神の覚醒
◇
「そろそろ動き出す頃だろう…か」
薄暗い空間の中、長い茶髪の男が椅子の上でぽつりと呟く。
「作戦ならもうとっくに始まってるよ…」
ボサボサの水色髪の少女が、白衣に身を包み地面に座り込んでいる。そうして気だるけに茶髪の男の意見に返す。
「作戦のことではありませんよ…神が動き出す…と、だけ言っておきます」
「あんた…何が言いたいの…そもそも、興味本位で入ったものの、結局なにがしたいのさ…この組織はさ…"カリスイノ"!」
水色髪の少女は怒号を上げて立ち上がる。
「あんたらの言うディアマテってなんなの…!目的は…?ディアマテ復活は…嘘…なの」
少女は悲しげな表情を浮かべ、カリスイノの前に立つ。
「大丈夫ですよ。タラサマ…ディアマテ復活は本当に望んでいることです。しかし――」
カリスイノは椅子から立ち上がり、タラサマの頬に手を置く。
「あなたは…ディアマテ復活を"完遂"だと、勘違いしてはいませんか?」
タラサマはカリスイノの感情の読めないような雰囲気に呑まれ、『逃げようとしても逃げられない』。そんな状態になる。
「大丈夫……怖がらなくていいのです…ただ、私達ディアマテ解放教の研究者として、活躍してくれればいいのですよ…」
カリスイノがタラサマの頬をそっと撫でると、タラサマはさっきまでの勢いを無くしたように、目が虚ろになる。
「えぇ。カリスイノ…私は、私達は…ディアマテ解放教の復活のために…」
「世界を蝕む魔力……"ローグスペル"…これこそが私の…いや、"私達"の望む世界ぃ!!」
カリスイノが狂気じみた目で体を暴れさせながら自身の後ろを潤いの目で見つめる。そこにはピンク色の液体の中にピンク色の髪を持つ女性が閉じ込められていた。
「ヘンナルス…あなたの力を…世界の救済に…」
カリスイノが呟きながらお辞儀をする。"ディアマテ解放教――"。その真の意味を理解出来るは来るのだろうか。
◇
「「自然の怒り!!」」
マルメードとクフゾが魔法陣からツタを伸ばす。そのツタはシメルド…いや、今はアウルに襲いかかる。
「効くかよ!!金炎!!」
シメルド本人とアウルの肉体に残る強力な魔力が、二人分の魔力を持つ二人の魔法と拮抗してぶつけられる。
「くっ…アウル…シメルド…!お主らは……どこまでクフゾを傷付ければ気が済むのだ!!」
シメルド、そしてアウルと共にクフゾの父であるガンスールを殺した。アウルは既に殺したものの、こうしてガンスールの仇が目の前に居る今、クフゾは少しづつ冷静さを失っていく。
「――マルメード……僕はここで彼らを殺してしまっていいものなのだろうか」
「どういうことだ…?」
「お父さんも…少なくともディアマテ解放教に関わっていた過去がある…ということなんだろう?それなら、僕はお父さんを仇だと思っていいのだろうかと…僕は、敵の仇を討っていいのだろうか…?」
クフゾは目の前のシメルドをガンスールの仇だとは思いつつも、心の奥でシメルドやアウルと同じ組織であったガンスールをどう思っていいのか分からない。
「阿呆…!」
マルメードは魔法を使うことに集中しながらも、片手でクフゾの頬を叩く。
「えっ…」
クフゾは自分が今何をされたのかを理解しようとする前にマルメードが口を開く。
「ガンスールは…自分の命を失ってでも、お前を救った…そんな命の恩人のことを信用しないのか…?敵か味方じゃなく…自分を救ってくれた一人の家族として!この目の前の愚者を殺すのだ!!」
マルメードは歯を食いしばりながらも真剣な眼差しでクフゾを見つめる。
その目つきはかつて親友だったリノンとガンスールが死んだ理由として軽蔑していたクフゾを見る目では無く、その二人を殺した真犯人を共に倒すための信頼の目だった。
「は…はは…全く…だから君は甘いんだ」
クフゾがふっと笑うとシメルドの黄金の炎は突如として消える。
「あ…?」
困惑の表情を浮かべると消えた炎の先にはマルメードとクフゾがシメルドを真っ直ぐに睨みつける。
「おいおい、なんだよ?なにかあんのか」
シメルドは笑いながら右手に黄金の炎、左手には血の槍を持って二人を蔑みの目で笑いながら見る。
「この世の全てが統一されし…全知全能の剣…インフィニティ・ノヴァ!!」
水色と金の光を発しながら宇宙のような模様を持つ剣が空間から裂けて出てクフゾの右手へと宿る。
「うっ…!?」
その剣の光る魔力はアウルの力を合わせたシメルドすら凌駕する魔力質量を放っていた。
「はぁぁあ!?なんだよ…そりゃ…!」
「今すぐに分かるさ…マルメード。サポートは頼んだよ」
「言われなくても…!」
クフゾが剣を振りかざすと鏡に反射した光のような軌道で斬撃がシメルドの肉体を斬り裂く。
「うおおああぁっ!?」
シメルドはその場に手をついて血潮を吹き上げながらクフゾの持つ剣を見る。
「ぐ…アウルの炎で守ったってのに…魔法の効力が失われねぇし…回復もなんだか遅ぇぞ…!」
「これはこの宇宙に存在する全ての魔法の知そのものだ。君の持つ魔法は、宇宙に存在する魔法の一部として起源に戻される…」
「くそふざけ――」
シメルドが再び黄金の炎を出そうとした時、マルメードが空間を裂いて背後から空間を断つ攻撃をシメルドに向かい放つ。
「うぐぅがっああああ!」
シメルドは黄金の炎と自身の血で切れた肉体を繋ぐも、その肉体は既に限界が近い。
「元々死体を活用している肉体が脆い…!ちっ…こんなところで――!!」
「これで終わりだ――!!」
クフゾがインフィニティ・ノヴァを再び振りかざそうとした時――。
「がっ――…!」
しかし、クフゾは突如として力を失ったかのようにその場へと倒れる。
「クフゾ…?」
インフィニティ・ノヴァもクフゾの手から消滅し、光の粒となり宙を舞う。
「――うるうああああっ!!」
――ブシャアアアッ。
肉の斬れる音が空間に響く。シメルドは右手に血の剣を構え、マルメードの肉体を斜めに切っていた。鮮血がマルメードの肉体から噴き溢れる。
「ま…マルメード…!!」
クフゾが掠れた声で叫びながら手を伸ばすが、その手は無慈悲に吹き飛ぶ。
「いっ…ああああああ!!」
クフゾが絶叫を上げ、その場にのたうち回る。マルメードはぐったりとしたままその場に倒れていて、傷も深い。ちょっとやそっとの治癒魔法じゃ治ることのない傷だ。
「はぁ…はぁ…てめぇら…まじでふざけやがってよ…俺が満足するまで肉塊にしてやらぁ!!」
黄金の炎と血潮が、シメルドの感情を表すように爆発する。
「死ねやクソ――!」
――グシャアアッ。
「あ…??」
ゴトゴトと何かの転がる音が空間に響く。シメルドは音の在処を探って地面の下を見る。
「あ…?ああああああああ!?」
するとシメルドの何者かに斬り落とされたようで、自身の両手首が落ちていることを認識する。いや、ただ斬り落とされただけなんていう表現では生温いだろう。グシャグシャにされた状態で斬り落とされていたのだ。
「うぐ…ああああ…!まさか…!その…まさか…なのかッ!?」
シメルドが後ろを振り向くと、橙色の髪をした男が、シメルドを睨みつけて何か一言呟く。
「――世界真理の理に基づく愚者。汝の真実を示せ」




