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名作をパク――参考にすれば、名作になるに決まってるじゃない!  作者: チンポジ博士


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第33話 ポーション作りはそれ以外が大変

名作をパク――参考にすれば、名作になるに決まってるじゃない!


第33話 ポーション作りはそれ以外が大変


「ポーション工房を見学しませんか?」


王都薬房の管理官は、そう言った。


俺は黙った。


リナも黙った。


勇者アレンは少しだけ興味を持った顔をした。


ミリアは薬瓶の棚を見ていた。


セイルは真剣に頷いた。


ガルドは床に落ちている小さなガラス片を見つけていた。


いつも通りだった。


王都神殿薬房。


セイルが褒美として優先利用権をもらった施設である。


白い壁。


薬草の匂い。


乾燥棚。


煮出し鍋。


濾過布。


棚に並ぶ瓶。


赤、青、緑、透明。


いかにもポーション作り。


いかにも「薬草を入れて、魔力を込めれば回復薬が完成する」やつである。


リナが小声で言った。


「見たことあります」


「言うな」


「ポーション作りです」


「言うな」


「薬草を煮て、きれいな瓶に入れるやつです」


「言うな」


「でもユートさんの場合、瓶の管理を見そうですね」


「そこだ」


薬房管理官は、痩せた女性だった。


髪をきっちりまとめ、白い手袋をしている。


動きに無駄がない。


かなりできる人に見える。


「先日の山裾の薬草ですが、試作品として持ち込まれました」


「もう来たんですか」


「はい。乾燥状態は悪くありません」


セイルが少し嬉しそうにする。


「よかったです」


管理官は頷いた。


「ただ、ポーション化するとなると、問題があります」


「薬草の品質ですか?」


セイルが聞く。


「品質は問題ありません」


「では?」


管理官は棚の瓶を見た。


「瓶です」


俺は頷いた。


「やはり」


アレンが不思議そうに聞く。


「瓶?」


「ポーションは液体だ。液体は容器がなければ運べない」


「それはそうだが」


「容器が割れたら終わりだ」


ガルドが床のガラス片を見せる。


「すでに割れている」


管理官は深くため息をついた。


「最近、冒険者からの需要が増えています。補給戦、武闘大会、遠征講習の影響で、回復薬を持つ者が増えたのは良いことです」


「良いことですね」


「ですが、瓶の扱いが雑です」


管理官は机に割れた瓶を並べた。


首が折れた瓶。


底が割れた瓶。


栓が抜けた瓶。


ラベルが剥がれた瓶。


中身が変色した瓶。


かなり嫌な見本だった。


「ポーションそのものを作る技術はあります。しかし、瓶、栓、ラベル、期限、保管温度、輸送、返却、洗浄、再利用。この管理が追いついていません」


ミリアが言った。


「地味ね」


「地味だから事故ります」


管理官は即答した。


かなり信頼できる。


セイルが一本の瓶を手に取る。


「これは栓が緩んでいますね」


「はい。荷袋の中で漏れました。中身は回復薬ですが、干し肉と混ざりました」


リナが顔をしかめる。


「回復する干し肉?」


「食べられません」


「ですよね」


管理官は別の瓶を示した。


「こちらはラベル剥がれです。回復薬か眠り薬か分からなくなりました」


アレンが真顔になる。


「戦場で間違えたら危険だ」


「はい」


「こっちは?」


ミリアが青い瓶を指す。


「冷却薬です。ただし、日光に当たり変質しました」


「使うと?」


「お腹を壊します」


「回復薬より先に腹薬がいるわね」


セイルは静かに言った。


「薬は、正しく届いて初めて薬です」


「その通りです」


管理官は大きな棚へ案内した。


「現在、王都薬房では新しいポーション瓶管理規格を作ろうとしています。そこで、荷物管理の視点を伺いたいのです」


また規格である。


最近、王都は何でも規格化している。


悪くない。


だが、だいたい俺が巻き込まれる。


「まず現行運用を見せてください」


「こちらです」


薬房の奥に、瓶置き場があった。


新品瓶。


洗浄済み瓶。


再利用待ち瓶。


破損瓶。


栓。


ラベル。


箱。


それぞれ棚にある。


一見、整理されている。


だが、近づくと問題が見えた。


新品瓶と洗浄済み瓶の棚が近すぎる。


栓のサイズが混じっている。


赤いラベルと橙のラベルが似ている。


期限印が小さい。


瓶箱の底に緩衝材が足りない。


破損瓶の箱に蓋がない。


危ない。


かなり危ない。


俺は紙を出した。


「分けます」


管理官は即座に筆を取った。


「はい」


「新品瓶、洗浄済み瓶、再利用待ち瓶、破損瓶を棚ごと分ける」


「はい」


「栓はサイズ別」


「はい」


「ラベルは色だけに頼らず形も変える」


「形」


「回復薬は丸、解毒薬は三角、眠り薬は黒枠、冷却薬は波線」


「はい」


「期限は瓶の首と箱の両方に」


「はい」


「戦場用は割れにくい外装」


「はい」


「返却制度を作る」


管理官が顔を上げた。


「返却制度」


「瓶が足りないなら、瓶を戻してもらう。返却時に少額返金か、次回割引」


管理官の目が輝いた。


「瓶保証金制度ですね」


「はい」


「それは有効かもしれません」


「ただし、破損瓶はそのまま受け取らず、破損箱へ。洗浄前の瓶は薬房内へ直接入れない」


「汚染防止ですね」


セイルが頷いた。


「薬房の清潔を守る必要があります」


次に、冒険者用の持ち運びを確認する。


管理官が、一般的なポーション携帯袋を見せた。


革の小袋。


瓶が三本入る。


だが、仕切りが弱い。


走ると瓶同士が当たる。


割れる。


「駄目です」


「やはり」


「仕切りを厚くする。瓶を縦に固定。取り出す方向を一定に。暗い場所でも種類が分かるよう、栓の形も変える」


リナが言った。


「触って分かるのはいいですね」


「戦闘中にラベルは読めない」


ガルドが頷く。


「手探りで分かるべきだ」


アレンが言った。


「勇者用に、すぐ飲める位置に」


「誤飲するぞ」


「それは困る」


「回復薬と眠り薬を間違えたら?」


アレンは黙った。


「触感で区別だな」


「そうだ」


ミリアが青い瓶を持ちながら言った。


「魔力反応で分ける手もあるけど、魔力がない人には使えないわね」


「全員が使える方法を基本にする」


「色と形と触感ね」


「そうだ」


管理官はどんどん書いている。


かなり速い。


この人もできる。


その時、薬房の外が騒がしくなった。


若い冒険者が駆け込んできた。


腕から血を流している。


仲間が支えている。


「回復薬を! 持ってたのに割れて!」


セイルがすぐ動く。


傷を見る。


「深くはありません。止血します」


管理官が薬を用意する。


俺は冒険者の荷袋を見た。


中は赤く濡れている。


回復薬の瓶が割れ、布と食料と混ざっていた。


ガラス片もある。


「どう持っていましたか」


冒険者は痛みに顔をしかめながら言う。


「荷袋にそのまま」


「そのまま」


「すぐ出せるように」


「割れて出ましたね」


「はい……」


責めても仕方ない。


だが、教材としては強い。


管理官は割れた瓶を回収し、破損箱へ入れる。


セイルが治療を終える。


冒険者はほっとした顔をする。


「助かりました」


「次から瓶ケースを使ってください」


俺は言った。


冒険者はうなずいた。


「はい」


「あと、食料と薬瓶を同じ袋に入れない」


「はい」


「ガラス片があるので、その干し肉は食べない」


冒険者は悲しそうな顔をした。


「干し肉……」


「命のほうが大事です」


「はい……」


アレンが小さく言った。


「これは分かりやすいな」


「事故は分かりやすい。起きる前に止めたい」


「そうだな」


管理官は冒険者に新しい試作ケースを渡した。


「これを使ってみてください。返却時に感想を」


「いいんですか?」


「代わりに、破損状況を報告してください」


「分かりました」


実地試験が始まった。


午後、薬房で瓶管理規格の試案を作ることになった。


王都薬房ポーション瓶管理規格・草案


一、薬種ごとに瓶形状を分ける。


二、ラベルは色、形、文字の三重表示。


三、栓は触感で区別。


四、期限は瓶と箱に記載。


五、保管温度を明記。


六、戦場携帯用ケースを必須化。


七、薬と食料を同じ袋に入れない。


八、返却瓶制度を導入。


九、破損瓶は破損箱へ。


十、洗浄前瓶は清潔区へ入れない。


十一、眠り薬と回復薬は棚を離す。


十二、暗所でも分かる触感マーク。


十三、瓶を投げない。


アレンが反応した。


「瓶を投げる者がいるのか」


管理官は真顔で言った。


「います」


部屋が静まった。


「なぜ」


「仲間に回復薬を渡すため、遠くから」


ミリアが額を押さえた。


「割れるに決まってるじゃない」


「たまに割れずに届きます」


「それで成功体験になるのね」


「はい」


「投げるな」


俺は言った。


十三は太字にしたい。


管理官がさらに言った。


「あと、飲む前に振る人がいます」


「なぜ」


「よく混ざりそうだから」


セイルが困った顔をした。


「薬によっては泡立ちます」


「注意書き追加」


十四、振るな。必要な薬だけ指示に従え。


「あと、栓を歯で開ける人が」


「やめろ」


ガルドが即答した。


十五、栓を歯で開けない。


規格はどんどん実務的になった。


ミリアが言った。


「ポーション作り回じゃなくて、完全に瓶回ね」


「瓶がなければポーションは届かない」


「それはそう」


セイルは真剣だった。


「薬房にとっては、とても大切です」


「そうですね」


その後、実際にポーション作りも見せてもらった。


薬草を選ぶ。


洗うものと洗わないものを分ける。


刻む。


煮出す。


濾す。


魔力を安定させる。


温度を見る。


色を見る。


香りを見る。


瓶を煮沸する。


乾かす。


注ぐ。


栓をする。


ラベルを貼る。


期限を押す。


箱へ入れる。


「作る作業より、容器と記録が多いですね」


リナが言った。


管理官は頷く。


「ええ。薬液ができても、瓶詰めに失敗すれば商品にはなりません」


セイルが小さく言う。


「治療も同じです。治す力だけでなく、届く形が必要です」


良い言葉だ。


かなり良い。


その時、ミリアが一本の瓶を見て言った。


「これ、少し魔力が揺れてる」


管理官が確認する。


「本当ですね。封入不良です」


瓶詰め直し。


原因は栓のサイズ違い。


栓棚で似たサイズが混じっていた。


やはり分ける必要がある。


管理官は顔をしかめた。


「早速、規格の必要性が出ましたね」


「現場で出る問題は強い」


夕方には、試作品の瓶ケースが三種類できた。


一、革製三本ケース。


二、木製六本箱。


三、布巻き携帯袋。


それぞれ利点がある。


革製は携帯しやすい。


木製は保護力が高い。


布巻きは軽いが衝撃に弱い。


アレンは革製を試す。


「取り出しやすい」


「種類を間違えるな」


「栓の形で分かる」


ガルドは木製箱を持つ。


「重いが守れる」


「補給隊向きだ」


リナは布巻き袋を触る。


「軽いけど、走ったら不安ですね」


「予備用だな」


ミリアは冷却薬の瓶を見て言う。


「温度管理用の小箱も必要じゃない?」


「そうですね」


管理官がすぐ書く。


十六、温度管理薬は専用小箱。


規格が増える。


規格は増えすぎると読まれない。


俺は言った。


「初心者用には三つだけにしましょう」


管理官が顔を上げる。


「三つ」


「割るな。間違えるな。期限を見る」


部屋が静まった。


管理官は深く頷いた。


「それが入口ですね」


「詳細規格は別紙で」


「はい」


チュートリアル妖精にも教えたほうがいい。


また仕事が増える。


夜、薬房の小会議室で、瓶管理規格の初版が完成した。


表紙。


王都薬房ポーション瓶管理規格 初版


副題。


割るな。間違えるな。期限を見ろ。


かなり良い。


管理官は満足そうだった。


「実務的です」


「実務ですから」


セイルが微笑んだ。


「これで、薬が届きやすくなりますね」


「はい」


「山裾の薬草も、いつかこの瓶に入るのですね」


管理官は頷いた。


「品質が安定すれば、十分使えます」


よかった。


豊作は、薬になって届く可能性が出た。


ただし、瓶がいる。


瓶は重要だ。


宿へ戻る途中、アレンが言った。


「ポーションは、飲めば回復する便利なものだと思っていた」


「飲めればな」


「割れていたら飲めない」


「ラベルが剥がれていたら飲めない」


「期限が切れていたら?」


「飲まないほうがいい」


「瓶が大事だな」


「そうだ」


ミリアが言う。


「魔法薬って、作る側ばかり注目されるけど、容器が普通に大事ね」


リナが言う。


「栓の形で分かるの、便利でした」


ガルドが言う。


「投げるな」


セイルが静かに頷いた。


「本当に、投げてはいけません」


全員が頷いた。


ポーション瓶は投げない。


重要な教訓だ。


宿に戻ると、広報部の女性が待っていた。


もう宿の常連だ。


「聞きました! 王都薬房でポーション瓶規格を作ったそうですね!」


「情報が早い」


「題名はこれですね!」


紙が出た。


ポーション作りより、瓶の管理が大変です


俺は黙った。


リナが笑った。


「そのままですね」


「そのままだな」


ミリアが言う。


「でも、かなり本当だったわ」


セイルが言う。


「薬は届いて初めて薬です」


ガルドが言う。


「瓶は投げるな」


アレンも頷いた。


「瓶は投げるな」


俺は木札に触れた。


「神よ。今回はどうでしたか」


『よい瓶だった』


「瓶ですか」


『薬液は瓶で旅をする』


「はい」


『瓶が割れれば、薬は荷袋の染みになる』


「嫌な表現ですね」


『事実だ』


「はい」


『薬は作って終わりではない。届いて、識別できて、飲めて、効いて初めて薬だ』


「その通りです」


『瓶を侮るな』


「教義ですか」


『採用』


「また増えましたね」


『割るな。間違えるな。期限を見ろ』


「薬房の副題ですね」


『よい』


神も気に入ったらしい。


その夜、荷物台帳に記録した。


ポーション瓶管理


一、薬は瓶で旅をする。


二、瓶が割れれば薬ではなく染み。


三、色だけに頼らない。


四、栓の形で区別。


五、期限は瓶と箱に書く。


六、薬と食料を同じ袋に入れない。


七、瓶を投げない。


八、栓を歯で開けない。


九、振るな。必要なら指示通り。


十、返却瓶制度は有効。


リナが見て言った。


「七と八、すごく基本なのに大事ですね」


「基本が守られないから規格になる」


ミリアが言う。


「人間、やるのね。瓶を投げるとか」


「便利なものほど雑に扱われる」


セイルが言う。


「薬瓶は、命の容器です」


それも台帳に書いた。


十一、薬瓶は命の容器。


いい言葉だ。


ガルドが言う。


「木製箱は少し重いが、戦場向きだ」


「補給隊用に必要だな」


アレンが言う。


「俺も革製ケースを一つ持つべきか」


「持つなら、種類を決めて、期限を確認しろ」


「分かった」


「あと投げるな」


「投げない」


聖剣が背中で光った。


『我も瓶を割らぬよう注意しよう』


「お前が荷袋の中で暴れると割れる」


『暴れぬ』


「長いから当たりやすい」


『また長い』


「事実だ」


聖剣は少し不満そうだった。


こうして俺たちは知った。


ポーションは、薬草と魔力だけでできているわけではなかった。


瓶。


栓。


ラベル。


期限。


箱。


温度。


衝撃。


返却。


洗浄。


再利用。


それらがそろって、ようやく薬は人の手に届く。


作る技術だけでは足りない。


持ち歩けなければ使えない。


識別できなければ飲めない。


割れれば、ただの染みになる。


ポーション瓶管理規格は初版ができた。


山裾の薬草は試作品になった。


冒険者は干し肉を一つ失った。


アレンは瓶を投げないと誓った。


セイルは薬瓶を命の容器と呼んだ。


物語は、きれいに一区切りを迎えた。


そう。


ここで終わっても、何の問題もない。


俺たちの瓶管理は、これからだ。


「投げるなよ」


第二部・完

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