残った今
◇
「――と、それが私の知る限りのディアマテの過去…まぁ、ちょっと昔のことについても色々話しちゃったのだけれど…」
ウンディーネは少し悲しい表情を浮かべ地面を見ながら語った。
「そうか…これがたったの百年くらい前の話…か」
俺からすれば百年という月日はかなり長く感じられる。しかし、ウンディーネや、エクス…他の当事者達はきっとそんな昔のことだとはあまり思ってもいないだろう。
「えぇと、少し気になったんだが…聞いてもいいかな?」
クフゾが控えめに手を挙げてウンディーネに目線を合わせて聞く。
「先代勇者ランスは亡くなったはずなのに…どうして現在の勇者であるエクスはまだ生きているのかな?気になるんだ」
「確かに…ランスは勇者の力を持ったまま死んだ…普通なら、ランスの持っていた勇者の力がそのままエクスに継承されて、次の勇者候補に託して既にエクスは死んでいるはずだが?」
「気になるわよね…実は、そのランスが勇者の力を持ったまま死んだことが問題なのよ…」
ウンディーネは目尻を下げて顔を悩ませる。
「どういうことだ?」
「長らくされていなかったから伝承されていなかったのだけれど、先代の勇者達は皆、力の継承式を行なっていたの」
「力の継承式…一体どういうものなのだ?」
マルメードがウンディーネに聞く。
「昔、勇者達は死ぬ時に勇者という重き宿命を持つ因果を次の世代へと移すことで、その重き座を継承してきた…しかし、その因果の継承を正式に行わないまま、エクスに勇者の座が渡ってしまったことで、勇者の因果は次に行く場所を見失ってしまい、エクスの中にずっと居るようになってしまったの…」
「なるほど…勇者の宿命により、次の拠り所を見つけられないまま命を落とせなくなってしまったか…」
エクスの年齢が百歳以上なのは、これが原因なのか…どうりでエクスが永遠の十七世代と言われるわけだ。
「仮に、命を落とせたとして、勇者の因果は次の拠り所を見つけられないからエクスに子供が居ても、もう二度と勇者の力を継承することは出来なくなる…そういうことだな?」
「えぇ…これはかなり世界の法則的にも、エクス的にも想定外なの…世界の法則に乱れが生じれば、創造の柱の封印が甘くなるということでもあるわ。だからそこを狙ってそのディアマテ解放教とやらが押し入ってくる可能性はあるかもしれない…世界の乱れがどこに生じるかだなんて分からないけど」
「そう…か…ちなみに聞きたいんだが――」
俺は気になっている事が一つある。
「ロッドを……お前は知っているのか…」
ウンディーネは険しい顔をする。いや、ウンディーネだけではない。クフゾやマルメードまで険しい顔をし始める。
「彼は最悪よ…きっと、やろうと思えば先代魔王のディアボロスだって殺せる程の力がある…彼は命を捨てているから、寿命で死ぬことはない」
ウナゼルクの力で殺せないと言うのだから、命を持たないと言うのは本当なのだろう。しかし、「ロッドが殺されない理由はなんだろう」とつい俺は口から溢す。
「確かに、この世界なら不死身を殺す方法ならいくらでもあろうに…それに、昔から名のあるロッドなら尚のことだ…殺されない理由がないはず…」
マルメードすら知らない様子で考察し始める。
「当たり前だけど、ロッドは不死身ってだけじゃないわ。もちろん魔法を使う…でも、その魔法の全貌を知る者は居ないのよ」
「え…百年以上も生きているのに魔法の全貌が知られてないのか?」
「そもそも、ロッドに勝てる人が少なすぎる上に、ロッドに挑んだ者はことごとく命を落としているの。その人達が魔法を見れたとしても、答えを聞けないんじゃね…」
ロッド…初めて会った時から異様な雰囲気を出していたが…一体どんな正体を持つのだ…普通に今、エクスとかレヴィアよりも気になっている自分が居る…!
「それで…話の本題に戻るが…話を聞いている限り、ディアマテは自分の意思でそのクロスとか言う奴に反撃しているように聞こえるんだが…ディアマテは人の意思によって動くのでは無かったのか?」
俺がウンディーネに聞くと少し驚いた表情をする。
「ちょっとちょっと…たったの百年よ?間違った伝承が多いわね…ディアマテが人の意思で動くってのはもっぱら嘘よ?」
首を傾げてウンディーネは手を振る。
「ん…?だが、少し前に「エル」というディアマテの関係者から…『ディアマテは人間の理想そのもの。他の人間が居て、変な魔神になっても困るのだよ。だからディアマテ信仰教以外の奴らは皆殺しにする。それが我らの目的なのだ』と…聞いたのだが…」
「んー…悪いけど、そんな話は無いわ…ディアマテは自分の意思で動くわよ?」
「そっ…それじゃあ…」
「――ディアマテ解放教は、なんのために人を殺しているのか…なんのためにあそこまで組織を拡大させているのか…そこが気になるところだね」
クフゾが金髪の髪をくるくると指で巻きながら考える。
「それを聞くために、簡単に口が割れそう且つ、拘束出来そうな奴を捕まえて話を聞き出すしかないの…」
マルメードのその言葉に俺は思い出す。ウンディーネには大切なお願いがあるのだ。
「ウンディーネ…!」
「どうしたのかしら?」
「そのだな…誤解を招かないように先に言っておくんだが、俺はディアマテ解放教とはまた別に、世界を支配するために動いているカオス・エデンという組織のリーダーなんだ」
セレンは俺の目を真っ直ぐ見て落ち着いて話を聞く。
「あー…話は長くなるんだが、俺は世界平和のためにディアマテを止めるわけじゃない…計画に邪魔だから消したいだけなんだ…それを分かってくれたと仮定した上でのお願いなんだが…」
一か八か。固唾を飲み込んで俺は口を開く。
「明日あるオークションで、ディアマテ解放教からアマテラスの血を奪われないために…ウンディーネ――。お前の力を借りたい」
「そうね…いきなり世界を支配する…なんて、結果的にはディアマテ解放教とやっていることは大差ない人に、力は貸したくないわ…それに、その両隣の二人の力も借りれば、十分な戦力じゃない?どうして私を頼るの?」
「――お前の大好きなこの湖も守る為……こんな言い訳じみた理由じゃダメか?」
セレンは一瞬目を見開き、夕日によってオレンジ色に綺麗に輝く湖をじっと見つめる。
「そうね、やっぱり…"私は"あなたのお願いには乗れないわ。でも――」
ウンディーネは俺達の方へ向き直し、表情を柔らかくする。
「きっと、"彼女"なら、国の事を優先するわよね…いいよ。私も協力してあげる」
「ほっ本当か…!それは心強い…!」
「とはいえ、私の本領が発揮出来るのは水の沢山ある場所…水の魔力から離れれば力が薄まる…だから、協力出来る範囲はこの湖の周りだけ…私を使いたければ、上手く敵を誘導してね」
「あぁ…了解した」
「そういえば…それはそれとして、他の四大災害精霊達はどこに居るんだ?結局分かったのかい?」
クフゾがウンディーネに聞く。
「あー…そのことなのだけれど…」
ウンディーネは話しにくそうに口をモゴモゴとさせる。
「私が話している間に、一応探したのよ?けど…やっぱりというか…長らく会ってないから、魔力の伝達が弱まっちゃったの…だから場所は分からないわ…」
魔力の伝達が弱まるとかあるんだ…長らく使ってない電化製品みたいだな。
「そうか…ならいい。あとは、明日のオークションに備えての作戦会議と行かないか?」
「ふむ…それも悪くない…しかし、話すことはあるか?明日、司祭レベル…またはシルフィードのような四大魔神皇の誰かが来るのは確定だろうが…その中の誰が来るかはまでは把握しきれてないだろう?」
「そこで、誰が来るか…少しまとめる。予想とかではないんだが…そいつらの固有魔法とかの情報は分かる」
ウンディーネとマルメードとクフゾは真剣な顔をして俺を見る。
「まず、カオス・エデンは司祭レベルのメンバーを三人攻略している。黄金司祭『アウル』、音響司祭『コセヌミア』、閃光司祭…洗脳されていた『ミリア』だ」
マルメードは目を見開く。
「やるの…一つの小さい組織が司祭を三人も倒せるとは…」
まぁ悔しいことにロッドとかエクスに助けられたところもあるがな!!
「そして、ここからは情報が現在開示されているメンバーだ。一人目、赤血司祭『シメルド』。コイツは血液の性質や形を操ったり出来る固有魔法を持つ。爆発とかもさせられるらしい…二人目は、今朝会った雷鳴司祭『カロラント』。電気魔法に長けているだけでなく、電気そのものになれるほどの力を持つ…三人目は支配司祭『ヤユン』。コイツは魔力の流れや性質を支配出来る。そして四人目、悪魔司祭『タラサマ』。コイツは手下から貰った情報によれば、小型の悪魔を召喚してくるらしいが…大型の悪魔も出せる可能性もあると話していた…あとは、司祭かどうかは分からないが…カリスイノと言う奴が司祭に匹敵する程強い。精神、そして感覚の支配を出来る…随分と長くなったが…こんなところか」
「情報提供感謝するよ。そこに、シルフィードが来る可能性もあるってわけか…」
クフゾが顎に手を当て、目を鋭くする。
「そうだな…そして、これも手下から聞いた話だが、ディアマテ解放教のメンバーがそこまで多く居るのにはカリスイノの洗脳が関係あるかもしれないとのことだ。だから、組織のほぼ核であるカリスイノは来ないはず。万が一にでも殺されれば組織がほぼ潰れるからな」
「問題は、もし妾らの知らない司祭レベルの者や、四大魔神皇が来る…または、その全員で来られた時、どうするか……」
「最悪…その時はエクスレベルの者達を呼ぼう…これはあくまで最終手段だがな…手が足りないと感じれば、カオス・エデンのメンバーは容赦なく呼ばせて貰うがいいな?マル」
マルメードは少し渋い顔をしながらもゆっくり頷く。
「あぁ…あまり呼びたくないか良いだろう…」
「それじゃあ…ディアマテ解放教絶対ぶっ飛ばすぞー!!」
俺は夕日に染まる空に高く拳を突き上げる。
「君って、そういうことするタイプだったんだね…」
クフゾがくすくすと八重歯を出して笑う。すると、マルメードとウンディーネまで続いて笑い始めた。
「お…俺だけか…この気分…」
スキーです!
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