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名作をパク――参考にすれば、名作になるに決まってるじゃない!  作者: チンポジ博士


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第30話 料理バトル・王都料理祭

名作をパク――参考にすれば、名作になるに決まってるじゃない!


第30話 料理バトル・王都料理祭



「王都料理祭への参加をお願いします!」


冒険者組合の受付嬢は、そう言った。


俺は黙った。


リナも黙った。


勇者アレンは少しだけ目を輝かせた。


ミリアは明らかに嫌そうな顔をした。


セイルは穏やかに微笑んだ。


ガルドは、受付嬢の後ろに置かれた食材箱を見ていた。


いつも通りだった。


王都料理祭。


王都中央広場で行われる年に一度の大きな祭り。


料理人、貴族お抱えの厨房、冒険者食堂、屋台組合、神殿炊き出し班まで参加するらしい。


そして今年は、特別企画として、冒険者による野外料理部門が新設された。


いかにも料理バトル。


いかにも審査員が「うまい!」と叫びそうなやつ。


いかにも謎の発光演出が入りそうなやつである。


リナが小声で言った。


「見たことあります」


「言うな」


「料理バトルです」


「言うな」


「食べた人がすごい反応をするやつです」


「言うな」


「でもユートさんの場合、食材搬入を見そうですね」


「そこだ」


受付嬢は書類を差し出した。


「今回は、勇者パーティとして料理を出してほしいというより、運営補助をお願いしたく」


「また運営ですか」


「はい」


「何が詰まっています?」


受付嬢は目をそらした。


「食材搬入が」


やはりだった。


「具体的には?」


「肉、魚、野菜、香辛料、酒、油、氷、薪、炭、皿、鍋、包丁、調理台、洗い桶、残飯桶、全部が同じ入口から入ります」


俺は額を押さえた。


「駄目です」


「ですよね」


「生肉と皿を同じ導線で運ぶな」


「はい」


「魚と薪も分ける」


「はい」


「油と火種も分ける」


「はい」


「氷は溶ける」


「はい」


「洗い場は?」


「中央井戸の近くに」


「排水は?」


受付嬢は黙った。


「排水計画は?」


「検討中です」


「また検討」


ミリアが言った。


「料理って、作る前から大変なのね」


「作る前が半分だ」


セイルが頷く。


「衛生も大事です」


ガルドが言う。


「腹を壊せば戦えん」


アレンが胸を張った。


「俺は審査員として参加できるか?」


「お前は食べたいだけだろう」


「勇者の味覚も必要だ」


「必要か?」


リナが少し笑った。


「アレンさん、食べる気ですね」


「王都の料理祭だからな」


会場は王都中央広場だった。


すでに屋台が並び始めている。


木箱。


樽。


水桶。


薪束。


魚籠。


野菜袋。


肉の塊。


香辛料の小瓶。


人。


人。


人。


匂い。


音。


かなり混沌としていた。


料理祭実行委員長は、丸眼鏡の女性だった。


手には分厚い書類。


顔は疲れている。


また疲れた役人が増えた。


「来ていただいて助かります。武闘大会の導線改善が評判でして」


「料理祭も同じですか」


「はい。むしろ食材が傷む分、こちらのほうが厳しいです」


「分かっていますね」


「分かっているのに人手が足りません」


切実だ。


まず現場確認。


入口は三つある。


だが、全部が適当に使われている。


北入口から肉も野菜も観客も入る。


東入口から薪と貴族の馬車が入る。


南入口から屋台の皿と魚が入る。


駄目。


かなり駄目。


俺は地図を広げた。


「入口を分けます」


実行委員長が筆を構える。


「北入口は生鮮食材。肉、魚、乳製品、卵。ただし種類ごとに時間を分ける」


「はい」


「東入口は燃料。薪、炭、油。ただし油は火気から離す」


「はい」


「南入口は器具。皿、鍋、包丁、調理台、布」


「はい」


「観客入口は別に作る」


「はい」


「排水路を決める。残飯と排水を井戸に戻さない」


「はい」


「手洗い場、食材洗い場、皿洗い場を分ける」


「はい」


「審査員用の動線も」


「はい」


アレンが言った。


「審査員用」


「まだ決まっていない」


「勇者は」


「食べすぎ防止も必要だな」


「何?」


料理祭は朝から準備が始まる。


俺たちは役割を分けた。


リナは食材受付と荷札。


ミリアは火気管理。


セイルは衛生と救護。


ガルドは搬入路警備。


アレンは出場者説明。


俺は全体導線。


まず肉。


王都肉屋組合の荷車が到着した。


大きな肉の塊。


氷布に包まれている。


俺は確認する。


「到着時刻」


「朝三刻」


「保冷状態」


「氷布あり」


「調理開始予定」


「昼」


「それまでどこに置く?」


肉屋が指さす。


「そこの日陰に」


そこは日陰ではある。


だが、すぐ隣に薪置き場。


駄目。


「肉置き場は北側の冷暗テントへ」


「遠いな」


「食中毒のほうが遠い問題になる」


肉屋は黙った。


セイルが穏やかに言う。


「食べた方が倒れると、祭り全体が止まります」


肉屋は素直に従った。


次に魚。


魚屋が大きな籠を運んでくる。


かなり匂う。


鮮度は悪くないが、暑い。


「氷は?」


「あとで来る」


「先に魚が来て、氷があと?」


魚屋は目をそらした。


「氷屋が混んでて」


「魚は日陰へ。氷が来るまで濡れ布。調理順を繰り上げ」


リナが記録する。


「魚、優先調理」


魚屋は不満そうだったが、セイルが見ているので従った。


次に香辛料商人。


小さな箱。


高価。


軽い。


ただし、盗まれやすい。


リナが番号札をつける。


「香辛料は貴重品扱いです」


商人が驚く。


「分かってるね、お嬢さん」


「前に危険物番号管理を見ていたので」


成長している。


次に油。


樽。


重い。


火気近くに置こうとしている。


ミリアが即座に止めた。


「そこに置いたら燃えるわよ」


油屋が言う。


「料理祭なんだから火の近くのほうが」


ミリアは笑顔で言った。


「燃えるわよ」


「離します」


よし。


ミリアの火気管理は強い。


次に皿。


大量の皿。


木箱に詰められている。


ただし、箱の上に包丁箱が乗っている。


駄目。


「重いものを下。割れ物は衝撃対策。刃物は別箱」


皿屋が言う。


「急いでいたので」


「急いで割ったらもっと遅い」


皿屋は黙った。


搬入だけで昼前になった。


まだ料理は始まっていない。


だが、勝負はもう始まっている。


食材が傷んだら負け。


火事を出したら負け。


皿が足りなければ負け。


水が汚れたら負け。


料理人が包丁で怪我をしたら負け。


料理バトルは、鍋に火を入れる前から勝負が始まっている。


アレンが出場者説明をしていた。


「勇者アレンだ。料理に必要なのは、勇気だけではない。水、火、刃物、導線、片付けだ」


かなりまともだ。


ただし、最後にこう言った。


「そして、食べる者への敬意だ」


悪くない。


本当に悪くない。


ミリアが小声で言った。


「最近、勇者らしいわね」


「たまに戻るけどな」


「マント?」


「マント」


昼。


料理バトルが始まった。


参加者は八組。


王都食堂組。


貴族厨房組。


冒険者組。


神殿炊き出し班。


屋台組合。


魔法料理研究会。


山岳部族料理班。


そして、なぜか魔王軍会計官。


俺は固まった。


「なぜいるんですか」


会計官は丁寧に頭を下げた。


「魔王城の維持費改善の一環として、食材ロス削減を学びに来ました」


「出場者として?」


「はい。魔王城まかない部門代表です」


アレンが剣に手をかけた。


「魔王軍が料理祭に」


「会談後の試験的交流枠です」


実行委員長が言った。


「王国側の許可は?」


「非公式ですが、軍務局と神殿の立会いありです」


セイルが確認する。


「毒物検査は?」


「済んでいます」


封印局職員が頷いた。


「文体汚染検査も済みです」


そこまでやる。


よし。


会計官の料理は、魔王城節約煮込み。


名前が地味。


材料は、硬い根菜、安い肉、豆、骨スープ。


かなり実務的だ。


会計官は言った。


「大型魔物兵にも腹持ちがよく、燃料効率もよい煮込みを目指しています」


「かなりまともです」


「ありがとうございます」


魔王軍会計官とは気が合う。


料理祭は進む。


王都食堂組は肉焼き。


貴族厨房組は香草鳥。


冒険者組は野営鍋。


神殿炊き出し班は豆粥。


屋台組合は串焼き。


魔法料理研究会は、火球直焼きステーキ。


嫌な予感。


ミリアが監視に入る。


案の定、火力が強すぎた。


「天井ないからって上に撃つな!」


「でも演出が」


「肉を焼け。空を焼くな」


ミリアは正しい。


山岳部族料理班は、乾燥肉と山菜の蒸し料理。


地味だが香りがいい。


魔王城節約煮込みは、見た目は茶色い。


かなり茶色い。


だが、匂いは悪くない。


料理祭の審査員は五人。


王都料理長。


冒険者組合長。


神殿代表。


貴族代表。


そして勇者アレン。


アレンは本当に審査員になっていた。


「勇者の味覚が必要だったか」


俺は言った。


アレンは真剣な顔で頷く。


「必要だ」


「食べすぎるなよ」


「分かっている」


最初の料理。


王都食堂組の肉焼き。


アレンが食べる。


目が輝く。


「うまい」


普通。


だが強い。


次。


貴族厨房の香草鳥。


「上品だ」


アレンが言う。


やるではないか。


次。


冒険者組の野営鍋。


アレンが食べる。


少し黙る。


「落ち着く」


かなり良い評価だ。


次。


神殿の豆粥。


セイルが少し嬉しそうに見ている。


アレンは食べて言った。


「疲れた時に食べたい」


これも良い。


次。


魔法料理研究会の火球直焼きステーキ。


焦げていた。


アレンは食べて、少し黙った。


「勇気はある」


料理評価としては厳しい。


ミリアが顔をそらしている。


次。


魔王城節約煮込み。


会計官が緊張している。


アレンが食べる。


部屋が少し静まる。


勇者が魔王軍の料理を食べる。


かなり妙な場面だ。


アレンは噛む。


飲み込む。


そして言った。


「うまい。地味だが、腹に残る」


会計官の顔が明るくなった。


「ありがとうございます」


「兵が食うなら、こういうものは大事だ」


アレンは続けた。


「ただ、塩が少し足りない」


会計官は即座にメモした。


「塩。増量。ただしコスト確認」


本当に会計官だ。


審査は進んだ。


だが、事件は終盤に起きた。


屋台組合の串焼きの一部で、肉の火の通りが甘かった。


セイルが気づいた。


「待ってください」


提供直前に止める。


屋台側は慌てる。


「そんなはずは」


ミリアが火の位置を見る。


「外側だけ焼けてる。中がまだ」


ガルドが串を割る。


確かに中心が赤い。


危ない。


観客に出る前だった。


ギリギリ。


「なぜこうなった?」


俺は聞いた。


屋台職人が言う。


「炭が足りず、火力を上げるために位置を近づけました」


「外が焦げて中が生」


「はい」


「炭の補充は?」


「搬入が遅れて」


東入口を見る。


燃料導線で薪と炭は分けた。


だが、炭の予備置き場が遠すぎた。


供給が間に合っていない。


導線改善の不足だ。


「炭の小分け置き場を作るべきだった」


俺は言った。


実行委員長が青ざめる。


「こちらの不備です」


「今から直す」


炭を小分けして、各調理区画に安全距離を取って配置。


火気管理者が確認。


串焼きは再加熱。


提供は遅れたが、事故は防いだ。


屋台職人は深く頭を下げた。


「助かった」


「食中毒を出したら、祭り全部が終わります」


「分かってる」


「なら、炭は余裕を持って」


「来年から必ず」


来年の話が出た。


祭りは続く。


だから記録が必要だ。


最終審査。


優勝は、王都食堂組。


安定の肉焼き。


二位は、山岳部族料理班。


三位は、魔王城節約煮込み。


会場がざわついた。


魔王軍が入賞。


かなり微妙な空気。


会計官は慌てて頭を下げた。


「恐縮です。これは政治的意図ではなく、まかない改善です」


アレンが言った。


「料理は料理だ。うまかった」


勇者がそう言うと、会場は少し落ち着いた。


王都料理長も頷いた。


「地味だが、実用性が高い。大量調理にも向く」


神殿代表も言った。


「炊き出しにも応用できそうです」


会計官は感動していた。


「魔王城の食費削減に希望が」


ミリアが小声で言った。


「そこなのね」


「会計官だからな」


祭りは無事に終わった。


いや、完全ではない。


炭導線の不備。


魚の氷遅延。


油樽の置き場。


皿の積み方。


排水の改善点。


いくつもある。


だが、食中毒なし。


火災なし。


大怪我なし。


料理は出た。


なら成功だ。


後片付け。


ここが本当の勝負でもある。


食材残り。


可食。


廃棄。


寄付。


保存。


残飯。


排水。


油。


灰。


皿洗い。


全部を分ける。


神殿炊き出し班が、余った安全な食材を引き取る。


期限が近いものは今日中に使う。


生肉の残りは処理。


魚は残さない。


油は再利用可否を確認。


灰は消火確認後に廃棄。


皿は洗浄後に数える。


包丁は本数確認。


これをやらないと、翌日事故る。


アレンは審査員を終えた後、片付けを手伝っていた。


「食べるだけではないのですね」


リナが言った。


アレンは真面目に頷いた。


「食べたなら、片付ける」


「良い勇者ですね」


「そうだろう」


ミリアが水桶を運びながら言った。


「今日のアレン、かなりまともだったわね」


「審査員としても悪くなかった」


俺は言った。


ガルドが空の炭箱を運ぶ。


「火が消えているか確認した」


「よし」


セイルが廃棄食材を確認する。


「これは神殿へ回せます。これは廃棄です」


会計官が横で見ていた。


「食品ロス管理、勉強になります」


「魔王城で使えますか」


「はい。特に大型魔物兵の食べ残し管理に」


「大変そうですね」


「大変です」


やはり会計官は大変だ。


夜。


祭りは終わり、中央広場は静かになった。


匂いだけが残っている。


肉、香草、炭、油、豆、魚、甘い菓子。


祭りの後の匂いだ。


実行委員長は、地面に座り込みそうになっていた。


「終わりました」


「終わってからが記録です」


「はい」


「来年用改善点」


「はい」


俺は書き出す。


一、食材搬入時間を種類別に分ける。


二、氷は魚より先に入れる。


三、燃料小分け置き場を設ける。


四、油と火気を離す。


五、手洗い、食材洗い、皿洗いを分ける。


六、排水路を事前に決める。


七、包丁本数管理。


八、残食管理。


九、審査員の食べすぎ対策。


アレンが反応する。


「九は必要か?」


「必要だ」


「俺は食べすぎていない」


「ぎりぎりだ」


「ぎりぎりか」


十、魔王城節約煮込みは大量調理部門で参考にする。


実行委員長は少し迷ったが、書いた。


会計官が嬉しそうだった。


「ありがとうございます」


俺は木札に触れた。


「神よ。今回はどうでしたか」


『よい搬入だった』


「料理そのものでは?」


『料理は、搬入と火と水と片付けでできている』


「はい」


『食材は、口に入る荷だ』


「かなり重要ですね」


『だから汚すな。腐らすな。燃やすな。混ぜるな』


「実務ですね」


『料理は実務だ』


「教義は?」


『うまい飯は、よい導線から生まれる』


「採用ですか」


『採用』


神も祭りで何か食べたそうだった。


いや、神は食べるのか。


分からない。


宿へ戻ると、広報部の女性が待っていた。


当然のようにいる。


「聞きました! 王都料理祭、大成功だったそうですね!」


「料理人たちが頑張りました」


「運営も頑張りました!」


「それはそうです」


「題名はこれで!」


紙が出た。


料理バトルは、食材搬入の時点で勝負が始まっています


俺は黙った。


リナが笑った。


「今回は本当にその通りですね」


ミリアが言う。


「火力より炭の導線だったわね」


アレンが言う。


「味も大事だ」


「もちろん」


セイルが言う。


「衛生も大事です」


ガルドが言う。


「片付けも大事だ」


会計官が、なぜかまだ近くにいた。


「食材ロスも大事です」


全員が彼を見る。


「すみません。魔王城へ戻る前に、もう少し記録を」


「どうぞ」


彼は本当に熱心だった。


こうして俺たちは知った。


料理バトルは、鍋の上だけで決まるものではなかった。


肉が傷めば負け。


魚の氷が遅れれば負け。


炭が届かなければ負け。


油が火に近ければ負け。


皿が割れれば負け。


排水が詰まれば負け。


包丁が一本消えても負け。


うまい料理は、よい食材と腕だけではない。


搬入、保管、火、水、洗い場、片付け。


その全部がそろって、ようやく客の口に届く。


王都料理祭は無事に終わった。


アレンは審査員として働いた。


ミリアは空を焼く火球を止めた。


セイルは生焼け串を止めた。


ガルドは炭と刃物を確認した。


リナは香辛料を番号管理した。


魔王城節約煮込みは三位だった。


物語は、きれいに一区切りを迎えた。


そう。


ここで終わっても、何の問題もない。


俺たちの食材搬入は、これからだ。


「手を洗えよ」


第二部・完

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