二日目
俺は湯へと浸かり、アサトラムを目を合わせる。
「私が性別を隠し始めたのは十年前程前の話になりますか…あれは私がメグメルス様にお仕えし始めた頃あたりですかね…」
メグメルスは顔を湯へと向け、話始める。
「メグメルス様は、五歳の頃から誘拐にあったのです」
「誘拐…まぁ、あの可愛さならされてもおかしくはない…かもね」
まぁ実際起きているのだし、他人事のようには言っているが、アサトラムからしてみれば許せないことなのだろう。
「残念なことに…そうですね。そして、そんなメグメルス様が大変な時期に私はあの人のメイドになろうと、この城へ来たのです」
「えっ…?それは…メグメルス的にはどうなわけ?いや…まさか…」
俺は分かってしまう。わざわざ自分で隠してきたと言っていたのだ。きっと――。
「えぇ、私は昔から顔立ちが綺麗と言われてましたから。案外行けてしまったんです。性別も明かさないまま…十年間あの人の下で私は働き続けた…きっとバレれば怒られるでしょうね」
「どうかしらね…秘密の一つや二つあったほうが人間味があっていいと思うけど」
俺が言うとお湯が急に熱く感じ始める。のぼせそうだ…
「っと…そろそろ熱いから上がるわね…」
俺は体をお湯から出し、上がろうとする。
すると――。
「お待ちください」
アサトラムは俺を制止する。なんだかよく分からないが俺は彼の方を向く。
「その…心は男性なのでしょうが…その姿では私に見られるのは不快ではありませんでしょうか?私が先に上がりますので…少々迷惑かとは思いますが…待って頂けませんか?」
そういえば俺は今サナの体なのだった。アサトラムもアサトラムで紳士なものだ…まぁ別に熱いとは言え、露天風呂もあるし別に我慢出来ないわけではなかったため、承諾の返事を俺はした。
「ありがとうございます。それと…」
アサトラムは俺の顔をしっかりと見て口を開く。
「もし、自身の身に何か起きた時。他の誰でもなくまずはメグメルス様をお頼りください。それと…このお風呂場での話は全て口外禁止ですからね。――では」
それだけ言い、アサトラムは更衣室へ行く。一体どういう意味なのか…それは知らないが、まぁとりあえずこの話は俺の胸の奥に封印しておくことにした。
「忍…か」
この前、カンノと戦った時には彼女は忍術を使用した。恐らくあれは魔力などを一切使わない手品のようなものなのだろう。対策を用意しておきたいのだが…どうすれば対策なのかがいまいち分からない。
「ん〜…外の空気…気持ちいい…」
あ、なんだか段々眠くなってきたかも。いやこれお風呂で寝てたら怒られるよな〜…でも、眠い…どうしたものか…
「そういえば…もうそろそろアサトラムは着替え終わったかしら…」
俺は眠い目を擦り、なんとか更衣室へと向かい、着替える。意識が朦朧とする中、自分の部屋へとゆっくり向かう。
「はぁ…はぁ…今日…そんなに動いたかしら…?」
体が重い……ここまで疲れるのは初めてだ。お風呂での気持ち良さもあるかもしれないが、異常レベルだ。
「あぁ…今日は……この部屋でいいか…」
俺はエビリオンから事前に空き部屋だと教えられていた部屋に入ることに決めた。流石に眠すぎる…この部屋はどうせ誰も来ないから怒られないし、ミナノは俺が来なくても大した心配はしないだろう。
――ガシャ。
扉を開け、俺は溶けるように眠った――。
◇
「………あぁ…」
朝日が俺の瞑った目を刺激する。面倒くさいと思いつつも目を開けようとするが、ここで俺は違和感に気付く。なぜか地面の上に立っているような感覚がしてならないのだ。まぁ昨日の記憶はお風呂を上がって以来殆ど無いし、立って寝ていようが別に関係はないのだが…
「………え?」
目を開けると…俺は外に居た。いやいや…ちょっと待て。寝相が悪いなんてレベルじゃないぞ。流石にこれは冗談だよな?
「えぇと…え?どうして?全く…昨日の私はなにしてたんだか…まぁいいか…城に戻りましょ…」
俺はしばらく歩き、城前へと来る。
「おはよ――」
俺が城の前に居るメイドに挨拶をしようとすると――。
「ちょっと待ちなさい」
右腕をギュッと掴まれ、その場に留まらされる。
え?俺なんかしたっけ…
「えぇと…どうしたのですか?」
「どうしたって…その服がメイド服なのは分かりますが…だって…」
メイドは目を疑うように俺を見る。なんかそんなにヤバい寝癖でも付いてたのか?それはそれで恥ずかしいんだが…アンリメルとかにも怒られそうだし。
「――あなた、誰なんですか?」
「え――?」
ちょっと待って。新人だよ?まだ入って二日目の新人なんですけど?そんなに影薄かった?
「いやいや、昨日新人として入ったサナ・グランドですよ。あっ一緒にミナノ・カーシャという人も来ているはずです!」
流石にミナノは忘れたくても忘れられないだろう。
「……昨日新人として入ってきたのはミナノさんだけですよ…?あなたみたいな人は知りませんが…」
「え?ちょ…なんで…?そんなはずは無いわ…!だって…本当に昨日は――」
「どうか、したんですか?」
可愛げのある声が俺を制止しているメイドの奥から聞こえる。俺がその姿を確認すると、俺の一番見覚えのある者の姿だった。
「あ…!ミナノ…!ちょっと…なんかこのメイド達か私のこと知らないって…!ミナノからなにか説明してくれないかしら?」
俺がミナノにそう伝えると、なぜかミナノはハテナを浮かべたような顔で俺を見つめる。
「――すみません。あなたみたいな方は存じ上げないです…」
「え……?」
おい…どういうことなんだ?これ。ミナノでさえ…俺を忘れるってのは…?これじゃまるで俺がまじで不審者というか狂人というか…!ヤバい奴じゃん…?
「というわけですので…お引き取り願います。これ以上はこちらも、力ずくでもあなたを止めなければなりませんので」
メイドは俺を掴んでいる方とは違う片方の手で魔力を練り始める。完全に警戒されている。
「わ…分かった……わよ」
仕方ない…一度体制を立て直すしかなさそうだ…
◇
街のど真ん中に俺は来る。特に行く宛も無いまま俺はベンチに座る。
「はぁ…なんでなの…?教えてよ…」
俺は自分の中に居るであろうバラに問いかけるように聞くが、バラの反応は全くと言っていいほどに無い。
「――あんた…弱っちいな」
「――っ!?」
びっくりした。急に後ろから声をかけられた。なんなんだ?
「えぇと…あなたは?というか、いきなり失礼な人ね」
「失礼でけっこーだ。にしても嬢ちゃん俺の見てきた女の中で結構トップレベルにえちぃよ。俺の女にならない?」
「えっ…いやそれはいいのだけれど…それより名前教えてくれない?」
何だコイツ。めちゃくちゃヤバい奴か?てかコイツ男じゃん。この国に入れてるのは珍しいな…結構偉い人なのだろうか…赤と青のツートンカラーで黄色の目をしている。そして浴衣を着たどこか和風な男だ。
「俺様は――クロス・ヴェングレル・ドラゴン。この国を護る…ただの伝説の騎士だ」
…!こ、この男…が…クロス…?なぜだ…?魔力の気配を一切感じない…一体どんな仕組みだコイツ…?
「ねぇ…この国に入っててあなたは怒られないの?」
「俺に質問しすぎだろ。俺のこと好きなのかよ」
「違うわよ…この国の制度じゃあ普通の一般市民の男なんて入れないはずでしょ?」
まぁ…普通の男じゃないとは分かっているけど…一応聞いてみることにする。しかしなぜこの変態男がコクレクト共和国に入れているのかは謎ではある。
「俺はサラマンダーに言われてここに居る。この国を護りたい…ってのはまぁ俺も思っちゃいるが、先に言い出したのはサラマンダーだ」
サラマンダー…!?クロスはサラマンダーの行方を知っているのか…?
「つっても、四大災害精霊って呼ばれてるやつの言葉なんか信じないわなしかも、俺みたいな初対面の男にいきなり――」
「いいえ、信じるわ…その言葉に嘘はない」
ウンディーネがあの性格だったんだ。きっと、サラマンダーだってそうなはずだ。なにより、ウンディーネの昔話からそいつがいい奴だってのは分かる。
「ほほーう?なにか分かる奴だなお前…」
クロスはジロジロと俺を見てくる。こいつマジ怖いんだけど…エクスやレヴィアなんかとは別の怖さを感じる。
「なんか私の質問に色々乗ってくれてありがとう。失礼させても――」
俺が席を離れようとベンチから立ち上がろうとした時――。
――ガシッ。
突然クロスに腕を掴まれる。しかも、なんていう握力なんだ…?サナに変装する過程で魔力を纏っているから防御は厚めなはずなのにめちゃくちゃ痛い。
「待てよ。お前。男だろう?しっかもなんで人間の癖に魔族の魔力漂わせてんだ。気持ちわりぃ」
なっ…!?気付…かれた…?そんな…エクスやレヴィア…カーンズにだってバレてなかったのに…!
「離し――」
――バゴォッ!!
「――ガハッ…!?」
俺は凄い勢いでクロスから肋骨に蹴りを入れられる。その衝撃で魔力でガードしていたのに国の外にまでふっとばされる。
「がっ…あ…」
「忍の回し者か?それとも、ディアマテ解放教か…まぁどっちでもいい。何しに来やがったんだ――お前」
あぁ…これ、きっとただの話し合いじゃ解決しないやつだ…こうなったら…!
「お前を…!倒す――!」
スキーです!
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