全知全能の試練
俺達は店から出て外へと出る。
さっきまで重かった空気が嘘のように軽く感じる。
「ところでマルス君。君はどうしてここへ?分からないから教えて欲しいな」
クフゾは特徴的な八重歯を見せながら笑って俺に問いかける。
「全知全能の力とやらで見ればいいんじゃ?」
「ん〜…それはそうしたいところなんだけど…」
「――クフゾの全知全能の力は完全じゃない…そう言ったでおろう?」
マルメードが横から指摘する。
「あぁそうだ…全知全能の力が一部しか無いって…具体的にどういう状態なわけだ?」
そもそもこの世界の全知全能がよく分からないところなんだが…
「ん〜…ちょっと複雑なんだがのう…クフゾ。前に来るがいい」
その言葉にクフゾはこくりと首を縦に動かす。
クフゾはマルメードの前へと立つ。
「さぁ…食べるがよい…」
マルメードは空間に穴を開け、そこから何かを取り出す。
「エルフの国特製の最強激辛アイスクリームだぁ!」
マルメードは勢いよくクフゾの口に最強激辛アイスクリームとやらを突っ込む。
「えぇ…なんだそれは…」
クフゾはもぐもぐと口の中に詰めて飲み込む。
クフゾはふーっと満足そうな顔で口の周りについたクリームを舌で舐め取る。
「ありがとうマルメード…じゃあ…力を使うね…」
クフゾは目を瞑ってしばらく硬直する。
数秒経ってからクフゾは目を開いて俺を見る。
「なるほど…アマテラスの血に興味があるわけかぁ…過去に僕を救ってくれたものだね」
さっきまで何も分かっていなかったクフゾが全てを把握したように俺の目的を言い出す。
「えっ…なぜ…さっき分からないって…」
「これが、クフゾの固有魔法…"全知体現"だよ…」
マルメードが説明する。
しかし、クフゾの固有魔法だとは言うが誰がどう見ても不完全だ。
「そう…僕の固有魔法…全知体現…あくまでも僕は全知全能の力を体現させてもらってるに過ぎないんだ…本当に全知全能の力を持つってことは魔法行使せずとも全知全能の力を使えるものなんだけど…僕は魔法として少ししか全知全能の力を使えない…魔力消費量も多いし…なにより集中力が必要になるからね…ああやっていつもマルメードにアイスを貰ってなんとかやってるのさ」
「なんとも…効率が悪いな…」
魔法の効力が強ければ強い程、それに比例して魔力消費量も多くなる…特に、過去の話を聞く限りだとクフゾは元々全知全能の力があったわけじゃなかった。
つまり、この固有魔法とクフゾの身体の相性自体も悪いってのも原因の一つなのかもしれない。
「そういえば、クフゾやマルはレフィアについて何か知ってることはないのか…?」
過去の話でレフィアの事が語られた…レフィアは昔からディアマテに関わっていたということなのか…?
しかしまだ謎が多い…クフゾの父親とどんな関係があったのか…
「僕は、まだ幼かったし…よく分からないな…時々、父親からはその名前を聞いていた覚えはあった気はするんだけど…」
「妾もよく分からんわ…そのレフィアって人とは知り合いなのか?」
二人とも知らない…帰ったらレフィアに聞くことにしよう…
「あぁ…カオス・エデンの一員だ…知らないのなら大丈夫だ」
「――知りたいのなら今聞けばいいじゃない」
俺の隣から話しかけられる。
「それはそうしたいんだが…早くオークション会場に行かなきゃだろって…え?誰?」
隣には全く知らない女性が俺の隣に立っていた。
誰だよコイツと思いつつもその女性の髪色には随分と見覚えがあった。――橙色が特徴的な髪だ。
「キャミナイ!!」
雷魔法がクフゾの指先から放たれ、橙色の髪の女性に直撃する――はずだった。
女性は無傷でその場に立ち尽くす。
「全知全能が…聞いて呆れるわね…私に干渉してきた割には予想より遥かに下だった…期待外れねぇ」
「ま、まさかお前!?女神かっ!」
俺も魔法行使の準備をする。
マルメードは状況がよく分かっていないのかポカンとしている。
「ちょっと!?敵対したいわけじゃないわよ…どうせこの身体に乗り移れるのはあと三十秒くらいよ…」
「なんで出てこれる…」
俺の問いに女神は目を丸くしてクスクスと笑う。
「いや、言ったじゃない。あなたが強い魔法は使う度に魔力は私に馴染むから外に出れる時間が増えるって…元々は控えめな魔法ばっかりだったけどようやっと一分は顔を出せるようになったわ…」
クフゾは警戒心を解かない。
さっき俺に触れた時に何かあったのか…
「出てきたくて出てきただけで特にもう話したいことはないから下がるわ…さよなら」
そう言うとその女性は目を閉じて髪色が橙色から茶色になる。目をパチパチとして何がなんだか分からないと言った様子でどこかへと歩いて行く。
「意識を乗っ取ってたとか物騒だなオイ…」
「マルス君…あれは放っておけないよ…君の中での彼女のコントロールはどうなっているんだい…」
クフゾはじーっと俺を見つめて圧をかける。
そんなこと言われてもアイツが勝手にここについてきただけなんだけどな…
「さぁな…俺にもさっぱりだ…たまに精神世界に干渉してくる…ってことくらいしか分からない…唯一言えることは…あれが完全に力を戻した時、恐らく色々ヤバいということくらいだな…」
「説明が適当だな…でも、その意見には僕も賛同だ…」
「二人とも、さっきからなんの話をしておるんだ…?」
マルメードはまたもや話について来れていない様子だ。
「お前には関係ないことだ…さて、早速オークション会場に――」
「待った」
俺が言いかけた時、クフゾが遮る。
「いや…あまりもたついてる暇は…」
「オークション会場であの女に暴れられちゃ困る…だろ?」
クフゾが訴えかけるような目で俺を見る。
「女神が…そんなことを?いつも味方とばかり思っていたんだが…」
正直、俺もまだ不信感は拭えない。この世界へと誘った経緯も、まだ何一つ聞いちゃいない。もしかしたら、悪用目的なのだったかもしれない。
「君が彼女を完全に封じ込める裏技を教えよう…オークションの話はそれからだ」
「なに…そんなことが出来るのか?」
クフゾはふっふっふと笑う。
「君の手下のあの姉妹のことを思い出してみなよ」
「あっ…」
そういえばミナノやミリアは普段はイヤリングに自分の神を閉じ込めていざという時にその力を使っていた…それが鍵になるのか…?
「女神も同じ風に…?封じ込めれるのか?」
「ん〜…彼女はその辺の神とは違いすぎるからね…君自身がその封印の檻となるんだ。マルメードにも手伝ってもらおうかな」
「妾もか?」
「そうさ、二人を案内してあげよう…精神を統一する、全知全能の試練の場所へとね…!」
クフゾは俺とマルメードの手を引っ張って捕まる。
「マルメード。空間魔法を!」
クフゾがそう言うとマルメードは慌てて魔法陣を展開する。
「よく分からんけどやるぞ…!空間魔法キャイン!」
"空間魔法キャイン"…誰かの念じた場所へと移動する魔法だ。
その魔法で俺達は破れた空間内へと吸い込まれる。やがて光が見えてきて、眩しさに視界が奪われる。目を開けると辺りは一面白い空間に覆われていた。
「さぁ、ミロク。君の中に巣食う女神を…君自身の手で封印するんだ…!」
「俺自身の…手で…」
クフゾの新たな企みにこわばりつつも、試練へと挑戦する決意を俺は心の中で固めた――。




