最強の力
俺には作戦がある。それはカミスを使うことだ。さっきのカナリの通信で決定的になった。やはり国の外に居る人間は俺の存在を忘れていない。これで危惧していたカミスの俺の記憶損失は無いことが確定したと言っていいだろう。それなら頼めることがいくつかある。
俺は魔法通信石に魔力を流し、カミスの通信石へと繋げる。
「カミス…俺だ。分かるな?」
一応、恐る恐る聞く。すると、いつもの調子でカミスは喋りだす。
『あぁ…ミロク様ですか。どうなされました?』
忘れていないことに安堵し、少しほっとする。
「あぁ…実はイレギュラーが発生した…」
俺は学園でのこと、そしてコクレクトでの一連の騒動について話した。
『ふむ…なるほど。それで?俺は何をすればいいんです?』
「白マント共を使って、学園を休校にする」
俺の言葉にカミスは少し困惑しているような声色になる。
ちなみに白マントは捕まえられそうな奴は捕まえて、カオス・エデンの建物の下に全員捕縛しているため、カミスのような奴がいれば手駒として操れるようになるのだ。
『う〜ん…あの学園の広さでは完全に全員を操ることは出来ませんし…雑兵なんかじゃ一瞬で崩壊します。なにせ教員は多くが、元勇者パーティ適性候補者の人達なんです。俺だけじゃどう足掻いても――』
「誰が、お前だけなんて言った?」
『え?』
カミスは抜けたような声を出す。
「カオス・エデン…総動員だ。もちろん、俺も含めて…な」
『し…しかし、任務の途中なのでは?』
「なに、問題はない。メグメルスが来るまで三時間…その間にカオス・エデンの全勢力で学園に大損害を与える…これならすぐに建物を直せるとしても三日は稼げる」
『なるほど…!それでは今すぐに俺はエイメノカサスに帰還し、サラム達を叩き起こしに行きますね』
「助かる。俺はその間に学園の下見に行ってくる。頼んだぞ」
俺はそれだけ言い、通信石の魔力を切る。まぁしかし、勇者学園に進撃する…つまりはエクスと対峙することになるだろう。あいつが本気を出せば、仲間達を庇いながら戦うなんてことは不可能だ。俺が出来る限りエクスを引き寄せ、叩かねばならない。
「空間転移…」
空間転移の魔法を使い、俺はちゃちゃっと勇者学園へと飛ぶ。久しぶりに戻ってきたが、警備が前よりも固くなっている。兵士達だけでもざっと五百は居るかもしれない。
「ん…てか普通の兵士達だけじゃないな…」
辺りを見渡せば、勇者学園の教員達が居る。青いマントに、赤いスーツ。その一人一人が一際目立って魔力の気配が段違いだ。
「まっ…サラム達なら余裕か…あっ…でも…」
俺は思い出す。ミナノの存在はどうするべきか。コクレクトに置いてきたままだった。しかし、どのみち連れて行こうとしたところで俺の記憶が無いのだから意味が無いだろうか…
「――さっさと終わらせてやる」
◇
一時間後。ミナノを除いてカオス・エデンのメンバーとカミスの操る白マント軍五十名が集結する。
「クフゾは…まぁ正体がバレてるからいいかもしれないが、他の皆は変装して戦えよ。正体がバレたら面倒くさそうだ」
「随分と簡単に言いますがミロク様。俺なんかは固有魔法がかなり特殊ですから、正体を隠してもかなりバレやすいと思うんですが……」
カミスの言うとおりである。それで言うとサラムも剣技はかなり上積みなため、サラムを見たことのある奴ならその技量でバレる可能性もあるかもしれない。
「そこは…まぁ頑張ってくれ。極力エクスには会わないようにしろよ。あいつは魔力の性質で人物を見分けれる力がある…正体を隠しててもバレる」
するとレフィアが俺の前に出る。
「ミロク様。私だけ…ミロク様について行ってもよろしいでしょうか?」
「なぜだ?」
「前の…エルフの国での勇者の言葉が気になるんです。まるで、私の昔を知っているかのような…今の私は記憶がありませんが、勇者なら何かディアマテに関することも聞けるのではないかと…」
そういえばそうだった。エクスのあの意味深な言葉…あれは俺も気になっていた。なにか話が聞き出せるというのなら、俺も聞きたい。
「分かった。レフィアは着いてきても構わないが……それはあくまで上手く行った場合のみだ。基本は教員のような主戦力と戦えよ」
「分かりました…!」
レフィアは真っ直ぐな目で俺を見て深々と頭を下げる。
「それじゃあ…どうやって攻めるかだが…まず前衛はサラムとカリンで崩してくれ。範囲攻撃ってんならお前らが適任だ」
「俺が前線に出れるなんて…!光栄です」
大男のカリンは目を輝かせて嬉しそうな顔をする。
「調子こいてたら死ぬぜ?間違えて切っちまうかもな」
サラムは小馬鹿にするようにカリンを笑う。しかし、空気は本気のようで、サラムは既に腰の剣に手をかけている。
「そして、中衛はカミス率いる白マント軍と、剣士軍、ネオミシスカのチンピラ軍だ。カミスが真ん中からサポートしながら、前衛で崩れたところに数の暴力で一気に攻め入れろ」
「なるほど。流石ミロク様ですね!的確な指示で毎回心揺さぶられますよ」
コイツの言葉は本当に本心か分からないから素直に喜べない。
「――勝てるかな…?」
「――今さら弱気になるなよ!」
「――行くしかないだろ」
剣士軍とチンピラ軍もやる気に満ち溢れているようだ。
「それじゃあ後衛…俺とレフィアとクフゾだ。教員達のような実力者達は前衛中衛だけじゃ落とせない可能性がある。だからそこは俺達三人でなんとかする」
それに、あくまで俺達の目的は学園の休校が目的。わざわざエクス達を倒す必要があるかと言えば無いのだ。
「決着は短期決戦…でだ!」
「「「了解…!!」」」
静かな返事が響く。
しかし、気になることがある。学園の生徒を迎え入れるだけで、なぜここまで手厚くガードを固めているのか。まるで、俺達の襲撃が来るのが分かっていて、それを未然に防ぐようにしているような…
だが、考える間もなく、サラムとカリンが真っ直ぐに飛び込む。二人は黒い仮面で顔を隠しており、ぱっと見で正体が誰なのか気づくことは出来ない。
「――大地崩壊!!」
「――なっ、なんだ貴様らは!」
「――カオス・エデンの奴らか!」
カリンは大地魔法を使い、地面を隆起させる。そのお陰で兵士達は体勢を崩す。
「――鬼剣流、一奥義!残彰!!」
そこにすかさずサラムが剣を振るう。その剣の太刀筋は斬撃が切り裂くよりも早く兵士達を一刀両断し、遅れた斬撃がさらに兵士達に追い討ちをかけるように切り裂く。
兵士達は叫び声を上げながら血飛沫を撒き散らしてその場へと倒れる。
「ふんっ!!楽勝だな!!」
カリンも剣を振り回して兵士達を切り裂く。
「――ここは通させません…」
サラムとカリンが真っ直ぐ突っ切っていると長い黒髪を後ろでまとめた男が眼鏡をずらしながら前へと出てくる。
その男は赤いスーツに青いマントを着ている。つまりは教師だ。
「中々に強そうな奴が現れたな…」
サラムは息を呑む。カリンもその出で立ちから力を感じ取っているようだ。
「――闇の神、デイモン…現れよ」
闇の渦が男の下から現れる。
「ミナノと同じ神の使いか…!中衛…!畳み掛けろ!」
俺は数の物量として白マント軍、チンピラ軍、剣士軍を男に一気に襲わせる。
「ふふふ…俺も行きますか…紫電虹彩!!」
カミスはネオン色に輝く雷を操り、辺りを焦がしていく。それは速く、男も神の召喚を止める。
「面倒くさいですね…しかし、戦力となるのが私だけだとは思わないでください!!」
すると男の後ろから見知った赤髪の男が現れる。
「っ…!レオル…!」
レオルだ。眉間にシワを寄せ、手に光の魔力を纏わせている。
「カオス・エデン…!忌々しい…!ディアマテ解放教といい…潰す!!」
レオルは魔法陣を描き、光の魔力を注ぎ込む。
「光魔法――第二深層。レヴィ・ルートゼア!!」
光の剣が雲の上から地上へと振り注ぐ。
「くそっ…!!」
サラム達は防御の体制を取ることしか出来ない。カミスの操る白マントのお陰で致命傷は今のところ避けているが、これも時間の問題だろう。
「く…動くしか…?」
そこで俺は思い出す。バラの引き上げてくれた俺の限界を――。
「――多次元宇宙魔法。因果空間支配…!」
俺は自分の有り余る魔力を使い、その魔法を発動する。すると、音は消え去り、周りの動きは停止する。
「んなっ…!これは…!時間停止ってやつか…!?」
「――いや、それよりも凄いと思うけど」
「うわっ!?ビックリした…クフゾ…?なんでお前は動けるんだ?」
「僕は一部神の力があるからね。恐らくそれが関係してるんだと思う」
「そうか…それより、時間停止より凄いことってのはどういうことだ?」
バラの魔法…いや、もはや魔法の域を超えているのかもしれない。
「そうだね…時間停止をさせる魔法ってのは歴史上存在しないわけではない。しかし、それとは根源的なレベルが全く持って違う…ミロクくんは時の流れ、そしてその流れに沿って運ばれる運命…いわゆる因果律の所有権そのものの略奪を君はしているんだ」
「それじゃあ…時間停止が本来効かないような奴でも効くのか…?これ」
「そういうことになる。時間停止はあくまで空気中の魔力をいじって起こしてるだけに過ぎない…だからエクスやレヴィアほどになれば通用しないが、これなら…ね」
「それじゃあ…今の内に、エクスの所へ行ける…?」
奴でも効くのか…それは分からないが、俺は前にエクスと初めて会った地下倉庫へと目を向ける。
「……行くぞ――」
スキーです!
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