ウンディーネ釣り
◇
俺とマルメードとクフゾは再びエルフの国へと戻り、ウンディーネの居るエルヴィーナの涙という湖へと飛んで向かう。
「そういえば、湖の人間が行けないような深さに居ると言ってたけど…どうやって行けばいいのかな」
クフゾは顎に指を当て考える。
「確かにな…湖の水を全部抜くってわけにも行かないしな…」
「逆に出来るのか…」
「出来ないのか?」
「当たり前だ」
マルメードは驚いた反応をする。マルメードも水を全部抜くのは流石に無理らしい。まぁ…そりゃそうか…
「それはそうとして…会って、そうそうすぐに話してはい終わりってような人…?なのかな…」
クフゾは若干不安そうに苦い顔をする。
「確かにな…だって、この世界の津波の原因そのものみたいなもんなんだろ…?怖そうだが…」
「災害精霊と呼ばれておるくらいだ…あまり期待するものではないぞ…と、そろそろ着くぞ」
俺達は上空からエルヴィーナの涙へと降りる。
湖を覗くと、湖は陽の光に反射してキラキラと輝くほど綺麗で、空の景色を映している。
「綺麗だな」
「当たり前だ…エルヴィーナの魔法によって湖は汚れないようになっている」
「凄いな…!そんなに魔法の効力が続くなんて…」
「それで?肝心の湖への潜り方はどうするんだい?」
「俺の魔力で作った水の中でも呼吸が出来る道具…そうだな…名をシュノーケルとでも名付けよう。これを使えば潜れると思うぞ」
マルメードとクフゾは目を輝かせて俺の作ったシュノーケルを見つめる。この世界の初のシュノーケル製作者は俺だぜ!
「本当に凄いな君は…!こんなものを作れるなんて…」
「いつか魔力製でなくても作れるようにしてやる」
「よし、それじゃあ潜るぞ」
「それもそうだな」
俺達はシュノーケルを着け、湖へと入る。
「……」
やはり湖の中は綺麗で、中で泳いでいる魚などがハッキリ見える。水に含まれている魔力の影響のせいなのか、奥底でも普通の水よりも若干見える。
『なぁ、ウンディーネはどの辺に居ると思う』
俺は魔力を使ってテレパシーでマルメードとクフゾに話しかける。
『う〜む…それは分からん』
『僕にもさっぱりだね。水に含まれてる魔力量が想像より多いから気配で見つけることも出来ない…』
流石に湖の中で火力の高い魔法をぶっ放すわけにもいかない。一体どうしようか…
『――私が見つけようか?』
マルメードでもクフゾでも無い、調子に乗ったような声が俺の脳内に声をかけてくる。
『あのな…脳内に話しかけてくるのやめろよ…鬱陶しい…』
一応、クフゾとマルメードには聞こえないように会話する。
『この私が探してあげようって言うのに…酷いんじゃない?』
女神だ…橙色の髪の毛の姿が脳裏にチラつく。
『お前なら探せるのか?』
『ふふっ…ええ、もちろん…それじゃあ、左斜後ろになんでもいいから魔法を撃ってみてちょうだい?』
そ、そこにウンディーネは居るのだろうか…俺は少し覚悟を決めて、魔法陣を展開して魔法を撃つ準備をする。
『氷柱地獄…!』
念のため、奥まで行くよう中級レベルの魔法を勢い良く放つ。
『これでいいのか…?』
俺は女神に聞く。
『そうね…それじゃあ、少しだけ逃げ回ってて!』
は…?
『ミロク?なぜ魔法を使ったのだ?』
『いや…そこにウンディーネが…って…』
何かが来るのが俺には見える。有象無象の大群。それをしっかり認識するのにそこまで時間は掛からなかった。
『あぁ…ミロクくん…!なんてことをしてるんだ〜…!』
クフゾとマルメードの顔が青ざめていく。
『こ…これは…』
尾びれが鋭く、目が赤に光る…小さいが鋭いキバが確実に俺達の命を狙って来るように真っ直ぐとこちらに向かって来る。
『へ…"ヘルデスフィッシュ"だー!!』
"ヘルデスフィッシュ"。通称――生態系の破壊者。
陸の近くの動物、そしてもちろん水の中の生き物も、見境なく襲ってくる。そのキバの鋭さはドラゴンの皮すらも剥いでいく。
『マル…コイツは駆除していいよな?』
『もちろんだ…!』
俺は手を広げ、魔力をネット状に広げてヘルデスフィッシュを囲む。このまま電気魔法を流し込んで殺す。
『死ね――』
『ダメよ。あれは"エサ"なんだから…』
『なに…』
俺は女神の声に咄嗟に手の動きを止めてしまう。
『しまっ――』
まずい。魔力を防御に回し損なった…これはヤバい。最低でも指は消えるかもしれない。いや、目も――。
――ジュドオオオオオン!!
『えっ…』
音がしたと思えば、横から渦がやってきてヘルデスフィッシュの大群を一撃で吹き飛ばす。奴らはあっという間に肉塊となった。
『ほ〜ら…約束のお客さんが来たわよ…じゃあね』
『あ……』
『な、なにが…起こったんだい…?』
マルメードとクフゾも呆気にとられている。
その場で固まっていると、今度は下から音がしてくる。
『なっ…下からも…!?』
反応する間もなく、俺達はものすごい勢いで陸地へと渦によって飛ばされる。
「ぐおっ!?」
硬い地面に体が叩きつけられる。
「ん…一体なにが…」
俺は覗き込むようにして湖の中を覗く。
すると、人影のようなものが水面にどんどん浮かび上がっいき、やがて飛び出る。
「あ…あ…」
「――皆様、大丈夫でしょうか?」
綺麗なコバルトブルーの髪に、金色の装飾を付けた…身長の大きい、まるで絶世の美女のような綺麗な女性が俺達を見下げる。
「お前が…"ウンディーネ"なのか…?」
「おぉ…妾の次くらいに綺麗だ」
そのコバルトブルーの髪を持つ女性は可憐な雰囲気で、水から出て俺に歩み寄る。
「えぇ…そうです。私が水の大精霊…ウンディーネと申します」
人目で分かる…圧倒的な魔力量…!流石に俺ほどではないにしろ、ミナノと比べるのなんてバカバカしくなる程にオーラが違う…!
「なぁ…お前がウンディーネなら…少し聞きたいことがあるんだが…」
「なんでしょうか?」
「お前の他の四大災害精霊のサラマンダー、ウンディーネ、ノームの居場所って分からないか?探しているんだ」
俺がそう言うと、なぜかウンディーネはぽかんとした表情を浮かべる。
「あの…その、四大"災害"精霊って言うのは…私も含まれているのかしら…?」
「…?当たり前だろう。この世界の津波の原因はお前のせいだろう?それなら災害じゃないか」
するとウンディーネは絶望した表情で慌てて弁解するように手を振る。
「ち、違うのですわ…!それは全くの誤解ですわ!!」
「しかし…現に四大災害精霊と、君は呼ばれている。君の仲間?かは知らないけど、サラマンダーだって、火山の噴火や火災の被害拡張という災害をもたらしている」
クフゾは新聞を取り出し、ウンディーネに見せる。
「えぇ…でも!少なくとも私はそんなことしてないのですわ!!」
ウンディーネは涙目になりながら必死に訴えかける。
「じゃあ…どうやって津波は発生している…原因を説明出来るのか」
「知らないはずが無いわ!あれは魔族のせいなのよー!」
「ん…魔族のせい?」
おかしいな…魔族に津波を発生させる程の魔力量を持つ者など数える程しか…
「私、聞いたのよ!"紫色の髪のお方"と"だらけた黒髪の丸メガネのお方"がどっちが海を大きく割れるかみたいな話をしてて、それで津波が何回か発生してたのよー!」
あれ…なんかめちゃくちゃ聞いたことのある特徴の奴な気が…
「あー…なるほど…分かった。お前の話は信じるよ…」
俺の言葉にマルメードとクフゾは目を疑う。
「しょ、正気かい…?そんな一言で信じちゃうの!?」
「そうだぞ…相手は仮にも四大災害精霊…」
"あいつら"なら絶対やる…というか、もう一人はやらされてるまである。
「ウンディーネの言葉には…信憑性があったからな…」
「あ…ありがとうございます…!」
ウンディーネは俺にお辞儀する。いや、むしろお辞儀したいのは俺なんだが…
「まぁ…君がそう言うのならそうなのだろう…僕にはさっぱり分からないけど」
「それで…本題に戻るが、ウンディーネ。お前は他の災害精霊の居場所は分かるか?」
ウンディーネは頷く。
「はい。私達四大精霊は常に繋がり合って居ますので…異常があればすぐ分かりますし、どこに居るのかも分かります」
「それじゃあ、他の精霊達はちゃんと居るんだな…!」
「えぇ、しっかり皆無事みたいですよ。どうかしたのですか?」
「知らないかもしれないが…近頃、ディアマテ解放教という…白のマントを被った集団が…魔神ディアマテを復活させるために動いている…そこの幹部の一人の奴が、ウンディーネと似たような力を持ってて…本物のウンディーネが居なければ、その本物の力はディアマテに渡ってるかもしれない…と思って聞きに来た」
「"また"、ディアマテ…ですか…」
ウンディーネは思い詰めたような表情を浮かべて、その場に正座する。
「それでは、せっかく来たので話しましょうか…"ディアマテの全盛期"の話を――」




