後に、初心者向け標語を作ることになった。


候補。


「止めても働いた時間は消えない」


かなり良い。


「止めた時間も、疲労は進む」


これも良い。


「三分でも二時間なら二時間」


分かりやすい。


最終案。


止めた時間も、働いた時間。


全員が頷いた。


かなり重い標語だ。


レミアは少し泣きそうな顔で頷いた。


「ありがとうございます」


夕方、労務調整局の掲示板に、新しい規程が貼られた。


時間停止魔法の緊急使用について


一、使用は緊急時に限る。


二、外部時間と術者体感時間を分けて記録する。


三、使用後は休憩と診断を行う。


四、通常業務の時短目的で使用しない。


五、止めた時間も、働いた時間。


最後が強い。


かなり強い。


帰り道、アレンが言った。


「時間停止があれば、魔王を倒すのも楽になると思っていた」


「使い方による」


「だが、使った者は疲れる」


「そうだ」


「外から見えない疲れを、無視してはいけない」


「その通り」


アレンは少し考え込んだ。


勇者も、人に命令する側になる。


この理解は大事だ。


ミリアが言う。


「魔法士団も、これから大変ね」


「でも、レミアさんは助かるだろう」


セイルが頷く。


「見えない負担に名前がついたのは大きいです」


リナが言う。


「外部時間と体感時間、両方記録ですね」


ガルドが言う。


「疲れは止まらない」


「そうだ」


宿に戻ると、広報部の女性が待っていた。


もう、時計を見る必要もない。


いる。


「聞きました! 時間停止魔法の労務規程を作ったそうですね!」


「聞くのが早い」


「題名はこれで!」


紙が出た。


時間停止魔法を使ったら、労働時間の計算で揉めました


俺は黙った。


リナが笑った。


「そのままですね」


「そのままだな」


ミリアが言う。


「でも、本当に揉めてたわ」


セイルが言う。


「大事な揉め方でした」


ガルドが言う。


「働いたなら記録する」


アレンが言う。


「止めた時間も、働いた時間」


かなり浸透している。


俺は木札に触れた。


「神よ。今回はどうでしたか」


『よい時間だった』


「時間停止でしたが」


『止めても、使った者の時間は進む』


「はい」


『外から見えぬ荷ほど、記録せよ』


「重いですね」


『時間は最も軽く見えて、最も重い荷だ』


「詩的ですね」


『だが勤務表に書け』


「実務に戻った」


『実務だ』


「教義は?」


『止めた時間も、働いた時間』


「採用ですね」


『採用』


その夜、荷物台帳に記録した。


時間停止魔法運用記録


一、外部時間と術者体感時間を分ける。


二、消耗値を見る。


三、時間停止は緊急対応用。


四、通常業務の短縮に使わない。


五、停止中に動かした荷物を記録する。


六、休憩は消えない。


七、長時間停止より短時間停止と外部休憩。


八、本人同意なく命じない。


九、止めた時間も、働いた時間。


十、見えない労働ほど記録する。


リナが十を見て言った。


「これ、時間停止以外にも当てはまりそうですね」


「そうだな」


ミリアが言う。


「魔法の準備とか、見えないものね」


セイルが言う。


「治療後の消耗も」


ガルドが言う。


「見張りも」


アレンが言う。


「勇者の決めポーズの準備も」


全員が見た。


アレンは少し咳をした。


「冗談だ」


「ならよし」


聖剣が光った。


『時間停止中に我を抜けばどうなる』


「長いままだ」


『時間が止まってもか』


「止まっても長い」


『ぐぬ』


こうして俺たちは知った。


時間停止魔法は、夢の魔法だった。


三分で倉庫を救える。


落ちる荷物を戻せる。


崩れる棚を支えられる。


危機を止められる。


だが、止めた時間の中で働いた者は、ちゃんと疲れる。


外から三分でも、本人が二時間半動いたなら、それは二時間半の荷だった。


見えないからといって、消えたわけではない。


止まった時間の中にも、労働はある。


休憩はいる。


記録はいる。


同意はいる。


時間停止魔法の規程はできた。


レミアは三分扱いされずに済んだ。


倉庫は守られた。


勤務表には外部時間と術者作業時間が両方書かれることになった。


物語は、きれいに一区切りを迎えた。


そう。


ここで終わっても、何の問題もない。


俺たちの労働時間管理は、これからだ。


「止めても記録しろよ」


第二部・完

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