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紳士たちの会話(改)

加筆しました。

楽しんでいただけると幸いです。

「その後、娘さんは元気ですか?経済学部に通っているようですが」

「ああ、レイチェルですか?それなんですがね...」



煙草をくわえながらビリヤードに興じ、ウェスタービー伯爵は同じく文学部に進学した娘のエイダを持つホワイト侯爵に言った。



「この間8歳の時以来に泣きつかれましてね。理由は『アリーが可哀想、お父様助けてあげて』だそうで。なんでもノエル侯爵家の夫人と次女とサロンを開いたところ、2人ともアリー・ノエル少佐の本名を知らなかったようで。いやはやどうしたものか」

「おや、おたくもですか。うちもエイダに言われましたよ『あの家はひどい』とね。あのサロンはたしかバーナーズ大公爵夫人が開催したサロンでしょう?ということは陛下にも話が行っているかもしれませんね」

「それは困りますな。うちはノエル家の会社の株を持っているんです。早急に売っておくかな」

「うちもその方がよさそうですな。さすがにバーナーズ大公爵と陛下を敵に回してまで投資する気はありませんからな」



2人がビリヤードの手を止めて煙草を吸い、ウイスキーを舐めながら話していると、「遅れました」と1人の男が入ってきた。



「どうも仕事が立て込んでましてな。ウェスタービー卿、ホワイト卿、こんにちは。ーー聞きましたか?化粧品と香水で有名になった『レディ・オーガスタ』の社長のマダム・オーガスタ・フレミングが自身の体験も入れてアリー・ノエルの家での不当な扱いについて本を出版するという話。元ノエル家のメイドや使用人に話を聞いているそうですよ」

「それはまた...」

「女はこういう扱いには特に敏感ですからな。娘といえばなおさら。それもよりにもよって女たちの憧れのアリー・ノエルときた。皆さん株は売りましたか?うちはもうこの話を聞いた途端に全部売っ払いましたよ」



そう言って遅れてきた男ーーガーネット子爵は上着と帽子を脱いで使用人に渡し、煙草を吸った。ウェスタービー伯爵とホワイト侯爵は「今その話をしていたところですよ」と言った。そしてガーネット子爵にこの間開かれたバーナーズ大公爵夫人のサロンでの話を教えた。


ガーネット子爵は渋い顔をした。



「ーーうちは子煩悩というほどではないですけどね、それでも子供の名前くらいは覚えているものですよ。リサ・メレディス・ガーネットにルシール・ニコラ・ガーネット。子どもはミドルネームを忘れられても傷つくのに本名まで忘れられたらそれはもうたまったものではないでしょうな」


「そりゃそうですな。ーーそれで、どうします?サロンに参加した女たちは皆お怒りだそうですよ。オールストン公爵家のリリー夫人とプレシャス嬢も、バーナーズ大公爵家のアイリーン夫人とコーデリア嬢もコーデリア嬢の友人になったうちの娘たちも」


「あそこの家を敵に回すと没落で済めばいい方ですよ。陛下にも話は行っているでしょうし、私はノエル家からは手を引かせていただきます。どうせこの先何が起きるかなど手に取るようにわかる。」

「というと?」


ガーネット子爵は煙草をくわえ、肩をすくめてノエル家の今後の予想を話し出した。


「この国の女子のアイコンのアリー・ノエルの不当な扱いを暴いた本が出版され、社交界のトップから睨まれているんですよ?レディ・オーガスタといえば、高級ラインは貴族の女たちにも人気だし、安価な物は平民の女も買うほどの人気の化粧品店だ。彼女は平民だが、そこらの下級貴族よりも金を持っている億万長者。ノエル家の女たちはこの店で買い物はできなくなるでしょうな。それにアリー・ノエルに憧れて軍に入る女子が急増した話も知っているでしょう?ーーほら、アナスタシア殿下も入隊したっていう。この国は一応は民主主義ですが、軍の力が強い事もまた事実。実際に政権を担うアーサー・ロックウェル首相だって軍事力の強化を推進している。陛下も賛成している。今後誰もノエル家の事業に投資などしないしできない。会話をしただけで目を付けられるからノエル家の孤立は必至。村八分ってやつですよ。ーーノエル家の没落に巻き込まれるのはごめんですな」



ガーネット子爵の推測に2人の紳士は煙草をもみ消し、考えながら話していた。考えるとはどのようにしてノエル侯爵に知られて泣きつかれる前に株を売り払い、関係を完全に断つか、ということだった。



「そうですなあ。ーーまあノエル侯爵家といえば名前こそ侯爵ですが、それは曽祖父と祖父が強かっただけで今は...」

「ーーま、女たちを敵にしてしまったんです。私たちはさっさと手を引いた方がよさそうですな。女は恐ろしい。男に泣きつくだけでなく、もうあらゆるところに根回しをしているんじゃないですかね?女のお喋りは防げませんからな」

「それは言えています」


娘のエイダがネグレクトと家族からの虐待が及ぼす精神的影響について文学作品と絡めて論文を書いていることを知っているホワイト卿は言った。そしてそれはウェスタービー卿も頷いた。彼の娘のレイチェルは親からの虐待やネグレクトによって及ぼされる人間の成人後の経済状況と就職への影響について論文を書いている。


レイチェルとエイダはそれぞれ前期試験の論文発表でそれを発表する気でいた。

ちなみにコーデリアは親の虐待とネグレクトについての子どもの精神的影響を考えた上での虐待とネグレクトを犯罪として法的に今まで以上に厳しく罰するべきだという論文を書き、発表するつもりでいる。


彼女たちは大学中に最高の論文を書いて教授やほかの生徒たちにアリーの名こそ出さないが虐待とネグレクトがどれだけ人の心を壊す行為なのかを訴える気でいた。

その為に彼女たちは日夜深夜まで起きて論文執筆の為に資料を集め、書いていた。


彼女たちは騒ぐだけが問題を広める手段でないことをよく知っていた。

時に問題を広めるにはこうして静かに、事実を提示して行った方が効果があるものだ。

証明できる事実がある限り問題として証明しやすい。証明できない事実はしていようがしていまいが証明できないのだ。



「それにしてもアリー・ノエルがどれだけ影響力があるかを知らないとは、ノエル卿は新聞を読んでいないんですかね?」

「きっとアリー・ノエルが誰かを知らなかったんでしょう。軍になにか投資した話なんて聞いたこともない。とんだ世間知らずで有名だ」



「それもそうか」と男たちは笑い、ビリヤードの続きに入った。




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