つかの間の休日
更新しました。
楽しんでいただけると幸いです。
コメディというものはよくわからないというのがソフィアの感想だった。
1人舞台に立った男性が客席の人を悪く言い、そして皆が笑う。なぜか悪く言われた人も嬉しそうでソフィアは訳が分からなかった。
アリーが一度手を上げ、舞台上の男性に「貴族についてどう思う?」と尋ねた。すると男性はこう言った。
「とても素晴らしい質問ですお嬢さん、たしかに貴族制はあった方がいいのかない方がいいのかで昨今揉めています。しかし私個人としてはあってくれた方がいい。なぜなら彼らのおかげで私のギャラが上がるからです。ーーお嬢さんは貴族ですか?」
「ええそうよ」
「では今日のチップは多めにお願いします。貴族のよいところは金持ちなところと見栄の為にチップをたくさんくれるところ。皆さん実に素晴らしいと思いませんか。貴族を笑わせて私は金持ちの端くれに。ーーところで貴女、お名前は?」
「アリー・ノエル」
「.....今のは聞かなかったっことにしてください、少佐殿」
この一連の流れに客が笑っているのがソフィアは不思議だった。見ればアリーも笑っている。ソフィアが不思議そうな顔をしていることに気づいたアリーはソフィアの耳元で言った。
「こいつがジョークってやつよ。このコメディアンは貴族だろうがなんだろうが平等にブラックジョークを言うから人気なの。ーー今度はもっと分かりやすい喜劇でも観ましょうか」
「はい、アリー様」
そう言ってコメディが終わったために会場を出、アリーとソフィアは屋台でジェラートを買い、食べていた。噴水が見える。ソフィアはそういえばこうして遊んで一日を過ごすのは初めてかもしれないと考えた。子供の時から働いていた記憶しかない。ジェラートを食べ終えるとアリーはソフィアを連れてショッピングをし、ソフィアに化粧水の類を買ってやった。
「いくらメイドとはいえ、18にもなって肌の手入れ1つしないのは困るわ。アンタは誰でもないこの私のメイドだからね。この化粧水とクリームを使って毎日朝と晩に肌の手入れをしなさい。髪もよ。このクリームを髪に馴染ませて櫛で梳かすの。身綺麗でいた方がいいわ」
「はい、あの、ありがとうございます」
「これくらいは主人として当然のことよ。さっきのコメディアンが言ってたでしょ?貴族には見栄ってもんがあるのよ。ーー服はまあ、近々取りそろえるとして、しばらくは出かける際は私のを貸すわ。舞台を観に行くにはそれなりにドレスコードがあるからね。ーーじゃ、そろそろ帰ろうか。晩餐に間に合わなくなる」
アリーはそう言い、ソフィアと馬車に乗って家まで帰った。ソフィアは変な気持ちにまたなった。今日は変な一日だった。突然名字をもらい、コメディを見て、ジェラートを食べ、そして化粧水とクリームと髪用のクリーム、櫛を買ってもらった。服も買ってくれるらしい。たしかにアリーは身長が高すぎて自分が着たドレスはだいぶ裾上げをした。
ソフィアはここまでしてくれる主人に初めて出会い、表現に困っていた。何分仕事ばかりして楽しいことなど1つもなかった人生である。気持ちも表情も凍らせてしまったソフィアはアリーのお付きのメイドになってだんだんと凍った心と表情が溶けていくのを感じた。
「なに、メイドに名字を与えただと?」
晩餐の席でアリーの報告にノエル卿は驚いた。アリーは素知らぬ顔で牛ヒレ肉のステーキを食べ、「ええ」と答えた。
「今日観に行った舞台にちょうどオールストン公爵がいたものですから。私のメイドは頭が相当良いので頼んで名字をつけてもらったわ。大丈夫よ、平民の名字だから問題はないわ」
「それはオールストン卿に手紙を書かなければな」
「そうしてもらえると助かるわ。あの人不義理をするとそれはもう怒りくるうから。感謝の手紙を送れば喜ぶでしょう」
私だけが送っても失礼と思うから、というアリーの報告にノエル卿は今日すぐに書いた方が良いと判断した。それにしてもアリーはよくやったと考えた。メイドの名字を与えるということでノエル家とオールストン家と少しだが関係性ができた。ノエル卿はほくそ笑んだ。
「礼の品でも贈るかな」
「そういうのはあの人は嫌いよ。手紙だけでいい。今までお近づきになろうとして媚び売って顰蹙を買った奴大勢見たわ」
「アリー、お前はオールストン卿に詳しいのかね?」
ノエル卿が尋ねるとアリーはパンをちぎって口に放り込み言った。
「少年兵の時から世話になってるの。まあ、父親のような感じかしらね。王の生誕祭も一緒に祝ったし誕生日も祝ってもらったし。ついでにいうと成人の祝いもね」
その言葉にノエル卿とセシリアは驚き沈黙した。自分たちが一切やらなかったことをオールストン公爵がやっていたとは。ノエル卿は手紙に何を書こうか迷い始めた。まさか自分たちが放棄したアリーの誕生日や成人祝いを代わりにやってくれてありがとう、とは書けない。
「では手紙は早いうちによろしくね。私も書くから。あの人は迅速な行動が好きよ」
そう言ってアリーは立ち上がり、広間を出て行った。キャロラインはよくわからずに思ったことを口にした。
「ということはお姉様って公爵家で過ごしていたの?どうりであんなに公爵家の人と仲がよろしかったのね」
「キャロライン、あんな女を誰がまともに相手すると思ってるんだ?雑用でもさせていたんだろうよ」
ドゥエックが口をはさみ、キャロラインはそれもそうかと2人で笑った。ノエル卿は2人を注意する余裕もなかった。手紙に何を書くべきか。それで頭がいっぱいだった。セシリアもまさかアリーが公爵家で公爵が親代わりとなって育てていたとは知らず、どうしようかと頬に手をやった。




