最可愛の姫とメイド
「忍……ですって!?」
「ご存知なんですか…?私知らないんですけど…」
「えぇ…以前にネオミシスカで忍を名乗る女、カンノに出会ったわ。あれ以来会っていないけど…忍という存在に覚えがあるのは確かね…しかし、なぜ忍がメグメルスを…?」
アサトラムに聞くと神妙な面持ちで話始める。
「それが…実は忍の里の長である『シオン・カーメース』と、メグメルス様が政略結婚させられそうになっているのです」
「政略結婚…ですか…てことは、メグメルスさんはその結婚にはご反対されているということなんですかね?」
ミナノは聞くが、アサトラムは否定する。
「実は…そうとも言い切れないのです…」
「へぇ…どうして?それに、わざわざ忍との政略結婚ってのも…気になるわね」
「メグメルス様は、まだ十六歳ですから…本人は早すぎるとは言いつつも、シオンの表向きの優しさに甘えており…政略結婚の話が出た時も、あまり本人も周りも否定しませんでしたし、私も賛成派でした。ですが…――」
アサトラムは青い瞳を地面の下へと向ける。
「聞いてしまったのです…忍達が『自分達の社会的地位を上げるため、そしてコクレクト共和国を支配するために結婚をする』のだと…」
「なるほど…そもそも、なんで結婚しようなんてことになったの?」
「メグメルス様がシオンの策略にハマってしまったばっかりに…でしょうか。それに忍達は本来、存在しているだけで騎士達から処刑されるほどの罪人達ばかり…ですがシオンなら…と、メグメルス様も信頼してしまっているのでしょうね…そのイメージを私だけでは覆すのは到底無理でした…誰も私の言葉を信用せず、政略結婚の話は進むばかり…この前は勇者にも護衛を依頼しましたが…進展はなく…」
アサトラムは相当追い詰められているようだ。これは早くなんとかしてやらなければダメかもしれない…
「あー…はいはい。分かったわ。そのために私達を呼んだんでしょ…?世界の支配者に頼むってのも、相当よく分からないけど…助けてあげるわ」
俺の言葉にアサトラムは顔を上げてこちらを真っ直ぐ見る。
「感謝します…それと、報酬の件で少しお話が」
報酬…いつも通り、依頼主からカオス・エデンの戦力となる人材を受け取るために先払いでこちらが受け取ることになっている。
「サナさん。あなたが選んでくれませんか?」
「えっ私が?」
中々珍しいパターンだ。こういう系は昔ゲームでやったことがある…どれか一つを選ぶと残りが選択出来ないやつだな。
「えぇ、私達メイドは総勢百名ほど居ます。その中でも、とびきり実力の抜けている五人…私。アサトラム・エンヴィーナムと、水色髪のメイド。『エビリオン・ワーキン』。そして灰色の髪のメイド。『アンリメル・ウェーミン』。桃色髪のメイド。『テンウェリク・コードリオス』。ベージュ髪のメイド。『ナンソル・パーキオン』…この五人がうちの城の中でもトップの実力者達です。この中から一人選んで頂ければと…ご判断はミロクさん自身にお任せします」
やはりかなり武闘派揃いだ…その辺のメイドですら一般市民より遥かに強いのにその中でもさらに精鋭が居るとは…
「えぇ、分かったわ。でも、強さで言えば側近のあなたが一番強いんでしょう?」
「は?当たり前でしょう。所詮たまたま才能で成り上がってきたワンコ達と一緒にしないでくださりますか」
いや急に怖いよ。これはなんかアサトラム引き剥がしづらいな…これでアサトラムを選ぶとか言ったら一気に刺されそうなんだけど。
「え…えぇ…分かったわ。それより、どうやって城の中に潜入すればいいのかしら?」
「あぁ、そうですね。一応メイド達やメグメルス様には新しい新人のメイドが見学に来るとだけは伝えております。ですのでメイド服にさえ着替えてくれればあとはお好きに」
「メイド服…!少し憧れがあったんですよね…!ミロク様!私ここでメイドとして働いていいですか!?」
ミナノが目を輝かせながら俺を見る。
「ダメだ。そんなことしたらまじにぶち殺すからな」
「ちょちょ…素が出てます!!冗談ですから!!」
――と、そんな言葉を交わしつつ俺達はメグメルス嬢の居る城へと行くのだった。
◇
「わー!可愛いメイド服〜!どうです?似合ってますか?ミロク様!」
ミナノは服の裾を掴んでひらりと回転する。確かに悪くはないものだ。だが…胸元が開いているのは誰の趣味だ?
「いいじゃない。あっあと、そろそろその言い方はやめて?とりあえず城の中では『サナ』でよろしく」
名前の呼び間違えで追い出されるだなんてまっぴらごめんだからな。ミナノはそうだったと咳払いする。
「あぁ…そうですね。それより早くメグメルス様の部屋に行きましょう。サナさんは見たことあるかもしれないけど私はまだメグメルス様の顔は見たことないんですよ」
確かに国の顔の割には新聞でも全然顔は見ない。まぁこの国の体制上、仕方なのないことではあるのだろうが…写真くらいは出してくれよと思う。
「あ〜…、そうね。じゃあ早く行きましょうか」
俺達は扉を開け、くそ長い廊下を歩いて無駄に豪華な扉の前に来る。そしてその扉の前にはアサトラムが居た。
「それでは、ご挨拶しましょうか」
――トントントン。
ドアをノックし、開ける。全体的に赤色に包まれた空間。その真ん中に、赤色髪に虹色の目をしている少女が不敵な笑みを浮かべて鎮座していた。
「――ふふふ、ようこそ。我が城へ…今日からビシバシ働いて――」
「メグメルス様はそんな人じゃないでしょう。毎回新人に怖い顔をするのはおやめください」
アサトラムがビシッとツッコむとメグメルスは咳払いをして緩い雰囲気になる。
「あぁ…えっと。よろしくね?まぁ詳しいお仕事の内容はアサか他のメイドから聞いてもらって…」
全然キャラがちげー!?いやまぁ前の会議でもこんな感じだったし別に違和感はないんだけど。隣のミナノの顔が信じられないくらいぽかんとしてるぞ。
「えぇ、分かりました」
「まぁ…本当に私から言うことは特にはないんだけど、名前は聞かせてくれないかな。一応覚えるようにはしてるからさ」
そこは意外とマメなんだな…
「私はサナ・グランドです。どうぞよろしくお願いします」
「えっと、私はミナノ・カーシャと申します。見学ではありますが、よろしくお願いします」
俺達はゆっくりと頭を下げお辞儀をする。
「えっ『ミナノ・カーシャ』って…芸術家で有名な人!?凄いね。わざわざ私のとこに来て…」
そういえばミナノは知名度はかなりある方だった。俺としては知名度ない方がいい気はするんだが…まぁいいか。
「いえいえ、私もメグメルス様に会えて光栄ですよ。またお話しましょう」
「うん、それじゃあ二人ともしばらくの間よろしくね」
軽く会話をし、俺達は廊下へと出る。
「凄い友達みたいな感覚の人だったわね…しっかし男を近付けさせないと言わせるくらいには本当に可愛い人だったことは確かね」
ああいう人につけ込む忍も中々…というか俺は思う。なぜわざわざメグメルスを選んだのか…ということだ。地位を優先するなら、他の国の方が難易度は低そうだが…
「――おい、そこのお嬢さん方二人?」
とりあえず一階に降りようかと、階段を使い降りようとした時、後ろから声をかけられる。めっちゃ声キレてない?大丈夫?いや、多分大丈夫じゃないやつだ。
「えっ…はい…」
恐る恐る二人で後ろを振り向くと、灰色の髪色をしたメイドが俺達の後ろに立っていた。そういえばさっきアサトラムが紹介した人に灰色髪の人が居たような…?
「俺はアンリメル・ウェーミンだ。先輩にはしっかり声をかけておけとアサトラムから言われなかったか?」
怖えええ。オラオラ系女子ってやつですかこれが。
「す…すみません。え…はい」
言い訳をしようとしたが、多分殺されるのでやめることにした。アンリメルの黄色い眼光が俺とミナノの心臓を突き刺す。
「はぁ…一階に行く前に二階には誰か居ないかと、確認してから行くべきだとは思――」
「――ええいやぁぁぁぁぁっ!!」
――バリイィンッ!!
「ぎゃぁぁぁあっ!?」
「「え?」」
廊下のデカい窓ガラスを女の子が突き破って、アンリメルを蹴っ飛ばしながら階段下へと落ちていった……いや、どういう状況!?
「え、ちょちょ!?降りないとダメですよね…!?」
ミナノもめちゃくちゃ焦っている。
「え…えぇ…見てみましょう…」
階段下に降りてみると、桃色髪をした女の子がアンリメルに縄でぐるぐるにされて掴まれていた。
「あのさ…窓ガラス割ってくんなって何回言えば分かんだあぁん!?あといつも俺をぶっ飛ばすのやめろっつの!!!」
「うぇへーん…ごべんって…でも私なら直せるからよくなーい?」
「よくない!!殺すぞ!!」
なんだ…このコントは……何を見せられているんだろう?ほんとにメイドなんだよね?この二人。
「おら、新人二人だ。挨拶してやれ」
アンリメルは桃色髪の少女の拘束を解き、俺達二人の前に立たせる。
「こんにちは!!私はテンウェリク・コードリオス!テン先輩って呼んでね!!」
この子が……アサトラムの言っていたトップ五の内の一人……か…これは残り二人もヤバそうだ。今のところまともそうなのがアサトラムだけだぞ…
「すまないな。コイツは再生魔法や治癒魔法の力に長けているくせに、破壊するのが好きという異常者だ。慣れないかもしれないが頼む」
こりゃ、ないわ。
なんだか色々とカオスなことになりそうだと、俺は遠い目で窓の外を眺めてしまうのだった――。
スキーです!
今回の話はどうだったでしょうか!面白ければブックマークや評価をしていただけると励みになりますのでよろしくお願いします!宣伝や拡散もよろしくお願いします!




