つまらない晩餐
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楽しんでいただけると幸いです。
改装工事中は別の部屋を使ってくれと客室で過ごすように案内されたアリーはクローゼットを見た結果仕方なく詰襟にボタンのついた白と黒の軍服のような上に下は白と黒の盛り上がったスカートがついたドレスを選び身に着けた。
本当はこんなもの身につけたくはない。が、貴族の家に帰ってきてしまった手前着るしかなくなった。今回帰ってきたのには理由がある。アリーはめんどくさそうに軍から持ってきた両切りの煙草を手に取り一本抜き取って火を点けた。
メイドが茶と茶菓子を持ってきたときにアリーがテーブルの上に足をのせて組み、煙草を吸いながら持ってきていたのだろうペーパーバッグの本を読んでいたので驚いた。どうしようかと盆を持ちながら迷っているとアリーが気づき、「ああ」と隣のサイドテーブルを指さした。
「置いといて。あとは私専用のメイドを付けるようにってメイド長に言っておいて。条件は、そうね、口が堅くて、従順で、賢い奴。以上よ。行って」
「し、失礼いたします...」
メイドは怯えながら盆をサイドテーブルに置き、先ほどアリーに言われたことをメイド長に話した。彼女は頭に手をやり、どうしようかとうろうろ歩いて、ちょうど芋の皮むきのためにかごいっぱいに芋を入れてやってきたソフィアというメイドにアリーの世話をするように向かわせた。
あの子ならたぶん大丈夫なはずだ、と考え、もし気に食わなかったらと怖気立った。7年間戦った軍人である。
下手をすれば射殺されるとメイド長は怯え、ノエル卿の執事から承った今日の夜の献立をシェフに伝えるために厨房まで走った。
「やあアリー、よく来てくれた。さあ座りなさい」
晩餐の際にノエル卿は上機嫌でアリーを迎え、席も昔は一番下座だったのが父母に続く上座になっているのにドゥエックは腹を立てていたが、アリーは無視して挨拶もなしにワインを飲んでいた。ノエル卿も妻のセシリアもこれは逆らえないと思い、アリーを仕方なく褒めることにした。
「それにしてもアリー、すばらしいぞ。最年少で陸軍少佐とは。父として鼻が高い」
「私もよアリー。よくがんばったわね」
「はあ?」
アリーのドスの効いた声に晩餐の場が一瞬凍った。言葉を続けたのはアリーだった。
「アンタたちが親だったことなんて一度もないじゃない。赤ん坊のころは乳母任せ。幼児期は家庭教師と乳母。それからはなんだっけ?ヒキガエル?どいつもこいつも私を馬鹿にしてきただろうが」
アリーはワイングラスを握るとバリンと音がしてグラスが砕けた。それに皆は肝を冷やした。給仕人がハ、と気づきワインとグラスの掃除をしている中でアリーはなおも続けた。
「私の功績は私のものよ。アンタたちのものじゃないわ。今度の王室への謁見でもアンタたちは私の後ろを歩きなさい。アンタたちの価値はその程度よ」
「おい、アリー」
我慢できなくなったのかドゥエックが口をはさんだ。
「父上と母上になんてことを言うんだ。今すぐ謝れこのーーー」
「やめないかドゥエック!」
ノエル卿が声を荒げたので驚いたドゥエックは言葉を続けるのをやめた。そしてノエル卿はアリーに「すまないな、アリー。ドゥエックはまだ世間知らずで」と謝っているのを信じられない様子で見ていた。アリーは給仕人にワインで汚れた手を拭いてもらいながら「そのようね」と答えた。
「それじゃあ今回私が何故このクソみたいな家に帰って来たか理由を話してあげるわドゥエック。他に家も別荘も持ってる私が何故来たか?アンタの査定よ。人間性、体力、知力、すべてを観察し評価して上層部に資料を渡して一等兵からか二等兵からかを決めるためよ。ーー今のところ人間性はEくらいかしら」
「なっ...貴族は少尉からでは...?」
「去年まではね。あまりにもクソの役にも立たない将校が多すぎるから今年から平民も貴族も等しく二等兵または一等兵から始めることにしたの。そういうわけだからドゥエック、アンタはせいぜい私に自分が有能なところを見せておくことね。期間は2か月半よ」
「ーーークソッ」
「上官への汚言は毎回2ポイントずつマイナスよ。ーーまあ?アンタみたいないくじなしが軍に入ったところでどうせ弾避けにしかならないから、なんだったら国外に亡命してもいいのよ?このクソみたいな家が笑われ者になるだけだし」
アリーの挑発に、ドゥエックは唇を噛み、下を向き、なんとか耐えていた。その様子をアリー特に愉しそうでもなく観察していた。
だからこそ家族は皆アリーがドゥエックのテストに帰ってきたのだと実感した。アリーは新しいワイングラスに注がれたワインを飲み、ノエル卿は晩餐を開始した。
前菜のスープやサラダから始め、メインディッシュの子牛のステーキやデザートのレモンのジェラートまでをアリーは静かに食べ、さっさと広間を出ていった。
まるでこんな茶番はうんざりだとでもいう風に。残されたノエル卿と夫人は溜息を吐き、ドゥエックは怒りで顔を赤くして立ち去り、キャロラインは怯えながら出ていった。
そのようにしてアリーの一日目は終わった。




