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俺は誰だ

 「あぁぁぁぁぁ!?」


炎魔法を放とうとした瞬間に、魔法陣は全て破壊され、俺の右手がゴトッと落ちる。血はどっと溢れ、熱い感覚がジワジワと手を焼いていく。


「俺はお前だ。だから俺の意思一つでお前は簡単に壊れる」


「なら…俺だって…!!」


俺は目の前に居る自分の頭を潰すことを考える。

しかし――、数秒しても俺の姿をした者の様子は変わらない。


「ふふん…出来るわけないだろうがよ…」


「なっ…なぜ…」


「俺は確かにお前だと思ってる…が…お前自身は俺を同じだと思ってない…だからだよ、ミロク」


「違う…俺が…姫野弥勒だ…ミロク・プリンスは異世界で使う名前なだけだ!!本物は俺なんだよぉ!!」


がむしゃらに俺の姿をした者に殴りかかる。

分からない。なんで、こんなことをしてるんだろう。なんでこんな苦しいことしなきゃいけないんだ。苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい。


「違うな…ここじゃ俺が姫野弥勒だ…姫野弥勒は同じ世界に二人存在しない。そしてこの世界じゃ異世界へ行くこともない…だからミロク・プリンスも本来は存在しない」


今度は足をもがれる。

殴りかかった勢いのままバランスを取れず、勢いよく壁にぶつかる。


「うううぐぅっ…じゃあ…じゃあ…じゃあ…じゃあ…じゃあ!!俺は…誰なんだよぉ…!」


――痛い。今は何も考えれない。


「お前は誰でもねえって!!誰かの姿になり、姫野弥勒という自分を消して逃げた臆病者!それがお前だろうニセモノぉ!!」


「ニセモノなんかじゃねぇっつってんだよ!!あの惨めだった俺でも、生きてきたのは俺なんだよ!」


俺は痛みを掻き消すように叫んで発散する。


「じゃあ、お前は完成された姫野弥勒になれるのか?」


俺の姿をした者は語りかけてくる。


「あぁ…!なってやるよ…!俺は姫野弥勒だ…!!お前みたいな偽者なんかとは一緒じゃねええええ!」


「――そうか、じゃあ…行ってらっしゃい…"姫野弥勒"」



――ピピピピピピピ。


「ああああああああぁぁぁ!?あ…?」


再びアラームの音が聞こえる。スマホの時計を見ると今は七時三十分。もう学校へ行く時間だ。


「なった…のか…姫野弥勒…に…」


さっきまでの傷は無くなっており、部屋の床に付着していた血溜まりは消えていた。


「俺が…ならなきゃいけないんだ…」


学校の制服に腕を通し、歯磨きをして家を出ようとする。すると――、


「弥勒!」


母さんの呼ぶ声。

俺は咄嗟に振り向く。


「行ってらっしゃい」


なんの変哲も無いただの挨拶。俺は言葉では言い表せないような違和感を抱きつつ返事を返す。


「行って…きます」


ドアノブに手をかけ、回して外に出る。空は晴れていていい天気だ。そして後ろで扉がガシャンと閉まる音が聞こえる。


「この世界じゃ…イジメは無いんだったな…」


俺はなんなく足早に学校へと向かう。

懐かしの登校風景に少し胸を躍らせる。


「あっ…」


俺はクラスに居た和真以外の友達が仲良さそうに話しているのを見る。


「おーい!」


俺は手を振り、そいつらに声をかける。

向こうも俺に気付いたようで、手を振る。


「おー!弥勒!後で数学のノート見せてくれよー!」


「あぁ!先に行っとくからな!」


他愛も無い会話をして俺は先に学校へと向かう。



学校へ到着し、教室の扉に手をかける。

和真達は居るのだろうか、そんな疑問が俺の中に浮かぶ。

考えていても始まらない。俺は扉を横に引いて教室へ入る。その光景にクラスの一人が俺を見る。


「う…うぁぁ!?」


男子生徒は椅子から転げ落ち、俺を化け物を見るかのような目で見る。


「は?おい…どうしたんだよ…」


俺は一歩踏み出して行く。


「キャー!やめて!来ないで!」


女子達の叫び声。そして、ふと教室の奥を見ると和真が怯えた顔で俺を見ていた。


「み…弥勒…お前…なんで?どうしてなんだよ…」


「は?」


すると、俺はとあることに気付く。


――ポタッ。


水滴の滴る音が聞こえる。


「なんでって…え?」


俺の顔からはおびただしい量の血液が滴り落ちていた。


「うぅ…うぁぁぁあああ!?」


なんだよ!?なんだよこれ!?一体なんで…?俺は…普通の世界に来たんじゃ…?


「――それが…お前から見た周りの印象だよ…ほら?都合悪いだろ?」


自分の声が俺の後ろから聞こえたと同時にクラスの全員の体が吹き飛び、血や肉片が壁にベットリと付く。


「あ…あぁ…!?ああああああああ!!?!」


俺はその場で絶叫し、吐瀉物を撒き散らしてしまう。


「うぅ…おえっ…なんで…!?どうして…!?あぁ…!」


「だから…ここは姫野弥勒の世界だって言ったじゃねぇか?お前は自分の今ある姫野弥勒の形を…姫野弥勒から見た視点を…周りにも見せた…だから本来の姫野弥勒の姿を見せたお前はもう死んでる姿なんだよ…!」


俺は教室の鏡を見る。するとそこには顔から血を流している自分の姿があった。


「お前は姫野弥勒じゃない…壊れたものに名前を付けただけの動く(しかばね)だ…」


「そうか…姫野弥勒は…死んだのか…俺が…殺して…」


「ははっ…おもしれぇことになってきたじゃねぇかよ…一旦出て行けや…気持ちに整理が付いたら、また来い…その時はお前が"姫野弥勒"として来れるように…な…」


俺の視界は暗転して行く――。



「っ!!!うぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!?あっ…くぁあ…!」


「どうしたというのだ!ミロク!クフゾ!こやつの身に…なにがあったんだ!?」


マルメードは俺の肩を揺らす。

クフゾは神妙な顔つきをして口に手を持っていく。


「…誤算だった…まさか…ここまで彼の認識が否定されていたとは…」


「どういうことなのだ…説明せい!」


「この試練は…自分自身を追憶することで、自分の魔力の本質や、力の制御などを引き上げるものだったんだ…だが、自分自身に深く潜り過ぎて失敗してしまったようだ…僕自身、彼がどんな夢を見ていたのかは分からないが…相当おぞましいものだっただろう…」


――ゴゴゴゴゴ。


突如として空間にひびが入る。


「まずい…きっと心のどこかでミロクが試練を否定してしまったせいで試練が強制的に終了されてしまうんだ…!マルメード!彼を連れて空間から出るぞ!」


「承知だ…」


マルメードは右手を振り、空間を切り開く。

そしてマルメード達は空間を出る。


「おい…無事か!ミロク!」


「はぁ…はぁっ…うぐ…姫野弥勒じゃない…俺は…」


「え…?」


「姫野弥勒でも…ミロク・プリンスでも…ない…じゃあ…!!」


俺は拳を握り締めて地面に這いつくばる。


「俺は…誰なんだよぉぉぉぉ――!!」

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