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名作をパク――参考にすれば、名作になるに決まってるじゃない!  作者: 二歩田 回収


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第3話 食べると能力が増えるらしいです

名作をパク――参考にすれば、名作になるに決まってるじゃない!


第3話 食べると能力が増えるらしいです


「食べた相手の能力を取り込めるらしいです」


リナがそう言った。


俺は黙った。


道端の岩に腰かけ、干し肉をかじっていたところだった。


朝。


晴れ。


街道沿い。


旅人が休むにはちょうどいい時間である。


そして、そういう時間帯に限って、だいたい面倒な話が飛び込んでくる。


「もう一回言ってくれ」


「食べた相手の能力を取り込めるスキルがあるらしいです」


「それは、かなり見たことがある」


「ですよね」


「だが、神話にもある。怪物を食らって力を得る話は古い。だから問題ない」


「誰に説明しているんですか?」


「気配にだ」


「また気配ですか」


「また気配だ」


俺たちは前回、白い営業獣キュルルによる魔法少女契約を未然に防いだ。


契約は成立しなかった。


説明会は成立した。


村の願掛け祭りでは、契約前確認の大切さが広まり、キュルルは再研修を免れた。


ただし、ノルマは来月へ繰り越された。


世の中は甘くない。


そして俺たちは、また旅を続けている。


旅といっても、行き先はあまり決まっていない。


荷物の神の強運の加護があるので、だいたい何かに巻き込まれる。


今回もそうだった。


街道脇の掲示板に、こんな張り紙があったのだ。


求む・暴食スキル保持者

食材試験協力者募集

食べるだけで報酬あり

ただし自己責任


俺は黙った。


リナも黙った。


掲示板は何も言わなかった。


「怪しすぎる」


俺は言った。


リナもうなずいた。


「怪しいですね」


「食べるだけで報酬あり、という言葉は信じるな」


「でも報酬ありですよ」


「だから怪しい」


「ただし自己責任とも書いてあります」


「より怪しい」


「行きます?」


「行く」


「行くんですね」


「怪しいものほど、作中で確認しないと危ない」


「作中って言いました?」


「参考だ」


俺たちは張り紙に書かれた場所へ向かった。


街道から少し外れた丘の上に、小さな研究小屋があった。


煙突から煙が出ている。


入口には、鍋の絵と胃袋の絵が描かれた看板がかかっていた。


王立未確認スキル応用研究所・地方出張所


地方出張所。


この時点で予算が薄そうだ。


扉を叩くと、中から眼鏡の男が出てきた。


白衣。


ぼさぼさの髪。


目の下のくま。


いかにも研究者という見た目である。


「おお、来たか! 暴食スキル保持者かね?」


「違います」


男は扉を閉めようとした。


「待て」


「違うなら帰りたまえ。こちらは忙しい」


「張り紙が怪しかったので確認に来た」


「確認だけなら帰りたまえ。研究には協力者が必要なのだ」


「そもそも暴食スキルとは何だ?」


男は眼鏡を押し上げた。


「知らずに来たのかね?」


「知らないから来た」


「ふむ。暴食スキルとは、食べた対象の性質や能力を一部取り込む可能性がある特殊技能だ」


「可能性がある?」


「ある」


「必ずではない?」


「ない」


「どれくらいの確率だ?」


「対象、調理法、個人差、胃腸の状態、気合いにより変動する」


「最後が雑だな」


リナが小屋の中をのぞいた。


「何を食べるんですか?」


男は得意げに振り返った。


小屋の中には、いくつもの皿が並んでいた。


透明なゼリー状の何か。


焼かれたキノコ。


干した小魚。


黒い肉。


謎の草。


鍋。


全部に札がついている。


スライム煮こごり


俊足キノコのソテー


夜鳴き狼の干し肉


ゴブリン串焼き


微光草サラダ


俺は一歩下がった。


「ゴブリン串焼き?」


「栄養価は高い」


「そういう問題ではない」


「しっかり火は通してある」


「そういう問題でもない」


リナは顔をしかめた。


「食べるんですか、これ」


「研究だからな」


男は胸を張った。


「食べることで力を得る。それは古来より英雄譚に見られる普遍的構造だ。決して特定作品の専有物ではない」


「今、こちらが言いたいことを先に言われた」


「研究者だからな」


「研究者はそういう言い訳も研究するのか?」


「予算申請に必要だ」


俺は小屋の中を見回した。


机の上に、分厚い記録簿が置かれている。


被験者名。


摂取対象。


調理法。


発現能力。


腹痛の有無。


腹痛の欄がやけに広い。


「被験者はいたのか?」


「いた」


「結果は?」


男は記録簿を開いた。


「スライムを食べた者は、三時間ほど肌がぬめった」


「地味だな」


「俊足キノコを食べた者は、走る気になった」


「気分だけか」


「夜鳴き狼の干し肉を食べた者は、夜中に遠吠えした」


「迷惑」


「ゴブリン串焼きを食べた者は、集団でいると態度が大きくなった」


「最悪の能力だな」


「微光草サラダを食べた者は、暗闇で少し光った」


「それは少し便利かもしれない」


「ただし尻が」


「言わなくていい」


リナが小声で言った。


「ユートさん、帰りません?」


「帰りたい」


「じゃあ帰りましょう」


「だが、ここで帰ると、この研究が誰かに被害を出すかもしれない」


「また契約説明会みたいなことを考えています?」


「今回は試食管理だな」


男が身を乗り出した。


「つまり協力してくれるのかね?」


「食べるとは言っていない」


「では何を?」


「安全確認だ」


「つまらん」


「安全はだいたいつまらん。だが大事だ」


俺は木札に触れた。


「神よ」


頭の中に声が響く。


『聞いている』


「この研究、どう思いますか」


『胃に荷を背負わせすぎだ』


「ですよね」


『持てる分だけ食え』


「食べる方向で解釈しないでください」


『持てぬものは皿に置いていけ』


「それは普通に残すだけですね」


『あと、ゴブリンはやめておけ』


「神の助言が実用的」


研究者は、俺が神と話しているのを興味深そうに見ていた。


「君、神託持ちかね?」


「荷物の神の信徒だ」


「荷物の神?」


「持てる分だけ持て、持てぬものは置いていけ、箱に逃げる者には五歩目でタライを与える神だ」


男は少し考えた。


「聞いたことがない」


「超マイナーだからな」


「加護は?」


「強運」


「なるほど。食材実験に向いている」


「向いていない」


「腹を壊しにくいかもしれない」


「強運を胃薬扱いするな」


その時、小屋の奥から大きな音がした。


どん、と床が揺れる。


リナが短剣に手をかける。


「何ですか?」


研究者の顔が青ざめた。


「あ、いや、その」


もう一度、どん。


奥の扉が震える。


中から低いうなり声が聞こえた。


俺は研究者を見た。


「何を飼っている?」


「飼っているわけではない。研究対象だ」


「何だ?」


「暴食スキル持ちの被験体だ」


「人か?」


「いや」


奥の扉が吹き飛んだ。


そこから転がり出てきたのは、巨大なスライムだった。


ただのスライムではない。


半透明の体内に、キノコや草や骨や皿が浮いている。


そして顔のようなものがある。


目つきが悪い。


スライムが口らしき裂け目を開いた。


「グルルルル」


リナが叫んだ。


「スライムって鳴くんですか!?」


研究者が叫び返す。


「夜鳴き狼を食べた!」


「食べさせたんだろう!」


スライムは床をぬめりながらこちらへ向かってくる。


体の一部が淡く光っている。


微光草も食べたらしい。


しかも、妙に仲間を呼ぶような動きをしている。


ゴブリン要素か。


最悪だ。


「先生!」


リナが研究者をにらむ。


「何をしたんですか!」


研究者は震えながら答えた。


「暴食スキルを持つスライムに、複数素材を段階的に摂取させた」


「なぜ」


「能力が重複するか確認したかった」


「したんですね」


「した」


スライムが跳ねた。


俺たちは横に飛び退く。


スライムは机にぶつかり、皿を飲み込んだ。


皿ごと。


記録簿も危ない。


俺はとっさに記録簿を抱えた。


「ユートさん、何持ってるんですか!」


「研究記録だ」


「今それ必要ですか!?」


「後で責任を取らせるのに必要だ」


「現実的!」


スライムが俺に向かってくる。


俺は記録簿を抱えたまま逃げた。


強運の加護で、床に落ちていた棒を踏まずに済んだ。


強運の加護で、開いていた窓の位置がちょうどよかった。


強運の加護で、窓の外に干し草の山があった。


俺は窓から飛び出し、干し草に落ちた。


痛くない。


ありがたい。


ただし格好よくはない。


リナも続いて飛び出してくる。


研究者は窓枠に腹を引っかけていた。


「助けてくれ!」


「痩せろ!」


「研究者に肉体労働を求めるな!」


「暴食研究者がそれを言うな!」


スライムは小屋の壁をぬめりながら抜け出した。


外に出ると、さらに大きく見える。


半透明の体内に、食べたものが全部浮いている。


キノコ。


草。


干し肉。


皿。


匙。


そして、さっきまで机に置いてあったパン。


「あれ、まだ食べる気ですか?」


リナが言った。


「暴食だからな」


「どうします?」


「倒す」


「どうやって?」


俺は記録簿を開いた。


「暴食スキルの弱点は?」


研究者が干し草の上でもがきながら叫んだ。


「満腹だ!」


「普通!」


「食べ過ぎると動きが鈍る!」


「普通!」


「あと、消化に悪いものを食べると腹を壊す!」


「普通すぎる!」


リナが短剣を抜いた。


「斬りますか?」


「スライムに刃物は効きにくい」


「じゃあ魔法?」


「俺は使えない」


「私も少ししか使えません」


「神よ」


俺は木札に触れた。


『聞いている』


「どうすればいいですか」


『食わせろ』


「暴食に?」


『持てる分だけ食わせろ』


「満腹にしろということですか」


『そうだ』


「何を?」


『近くに大量の食材がある』


俺は周囲を見た。


丘の下に、荷車が通っていた。


商人の荷車だ。


荷台には袋が山ほど積まれている。


看板がついている。


王都製パン組合・売れ残り硬パン輸送中


強運だ。


ただし、地味だ。


俺は荷車に駆け寄った。


「すみません!」


商人が驚く。


「何だい?」


「硬パンを売ってください!」


「どれくらい?」


「全部!」


商人はスライムを見た。


暴食スライムが、こちらへぬめり寄っている。


商人は即答した。


「半額でいい!」


「助かります!」


俺たちは硬パンの袋を次々に開けた。


硬い。


とにかく硬い。


石のようなパンだ。


保存食としては優秀だが、食べるには水が必要なやつである。


俺は硬パンをスライムの前に投げた。


スライムは迷わず飲み込んだ。


一個。


二個。


十個。


三十個。


スライムの動きが少し鈍くなる。


「効いてます!」


リナが叫んだ。


「さらに食わせろ!」


「これ、戦闘ですか!?」


「給餌だ!」


スライムは硬パンを飲み込み続けた。


体内でパンが水分を吸う。


膨らむ。


さらに膨らむ。


スライムの体がぱんぱんになっていく。


やがて、スライムは動きを止めた。


「グ……ル……」


巨大な体が、ぷるぷる震える。


そして、その場にどすんと沈んだ。


満腹。


完全に満腹である。


研究者が叫んだ。


「今だ! 封印瓶に!」


「封印瓶?」


「小屋の中だ!」


「さっき言え!」


リナが小屋に走り、巨大なガラス瓶を持ってきた。


俺たちは村人、商人、研究者まで総出でスライムを瓶に押し込んだ。


重い。


ぬめる。


滑る。


最悪の作業だった。


だが、なんとか封印できた。


瓶の中で、スライムは動けずにぷるぷるしている。


腹いっぱいの顔をしていた。


リナが肩で息をする。


「倒したんですか?」


「倒してはいない」


「じゃあ何ですか?」


「食後休憩に追い込んだ」


「締まらないですね」


研究者は瓶に駆け寄り、感動したように言った。


「素晴らしい! 暴食スキルの暴走に対し、過剰摂取による行動停止が有効とは!」


「普通に食べ過ぎだろ」


「論文になる!」


「なるな」


「題名は『暴食系スキル保持個体における硬パン摂取限界と一時的行動阻害について』」


「地味にちゃんとしている」


俺は研究者に記録簿を突きつけた。


「今後、被験体に複数素材を食べさせるな」


「だが研究が」


「安全計画を作れ」


「うっ」


「食材管理表」


「うっ」


「摂取上限」


「うっ」


「腹痛記録」


「それはもうある」


「そこだけ厚いな」


「研究だからな」


リナが首をかしげた。


「そういえば、ユートさんは何も食べていませんね」


「食べてない」


「暴食スキル回なのに」


「食べなくていいなら食べない」


「主人公っぽくないですね」


「何でも食べて強くなるより、食べるものを選べるほうが大事だ」


研究者が聞き捨てならないという顔をした。


「しかし、能力を得る機会を逃すのは惜しくないかね?」


「惜しくない」


「スライムを食べれば、ぬめるかもしれない」


「いらない」


「微光草を食べれば、少し光るかもしれない」


「夜道ならランタンを持つ」


「俊足キノコを食べれば、走る気になるかもしれない」


「気分なら寝れば変わる」


「ゴブリン串焼きなら、集団でイキれる」


「一番いらない」


研究者はがっくりした。


「君は夢がない」


「夢にも消化能力が必要だ」


「名言っぽいですね」


リナが言った。


「だが、今日は一つ学んだ」


俺は封印瓶の中のスライムを見た。


「食べた相手の力を得る。それは強そうに見える。だが、食べたものは腹の中に残る」


「普通ですね」


「普通だ。だから大事なんだ」


俺たちは研究所の後片付けを手伝った。


壊れた扉を直し、割れた皿を片付け、硬パン代の請求書を研究者に渡した。


研究者は青ざめた。


「この額は……」


「全部食わせたからな」


「研究費で落ちるだろうか」


「知らん」


「王立だから、たぶん落ちる」


「王国の税金を何だと思っている」


夕方。


研究者は俺たちに報酬を渡した。


食材試験協力費ではない。


暴走個体鎮静化協力費。


つまり、後始末代である。


俺は硬パンの残りを少しもらった。


持てる分だけ。


リナはそれを見て言った。


「それ、食べるんですか?」


「非常食だ」


「硬いですよ」


「水につければ食える」


「能力は得られませんよ」


「腹が満ちれば十分だ」


出発しようとした時、研究者が俺を呼び止めた。


「待ってくれ。せめてこれを持っていかないか」


差し出されたのは、小瓶だった。


中には透明な液体が入っている。


「何だ?」


「スライム抽出液だ。飲めば、一時的に体表がぬめる可能性がある」


「いらない」


「滑って敵の攻撃を避けられるかもしれない」


「味方にも掴まれなくなるだろ」


「床掃除にも使える」


「いらない」


「では、これは?」


次に出されたのは小さな袋。


「俊足キノコの乾燥粉末だ。走る気になる」


「気になるだけだろ」


「やる気は大事だ」


「荷物になる」


「少量だ」


「持てぬものは置いていけ」


研究者はため息をついた。


「君の神は厳しいな」


「厳しいというより、荷物にうるさい」


俺は木札に触れた。


「神よ。今日の件、どうでしたか」


『食い過ぎは荷である』


「はい」


『力もまた荷である』


「はい」


『持てる力だけ持て』


「はい」


『持てぬ力は置いていけ』


「今回の教義ですか」


『採用』


「重いですね」


『食い過ぎたからな』


「はい」


『あと、硬パンは少し持っていけ。雨が降る前に宿に着く』


「助かります」


リナが空を見上げた。


「雨、降るんですか?」


「神が言うなら降る」


「宿は?」


俺は道の先を見た。


丘を下った先に、小さな宿場町が見える。


看板が揺れていた。


強運の加護は、今日も地味に効いている。


宿に着く頃、雨が降り始めた。


ぎりぎり濡れなかった。


ありがたい。


ただし、劇的ではない。


宿の食堂で、俺たちは夕食を取った。


普通のシチュー。


普通のパン。


普通の野菜。


何のスキルも得られない。


ただ、うまい。


リナがスプーンを置いて言った。


「結局、暴食スキルって便利なんですかね」


「便利ではあるだろう」


「でも今日の感じだと、あんまり憧れませんね」


「何でも取り込めるということは、何でも抱え込むということだ」


「荷物の神っぽい考えですね」


「信徒だからな」


「能力も荷物ですか」


「たぶんな」


俺は硬パンの袋を見た。


持てる分だけ持つ。


持てぬものは置いていく。


それは荷物だけの話ではない。


力も、契約も、願いも、全部同じだ。


何でも欲しがれば、いつか自分の腹で動けなくなる。


あのスライムみたいに。


リナがにやりと笑った。


「でも、もしユートさんが暴食スキルを得たら、何を食べます?」


「宿の飯」


「能力は?」


「明日も歩ける」


「普通ですね」


「それが一番強い」


雨音が屋根を叩く。


宿の中は暖かい。


外ではたぶん、誰かが濡れている。


俺たちは濡れていない。


強運とは、こういうものだ。


世界を揺るがす奇跡ではない。


ただ、少しだけ雨の前に宿へ着く。


その程度の積み重ねで、人はわりと助かる。


こうして俺たちは知った。


奪う力より、選んで食べる力のほうが大事なこともある。


暴食スキルは、能力だけでできているわけではなかった。


食材がいる。


調理法がいる。


記録がいる。


腹痛欄がいる。


摂取上限がいる。


封印瓶がいる。


暴走した時の止め方がいる。


そして、食べた後に背負う腹の荷がある。


食べたものは、力になる。


だが、同時に腹の中の荷にもなる。


何でも取り込めば強くなるわけではない。


持てる分だけ食べる。


持てぬ力は置いていく。


それが、俺たちの旅だった。


暴食スキルの暴走体は封印された。


研究所はたぶん反省した。


硬パンは非常食になった。


ゴブリン串焼きは食べずに済んだ。


物語は、きれいに一区切りを迎えた。


そう。


ここで終わっても、何の問題もない。


俺たちの胃袋は、これからだ。


「食べ過ぎるなよ」


第三部・完

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