お出かけ
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楽しんでいただけると幸いです。
「アンタは色素が薄いから白が似合うわね」
コメディを観に行く日にアリーはクローゼットを漁り、ソフィアを風呂に入れ、自分の服をソフィアに着せた。水色にも見える白い髪に薄い碧い眼でボブカットのソフィアは白にストライプの生地のドレスを着せ、顔に頬紅と眉墨、口紅で化粧をしてやり、髪を梳かし、大きなリボンのついた白い帽子を被せ、レースの手袋をつけさせると、ソフィアはメイドから令嬢に変身した。
アリーは自分も深緑の襟のついたドレスを選び、白いレースのついた帽子に手袋をし、日傘を貸してやり2人で馬車に乗った。今日は晴天である。
会場へ着いた時、アリーはソフィアに「アンタの名字は?」と尋ねた。ソフィアは首を振った。
「私は孤児ですので名字はありません」
「ああそう、でもまあ貴族の家で散々ないじめに遭うより孤児の方がまだマシかもね。少なくとも実の親に裏切られるっていう絶望は味わわなくて済む。ーーあらオールストン公爵」
アリーは会場にいたオールストン公爵と妻のリリー、娘のプレシャスを見つけ挨拶をした。ソフィアも頭を下げるとアリーはソフィアを公爵一家に紹介した。
「私のお付きのメイドのソフィアです。言語がとても得意で、1週間前に読み書きを初めて教えたのに今はもう詩もいくつか暗唱できるし、言語も中等教育まで行っています。今後は外国語も教える予定です。彼女が望めば軍で翻訳か、あるいは解読に関わってもらうつもりです」
「ほう、ではソフィア、『ある朝』を暗唱してごらん?」
オールストン公爵の言うままにソフィアが詩を暗唱するとオールストン公爵は「素晴らしい」と微笑んだ。
「本当に1週間前まで読み書きもできなかったのかね?この詩は言い回しが難しいぞ」
「ソフィアは天才ですので。ぜひとも軍に入れて育てたいと考えております。もちろん、彼女が希望すれば、ですが。ああそうだ、オールストン卿、もしソフィアが軍を希望したらお願いがあります。彼女は孤児ゆえに名字を持っていません。ですのでソフィアが入隊することになったらオールストン卿のお名前の一部をいただいてもよろしいでしょうか?ーーそう、たとえば『ソフィア・オールス』ですとか」
アリーのお願いにオールストン卿は少し考え、「それでは語呂が悪いな」と言った。
「ソフィア、君は今日からソフィア・オールストリーと名乗りなさい。なに、こんな名字の者など何人もいる。私から陛下に手紙を書いて正式に名字になるようにしておこう。よいかね?アリー?オールストリー嬢?」
「は、はい」
「ありがとうございます閣下。やはり閣下にご相談してよかった。いつでも私を助けてくださるのは閣下ですもの」
「ハハハ、珍しく謙虚だなアリー、まあ、このような天才は滅多に現れないしな。よいよい。お前は第二の娘のようなものだし、プレシャスともよく遊んでくれた。これぐらいは造作もないことだ」
オールストン卿はまんざらでもない顔をして「それでは」と向こうへ行った。その際に娘のプレシャスがはちみつ色の金髪と碧い眼を輝かせてアリーに向かって大きく手を振り嬉しそうに「アリー」と呼んだ。
「アリー、また乗馬を教えてくださいな。名馬を飼いましたの。一緒に乗馬しましょう」
アリーは笑顔で頷き、プレシャスは母であるオールストン公爵夫人に「はしたない」と叱られていた。そうして姿は見えなくなった。たぶん彼らは貴賓席で見るのだろう。
ソフィアは突然自分に名字ができたことに当惑していたが、アリーが耳元で「これでアンタは今日からあらゆる制限がなくなるわ」と囁いたので、ソフィアは頷いた。
名字がないことで制限されることは読み書きができない以上に多い。保険にも入れないし、自力で金を貯めても学校にも通えない。軍に入れば名字を与えられるが、それは孤児だと分かる名字で、退役後の年金も少ない。家も買えないし、アパートメントを借りるのにも苦労する。仕事もない。だから名字のない者はどんどん貧しくなり、結局路上で売春婦になるか、犯罪に走る。
アリーが自分の為にオールストン卿に頼んだのだと知り、ソフィアは顔には出さないが嬉しくなった。こんなに嬉しく思ったのは生まれて初めてかもしれないと考えた。




