王との謁見
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楽しんでいただけると幸いです。
キャロラインとドゥエックは案の定反発し勉強をサボっていたがアリーはそれに対し何も言わずにいた。そのうちにノエル卿もまあいいかと考えるようになった。
実際のところアリーの言っていることは公表されておらず、ただの脅しだと思っていた部分もある。
それが崩されたのは王室との謁見の日だった。
アリーは軍服を着、二輪車で先に王宮まで行っていた。ノエル家の皆は入念に化粧をし、服を選んで馬車に乗った。ノエル家の皆は全員ウキウキとしていた。お茶会もあるだろうし、話もできる。皆が楽しみにしていた。
王宮の門が開かれ、中に入ると、先にアリーが第一王女のアナスタシアと話していて、ノエル家は息を呑んだ。アナスタシアは銀髪をアリーのようにショートカットに切り、パンツルックで木刀を持ちアリーと楽しそうに話していた。
ノエル卿が咳ばらいをするとアナスタシアとアリーはようやく気付いたのか振り返り、アリーはノエル家の皆に紹介した。
「紹介するわ。こちら第一王女のアナスタシア殿下。齢は19。来年軍に入る予定よ。今はその前準備ということで剣術と棒術、あとは銃を練習している。座学はそうね、二等兵が習うものはすべて。彼女は頭が良いからだいたいがAプラスってところかしら。アナスタシア、こいつらが私が14の誕生日に少年兵になるようにと家から追い出した奴等よ」
「ああ、なるほどね」
「いや、アリー、それは...」
アリーの紹介にアナスタシアは唾棄しそうなくらい表情を歪め、アメジストの瞳を忌々しそうに細め、しかし一国の姫であるがゆえにそのようなことはしなかったがノエル家の者に良い印象を持っていないことは明らかだった。
ノエル卿はアリーに弁明しようとしたが、どのように言い返されるか分からないために言葉はしぼみ、黙っていた。
ほかのノエル家の人間はアリーは個人的に王室と関係を深めていると知り、困惑した。アリーが自分の家での扱いを話したかもしれない。
先ほどのアナスタシア王女の態度からして彼女は知っているようだ。どう言いつくろうか、皆は考えていた。
スティーブン王との謁見では悪い予感は的中した。彼は髭を撫でながらひざまずくアリーに言った。
「最初は食事係に志願しに来たのかと思ったが、まさかここまで成長するとはな。人間の可能性というのは実に興味深い」
「陛下がそのようにお考えだったとは、知りませんでした」
「あんな小枝のように痩せてボロボロの濡れネズミの姿で『軍に入れてください』と言われれば誰しもがそう思う。理由を聞けば家から追い出されたというではないか。仕方なく雑用からやらせてみたが、思い出すな。お前は新兵が使い古した銃の組み立てを取り憑かれたようにやっていた。それで試しに新兵に入れてみればこの素晴らしい戦績だ。神はお前に居場所と才能を与えたな」
「恐縮です」
「実に素晴らしい。ーーそれでそちらは?」
「私の家族です」
「ーーああ。そういえば謁見のリストに入っていたな」
スティーブン王は急に興味を失くしたかのようにノエル家の皆を見、ノエル卿に言った。
「そなたはノエル侯爵と言ったな。今までやってきたことを申してみよ」
「も、申する、とは?」
「このユスティノス王国にどれほど貢献したかだ。アリーの件は別としてだ。もしや金と土地だけを持ち、悠々と生きてきたわけではあるまい?」
「は、それにつきましてはーー」
ノエル卿は汗を拭き、どうにか言いつくろった。病院や退役軍人の十分なケアなどを言うと、アリーが口を開いた。
「陛下、ご心配なく。祖母の遺産を見ましたが、約500億ジェンはございます。これにいらぬ土地も売却すればさらに金額は上がります。この金額ならば病院の建設も新兵への教育の充実も退役軍人への年金もケアも多少はできましょう」
「お、おい、アリー」
「ふむ、そうか。まあそれならば良いとしよう。もはや貴族制など過去の遺物。それも災禍だ。そろそろこんなものは無くさねばならん」
「陛下...?」
スティーブン王の言葉にノエル家の皆は驚き固まった。貴族制が無くなる?遺産もすべてなくなってしまえばノエル家はどうすれば良いかとノエル卿やセシリア、キャロラインにドゥエックは固まったまま考えた。
「ーーところでアリー、君の弟と妹はどうかね?役に立ちそうか?」
スティーブンの言葉にノエル家の皆はハ、と気づいたが、アリーは溜息を吐いて陛下の方を見据えたので皆は嫌な予感がした。
「弟のドゥエックはアナスタシア殿下の100分の1の実力あるかないかでございましょうか。せいぜいが弾避けでしょう。キャロラインは話になりません。舞踏会と贅沢で頭がいっぱいの馬鹿者でございます」
「お、おい!」
ドゥエックは思わずアリーを止めようと声を荒げたが、アリーは「ほらこのように」と続けた。
「自分を律することもできません。これではどこにいっても衝突するだけでしょう。この間お送りした成績表のとうりでございます。一応勉強をするように言っておきましたが2人ともサボって遊んでおりました」
「ーーまあ、人間の形をした動物などどこにでもいる。アリー、仕方がない。ドゥエックは19歳だったな?少し早いが新兵訓練に参加させよう。特技はあるのかな?」
「人をいじめることと遊ぶことは得意なようです」
スティーブン王はため息交じりにアナスタシアと同じ紫の眼で呆れたように見、銀髪の髭を撫で「まあそれでも躾ければどうにかなるだろう」と言い、アリーには現在の軍の様子を報告するために残るように言い、ノエル家の人間は全員帰した。
ノエル家の皆は青い顔で馬車に乗り家路についた。アリーはこの短期間ですべて見ていたのだ。ノエル卿は貴族制が無くなることと祖母の豊富な遺産がすべてなくなることに慄いた。
会社は経営しているが、祖母の遺産がすべて無くなるのは痛い。セシリアも同様。
キャロラインは王の前で恥をかかされたとアリーに対し怒っていた。ドゥエックはいつから始まるか分からない新兵訓練に認められたと1人喜んでいた。
結局王室の人間はスティーブン王とアナスタシア王女しか見ることができなかった。第一王太子のアンドレアにも、第二王女のマリアンにも第二王太子のヒューゴにも。
パイプができると思っていたがとんだ見当外れだとノエル卿は深い溜息を吐いた。




