表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
名作をパク――参考にすれば、名作になるに決まってるじゃない!  作者: チンポジ博士


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/56

第12話 分身を出したら全員が荷物持ちを拒否しました

名作をパク――参考にすれば、名作になるに決まってるじゃない!


第12話 分身を出したら全員が荷物持ちを拒否しました



「分身術を教えましょう」


王都の路地裏で、黒装束の老人がそう言った。


俺は黙った。


リナも黙った。


勇者アレンは、少しだけ目を輝かせた。


ミリアは怪しんでいる。


セイルは祈るべきか迷っている。


ガルドはすでに周囲の出口を確認している。


目の前の老人は、細い。


小さい。


黒い布で口元を隠し、背中に短い刀を背負っている。


どう見ても忍者である。


この世界に忍者がいるかは知らない。


だが、見た目は忍者だ。


「なぜですか」


俺は聞いた。


老人は目を細めた。


「おぬしには、分身の才がある」


「ありません」


「ある」


「測定では荷重管理Fでした」


「それは学院の測定が浅い」


「神様みたいなこと言いますね」


頭の中に声が響く。


『そこは同意する』


「同意するんですか」


リナが小声で言った。


「ユートさん」


「何だ」


「これも見たことあります」


「言うな」


「分身して修行効率を上げるやつです」


「言うな」


「あと戦闘で数を増やすやつです」


「言うな」


「手数が増えれば荷物も持てますね」


「今、少し現実的なことを言ったな」


黒装束の老人は、自分のことを影渡りの翁と名乗った。


長いので、俺は翁と呼ぶことにした。


なぜ路地裏にいたのか。


なぜ俺たちを待っていたのか。


なぜ分身術を教えようとしているのか。


説明はだいたい曖昧だった。


曰く、風が告げた。


曰く、影が導いた。


曰く、荷物が多そうだった。


最後だけ信用できる。


翁は言った。


「分身術を覚えれば、おぬしの旅は楽になる」


「本当に?」


「己を増やせば、荷も分けられる」


「それはかなり魅力的だ」


リナがうなずく。


「ユートさんが四人いたら、荷物も四倍持てますね」


ミリアが言った。


「でも、うるささも四倍よ」


アレンが言った。


「書類も四倍出してきそうだ」


セイルが真面目に言った。


「祈る神も四倍聞くことになるのでしょうか」


ガルドは短く言った。


「面倒だな」


失礼な仲間たちである。


だが、分身術。


確かに魅力はある。


荷物持ちにとって、人手は力だ。


人手が増えれば、運べる量も増える。


遠征も楽になる。


ロープを張る時も、見張りも、荷札整理も、鍋の番も、全部効率がよくなる。


「神よ」


俺は木札に触れた。


『聞いている』


「分身術、どう思いますか」


『己を増やしても、荷は消えぬ』


「でも分担できます」


『分担する者が同じ性格なら、揉める』


「そこですか」


『お前は、自分が荷物を持ちたいと思うか?』


俺は黙った。


「……必要なら持ちます」


『必要でなければ?』


「置いていきます」


『分身もそう言う』


嫌な予感がした。


だが、ここで引くと話が進まない。


俺たちは王都外れの空き地へ移動した。


翁は地面に円を描き、俺に立つよう促した。


「分身術とは、己の影に一時の形を与える技。強き心、明確な役割、そして少しの魔力で成る」


「俺、魔力は低いですが」


「問題ない。おぬしには妙な神の加護がある」


「妙な」


「影が嫌がっておる」


「嫌がるんですか」


「五歩目で何か落ちる気配がする」


「タライです」


「なぜ」


「信仰上の理由で」


翁は少し黙った。


「世にはいろいろな神がおるのう」


「超マイナーです」


「であろうな」


翁は印を結んだ。


俺も見よう見まねで手を動かす。


正直、合っているか分からない。


リナが隣で見ている。


ミリアは面白半分。


アレンはまだ分身に期待している。


セイルは念のため防護祈祷。


ガルドはもしもの時のために距離を取っている。


翁が叫んだ。


「影よ、形を取れ!」


俺の足元の影が揺れた。


黒い影が立ち上がる。


一つ。


二つ。


三つ。


それぞれが俺と同じ姿になった。


同じ顔。


同じ服。


同じ荷物持ち感。


ただし、全員が微妙に嫌そうな顔をしている。


リナが拍手した。


「すごい! ユートさんが四人です!」


ミリアが顔をしかめた。


「なんか嫌ね」


アレンが言った。


「これで荷物が四倍持てるな」


その瞬間、分身一号が言った。


「待て」


分身二号も言った。


「話が違う」


分身三号も言った。


「なぜ出てきた瞬間に荷物持ち前提なんだ」


俺は黙った。


本体である俺も、少し気持ちは分かる。


アレンが困惑した。


「分身だろう? 本体に従うのではないのか?」


分身一号は腕を組んだ。


「従うとは言っていない」


分身二号は荷袋を見た。


「まず荷物一覧を見せろ」


分身三号は木札に触れようとして、手を止めた。


「俺も神と話せるのか?」


頭の中に神の声が響いた。


『うるさい』


「神様?」


『祈りの入口が四つになった』


「負荷が増えました?」


『増えた』


分身三号が俺を見る。


「何て?」


「神がうるさいって」


「俺たちのせいか?」


「たぶん」


翁は目を丸くしていた。


「おかしい」


「何がですか」


「普通、分身は本体に従う」


「従ってませんね」


「自我が強い」


「本体がそうなので」


「自覚はあるのか」


「少し」


リナが面白そうに分身たちを見る。


「皆さん、荷物は持ちたくないんですか?」


分身一号は即答した。


「必要なら持つ」


分身二号も言った。


「だが不要なものは置いていく」


分身三号も言った。


「まず優先順位を決めるべきだ」


リナが俺を見た。


「完全にユートさんですね」


「嫌な確認だ」


アレンが言った。


「なら、必要な荷物を分けて持てばいいのではないか」


分身一号がアレンを見た。


「まずお前のマントを減らせ」


アレンが一歩下がった。


「なぜ俺が最初に責められる」


分身二号がミリアを見た。


「魔導書は一冊まで」


ミリアが眉をひそめる。


「本体と同じこと言うじゃない」


分身三号がガルドを見る。


「予備剣を増やすな」


ガルドは真顔でうなずいた。


「分かっている」


セイルが静かに言った。


「確かに同じ思考ですね」


「厄介だ」


俺は言った。


「自分で言うのも何だが、かなり厄介だ」


翁は咳払いをした。


「では、まず簡単な指示を出してみよ」


「分かった」


俺は分身たちに向き直った。


「分身一号は水袋を持て。二号は食料。三号は予備ロープ」


三人は同時に言った。


「理由は?」


「理由?」


「なぜその配分なのか」


「重量バランスは?」


「取り出し頻度は?」


「緊急時に誰がどこにいる想定か?」


「分身持続時間は?」


「消えた時、荷物はどうなる?」


俺は黙った。


確かに。


かなり大事だ。


「翁」


俺は聞いた。


「分身が消えた時、持っていた荷物はどうなります?」


翁は少し目をそらした。


「落ちる」


「危ない」


「だから普通は軽い武器程度にする」


「先に言ってください」


「まさか分身に遠征荷物を持たせるとは思わん」


「荷物持ちなので」


分身一号が言った。


「消えた瞬間に水袋が落ちるのは危険だな」


分身二号が言った。


「食料が地面に落ちるのも嫌だ」


分身三号が言った。


「ロープならまだましだが、崖で消えたら終わる」


俺はうなずいた。


「分身に重要荷物は持たせられないな」


アレンが落胆した。


「では、荷物四倍作戦は?」


「没だ」


ミリアが笑った。


「分身が増えても楽にならないのね」


「むしろ会議が増えた」


リナが言った。


「でも、分身がいれば準備は早くなりませんか?」


俺と分身三人は同時にリナを見た。


「それだ」


リナが少し驚いた。


「え、採用ですか?」


「採用だ」


荷物を持たせるのではなく、荷物を確認させる。


分身一号は水と食料の点検。


分身二号はロープ、釘、工具の確認。


分身三号は薬、布、照明の確認。


本体の俺は全体記録。


これなら分身が消えても荷物は落ちない。


確認作業だけなら、むしろ効率がいい。


翁が感心したように言った。


「分身を戦闘ではなく棚卸しに使うとは」


「戦闘より安全です」


「発想が地味じゃのう」


「荷物持ちなので」


俺たちは実験した。


分身一号が水袋を数える。


「水袋四つ。うち一つ、栓が緩い」


分身二号がロープを調べる。


「予備ロープ一本、擦り切れあり」


分身三号が薬袋を見る。


「止血布が少ない」


俺は記録する。


確かに早い。


普段なら一人で全部やる確認が、かなり短縮される。


リナが言った。


「便利ですね」


「便利だな」


「でも、分身さんたちが全員口うるさいですね」


分身一号が言った。


「必要な指摘だ」


分身二号が言った。


「見落としは死因になる」


分身三号が言った。


「荷造り戻りを忘れたのか」


「前回の記憶もあるのか?」


俺は聞いた。


分身三号はうなずいた。


「ある。だから照明は増やせ」


「本体と同じ記憶か」


「同じ記憶、同じ後悔、同じ腰痛だ」


「腰痛まで?」


「ある」


翁が驚いている。


「分身に腰痛があるのか」


「あるらしいです」


「妙に完成度が高いな」


「嫌な完成度です」


次に、戦闘で使えるか試した。


ガルドが木剣を持つ。


分身一号が前に出る。


五秒で負けた。


分身二号も負けた。


分身三号はそもそも前に出なかった。


「なぜ戦わない」


アレンが聞く。


分身三号は言った。


「俺は荷物確認担当だ」


「戦え」


「役割外だ」


ミリアが笑い崩れている。


「分身まで役割外って言うの、面白すぎる」


アレンは頭を抱えた。


「分身術とは、もっとこう、手数で敵を翻弄するものではないのか」


翁が咳払いをした。


「普通はそうじゃ」


「普通ではないのか」


「この者の分身は、戦う前に工程を確認する」


「使いにくい」


俺は首を横に振った。


「使い方が違うだけだ」


「どう使う」


「出発前点検。見張り交代表作成。荷札確認。撤退経路確認。議事録」


「議事録?」


「会議が増えたからな」


アレンは遠い目をした。


「分身で増えた手数が、書類に向かった」


「適材適所だ」


セイルが言った。


「ですが、これは大きな力かもしれません。複数の目で確認できるのは、事故防止になります」


ガルドもうなずいた。


「戦闘でも、背後確認には使えそうだ」


リナが言った。


「あと、分身さんに買い物を頼めますか?」


分身一号が言った。


「金を持って消えたらどうする」


リナが黙った。


「無理ですね」


分身二号が言った。


「買い物中に時間切れで消えたら、店に迷惑だ」


分身三号が言った。


「会計前に消えるのは最悪だ」


「本当に面倒な分身ですね」


「本体がそうなので」


俺は否定できなかった。


そこへ、路地の向こうから声がした。


「いたぞ! 鍋の人だ!」


俺は振り返った。


学院広報部の女性が走ってくる。


後ろには魔導水晶が浮いている。


嫌な予感しかしない。


「ユートさん! 分身術を覚えたと聞きました!」


「誰から」


「視聴者からです」


「視聴者?」


広報部の女性は水晶を指さした。


「さっきから路地裏で練習している様子が、一部通行水晶に映っていました」


「勝手に?」


「王都安全監視用の公開水晶です」


「そんなものが」


石板が差し出される。


そこには文字が流れていた。


鍋の人が増えた

四人いるw

全員荷物確認してる

分身で棚卸しw

戦えよ

でも便利そう

分身一号ほしい

腰痛も分身するの草


俺は石板を閉じた。


「配信しない」


広報部の女性は食い下がる。


「分身荷造り講習、需要あります!」


「ない」


「あります!」


「ない」


石板がまた開かれ、勝手に文字が流れる。


ある

見たい

遠征前点検に使える

分身術の新しい使い方

戦闘より安全

腰痛分身理論を聞きたい


「腰痛分身理論とは何だ」


リナが笑っている。


「ユートさん、有名になってますね」


「嫌な方向でな」


そのとき、分身一号が広報部の女性に言った。


「配信するなら、事前に撮影範囲、編集権限、報酬、二次利用、切り抜き許可、事故時の責任を書面で確認する」


分身二号が続ける。


「分身の出演料は本体に入るのか、別計上かも確認が必要だ」


分身三号が言った。


「分身が消えた後の肖像権はどうなる?」


広報部の女性が固まった。


ミリアが腹を抱えた。


「本人より面倒!」


アレンが感心した。


「分身を出すと、交渉が強くなるのではないか」


「強くなるが、進まない」


セイルが言った。


「契約確認には向いていますね」


「キュルルが嫌がりそうだ」


あの白い営業獣の顔が浮かんだ。


たぶん、分身四人で契約書を読んだら泣く。


翁は腕を組み、深くうなずいた。


「分かった」


「何がですか」


「おぬしの分身術は、戦場ではなく準備場で真価を発揮する」


「地味ですね」


「地味じゃが、強い」


「そうですか」


「ただし、長時間出すな」


「なぜ?」


「自分同士で会議を始める」


「もう始まっています」


分身たちは、荷物配置について議論していた。


分身一号は水を右に置くべきだと言い、分身二号は左だと言い、分身三号は中央だと言っている。


全員、もっともらしい理由を述べている。


本体の俺も参加したい。


だが、ここで参加すると終わらない。


俺は手を叩いた。


「分身解除」


三人の分身がこちらを見た。


「待て」


「まだ結論が出ていない」


「水袋の位置は重要だ」


「議事録だけでも残せ」


「解除」


分身たちは黒い影になって消えた。


その瞬間、頭の中が静かになった。


神の声が響く。


『ようやく静かになった』


「負荷高かったですか」


『同じ祈り口が四つあるのはつらい』


「神様にも通信負荷があるんですね」


『マイナー神だからな』


「神力が細い」


『細くはない。信徒が少ないだけだ』


「同じでは」


『違う』


そこは譲らないらしい。


分身術は覚えた。


ただし、戦闘用ではない。


荷物確認用。


契約確認用。


出発前点検用。


議事録作成用。


実に俺らしい。


そして、あまり長く出すと、自分同士で会議が始まる。


これは危険だ。


特に、水袋の配置だけで一時間は潰せる。


俺はそれを知っている。


自分だからだ。


夕方、宿に戻る前に、俺たちは分身術の使用ルールを決めた。


分身術使用規程


一、戦闘中には原則使わない。


二、重要荷物を持たせない。


三、買い物に行かせない。


四、出発前点検には使う。


五、契約書確認には使えるが、相手が泣く可能性に注意。


六、会議は十五分で打ち切る。


七、分身にも腰痛があるため、無理をさせない。


リナが七を見て言った。


「分身にも優しいですね」


「分身も俺だからな」


「自分に優しい」


「自分に優しくない荷物持ちは長続きしない」


神の声が響く。


『それはよい』


「また教義ですか」


『候補だ』


神の教義が増えすぎている。


信徒が少ないので、更新頻度が高い。


夜。


宿の部屋で、俺は荷袋を整理した。


分身たちの指摘通り、水袋の栓が一つ緩かった。


予備ロープも擦り切れていた。


止血布も少なかった。


結局、分身は役に立った。


かなり。


ただし、うるさい。


リナが隣で荷物を畳みながら言った。


「ユートさん」


「何だ」


「分身さんたち、面白かったですね」


「俺としては複雑だ」


「でも、頼りになります」


「そうだな」


「自分が増えるって、楽になることじゃなくて、自分の面倒くさいところも増えることなんですね」


「その通りだ」


「これも締めに使えそうですね」


「先に言うな」


背中の聖剣が部屋の隅で光った。


『我の分身は出せぬのか』


「聖剣が増えたら運搬が地獄だ」


『一振りでよい』


「そうしてくれ」


『だが、分身聖剣で敵を囲めば強いのでは』


「強いだろうが、鞘も増える」


聖剣は黙った。


勝った。


俺は木札に触れた。


「神よ。今回はどうでしたか」


『うるさかった』


「第一声がそれですか」


『同じ声で四つ祈るな』


「好きで増えたわけでは」


『増やしただろう』


「はい」


『だが、よい点検だった』


「分身術としてはどうですか」


『荷を持たせるな。荷を見させろ』


「今回の教義ですか」


『採用』


「地味ですね」


『地味なものほど、見落とすと重い』


「それも教義ですか?」


『採用』


「今日は増えますね」


『分身が増えたからな』


こうして俺たちは知った。


分身術は、数を増やすだけでできているわけではなかった。


本体がある。


分身がある。


役割がある。


持続時間がある。


消えた時の荷物がある。


買い物中に消える問題がある。


契約書の出演料がある。


神への通信負荷がある。


そして、自分同士で始まる終わらない会議がある。


自分が増えれば楽になると思っていた。


だが、増えた自分もまた、自分だった。


楽をしたがり、理由を求め、荷物の配置に文句を言い、契約書の細部を確認する。


手数が増えれば、仕事は早くなる。


けれど、考える口も増える。


だから大事なのは、増やすことではなく、役割を決めることだった。


分身術は成功した。


荷物確認は早くなった。


戦闘ではほとんど役に立たなかった。


神は通信負荷に疲れた。


水袋の位置は、まだ結論が出ていない。


ただ、栓の緩い水袋は見つかった。


擦り切れた予備ロープも見つかった。


止血布の不足も分かった。


それだけで、分身を出した意味はあった。


物語は、きれいに一区切りを迎えた。


そう。


ここで終わっても、何の問題もない。


俺たちの役割分担は、これからだ。


「だから会議を増やすなよ」


第十二部・完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ