怒涛の四日目
「――まずいわ。非常にまずいわ。既にここに来て四日目…あと一日で私は学園に戻らなければならない…」
俺は物陰でメイド達やクロスに目をつけられないようにじっと座っている。もうそろそろメグメルスも来るだろう。
「…一体どうすればいいの…」
最悪、休んでもいい。しかし休んでその時に何が起きるか分からない。どうすればいいのやら…登校日に休む奴は大体ロクでもない理由なのだ。
残り迫るタイムリミット…その絶望を噛み締めていた時、ふと通信石が光る。誰かからの連絡である。
「ん…?カミスか?」
このタイミングだし、カミスからの何か報告かと思い通信石に魔力を流して相手の声を聞く。
『――あっマルスの魔法通信石だよな?繋がってよかったぜ…』
どこか聞いたことはあるような気がするが、あまり覚えていない声。それに、マルス…と呼ぶのだからこれはカオス・エデンのメンバーではない…?
俺は一時的に声帯をマルスのものに変え、相手に応じる。
「えっと…誰だ」
『失礼だなオイ!?カナリだよ!「カナリ・エンス」!!』
カナリ…と言えば確か学園に入ってきてすぐに俺に喋りかけてきた水色髪の男子学生だ。大して強くもない剣技を自慢してきたんだっけ…
「あぁ…!カナリか…どうしたんだ?わざわざ俺に通信を繋げるなんて」
するとカナリは焦っているのか慌てているような様子の声で俺に必死に訴えかける。
『は…?お前聞いてないのかよ!エクス様…というか、学園が登校日を一日早めるって!お前まだ教室に来てないみたいだし…早く来ないと…!お前がディアマ――』
カナリが何か言いかけた時、カナリ側の魔法通信石に何かあったのか、突如通信は切れる。
「な……登校日が…早まった…?どうして…!」
わざわざあのお人好し勇者が登校日を一日早めるだなんて……これは何か裏がある…今すぐにでも学園に戻らなければならない…だが…
「もう…メグメルスとの…約束の時…!どうする…!?」
「――お〜い…もう来たんだけど」
頭を抱えていると長い赤髪に、輝かしい虹色の瞳を持っている少女――メグメルスが角から顔を覗かせる。
「え…どしたの…その顔。さっきまでと全然雰囲気違くない?」
「メグメルス様…?まずい状況になったの…!エクスと連絡は取れるかしら!?」
「えぇ…エクス?まぁ一応…アイツが私に応じてくれればだけどさ」
この際、ミロクということがバレてしまってもいい。そう思い、俺は口を開く。
「実は…!私はマル――」
「――あら、それはイケナイ言葉だわ?」
◇
「――は…?」
暗く、黒い空間。もはや見慣れた光景だ。
「え…?ここは…バラ…!?お前…!なんだってずっと俺の言葉に応してくれなかったんだよ!それに話したいことが沢山あるぞ!」
「なにかしら?」
俺が叫ぶとどこからかバラの声だけが聞こえてくる。
「なぜ…エルフの国で俺をカルノの姿に戻した…!しかも…レオルの前で…!」
今すぐにでも胸ぐらを掴みたくなったが、姿が見えないから出来ない。ただ怒りの気持ちを見せるために俺は黒い空間を睨む。
「そのほうが面白くなると思ったから…としか言いようがないわね。忘れたかしら?私は未来が見れる…それが最善の未来だろうと、最悪の未来だろうと、あなたの『全てを支配したい』という目的だけは達成させてあげるわ」
「面白くなる…?気持ちの悪い言い方をするな…それは本当の意味での成功とは言えない未来なんじゃないか?」
俺は強く問いただす。しかし、バラの声は全く怯まない。
「そこはネタバレになるからなんとも言えないけどね。それよりも、今は優先して聞きたいことがあるんじゃないかしら?」
俺は本来の目的を思い出す。メグメルスはどうなったのだろうか?
「メグメルスは…?今、どうしてここの空間に――」
「――死んだ」
「は…?今…なんて…」
「だから、死んだわ。あんたは。私の手で殺した」
俺はこの空間に来る一瞬前のことを思い出す。
◇
「実は…!私はマルス・アンドラウド…!勇者学園の生徒…!エクスに今日来なければどうなるか教えてほしいの!」
――グシャッ。
「あ…え――……」
土手っ腹に穴が空く。臓器がボトボトと地面にこぼれ落ちる。
「――う、うわぁぁぁぁぁ!!」
メグメルスは絶叫し、一歩後ろに下がって転ける。
しかし、そんな光景もうろ覚えになっていく。
――苦しい。なんで死ぬんだろう?死にたくない。痛い…まだ……終わりたくない――。
◇
「っ…!!うぐぅあああああああああ!!!?ぎっ…ぐぅっ…!!」
俺は全てを思い出し、腹を抱えて転げ回る。
「ど…どう…して…殺した……!!バラ!!」
「それは――」
「面白いと思ったからか!?ふざけんな…!!蘇生魔法なんぞ使えねぇんだぞ!!どうしてくれる!!俺を…!!十五年の俺の計画を!!」
「あぁ…落ち着いて落ち着いて…まぁ…面白いと思ったのはちょっとそうだけど…蘇生魔法が使えない…というのは認識としては合ってるけど…理論的には違うわ」
「ど…どういうことだ…?」
バラはどこからともなく姿を現すと真剣な顔をして俺を見る。
「――あなた達には…世界レベルの上限がある」
唐突の事実に俺は一瞬だけ思考が止まる。コイツは一体何を言い出すのか…
「世界レベルの上限…?どういうことだ…?」
「そうね、とりあえず簡単に説明するわ。まず…世界にはその世界を保つ…要するに――因果関係、時間時空、秩序、森羅万象…これらが破壊されないような自己防衛装置みたいなものがあるの。私はこれを世界の"レベル"と呼んでいるわ」
「世界の……レベルって…つまり…あれか?ゲームで言うところの上限があらかじめ決められたキャラはその上限を越えた強さは手に入らないような…」
「あぁ、そうね。例えるならそんな感じ」
しかし、話が逸らされている気がする。
「ちょっと待て…それと俺を殺したことになんの関係がある?興味深い話ではあるが…復活出来ないんじゃ意味が――」
「だから、あなたの魔法と上限を上げる…そういう話。あなたを殺したのは、世界からの干渉を避けるためよ」
もっといいやり方はなかったのだろうか……殺すにしてもあの死に方はかなり苦しかったぞ…
「なぜ…このタイミングで…?もっと後からでもいいだろう…」
「それはまだ話せないけど、とにかく今必要だったの…あなた、随分とクロスにボコボコにされてたじゃない?」
「いや…あれは国への被害を避けるために本気を出せなかっただけだ。俺が本気を出せば大陸を崩壊させる程の力がある」
するとバラは呆れたような顔をしだす。
「はぁ…それはクロスも同じに決まってるじゃない…クロスは本気出さなくても地球破壊なんて簡単なんだから」
バラはサラッと言う。
「なっ…!?嘘だろ…?し、しかし…概念魔法に長けている俺なら…物理的な規模は少なくても…」
「概念魔法の中でもレベルの低い魔法しか使えないくせに何を言ってるのよ…クロスは今の世界レベルの上限を越えたレベルの強さを持っている…だからあなたじゃ勝てない。あんたが出会ってきた奴らの中じゃエクスやレヴィアも…あぁ…あとカーンズもそうね」
「そ、そんなに居たのか…でも、なんで俺の上限レベルは低いんだよ?お前の力を奪って転生したならもっと高い適正があっても…」
「無理よ。力だけ奪って、私の姿、形、名、概念、因果…その全ては取りきれずに、無理やり転生したわけだし…だから私の因果を持ってたのなら上限レベルは高くなってただろうけど、カルノっていうあくまで一般人の身体に転生したわけだから…上限レベルは低いわよ。言うならば――」
バラは得意気に人差し指を指してニヤリと笑う。
「最強の凡人!」
「それは褒めてんのか貶してんのかよく分からねぇけど腹立ったから殴っていいか…?」
「暴力はだめよ。痛いわ」
「土手っ腹に穴を開けて人を殺すやつが言うセリフか!!」
なんて話していると、バラはまた真面目な空気に戻る。
「さて…このタイミングで殺したのには意味がある…それはあんたを助けるためよ。ミロク」
「俺を…助けるため?」
「そうね。さっきも言ったけど、あなた個人の上限レベルを上げるためと…さっきの正体をメグメルスに打ち明けようとしたこと…それを防ぐためね」
「なんで…伝えたらダメなんだ?」
バラはくすくすと笑い、妖艶な笑顔を見せる。
「勇者の話が嫌いなと〜っても怖い人が来るから…ね」
「そ、そうかよ…じゃあそこは分かったが…話を少し戻して…なんでレオルの前でカルノの姿に戻した…!面白いと思った理由を話せよ…!」
「そこは――」
バラが言いかけると黒い空間は揺れ始める。
「なっなんだ…!?」
「――っと…時間がないわ…また今度話しましょう。私も私で忙しいの」
バラは俺のおでこを指で弾くと、ニヤリと笑い俺を暗闇の底へと落とす――。
◇
「――っ!!」
俺が目を開けると、そこは太陽が昇り切る前の時間帯の四日目。つまり、アメグスと話終わったすぐ後まで戻っていたようだった。
「これは……なんだ?バラが気を利かせて時間遡行させてくれたのか?」
なにはともあれ、話が有利に進みそうで助かった。これならば、俺も運命を変えれる――。
「レオル…と、エクス…!あまり俺を見くびるんじゃねぇぜ――!」
スキーです!
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