新兵訓練1
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楽しんでいただけると幸いです。
ソフィアは軍に着き、アリーが手続きをしているのを後ろで待っていた。アリーが「ソフィア」と呼ぶとソフィアは彼女の隣に寄った。
「ここにサインして。あと私のことは、」
「分かっております。ノエル少佐」
ソフィアはそういうと自分の名前を書き、もらった名字を書いた。受付係が書類を見、「18歳ですか」とアリーの方を見た。
「18歳で新兵訓練は厳しいですよ。せめて雑用から...」
「大丈夫、新兵の時の私よりも肉がついている。私にできてソフィアにできないことはないわ」
アリーがそういうと、受付係は仕方なく判を押し、ソフィアに訓練生の部屋を教えた。アリーはソフィアに「じゃあ訓練がんばって」とソフィアの肩を叩き、去って行った。ソフィアは持ってきたバッグを抱え、言われた部屋に入った。そこには二段ベッドが備えつけられていて、何人かの女子がいた。アナスタシア王女もいた。
「あらあなた、ノエル少佐の...」
「ご機嫌麗しく、殿下」
「やめて。今はただの訓練生よ。そう、あなたもここに来たのね。まあ来るとは思ってたわ。ノエル少佐がお気に入りを見つけることなんてなかなかないもの」
アナスタシアは笑顔で「アナスタシアって呼んで」と手を差し出した。ソフィアは「ソフィアと申します」と握手をした。
それから自分のベッドに置いてある訓練生用の服に着替えた。これから40日間の訓練が行われる。ソフィアの場合はその後に軍の学校に入り、本格的に言語を学ぶことになっている。ソフィアは気を引き締めた。せっかくのアリー様の御厚意、アリー様を失望させてはいけない。
その日の午後に早速訓練が始まり、ソフィアは模擬銃を持ってアナスタシアと共に教官についてマラソンをしていた。卑猥な歌を唄いながら。
見ればアナスタシアも大声で唄っている。王女であればこのような歌詞、口に出すのも恥ずかしくてたまらないだろう。牛乳屋とママがセックスして子どもができた、私もそうしたいわダーリン、など。
しかし教官がこれを唄わせるということは何か意味があるのだと考え、ソフィアもできる限り声を出して唄いながら走った。
長いマラソンが終ると次は浜辺で四つん這いで走って海に入り海から出て浜辺で犬のように転がる訓練だった。
これが意外とキツい。服が水で濡れたせいで重たく、砂がまとわりつき、気持ちが悪い。しかしソフィアは諦めなかった。というよりだんだんと教官に勝ちたくなってきた。
ここで諦めたら教官に笑われる。アリーも失望する。また芋の皮むきをする生活に戻る。そんなのはごめんだった。
「あなた根性あるのね」
午後の訓練が終り、夕食の時間になった時、ソフィアは肉とふかし芋、にんじんに豆という食事を食べていた。そこにアナスタシアがやってきて向かいに座り、ソフィアに言った。ソフィアは首を傾げた。
「どういうことでしょう?」
「今日の浜辺での訓練。一番多く海に入ったのも浜辺で転がったのもあなたよ。教官が少し驚いているのが見えたわ。ーーねえ、どうやったらそこまで強靭な精神力が築けるの?」
「強靭では...ただ思ったんです。ここで止めたらまた笑い者になるぞって。そしてノエル少佐をがっかりさせるぞって」
「ふうん」
アナスタシアはソフィアの過去を聞きたがった。ソフィアは答えた。孤児だということ、子どものころからずっと仕事をしていたこと、あまり喋らないので馬鹿にされやすかったこと、そしてそのことに歯向かう勇気もなく言われたままずっと過ごしていたこと。アリーだけが自分を初めて「天才だ」と褒めたことなどだ。
アナスタシアは言った。
「19年生きてきて会った人の中でこの人は怪物のように強いと思ったのはアッカード卿とアリー以来だわ。ーーねえ、友達にならない?」
「え、しかし、」
「ここじゃあ貴族も平民も孤児もないわ。みんな一緒。みんな半人前の訓練生。ーーねえ、どうして教官が卑猥な歌を唄わせて走らせるか教えてあげようか?」
「はい」
「心を鍛えるためよ。自ら笑われるような恥ずかしいことをして笑われて、それでも崩れない強い心をつくるためよ。だから皆顔を真っ赤にしても唄うのよ。男子も近くにいるのにね」
「そうなんですか」
なにも知りませんでした。というソフィアにアナスタシアは笑った。
「あとでいろいろ教えてあげる。ここに来る前に結構予習したの。役に立つわ」
「ありがとうございます、あの」
「アナスタシア」
「アナスタシア」
「そう、私はあなたをソフィアと呼ぶわね」
そうして一日目にソフィアは友人ができた。




