五人のメイド
「――あらあら…またですか?」
玄関の扉が開く音が響くと同時に優しそうな声が廊下へ響く。扉を見てみると、綺麗な水色の髪をさげた華奢なメイドが頬に手を添えて困ったような表情でテンウェリクとアンリメルを見つめる。
「あなたは…?」
「あら!新人さんの二人ね。お話は聞いてるわ。私の名前はエビリオン・ワーキン。よろしくねって…呑気に挨拶している場合でもないわね…」
エビリオンは俺達に視線を移したあとすぐにテンウェリクとアンリメルに視線を戻す。
「も〜う。テンちゃんったら…またガラス破壊して〜…アサトラムちゃんに怒られちゃったらどうするの?」
エビリオンはやわらかくテンウェリクに説教をし始める。
「だって…新人さんが来るって言ってて…それでアンリメルがまた新人さんに嫌がらせしてたから…驚かせてあげようかなって思ってね…?」
もじもじとしながらテンウェリクはエビリオンを見つめる。うんうんと頷くエビリオンはさながら子供をなだめる母親である。
「そう…でも、だからと言ってガラスを破壊していいわけじゃないのよ?破片が新人さん達に刺さってたら痛いでしょ?これは、治せる治せないの問題じゃないんだからね?」
「うん…分かった。今度からは気を付けるよ。新人さん達もごめんね?」
そんな上目遣いで見られると許せなくても許してしまう。そんな魅力がある。
「別に構わないわよ」
「ふふ…大丈夫ですよ。なんだか妹でも見てるみたいです…」
ミナノもテンウェリクに心を奪われてしまっているようだ。
「アンリメルちゃんも、いくら新人さん達のサポートしたいからって無理に接するのは怖いわよ。特にアンリメルちゃんは……」
「オイそれどーゆー意味だよ…てか、別にコイツらに構いたかったわけじゃねぇーから!!先輩としての格の違いってやつをだな――?」
「アンリメルちゃん。言い訳はいいから新人さん達に謝りなさい?」
「…………ごめんなさい」
ん〜なるほど。エビリオンは母性あふれる母親系キャラ…アンリメルはツンデレ系キャラってやつだな?どちらも今の俺の陣営に欲しいところだが…というか、アサトラムはカオス・エデンに持ち帰ってもいいと言ってたが、この感じだと他四人は知らない…よな?
「……?少し謎が残るわね…」
そう考えていると――。
――シュンッ!!
「はっ…ミナノ!!」
「――えっ?」
俺は氷の盾を作り、咄嗟にミナノの前へと出る。なんとナイフが三本も俺達に向かって飛んできたのだ。
氷の盾にそれは突き刺さり、なんとか防げたものの、あと少しで貫通するところだった。
「なにこれ…一体どういう――」
「――おめでとうございます。合格ですよ」
また新しい声…どこか狂気味を感じる声が階段裏から聞こえたと思えばベージュ色の髪をしたロングヘアのメイドが裏から出てくる。
赤い瞳がさらに狂気さを加速させている。
「失礼しました。私はナンソル・パーキオンと申します。お嬢様に近付くゴ――……資格があるかどうかを試したんです」
絶対ゴミって言いかけただろ。
「メイド審査はもうとうに通過しておりますが?」
アサトラムがメイドになるための審査を飛ばしてここに入れてくれたから、一応俺とミナノは審査を通過してからここに来ているということになっている。
「まぁ…あのようなぬるい審査を通過することくらい当たり前ですよ?なにせ…"愛"の力があればあの審査は簡単に突破出来るんですから…!!」
何を言っているのかはさっぱり分からないけどコイツもアサトラムの言っていたトップ五の内の一人か。個性的なメンツが多いな。
「えぇっと…愛…?」
「えぇそうです愛です!!」
ミナノが頭にハテナを浮かべて聞くとナンソルはミナノの手をギュッと握り見つめ合う。
「あなたは芸術家のミナノさんですよね?それならこの気持ちも分かるはずです…!愛するものが作品であれ…なんであれ…なにかを愛する力と言うものは素晴らしいものなんです…私は!!メグメルスお嬢様ただ一人を愛し続け、トップ五に入るほどの力を…!お嬢様に愛され続けるための行いをし続けたんです…この愛の力がただの愛の力だけじゃないことは十分お分かりでしょう?えぇ…相思相愛!!メグメルスお嬢様と、私との繋がりが!!愛を結ぶ力が!私に幸福を…!そしてお嬢様にも幸福が満たされ、互いの気持ちを共有――」
「長くて鬱陶しい!!いつもお前の話は三時間くらいあって退屈だし、それ結局全部お前の妄想話だろう」
アンリメルは俺の思っていたことを代弁してくれた。アンリメルの叱責によりようやっとナンソルは勢いが無くなる。
「あぁ…つい熱く語りすぎてしまいましたね。実は私は自身で本も出しておりまして…ミナノさん。あなたには憧れがあったんです」
「あ…え。そうなんですね。ありがとうございます」
「いえいえ、とんでもない…あっそれよりこれからミナノちゃんって呼んでもいいかな?凄く可愛い瞳をしていて…思わず私のモノにしちゃいそう…」
ミナノ…いや、この場にいる全員の表情が青くなる。こいつはヤンデレ系か…間違いなくうちには置いておけないな……まさか…アサトラムのやつ、基本的に誰選んでもハズレになるようにしてやがったのか…?ハメられたかなぁ…?
「え…ええっと。立ち話はこれくらいにして…テンちゃんは二階の窓を直してきて?そして、サナさんとミナノさん二人は私が館内の案内とか、お仕事の内容を伝えるから、着いてきてほしいわ」
エビリオンが俺とミナノを案内してくれるらしい。エビリオンかアサトラムじゃなかったら案内だけで死にそうなくらい疲れてたであろう。
「ありがとうございます」
廊下をしばらく進むと、キッチンらしきとこに着く。
「ここは厨房ね。作るお料理は基本的に私達が栄養に偏りがないように作ってるんだけど、メグメルスお嬢様は人参が嫌いだから、それだけは入れないようにしてね。とは言っても調理長の指示の元作るからあなた達は気にしなくてもいいわ」
人参嫌いかぁ…そういえば俺も昔は人参嫌いだったなぁ…独特の風味みたいなのは確かに苦手な人が多い印象ではある。
「それじゃあ次の所に行きましょうか」
エビリオンに言われるまま俺とミナノは着いていく。次に着いたのはトイレの場所であった。
「まぁ…一応お手洗いね。一応全ての階にはあるから自由に使ってちょうだい」
俺はどこか使いにくいが……まぁいいや…
「特別…これと言って紹介する部屋は無いかしらね…まぁ基本的にはお洗濯物…料理、廊下の掃除などをしてくれればいいから――」
ガチャッと。エビリオンはなんとなくだったのだろう。その辺の扉を開く。
「あっ……」
メグメルスの描かれた壁、天井、枕、時計、机、椅子、ベッド、布団。そしてメグメルスと全く同じ格好の人形が置かれた部屋が禍々しいオーラを放つ。
エビリオンは無言でドアをガチャッと閉める。
「あっ…あぁ!!今のは…!気にしないで!あっ多分次入ったら…うん…そろそろお夕飯の支度しましょうか!!」
誰の部屋かは言わなくても分かる。死ぬ。
――とまぁ…なんやかんやで俺とミナノは一日目の夜を迎えることが出来たのであった――。
◇
夕飯が終わり、メイド達は各々自由時間となる。本来はお風呂に入ったり、寮内で楽しくおしゃべり…なんてするのだろうが、俺は屋敷の裏で"とある者"と連絡を取り合っていた。
「カミス。そっちはどうなってるの?」
胡散臭い代表。カミスである。ふふっと不気味に笑い、カミスは周りの状況を説明する。
「こちら特に異常はありません。にしても忍…ですか。ギルティ・ジャッジのゲームでも何人かは参加してましたね…そっちは特に異常はありませんか?」
「異常は無かったけど異常者は居たわ。でもこれと言ってまだ動きはないわね」
「そ、そうですか。それならいいです。ミロク様は明日お早いのでしょう?今日はこの辺にして、また明日話しましょう。それでは」
そうとだけ言ってカミスは通信石の魔力を切る。確かに明日の準備をしないといけないのだが…如何せん風呂に入らなければならない。サナの身体なら別に入っても何も言われないだろうが、ミナノからの信用が無くなりそうなので、メイド達の風呂が全員済んだ頃合いを見て入ることに決めている。
「――サナ」
城の角からミナノがひょこりと顔を出す。
「お風呂、もう入ってきて大丈夫ですよ。ものすごい広かったですから、一人で貸し切りですね!」
「あら、それは楽しみにしておくわ…それじゃあ行ってくるから寮で待ってて」
ミナノは「はい!」とだけ返事する。そして俺は風呂へと入るために服を脱ぎ、風呂の扉を開ける。
「わぁ…確かに広――って」
「あら…」
シャワーを浴びているアサトラムと目が合う。終わった。なんで居るの?嘘でしょ?あぁ、そうかアサトラムは側近だから仕事が他の人より遅いのか。これはいつものパターンで行くとぶっ飛ばされるやつだな?これ。
「ご、ごめん…すぐ出――って…」
俺は気付く。アサトラムの身体つきは明らかに女性のものでは無かったからである。決して筋肉質というわけでもないが、確かにこれは――。
「男……?」
「……バレてしまいましたか。まぁなんとなくそんな気はしていましたが…」
「なんで…?メイドなのに…?ていうか、それってメグメルスは…」
「ここで話すのもあれでしょう。湯船に浸かりませんか?」
アサトラムは湯船の方を見る。天然の温泉…だろうか。温かそうな空気が肌に触れる。
「それでは、お伝えしましょうか…なぜ、私が性別を隠しているのかを――」
スキーです!
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