太陽の魔神
◇
「あーあ…とんでもねぇことやってくれやがったなぁ…」
戦争の最中、魔族と人間の怒声が響く所に、一人の青年がやって来る。その髪は赤と青の二色であり、黒と赤の着物を着ている。黄色い眼光が、地獄のような光景を目の中に捉える。
「魔神ディアマテの復活…国から基本離れない君も流石に動くかぁ〜…」
ロッドがその青年の前に来る。青年は肩をすくめてロッドを静かに見る。
「げっ…お前ぇが来んのかよ。まっ別にいいが、このくそバケモンは俺が狩る。邪魔すんなよ」
「いや〜…これは俺にとっても不本意だよぉ…まさかぁ、ディアボロス様が自ら太陽神との融合を試みるだなんてさぁ〜…」
すると、目の前に魔族の軍勢が青年の前に立ちはだかる。
「――ここから先は通さねぇ!!」
「――ディアボロス様の命令なんだ!!」
「――自我を失おうが守る!!」
魔族達が、既にディアボロスとは程遠い姿になった化け物を庇うようにして魔法陣を一斉に青年一人に向ける。
「お前ら…まじに言ってんのか…いいか、俺を知らないのは勝手だが、話は聞いておいたほうがいいぜ?」
青年は右腕を剣のように構え、魔力を右腕に集中させる。青年の顔は涼しいものだが、確実に獲物を仕留めるようなオーラを放っていた。
「俺は、クロス・ヴェングレル・ドラゴン!!世界最強のドラゴンとフェニックスと人間のクォーターだ…!!」
その声を聞くも、魔族達は誰一人として下がりはしない。クロスは困ったように左手で頭を掻く。
「ん〜…もうちょっと…名が広がっててもいいもんじゃないのこういうのって…?まっいっか…この魔力量で下がらねぇって言うんだろ…?」
その瞬間――、クロスが剣の様に手を引き抜いたかと思えば、周りに静寂が落ちる。
殺伐としていた空間が、一瞬で静まり返ったかと思えば、地面は隆起し、魔族達は上空へと飛ばされる。
「龍月――"焔ノ翠"」
――ギャオオオオオオ!!
突如として、爆轟が戦場を飲み込み、炎が巻き起こる。魔族達は炭すらも残らず、クロスの通った跡に焼かれたのだ。
「まだまだ助走だぜぇ…?龍月――"灼熱ノ不死鳥"」
クロスはそう言い茜色の炎を纏いながら真っ直ぐ跳んでディアマテへと突っ込んでいく。
――ドオオオオオン!
「――グゥオオオオオオオ!!」
ディアマテは雲にも達する巨体を、数十メートル先まで飛ばしながら、地面に一瞬でめり込む。
「おいおい、どうしたよ。まさか俺ごときに負けてんじゃねぇだろうなあ!?」
――グシャアッ!!
その時、クロスの体は上下に押し潰されたように潰れ、血が爆発するようにして弾け飛ぶ。
ディアマテは、自身の力でクロスを潰したのだ。
「――どこ見てんだマヌケがあ!!」
「グアッ!?」
ディアマテは何者からかの襲撃により、頭部を蹴られ、顔面から地面に埋まる。その衝撃で砂煙が巻き起こり、戦場はカオスそのものとなっている。
「はぁ…これで死なないって分かっちまったら、俺の出番もここまでかね…」
「グゥアッ!?」
ディアマテが顔を上げ、上空を見上げるとそこには無傷のクロスが何事も無かったかのように立っていた。
クロスは余裕そうな表情でディアマテを見つめる。
「最後に一発いくぜ?」
クロスの両手からは青と赤の炎が渦巻き、その魔力は天にまで昇る。それは見ただけでただの炎とは違うということが分かるほどに光を放っている。
「龍月――終末ノ炎帝」
炎の柱が、天を貫く。
全てが無に帰すような勢いで、炎がうねりを上げて大爆発の中、戦場を照らす。
――ドガァァァァァアッ!!
「さぁ、勇者さん!後は頼んだぜぇ!」
「――了解した!!」
ディアマテの上空から再び影が落ちる。
その影の正体は、十六代目勇者の『ランス・カメアノサス』だ。
ランスはカメアノサス家代々から伝わるエクスカリバーを使い、ディアマテの脳天に一直線に切れ込みを入れる。
「――グゥオオオオオオオ!!」
ディアマテは生き物とは思えない咆哮を上げ、もがき苦しみ始める。
「皆!手伝ってくれ!!」
その呼びかけに、四つの影がランスの下へと集う。
「――おまたせ、勇者さん」
そこにウンディーネがふふっと笑みを浮かべ、ランスを慕うように見る。
「――こんな災害そのものみたいな奴と俺達が戦わされるとは…随分と俺達も高く見積もられたもんじゃねぇか?いい迷惑だぜ…」
そして、ウンディーネに続くようにして青い炎を纏う黒き大トカゲの精霊、『サラマンダー』が機嫌を悪そうにしてランスを見つめる。
「――まぁまぁ、良いだろう。我々が勇者様のお役に立てると言うのであれば、なんなりとお申し付けください」
サラマンダーの行動を優しく見守る小人の老人が、ランスの目の前に現れる。その小人の老人こそが、『ノーム』である。
「――ノームおじちゃん…勇者さんに借りがあるとは言っても、流石に限度ってものがありますよ。まぁ、"世界の為"と言うのであれば、協力はしますがね」
声がどこからともなく聞こえたと思えば、周りの空気が一点に渦巻き、その中から長い薄緑の髪をした狐顔の青年が姿を現す。そう、この青年がシルフィードである。
「よかった。皆来てくれたようだな…俺の魔力を使い、このディアマテを一緒に倒してほしい」
ランスは真剣な眼差しで四体の精霊をそれぞれ見つめる。
「それはいいが…俺達の魔力だけで足りるのか?お前が全力を出すというのなら話は変わるが……貴様、子供は?後継ぎはどうなった」
サラマンダーがランスに圧をかけるように質問する。
「あぁ…そういえば皆には話せてなかったな…俺の子供はもう居る。だからその件については心配しないでくれ」
「その子供を置いて、自分の命を犠牲にするつもりかい…まぁ勇者さんの子供って言うなら、心配はないかもしれないけどさ」
シルフィードはランスを失望するかのような目で見つめる。
「……そうだな…俺は無責任な親だ…戦争を理由に、死にに行くんだからな…」
「子の名前は、なんて言うのかしら?」
ウンディーネは興味津々な眼差しでランスに聞く。
「『エクス』だ」
「そう…エクス君…なら、その子の"面倒"は私に任せて。私は、託されたものがあるから…その託されたものを守るついででね」
ウンディーネは優しい笑顔で胸に手を当て、ランスを見る。
「お言葉は良く聞こえるが、面倒という名の地獄修行ではありませぬか?」
少し困ったようにノームが苦笑いをする。
「ふふ、そうかもね。でもどうせ勇者さんの子供なんだし、数年で私なんて超えちゃうわ」
「ははっ…皆優しくて助かるよ。さぁ、行こうか…!!」
勇者が手を出し、世界を覆い尽くす程の巨大な魔法陣を創り出す。そして、それに続きウンディーネ、ノーム、サラマンダー、シルフィードが手を前に出し、勇者に魔力を分ける。
「行くぞ…!!魔神――ディアマテ!!」
勇者のその一声に、ディアマテは勇者の居る方向を向く。
「世界七元素回帰!!」
炎、水、雷、風、氷、光、闇の魔力の力がランスを起点に回る。
その力の正体は、この世の七元素に依存する魔力全てをランスに集中させ、ランスを中心に魔力が世界中に回るという大魔法だ。
「――グォアアアアアア!!」
力が吸われディアマテは咆哮し、その魔力がランスに吸われる。
これはディアマテだけでは無い。世界中の魔力が、ランスに集中している。
「ぐぅうあああああああ!!!」
ランスは世界中の魔力が流れ込んでくるという力に悶え苦しみながら、別の魔法を行使する。
その魔法こそが、ディアマテを倒す鍵である。
「魔力解放!!」
ランスがそう口にした瞬間、ランス含め、この世の魔力体を持つ全ての物が消滅した。
それは宇宙…いや、その次元さえも超え、そうあるものとして、決められている物の本質…その全てが消滅した。つまり、概念さえも消滅したのだ。
『――これで、この世界を救える…』
ランスが心の中で唱えると、世界は再び元の形へと戻る。しかし、違う点があるとすれば、ディアマテとランスの姿は無かったということだ。
「勇者はどこに行った…?」
サラマンダーがランスを探すように目線を回す。
「ランスはこの世のそう思える物の具現化。つまり、"創造の柱"と化した…だから、創造によって生まれたディアマテは、もう既にランスに魔法の術式行使に巻き込まれて創造の柱の中に居るってわけだよ」
ウンディーネはそう説明する。
"創造の柱"。それはこの世界に限らず全ての創造を上回る存在を支える無限を越えた階層次元の柱そのものだ。創造の柱内では、創られた柱の意思によって全て、内容や意味が決定付けられる。その決定付けられたこと以上は出来ないと呼ばれる。
「つまり、勇者はその創造の柱の新しい柱になってってことか…くそふざけたことしやがって…もう一年は魔力使えねーな…」
「それでいいのよ…」
ウンディーネが落ち着いた顔で、戦争によって荒れ果てた大地の真ん中で祈りを捧げる。
そこに朝日がウンディーネを背に輝く。
「もう、二度と戦争なんて起きないでほしい…きっと、"彼も"そんな願いで新しい柱を作ったのよ。だから、今は終わった戦争に…亡くなった人達に祈りを捧げましょう」
「そうですな。勇者様は世界の柱になろうとも、我々の世界を見続けてくださっているでしょう」
――こうして、大規模な戦争は幕を閉じた。
人間も、魔族も全員が怪我をした仲間を背負い、自分達の国へ帰って行く。しかし、この中で帰れた仲間というのは、限りなく少ない。それは、人間や魔族に関わらず、エルフだってそうだろう…"二度と戦争が起きない"とは、誰も断言は出来ない。だがしかし、誰かの残した平和は、誰かの残した世界は、終わりが来るまで残り続けるだろう。誰かがそうしたように、世界の理は廻り続ける…永遠に――。




