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オーガスタ・フレミングという女

更新しました。

楽しんでいただけると幸いです。

オーガスタ・フレミングは平民だが、子どものころから夢があった。それは『いつか自分好みの化粧品と香水を作ってそれで億万長者になること』。これを18歳の時に本格的に決意して国中の化粧品や香水を調べ、貴族の好むものは、平民の好むものはと分析し、投資家を集め資金を調達し、第一号店をオープンしたのが30年前。今では18歳の時に決意したとうりに彼女は億万長者となった。


アリー・ノエルと出会ったのは2年前、彼女がまだ大尉の時だった。アリーは軍服のまま店にやってきてオーガスタに言った。



「口紅と香水が欲しいの。色は赤。香水はそうね、天使の香りがするやつ」

「それでしたらこちらはいかがでしょう?ーーなににお使いに?」


するとアリーはショートカットの黒髪を揺らして笑った。



「敵が死ぬときに魂を掴むのよ」



アリーがそういうとオーガスタは若干驚いたが、ああそうかこの人がそうかと即座に理解し、口紅と香水を変えた。



「そのようでしたらこちらはいかがでしょうか?死の天使でしたらば真っ赤よりも薔薇の深紅、香りは可愛らしい天使よりも気高い女神のようなアンバーローズの香りをお勧めいたします」



アリーは香水を取り、空中に2,3回吹きかけ、匂いを嗅ぎ、「気に入った」と笑った。



「生きてたらまた寄らせてもらうわ。ではね」

「またのお越しを」



オーガスタは深々と礼をし、アリーを見送った。その後新聞を読むと無事にアリーは生き残り、戦いには勝ったらしい。そして功績を認められ大隊を率いる為に昇進試験を受け合格。彼女は最年少で女性初の少佐になった。

オーガスタはあの時のアリーの姿を思い出した。端正な顔立ちだが、どこか憂いのある顔。しかし肉食獣のような眼。オーガスタがその年に出した化粧品のラインナップの名前は『アリソン』だった。


それは今までのピンクや可愛い色合いを捨て、紫や黒、金に赤などの過激な色だった。香水もあの時のアリーが買った香水にさらに改良を加え、危険でしかし憂いのある女をイメージした香りを作った。しなやかな肉食獣と憂いのある女神を意識して。


それはとても売れた。


本を執筆しようと思ったきっかけはVIPルームにいる令嬢たちの会話を偶然聞いたからだった。


「ねえご存知?アリー・ノエル様の噂」

「なにがありましたの?」

「なんでもあの方家族に名前を忘れらているそうですわ。虐待もされていたとか...」

「まあなんてひどい、それ本当ですの?」

「噂ですけどバーナーズ大公爵家のコーデリア様がそう聞いたと...あとオールストン公爵家のプレシャス様も...」

「でしたらほとんど真実ではありませんか。あの方々がアリー・ノエル様についてそのような嘘を吐くはずありませんもの」

「そうですわよね、それにしてもひどいですわ」


この話を聞き、オーガスタはふと自分の悲惨な子供時代を思い出した。内気で太っていて髪もボサボサだったために彼女はいじめられていたのだ。今となってはそれも良い経験と言えるが、子供時代は毎日が辛かった。


そして思いついた。億万長者として成功した自分と、この国の女子の憧れでもあるアリー・ノエル。この2人がどのように苦難を乗り越えたかを記した本を書けば今の若い女子たちの励みになるのではないかと。



彼女は本を出版する際に偽名を使わなかった。ノエル家に訴えられても戦う気でいた。本の内容は自分の半生も絡めたアリーの半生だった。アリーには連絡を取ったが、彼女は「好きにして」と言った。


オーガスタは考えた。あまり重々しい話で書くのはまずい。ユーモア混じりに本を執筆し出版社に持って行った。5社目でようやく出版するとの承諾を得て、本は出版された。


アリーは自分を被害者だと思われることを嫌う。自分もだ。だからあえてユーモア混じりに書いた。オーガスタもアリーも自立した強い女であるという強い意志があった。


だから自ら取材をし、本を執筆するに至った。アリーの家での実態を知れば知るほど、オーガスタは自分の子どもの頃を思い出した。親に虐待こそされていないがいじめられて、デブで、ブスで、こんな自分なんて、と悲劇のヒロインに酔っていた自分。

そして18歳の時に夢を達成するためにまず痩せて、髪を梳かし、服装も変え、あらゆる化粧品を試し、どうすれば資金が調達できて店をオープンできて、そして億万長者になれるかばかりを考えていた自分。


目的は違えど、アリーとオーガスタには必ず目標を達成するという確固たる意志と行動力、そして失敗しても立ち上がる強い心があった。


だからオーガスタは本を書いてやろうと思った。内容は『悲劇のヒロインから脱出する方法』これ一本に絞った。アリーに何度か連絡し内容を確認してもらわなければならなかったが、彼女は短い時間を割いて協力してくれた。アリーからはこのように言われた。



「悲劇のヒロインなんてウザいしダサいってところは強調して。私は昔の自分を思い出すたびに吐き気がするわ。言われるだけ言われて抵抗する勇気もない自分を裏切り続ける自分がね」

「私もそうですよ。いじめより自分を変えることができない自分が嫌でたまらなかった。自分に言い訳してばかりの自分がみじめだった」

「だからここら辺はユーモア混じりに書いて。あとはアッカーソン公爵とオールストン公爵とバーナーズ大公爵と陛下には私から話を通しておくわ。もし怒られたら大変だからね」

「ありがとうございます」

「ではまた。執筆がんばって」



本は出版されると口コミで売れて行き、そのうちに貴族も買うようになった。そしてノエル家の皆のアリーへの扱いを知り、憤慨する者もいればユーモアに笑う者もいた。また励まされる者も。人気だからとセシリアがその本を手に取ったのも偶然ではなかった。


彼女は本を読み、そして3分の1も読まぬうちに本を取り落とした。彼女は青くなり、部屋の中を額に手をやって歩き回った。これからどうすればいいかわからなくなった。事実がすべて書いてある。名前こそ出していないが、これでは誰もが自分たちのことだと知る。セシリアは机に向かい出版社と作者に本の回収と虚偽の事実であると公表するように手紙を書いた。



しかしそれは2週間後に届いた返事で却下された。彼らの言い分はこうだ。


『この国は民主主義で、わたくしどもはじゅうぶんな調査とアリー・ノエル少佐の許可のもと出版しております。ごきげんよう、セシリア・ベアトリス・ノエル侯爵夫人 追伸:名前を間違えていたら申し訳ありません。』



セシリアは今度こそ頭を抱えた。





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