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四つの謎

 「ちょっ…なにこ――」


「迂闊に触るな!」


俺が紋様に触れようとした時、アメグスは叱責し、俺の紋様を注意深く見る。


「うむ…これは間違いなく呪印だな…それもかけられてからまだ新しい方だ。一体どこで忍と接触した?」


忍と接触した経験はカンノとの戦闘以外ない。それに、あの時にカンノと交戦した時はこの国に行ったことすら無かった。それに最近と言っているのでカンノがわざわざ前からつけた…というのは無いだろう。だとすれば可能性があるのは――。


「一日目の夜――…」


「その時に何かあったのだな?」


「忍と接触した覚えはない…でも、ここのお風呂に入って上がってから異様な程の眠気が襲って…その辺の空き部屋に寝転んで起きたら城の外で立ってた…って感じね」


あの時の異様な眠気…あれは間違いなく疲れによるものではないだろう。あれは誰かが仕組んだものなのか…だとすれば…


「私としては…アサトラムが怪しいと踏んでいるの」


俺の言葉にアメグスは目を見開く。無理もないだろう。自分の側近な上、忍の術など使えるはずもないのだから。


「アサトラムが…?そんなことをするのだろうか」


「まぁ…信用は出来ないわよね。でも今はそれでいい。それにあくまで可能性の話でしかないわ…今は犯人探しよりもこの呪印をどうにかすることから始めないと…解く方法はあるのかしら?」


俺が聞くとアメグスは悠々とした雰囲気で俺に近付き、紋様の前に手を出す。


「これと言って解除に必要な儀式はないが…呪印の解除はそのかけた本人は解けたことが分かってしまうぞ。それでいいのなら解くが」


「なっ…そうなの?んー…それは迷うわね…あっでも、私が呪印を解除すれば、国の壁をわざわざ壊す手間は省ける?」


「それはどうだろうか…そもそも、この呪印の効果がそなたの認識を阻害する効果と決まったわけではない。これは別の効果という可能性もある…そして盤面付与魔法の方が、認識阻害の効果を持っているという可能性も、否定は出来ない」


忍…かなり厄介な術を使う…魔法じゃないから魔力切れの心配が無いのもデカいし、なによりこれがどういうものなのかも、魔法の術式じゃないから解読不可能…


「それじゃあまだ解かない方がいいってことかしらね…」


「結局、国の壁を破壊することにもなりそうだ…しかし、それがこの国にとってどれほど危険なことで、どれほどの被害を出すことかは、承知しているな?」


国の壁を破壊…それはつまり、敵襲が来た時、メグメルスが襲われやすくなってしまうということ。

メイド達が居るから大丈夫だとは言え、もしもディアマテ解放教のような奴らが来てしまえばどうするか…幹部には司祭、四大魔神皇やカリスイノのような敵が居る…流石にコイツらはクロス達と言えど相性が悪いはず。


「えぇ…それは十分分かってるわ。ディアマテ解放教…奴らは組織の拡大を広げ続け、最近は国の至るところで被害を出し続けてる…この国もいつ狙われてもおかしくない…そんな状況を分かっててこの言葉を言うのも正直胸が痛いのよ?」


「胸が痛い…か。ならその心優しさをこの国にも与えてほしいが…そなたの言い分に、確定要素は無くとも実際に小さい被害として出ている…これ以上はこの国としてなにか良くないことが起きるかもしれないというのは事実だな」


「それじゃあ、決まりね。今からこの国の壁に刻まれているであろう忍術の術式…あるいは魔法の術式を探しに行くわよ」


俺が言うとアメグスは困ったような顔をして俺を見る。


「申し訳ないが、今からは無理だな…」


「え、どうして?」


「こんな真夜中に外に出れば他のメイド達に心配をかける…それに、もしものことがあってメグメルスの体を傷付けるのも余としては不本意だ。その活動についてはメグメルスと共に行ってくれ」


恐らく、アメグスはメイドが心配しなかったとしても行かないのだろう。メグメルスをどれだけ大切にしているのか…それがアメグスの喋り方からは伝わってきた。


「メグメルス様と?」


「あぁ、運命を悟る魔法はメグメルスにしか使えない。体質変化で余は使えなくなるからな。もし探している途中でなにかあるのもそなたとしては不本意だろう?だからメグメルスをつける。本人も別に良いと言っている」


「ちょ…あんた一人で外出出来るの?あんたが出かけるってなったらメイドが総動員で監視してそうなんだけど…」


「そこは何も問題はない。余とメグメルスはクロスとの契約魔法で必要時以外は自らの意思でこの国の外へ出ることは不可能になってるからな。それをメイド達は分かっているし、メグメルスが外に出るということは必然的にアサトラムも着いてくる。だからわざわざそこまで監視体制を厳しくされることはない」


「それはそうかもしれないけど…それはそれで今度はアサトラムが着いてくるんでしょ?それは大丈夫なのかしら…」


アサトラムも俺を忘れているはずだ。見ず知らずのメイドを自称する者がいきなりメグメルスにくっついていて、あのアサトラムが正気で居られるのだろうか?


「ねぇ…アメグス」


「?どうした」


「アサトラムの言っている言葉の意味…その全てをあなたは理解出来ている?」


俺が聞くと自信満々にアメグスは頷き答える。


「当たり前だ。アサトラムとは初めて会ったときから一番の側近だ」


「そう…ならいいわ。別に深い意味は無いから気にしないでちょうだいね。なんとなく気になっただけだから」


――とは言ったものの、全くの嘘である。いや、もしかしたらアメグスは俺の嘘に気付いているかもしれないが…

こんなことを聞いたのにはもちろん意味がある。俺はアサトラムの行動一つ一つが、俺に隠しメッセージのようなものを伝えようとしているような気がしてならないのだ。そして、その一つ一つが…どこかアサトラムのシナリオ通りに動いているような気もする…クロスとの交戦はあったが、それはそれとして上手く行き過ぎな気がする。俺の考えすぎだろうか?


「とりあえず、私たちのすることは四つ…この国と私に起きている異常と、誰がこんなことをしたのか…一日目の夜に何が起きたのか…そして――忍の秘密…この四つの謎を、解いていく。いいわね?」


「相変わらず信用に欠ける話だが…ひとまずは乗るとしよう…それと、そなたのすべきことは謎を解くだけではない」


俺が「え?」と返すとアメグスにしては珍しく微笑む表情を浮かべる。


「謎を解いたうえで、しっかり犯人を見つけ出せ。そして失われたものを取り返せ。あとは、メグメルスも…頼む」


「えぇ…そうね。そこは約束するわ。悪魔と契約した気分で頼ってくれていいわ」


俺がふっと笑ってアメグスを見るとまた困ったような表情を浮かべて俺を見る。


「なっ…そこはもっと安心できる言葉が欲しいところだったが……まぁ良い。ここ数時間は身を隠して、早朝からメグメルスと共に国を調査して来い」


「了解」


俺は窓からメグメルスの城の外へ出る。冷たい風が俺の頬を掠めながら降下する。

彼女からはまだまだ聞かなければいけないことが色々あったが…それはもろもろの事件が終わってからでいいだろう。


「メグメルス…頼りにするわ――」


◇


――勇者学園中核。


暗い月明かりだけが入る部屋の中、黒いモヤのかかった数人の男達が、赤髪ロングの男と金髪の男の周りを囲うようにして座っている。


「一体……どういうつもりなのかね?レオル・カルレリーノ」


一人の偉そうな男が中心の赤髪――。つまりレオルを静かな怒りを感じるような声で問いただす。


「どういうつもりも何も――。私のしていることは合理的かつ、安全に行える行いの一つですよ。エクス様もよろしいと言っていますが」


「それを我々学園理事長に報告しないことが問題だと言っおるのだ!!」


また一人、偉そうな男が叱責する。


「それにいくら勇者とは言えど、所詮現在の立場としては学園の校長…我々よりも上の権限は無いのだよ。それを通せると思ってたのか?」


男達は次々にトゲのある言葉を言っていく。それを遮るように金髪の男――エクスが声を出す。


「私は確かに校長ですが、それでも勇者という仕事が消えたわけではありません。私が、私の意思でカメアノサスの民の人々を守ることは勇者として当然の行い…勇者としての仕事をしてもいいと仰ったのはそちらですよ」


エクスもレオルも焦った様子は無く、ただ偉そうな学園理事長の男たちを見る。


「くっ…だが、それはあまりにリスクも…」


「それは分かっています。だからこそ、メリットも大きい…今回の作戦案を考えた私からもう一度話しましょう」


レオルは一歩前に出て鋭い視線を周りに向ける。


「――学園の課外授業終了日を、一日早め、本来の終了日である前日に学園へ登校しなければ…ディアマテ解放教の内通者として扱う――」

スキーです!

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