救いの手
「へ…?ちょ…ちょっと。どうしたのよ!」
やはり…なのか…?この国に入ったらその時だけ俺という存在の記憶が消去される…ということなはずだ。まだなんとも言えないがどのみち似たようなことには変わりない。しかし…どうするか…クロスと再度戦闘する魔力はもう残っていない。
「どうしたもこうしたも…そのえげつねぇ量の魔力と、人間と魔族の魔力の匂いが混じった変な匂いがすんだから違和感でしかねぇよ。その上、わざわざ俺に話しかけてくるんだからな」
まずい……言い訳を…!これではまた戦闘になってしまう。それだけは絶対に避けなくてはならない。
こうなれば…レヴィアさえも騙せたあの方法を使うか…
「待って。攻撃するつもりはないわ。その証明に…」
俺は条件発動魔法を使い、氷の釘を自身の心臓の周りに出したことを見せる。
「これは氷刑の釘と言う条件発動魔法よ。私があなたに攻撃をすれば、即座にこの釘は私の心臓に突き刺さって死ぬ…どう?これなら攻撃する意思は無いって証明にならないかしら?」
クロスは顔をしかめて俺を見る。殺意はさっきよりも収まった気がするが、まだ警戒心は解けていないようだ。
「ディアマテ解放教とかの偵察……じゃねぇよな?戦わなくたって、この国の下見をして裏で準備をするなんてことも出来るだろう?」
「そうね…確かにそういう可能性も考えられる…でも――、この名前を聞いちゃ、関係のある人間だとは思わないはずよ」
俺はその名を口に出す。
「アサトラム・エンヴィーナム…虹霓魔法の使い手。そして、固有魔法として運命を悟る力を持っていた…ってとこかしらね?」
俺がそれを告げると今度は面食らった様な表情でクロスは俺を見る。
「んなっ…その情報はほぼ誰も知らねーはず…ましてやディアマテ解放教なんかが知ってるはずもねぇか…んー…分かった。用件を教えろ。モノによっちゃ俺が手伝ってやるよ」
あ…危ない。意外と警戒心強めな男でビックリだ。普段はちゃらけてる…というか、だらけてる感じなのに戦闘になると一気に気配も何もかも変わる。敵に回したくはない男だ。
「話が早くて助かるわ。用件としては、メグメルスに会いたいの」
「お前…メイドの服着てるってことは一回メイドになったんだろう?なんでメイドなのに会えねぇんだよ」
「細かく説明すると長くなるけど、今だけここの国内では今日までの私の存在記録は全て無くなっているらしいの…それで本来昨日メイドとして城に派遣されたはずが、昨日の記憶も全員消えてるから私のことを誰も認識出来てないって話よ。だから私自身の力でメグメルスに会うことは出来ない…」
そもそも、なぜこの国内だけが俺の存在を消すのか…?そこが全く分からない。神級クラスに近い…概念系の魔法…?いや、もっと簡単なものなのか…
「分かった。メグメルスに会いてぇんだな?しかし、その目的はなんだ。目的次第じゃお前のことをここで消さなくちゃならねぇかもしれねぇ」
あ…そういえば会うための理由を何も考えていなかった。どう言うのが正解なんだ…?会う理由…会う理由…いや、なにかメグメルスに関連したキーワードでも…?
「アサトラムから。『もし、自身の身に何か起きた時。他の誰でもなくまずはメグメルス様をお頼りください』って昨日言われ――」
――ボオッ!!
「熱っ…!くっ…」
突然、俺の頬が焼けるように熱くなる。それを察した瞬間に氷で冷やしたから問題無かったが、危なかった。
「ちょ…クロス…?」
どこか様子のおかしいクロスに俺は刺激をしないように声をかける。――が…もう手遅れのようだった。
「アサトラムから…それを聞いたのか…?お前…」
「え…えぇ…だから、そう言ってるじゃない…メグメルスにこの現状のことを話すために私は――」
「――その言葉は!!アサトラムが危険視している奴にだけ言われる言葉だ!!」
「え…?そっ…そんなはずは…!!」
な、なぜ…!?俺が…アサトラムに危険扱いをされてマーキングされていた…!?いや…まさか…!
俺は昨日のアサトラムの言葉をまた一つ思い出す。『このお風呂場での話は全て口外禁止ですからね。――では』
「お風呂場での……話…そうか…これも…含まれる…ってこと…!じゃあこれは…話しちゃいけない内容――」
――ドゴォォォッン!!
「きゃあああああ!」
炎の鳥が俺を吹き飛ばす。やばい。これ…死ぬ…?魔力を使いすぎて時間遡行魔法なんてとてもじゃないけど使えない…やり直すことも出来ない…
「あ…諦めない…!」
いや、きっと大丈夫だ。逃げる体力はある。いくら相手がクロスとは言えど、俺の魔法技術なら逃げるくらいのことは出来る。
「風舞!!」
俺は風で上空へと飛び、とりあえず国の外へ出ることにする。幸いにも国の門が近かったため、これは簡単に抜け出せた。しかし…クロスは追ってくるだろう。
「氷像分身…!」
俺は氷の分身を五体創り出す。見た目は本物のサナと見分けがつかないくらいには精巧に作られているものの、クロスなら簡単に見分けられるだろう…とりあえず撹乱のために散らしてみる。
「くっ…どうすれば…!そういえばカミスはどこに…?」
カミスは一応国の外で待機しているはずだ。それに、コクレクト共和国の外だから今ならカミスに連絡をしても忘れられる可能性というのも無くなるだろう。
――しかし、クロスは妙に追ってこないな…?
「いや…違う…まさか――!」
「――うおおらぁっ!!」
灰色髪のメイドが上から飛んできて拳で地面を砕く。俺は間一髪で上に飛び回避したが、どんなパワーをしているのだ…
「アンリメル…!」
「なんで俺の名前知ってんだ…?まぁいいや…あんたお嬢に近付こうとしたんだってね…クロスから聞いたよ。ボッコボコにしてやるから覚悟しな」
アンリメルから感じるのは炎の魔力…あの異常な身体能力は魔力によって向上させているのだろうか…?固有魔法もあるだろうし、警戒しなければ…
「はぁ…こっちはただでさえ魔力無いってのに…」
恐らく…他のメイドとクロスも来ているのだろう…このままでは本当に殺されるかもしれない。この世界で初めて本当のピンチを味わっているかもしれない…そう思える程にはまずい状況だ。
「そうだ。アンリメル!他のメイドにも…あぁ…クロスにも伝えなさい…私が――メグメルス様と…」
俺はアンリメルを挑発させるためにとりあえず何か言おうとするが…特に何も考えていなかった。どうするか…何を言おうか?まぁ挑発出来ればなんでもいいか…
「女性同士の禁断の恋をしているということを――!」
沈黙が広がり、殺伐としていた空気が一瞬にして鎮まる。アンリメルは目を点にし、固まった。
「………………は…?」
「今だ…!地隆波!」
俺は地面を隆起させ、自身の周りに壁を隔てる。その後、自分の立っていた場所の下に穴を掘りそこに隠れる。
「なっ、なんだと!?ふざけんな!!お嬢は…!あってかどこに消えやがった!?」
よかった。効いてるみたいだ…てか、記憶が戻った後が面倒くさいし、怖すぎる…早いうちに訂正しとかないと…
「はぁ…土の中で落ち着かないけど…これが一番安全…か早いとこ魔力も戻さなきゃ…」
ミナノも早く取り戻さなくては…どうやら城の外に出れば記憶が戻る…ということでもないようだし、まさか永久的に記憶が消されるわけでもないだろう。
「そうだ…このまま城の真下まで穴を掘り進めて城の中に侵入すればメグメルスに会えるかもしれない…!」
名案かもしれない。いやまぁ音も無く…というのは難しいが表に出るよりもはるかに安全な作戦と言える可能性がある。
「魔力圧で削れないこともない…けど少しでも加減をミスれば地面が崩れる…あーあ…姫を護りに来たってのに…面倒くさいことに巻き込まれた…」
ここからが正念場だ。眠たいし、かかる時間も考えれば気が遠くなるが、やるしかない。
◇
――数時間後。
魔力はほぼ完全に回復した。光魔法を使って穴の中を照らしながら掘り進めていると、地面の上から声が聞こえてくる。
「ん…?声…?メイドのもの?」
俺の脳内マップでは一応城の近くのはずだ。メイドの声が聞こえてきてもおかしくはない。それが健全な時間帯であれば…しかし、今は真夜中も真夜中な時間帯のはずだ。朝仕事の早いメイド達がこの時間に起きているはずない。
それに…男の声が聞こえる気がする。この国で男の声とはクロス以外は基本ありえない。怪しすぎる。
俺は耳を澄ませてその声を聞く。
「――ミロク・プリンスはどうなった?」
勇ましく、静かな声。なぜか俺について話している。
「――それがさ、分からないんだよ。一応森の中で見てたんだけど、突然姿消しちゃって…まさか忍術?」
ノリの軽そうな声が聞こえる。それに、森の中でのことを見ていたとは…それに、サナとして活動していたはずだが、なぜかその正体がミロクだということもバレてる…なによりおかしいのがコクレクトの中なのに俺を覚えているということだ。
「まさか…忍術は我々"忍"にしか使えぬものぞ…いくら才能の原石とは言えど秘術を習得するのは不可能」
「それもそうだがな。まぁ殺意マシマシのクロスとメイド達に追いかけられてたんだ…とりあえずは死亡扱いで話を進めてもいいんじゃないか?それか…依頼放棄で去ったか…」
「ふん…まぁ良いだろう。とりあえずはそれで話を進めるとする」
「了解だ」
こいつら…まさか忍か…?とっ捕まえたい気持ちは山々だが…今ここで戦闘になれば確実に城の中には入れなくなる…ここでリスクは取れない。
「声は覚えたから…!覚えてなさい…」
俺はもう少しだけ地面を掘り進め、城の床をくり抜いて地面の中から出て城の中へと潜入する。
階段を上り、ついに二階のメグメルスの部屋の前へと来る。
「見張りが居ないのは一日目の調査で分かってる…さて、メグメルス…寝ていてくれてると都合がいいのだけれど…」
俺が扉をゆっくりと開けると、風が吹く。窓を開けているのだろうか?
「あっ……」
俺が部屋の中を見ると、本当に窓は開いており、カーテンがヒラヒラと揺れている。
そして、そばの椅子に座りながら紅茶を飲んで俺を見つめる赤髪の少女が虹色の瞳で俺をじっと見つめる。
「待っていたぞ。あなたが来るのを――」
スキーです!
今回の話はどうだったでしょうか!面白ければブックマークや評価をしていただけると励みになりますのでよろしくお願いします!宣伝や拡散もよろしくお願いします!
今回は魔力の性質についてのお話をしていきます!
魔力は基本的には炎、水、電気、風、氷、光、闇の七大元素と呼ばれる魔力があるのはご存知かと思いますが、実はそれぞれ性質があり、その性質によって強化できる身体能力や魔法能力に差が生まれるんです。
今回だとアンリメルは炎の魔力を使い身体能力を上げていましたが炎の魔力はパワー躍進に長けており、アンリメルの力とスピード…そして魔力の勢いなどが突出して伸ばしやすいです。
水の魔力では魔力の変化がさせやすい、身体の動きを柔らかくしたり自然治癒が早くなるという効果があります。
電気の魔力は他の魔力よりも持続効果が長かったり、範囲を延ばすのが得意で、自身のスピードを躍進させたりする効果もあります。
風の魔力では五感の強化、身体防御力、魔力の質を高める効果があります。
氷魔法では魔力切れが起きにくくなったり、相手の魔力の効果を下げたり、持続効果の影響を低めたりする効果があります。
そして光と闇魔法は特殊で、一定の範囲内なら共に同じ属性同士の魔力と光、闇以外の魔力の効果を薄めます。そして魔力出力も高く、攻撃的な面が高く、質という点でも他の魔力よりも高く、サポートにも向いていますがこの二つの魔力属性は個体数が少ないです。
こんな感じです!!一応、大地魔法と自然魔法は七大元素には無い魔力魔法なので特にこれと言った追加効果はないです。




