表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
名作をパク――参考にすれば、名作になるに決まってるじゃない!  作者: チンポジ博士


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/56

第32話 畑が、大変なことになりました!

名作をパク――参考にすれば、名作になるに決まってるじゃない!


第32話 畑が、大変なことになりました!



「畑が、大変なことになりました!」


王都不動産紹介所の職員は、そう言って宿へ飛び込んできた。


俺は黙った。


リナも黙った。


勇者アレンはパンを持ったまま止まった。


ミリアは紅茶を置いた。


セイルは祈りを中断した。


ガルドは窓の外を確認した。


いつも通りだった。


ただし、今回は宿の食堂である。


朝食中である。


できれば、食事中に「大変なこと」は来てほしくない。


「畑とは?」


俺は聞いた。


「先日ご相談いただいた、山裾の空き家です」


「あの夫婦の?」


「はい」


「まだ入居前の準備期間では?」


「はい。そのはずだったのですが」


職員は息を整え、言った。


「試験的に植えた薬草と野菜が、ものすごく育ちました」


リナが少し嬉しそうにした。


「豊作ですか?」


「豊作です」


「よかったですね」


「よくないんです」


「よくない?」


職員は青ざめた顔で言った。


「倉庫がありません。販路もありません」


リナが小声で言った。


「見たことあります」


「言うな」


「農業チートです」


「言うな」


「異世界で作物がすごく育つやつです」


「言うな」


「でもユートさんの場合、収穫後に困りそうですね」


「そこだ」


ミリアが呆れた顔をした。


「まだ本格入居もしてないのに?」


「試験栽培だったはずです」


職員は言った。


「それが、予想の五倍ほど育ちまして」


「五倍」


セイルが眉をひそめる。


「薬草なら、保存処理が必要ですね」


ガルドが言う。


「野菜もすぐ傷む」


アレンが言った。


「豊作なら、村も喜ぶのではないか」


「喜ぶ。だが、処理できればだ」


俺はパンを置いた。


朝食は終わった。


こういう日は、だいたい終わる。


俺は木札に触れた。


「神よ」


頭の中に声が響く。


『聞いている』


「豊作ですが、倉庫と販路がありません」


『よくある』


「よくあるんですか」


『よくある。実りは荷になる』


「ありがたいものでは?」


『食べられるうちはな』


「腐ると?」


『災いだ』


「ですよね」


『急げ。豊作は待たぬ』


「行きます」


俺たちは山裾の村へ向かった。


馬車で二日。


前回より荷物が増えた。


乾燥用の網。


麻袋。


荷札。


簡易棚。


防湿布。


保存瓶。


塩。


紐。


折り畳み台車。


そして鍋。


なぜ鍋か。


収穫物の処理に必要だからだ。


村へ着く前から、空気が違った。


畑のあたりが、妙に緑で濃い。


家に着くと、例の夫婦が畑の前で呆然としていた。


夫は元冒険者。


妻は薬草師。


二人とも、喜びと困惑が混じった顔だった。


畑はすごかった。


薬草がびっしり。


葉物野菜もびっしり。


根菜も育ちすぎている。


一部はすでに収穫適期を過ぎかけている。


「これは」


リナが目を丸くした。


「すごいですね」


「すごいが、危ない」


俺は言った。


妻が言った。


「試験栽培だったんです。少しだけ植えたはずなのに」


ミリアが畑を見て眉をひそめる。


「魔力濃度が高いわね。この土地、かなり肥えてる」


「なぜ前回分からなかった?」


「土は見たけど、ここまで反応するとは思わなかったわ」


妻が気まずそうに手を上げた。


「実は、薬草の成長促進に、少しだけ栄養液を」


俺は見た。


「少しだけ?」


「少しだけ……のつもりでした」


「濃度は?」


妻は目をそらした。


「昔の冒険者時代の感覚で」


ガルドが言った。


「戦場の回復薬を畑に使ったのか」


妻は小さく頷いた。


「薄めました」


「何倍に?」


「三倍に」


ミリアが額を押さえた。


「たぶん、もっと薄めるやつね」


「十倍以上です」


妻はしょんぼりした。


セイルが優しく言う。


「失敗ではありません。今は収穫できているので」


「ただし、処理しないと失敗になります」


俺は言った。


夫が青ざめる。


「どうすれば」


「まず分類」


俺は畑の横に紙を広げた。


収穫物緊急処理


一、今日中に食べるもの。


二、村で配るもの。


三、乾燥できる薬草。


四、漬けられる野菜。


五、売るもの。


六、種取り用。


七、廃棄するもの。


妻が驚いた。


「廃棄も?」


「腐らせるより、早めに堆肥にする」


村長がやってきた。


「何事かと思ったら、畑が森みたいになっとるな」


「村長、相談です」


俺は言った。


「村で受け取れる量は?」


村長は畑を見た。


「全部は無理だ」


「ですよね」


「だが、葉物は今日の夕飯に回せる。根菜は保存穴に少し入る。薬草は乾燥できれば価値がある」


「乾燥棚は?」


「足りん」


「作ります」


ガルドが即座に材木を見る。


夫も動く。


村の若者も集まってくる。


豊作は、人手を呼ぶ。


だが、人手にも段取りがいる。


俺は役割を分けた。


リナは収穫物に荷札。


ミリアは薬草の魔力反応確認。


セイルは食べてよいものと薬用を分ける。


ガルドは乾燥棚作り。


アレンは村人への指示出し。


俺は全体管理。


アレンは少し胸を張った。


「任せろ」


「収穫中にマントを引っかけるな」


「一枚だ」


「それでも引っかかる」


アレンは黙ってマントを外した。


成長した。


かなり成長した。


収穫が始まった。


薬草。


葉物。


根菜。


どんどん集まる。


すぐ山になる。


うれしい山。


だが、荷物の山だ。


放置すれば腐る。


薬草は乾燥する。


ただし、日光に弱いもの、日光でよいもの、風通しが必要なもの、束ねすぎると蒸れるものがある。


妻は薬草師なので、知識はある。


だが量が多い。


知識があっても手が足りない。


セイルが分類を手伝う。


「これは日陰干しですね」


「はい」


「これは刻む前に洗わない?」


「洗うと香りが落ちます」


「では土を払うだけ」


ミリアが薬草を見て言う。


「魔力が強いものは、他と一緒に干さないほうがいいわ。移る」


「魔力が移る?」


リナが聞く。


「香り移りみたいなものね」


「ややこしいですね」


「素材は面倒なのよ」


野菜はもっと早い。


葉物はすぐしおれる。


村で配る。


ただし、ただ配ると後で揉める。


誰が多くもらった。


誰が少ない。


誰が手伝った。


誰が手伝っていない。


そうなる。


だから、村長が配布名簿を作る。


「名簿は本名で?」


村長が聞く。


死のノートの件を少し知っているらしい。


「この村内の通常管理なら本名でいいです。ただし外には出さない」


「分かった」


葉物は各家に配る。


手伝った人には少し多め。


ただし、配布基準を明記する。


根菜は保存穴へ。


しかし保存穴が小さい。


俺は穴を見る。


「これ以上入れると蒸れます」


村長が頷く。


「増やすか」


「一時穴を作ります。ただし水が入らない場所」


ガルドと村人が掘る。


アレンも掘る。


勇者が芋穴を掘る。


かなり絵になる。


いや、ならないか。


でも役に立つ。


リナが笑っている。


「アレンさん、似合いますね」


「勇者にも芋穴を掘る時がある」


アレンは真面目だった。


良い。


昼過ぎ、問題が出た。


行商人が村に来た。


畑の豊作を聞きつけたらしい。


太った男で、笑顔がうまい。


「いやあ、すごい豊作ですね。全部まとめて買いましょう」


夫婦は一瞬、救われた顔をした。


だが、俺は行商人の馬車を見た。


小さい。


積載量が足りない。


さらに、荷台にすでに布と陶器がある。


「全部は積めませんね」


行商人は笑った。


「何度か運びますよ」


「いつ戻る?」


「三日後くらいに」


「葉物は持ちません」


「では安く」


出た。


豊作で困っているところを買い叩くやつだ。


商売としては分かる。


だが、今は相場確認が必要。


妻が不安そうに言う。


「でも、腐らせるよりは」


「待ってください」


俺は言った。


「まず、売るものと村で使うものを分けます」


行商人は少し嫌そうな顔をした。


「全部まとめたほうが楽ですよ」


「楽なのは誰ですか」


行商人は黙った。


ミリアが小さく笑う。


俺は続ける。


「薬草は乾燥後のほうが価値が出ます。葉物は今日中に売るか配る。根菜は保存可能。全部を同じ価格で売るのは駄目です」


行商人は肩をすくめた。


「詳しいですね」


「荷物持ちです」


「荷物持ちが商売に口を?」


「運べない商売は成立しません」


行商人は少し考えた。


村長が隣に立つ。


アレンも芋穴から戻ってきて立つ。


勇者が土まみれで立っている。


かなり迫力がある。


行商人は態度を改めた。


「では、葉物を今日買いましょう。根菜は後日。薬草は乾燥後に鑑定を通して」


「価格表を」


「はい」


「積載量も」


「はい」


交渉成立。


葉物の一部を売る。


残りは村へ。


薬草は乾燥。


根菜は保存。


これで少し落ち着いた。


夕方、乾燥棚が三つできた。


即席だが、使える。


風通しのよい小屋に設置。


薬草を種類別に吊るす。


荷札。


採取日。


処理日。


乾燥方法。


用途。


妻が嬉しそうに言った。


「これなら、商品にできます」


「販路は?」


「行商人と、王都薬房に少し」


「いきなり大量に出すと価格が下がります」


「分けます」


「よし」


ミリアが言う。


「農業チートって、作ったあとが大変なのね」


「生えたら終わりではない」


セイルが頷く。


「薬も作って終わりではありません。保管と提供が必要です」


ガルドが言う。


「豊作は、勝ちではなく始まりだな」


アレンが言う。


「まるで戦いのようだ」


「戦いだ」


俺は言った。


「腐敗との」


夜。


村全体で、葉物野菜の鍋が作られた。


鍋。


また鍋。


大量の葉物。


豆。


干し肉。


塩。


素朴だがうまい。


豊作をその日のうちに食べる。


かなり正しい。


村人たちは喜んでいた。


夫婦もほっとしている。


妻が言った。


「たくさん育てればいいと思っていました」


「育てるのは半分です」


俺は言った。


「残り半分は、収穫後です」


夫が頷いた。


「倉庫と販路ですね」


「はい」


村長が言った。


「昔から、採れすぎるのも困る」


重い。


これも実感だ。


俺は台帳に書いた。


採れすぎるのも困る。


ミリアがのぞいて言う。


「また短くて重いやつ」


「村長語録だ」


「強いわね」


食後、村長と夫婦と一緒に、正式な栽培計画を作った。


一、一度に植えすぎない。


二、収穫時期をずらす。


三、乾燥棚の容量を超えない。


四、保存穴の容量を確認。


五、行商人との定期契約。


六、王都薬房へのサンプル出荷。


七、村内配布基準。


八、堆肥化場所。


九、栄養液は十倍以上に薄める。


妻が九を見て、顔を赤くした。


「はい」


十、試験栽培は本当に少量。


よし。


翌朝。


畑はまだ多いが、危機は脱した。


葉物の山は減った。


薬草は干されている。


根菜は保存穴へ。


売る分は荷札付き。


廃棄分は堆肥場へ。


腐る前に道ができた。


職員は胸をなでおろしていた。


「助かりました。これで物件紹介所としても」


「今後、畑付き物件には倉庫容量と販路欄を追加してください」


「はい」


「土の魔力濃度も」


「はい」


「試験栽培の注意も」


「はい」


不動産票はまた実務的になる。


良いことだ。


王都へ戻る前に、妻が小さな袋を渡してきた。


乾燥前の薬草ではなく、昨日のうちに処理した試作品。


「お礼です。まだ商品にはできませんが」


「ありがとうございます。ただし保管条件は?」


妻は笑った。


「乾燥、日陰、三ヶ月以内です」


よし。


俺は受け取った。


荷札をつける。


王都へ帰る馬車の中、リナが言った。


「豊作って、いいことだけじゃないんですね」


「いいことだ。ただし受け止める器がいる」


ミリアが言う。


「魔力で作物を増やすの、便利だけど怖いわね」


「制御がいる」


「火力と同じね」


セイルが言う。


「食べ物は命に近い分、無駄にしたくありません」


ガルドが言う。


「倉庫がなければ、勝っても負ける」


アレンが言う。


「勇者も、勝ったあとを考えねばならないのだな」


「豊作からそこに行くか」


「補給戦で学んだ」


「良いことだ」


王都に戻ると、不動産紹介所の物件票はすぐに修正された。


畑付き物件

井戸あり

小川近し

薪置き場あり

家畜小屋あり

畑:魔力反応やや高

推奨:少量試験栽培

倉庫:小。増設推奨

販路:行商人契約要

備考:豊作時の処理計画必須


かなり良い。


ロマンは減った。


だが、事故も減る。


それでいい。


宿へ戻ると、広報部の女性が待っていた。


当然のように。


「聞きました! 山裾の畑が豊作だったそうですね!」


「情報が早い」


「題名はこちらで!」


紙が出た。


豊作になったが、倉庫と販路がありません


俺は黙った。


リナが笑った。


「そのままですね」


「そのままだな」


ミリアが言う。


「でも、かなり大事だったわ」


セイルが言う。


「豊かさを無駄にしないためにも」


ガルドが言う。


「保存がいる」


アレンが言う。


「販路もいる」


「よく分かってきたな」


「勇者だからな」


勇者だからではない。


だが、成長している。


俺は木札に触れた。


「神よ。今回はどうでしたか」


『よい収穫だった』


「危なかったです」


『実りは早い。人の手は遅い』


「はい」


『だから、実る前に器を用意せよ』


「倉庫と販路ですね」


『そうだ』


「豊作は良いことですか」


『よいことだ。だが、受け止めねば腐る』


「重い」


『食べ物は重い』


「教義は?」


『豊作は、倉庫と販路まで含めて豊作である』


「そのままですね」


『そのままだ』


その夜、荷物台帳に記録した。


豊作対応記録


一、収穫物は分類する。


二、食べる、配る、売る、乾かす、保存する、種にする、堆肥にする。


三、葉物は急ぐ。


四、薬草は乾燥方法を分ける。


五、根菜は保存穴の容量を見る。


六、行商人には積載量と再訪日を確認する。


七、全部まとめ売りは危険。


八、豊作は価格を下げることがある。


九、採れすぎるのも困る。


十、栄養液は十倍以上に薄める。


妻には悪いが、十は重要だ。


リナが台帳を見て言った。


「豊作でも、持てる分だけ持て、ですね」


「そうだ」


「持てない分は?」


「食べる、配る、売る、保存する、堆肥にする」


「置いていくだけじゃないんですね」


「腐らせるのは置いていくのとは違う」


ミリアが言う。


「深いわね、野菜で」


「野菜は深い」


聖剣が光った。


『我に農業スキルはあるか』


「畑を耕すには長すぎる」


『また長い』


「作物を傷つける」


『なら魔を断つ』


「それでいい」


聖剣は少し安心したように光った。


こうして俺たちは知った。


豊作は、勝利ではなかった。


豊作は、荷だった。


食べきれない葉物。


干しきれない薬草。


入りきらない根菜。


運べない量。


売り先のない収穫。


そのまま置けば、腐る。


腐れば、匂い、虫、病気、失敗になる。


だから、豊作には器がいる。


倉庫。


乾燥棚。


保存穴。


販路。


配布基準。


堆肥場。


実る前に、受け止める場所を作らなければならない。


山裾の畑は豊作だった。


葉物は村へ配られた。


薬草は干された。


根菜は保存穴へ入った。


行商人は買い叩き損ねた。


栄養液は十倍以上に薄めることになった。


物語は、きれいに一区切りを迎えた。


そう。


ここで終わっても、何の問題もない。


俺たちの収穫後処理は、これからだ。


「植える前に倉庫を見ろよ」


第二部・完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ